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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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ズルは恥だが役に立つ~1

体の柔らかい人が、羨ましい・・・(*´Д`)。

薄暗い夜と早朝のはざまの中、冷たい霧に包まれながら、足音を響かせて走る人物とドラゴンがいた。御存じ、詩乃とモルちゃんである。タッタッタッ・・・。



軽快に走っているようだが、先はまだまだ遠い・・・飛行部隊の外周、約10キロを朝飯前に走り切るのが、飛行兵の1日の始まりなのだそうだ。

7時の朝食に合うように、各自自分の実力を見計らって、好きな時間に専用のコースをスタートして良いそうだ。コースには魔術具が仕掛けて有り、走っている者を識別するのでズルは出来ない。貴族のボンボンが自分の代わりに侍従を走らせて、懲罰を食らうのは・・・このドラゴンブートキャンプの毎回のお約束なのだそうだ。コースアウトも出来ないよ?走り終わるまで、コースから出られないようになっているらしいからね。体調不良等の緊急な異常事態の時には<コース>自ら、衛生室に連絡するらしい・・・凄い魔術だよね?


詩乃は密かにコースに<鬼っ子軍曹さん>と、あだ名をつけた。


とにもかくにも10キロを走破しなければ、コース内で遭難しかねないし、朝食に有り付けない。

走りに自信が無い詩乃は、時間が掛かっても良い様にと、かなり早めにコース内に入った。3時間も有れば半分歩いたとしても、7時の朝食には間に合うだろう。

・・・仕掛けも有るしね。


    ****


昨晩の事である・・・ビューティーさんから、新人研修と言う名の1日の予定表(無理難題)を渡された詩乃は、思わず呻いた・・・流石ブートキャンプだ!の内容だったのだ。


早朝の走り込みに始まり~~諸々の肉体鍛錬が続き~~深夜のストレッチで終わるとは・・・有りがたくて眩暈がしそうだ。ドラゴン持ちの人間は誰でも通る道だと言うが、ホンマかいな?

あの我儘の癇癪持ちの王太子が、こんな苦行をこなしたとはとても思えないぞ?


=詩乃は多いに疑ったが、第2王子(現・王太子)は、お付きのチビプウ師範に励まされ・おだてられ、時に八つ当たり等をしながらも、如何にかキャンプをこなしたそうなんだ・・・これは後に白さんから聞いたの情報である。=


明日の為に早めに寝るからと、ビューティーさんには部屋から下がってもらい、詩乃はおもむろに軍服に向き合った。


<軽装の略装軍服・鍛錬用の体操着みたいな騎士服・・・。>


どれもね?これでもかと、ボタンが付いているのですよ。

白い肉厚の貝殻を削って作った高級品のボタンだ、平民には手が出ない・・・だから平民は木を削ったボタンを使っているのだ。

『ヨイさんが作っていた、艶のある綺麗なボタンを思い出すなぁ~。ヨイさんも春になったらめでたく御結婚か、からかいに行きたかったな・・・。イヤイヤそう言う事じゃなくて・・・。』

そう!このシ~ノン様、思い出す事4年前・・・トデリに移住しての初ヒット作品は<ボタン>だったのだ。<空の魔石>で作ったボタン、色とりどりの綺麗なボタン・・これが何故だか願いが込めやすい。


       =ズルは恥だが役に立つ=


もともと詩乃には訓練生の紅一点だから、身体的なハンデが大きいのだ、オツムのハンデも大きいがな?自己防衛して何が悪い?


詩乃は沢山のお役立ちグッズを考え・ボタン型に製作し・服に縫い付けて行った。

文系・家庭科系の自分が恨めしい、理系だったらもっと、カッコいい<何か>が出来ただろうに。異世界に召喚されるのなら、理系の人が良いと思うな?


