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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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青い森のほとりの村~1

夏はカレーが美味しいですね(*´▽`*)

「きゃぁ~~~っ」


絹を引き裂くような悲鳴とはこの様なものなのだろうか?乙女の悲鳴を聞きながら、詩乃はぼんやりとそう思った。


此処は白骨街道沿いに有るとある鄙びた農村である、農村と言えども青い森の傍にあるのだ、そこそこ自衛力は高いのだろう、青熊にロックオンされた乙女を助けんと男達がワラワラと魔獣に向かって走って行く達。

おぉぅ、何て勇ましいのだろう!惜しむらくはその男達が・・チビッこい?見習い前くらいの少年と言う事だろうか?


「俺の姉ちゃんに何するんだぁっ!!」


少年が叫ぶと小さなつむじ