それにだ・・・今まで使っていた結界などは強力すぎて、とてもじゃないが此処では使えない。襲って来た貴族のボンボンを爆死などさせたら、詩乃も極刑に課せられる事間違い無しだろう?クワバラ・クワバラである。

かと言って・・・結界無しでは心許無くて心配だ。

武術の鍛錬にでも入ったら、嬲り殺しにされそうな気がするよ?

詩乃の存在が消えれば、モルちゃんの主の座が空白になる・・・これはかなり魅力的な話だろう?自分で手を下さなくとも、身分制度が暗に残っている軍部だもの、手下に手を汚させる事なんか平気の平左でやりそうだ。


まったく面倒な事に巻き込まれたな・・・モルちゃんと共に生きる事を選んで、この世界に居座る決断した事は微塵も後悔は無いが・・・こんな学校は予想外です。


その晩詩乃は100個余りのボタンを作り上げ、完全武装が施された服を次々と造り出した。

「備えよ常に・・・。」

詩乃の作業は深夜にまで及び・・・そして、早朝の走り込みである。


    ****


「フアァ~~~。」

欠伸が立て続けに出る、モルちゃんも眠そうだ。

先に寝てて良いと言ったのに、居眠りしながら頑張って詩乃を見守っていたのだ。

「モルちゃん疲れてるんだから、アッシの頭に乗っかって休んでつかぁさい。少し揺れやすが、飛ぶより楽でござんしょぅ?」

モルちゃんも頑固だから、中々言う事を聞いてくれない。もぅ、困った子だねぃ。

そんな時だ・・・背後から軽やかな足音が近づいて来たのは。


『一人か・・・走るペース割に、随分と早朝なスタートだな。』


霧の中から抜け出して来たのは、なんと虎獣人のニーゴさんだった。


「おはようございます?随分とお早いですねぃ。」


ニーゴさんは詩乃に驚いた様だったが、ごく普通に挨拶を交わしてくれた。

何でも食堂は6時半には開いているらしく、不躾な視線にウンザリしている彼は、早めに走り終えて空いている食堂でゆっくり朝食を食べる事にしているそうだ。


「それは良い考えですねぃ、明日からアッシもそうしヤス。アッシは走るのが遅いでヤスから、どうぞ先に行っておくんなせぃ。」


遅いと言っても、もう8キロは走っていると教えられた・・へぇ?・・それは思ったより<空の魔石>が良い仕事をしてくれている様だ。

詩乃は<空の魔石>に「元気の補給・ドーピング」と願っておいたのである。アンチドーピング機構に怒られそうだが、副作用は無いだろう・・・たぶんな。

それほどの疲れも無く8キロ走れたのか・・・凄いね自分。

言葉を交わした後、ニードさんは軽快なペースで霧の中に消えて行った。

『よし!後2キロ、頑張ろう~~。』

詩乃が思っていたより、クイニョンでの暮らしはハードだったらしく、自然に基礎体力が付いていた様だ。ハウス内は階段だらけだったし、子供達と遊ぶのも、染色で糸を染めるのも、腕力がモノを言う体力勝負だったからね・・・。

詩乃はモルちゃんを頭に乗せて、軽快とは言い難いが、それなりのペースで10キロを走り抜けて行った。


    ****


走り終えてコースを外れ、木の陰で洗浄の魔術具を使い汗を綺麗にする。

食堂で英国風の朝食を美味しくいただくき、一休みすると・・・8時からは何と座学だそうですよ・・・。


座学・・・お勉強か・・・。

階段教室の一番奥に座り、国際政治などと言う、およそ詩乃と関わり合いの無さそうな講義を神妙に拝聴する。同盟と裏切りの歴史だそうですよ・・・貴族のボンボン共は、単語に慣れているのか普通に話を聞いている。


昨夜は遅くまで作業していたし、朝は早かったからね・・・もう先生の声は子守唄にしか聞こえない・・・知らない専門用語ばかりなんだもの・・・。

そうですか・・・ランケシ王国が侵略されないのは、偏にドラゴン様の御蔭なんですね?大陸にはドラゴン様は住んでいないと・・2次元の戦いの中で、3次元の敵が居たら・・そりゃぁ脅威だろうさ・・・ZZZZZZ。




肩をトントンされて目を覚ます、どうやら寝てしまった様だ。

階段教室にはすでに誰もおらず、ニードさんが肩を叩いてくれたようだ、大変に困った顔をしておられる。

「うぇ?」

モルちゃんは詩乃に引っ付いてまだ寝ていた、・・・お疲れの様だねぃ。

ニードさんが言う事には、10時半からグランドで基礎体力造りの鍛錬だと言う。

お礼を言いつつ慌てて寝ているモルちゃんを抱き上げて、自室まで連れて行きベットに寝かせる、後はビューティーさんにお任せしてグランドに駆け付けた。


グランドにはすでに大勢の訓練生が集まっていて、各自準備運動等をしているようだった。

教官はまだ来ていない・・良かった、間に合った。フゥ~。


詩乃もストレッチ等をして、体をほぐす・・・変な姿勢で寝ていたからね、体の彼方こちらが凝っている様だ。地球式ストレッチはこの世界には無いようで、詩乃の動きが奇妙なのかジロジロと見られる。見物料払えや、ゴラァ。

四股を踏んで太ももの内側を伸ばしていたら、女が股を広げるとは、なんて恥知らずなんだと、またまたムアンシン家のアサイー様が絡んで来た。

五月蠅いねぃ、この子は。

詩乃は四股を踏んだまま、腸腰筋などのインナーマッスルの強化と、股関節の柔軟性の向上には最適なのであると(お兄の受け売りだが)解説をしてさしあげた。

偉そうに四股を踏んだまま腕組をして、アサイー様を馬鹿にしたような目で見上げてやる。


「体が硬いと怪我をしやすからね、こうやってアチコチと筋肉を伸ばすんでやさぁ。アサイー様、出来やすかぇ?この形は筋力も無いと出来ない、なかなか辛いポーズでありんすよ?」


詩乃の挑発にヤスヤスと乗ったアサイー様は・・・四股の形を取ると、そのまま後ろに尻餅をついた。


「いたたたた・・・・痛い!痛いぞ、何だこれは!!」


太ももやお尻の筋肉まで攣った様だ、体固いね?筋力も弱そうだ。

痛い痛いと大騒ぎして、慌てた侍従が駆け付けて来る・・・お尻が攣ると反対に伸ばしようが無くて悶絶するよね。ご愁傷様です。


詩乃が更にアサイー様を挑発して、お相撲さんの様に四股を踏んだまま、腕を前に突き出して歩いて見せると周囲は騒然となった。

「ほらほら、やってみなんし。」

痛いだのギャーだの言いながら、出来ないのが悔しいのかワイのワイの騒いでみんなして四股を踏んでいる。貴族のボンボンと言っても、小6~中3くらいの年頃の男の子だ・・・つまりはアホなのである。


『う~~ん、これでうまい飯でも食べさせれば、懐柔できそうだけど・・・此処では調理は出来ないしね。胃袋から掴め!・・の作戦は遂行出来ないな。』


そうこうしていると、教官がやって来た・・バンダル大佐である・・・暇なのか?

あんた責任者なのだろう?こんなところで油を売っていてどうする?

大佐は訓練生を整列させると(御気の毒にアサイー様は屁っ放り腰だ)、騎獣用の鞭をビシビシと鳴らし、腹の底まで響くような魅惑のバリトンボイスで叫んだ。


「よいか貴様ら!腹回りの緩みは、すなわち精神の緩みだ!!」


何処かでつい最近聞いた様なお言葉だねぃ、起源はアンタでしたか・・・大佐。





詩乃の腹筋が6つに割れて、カブトムシの腹の様になるのは、そう遠い話では無さそうだ。


四股でお尻が攣った経験があるのは、作者だけではあるまいよ・・・(;´Д`)。

四股踏み注意!!

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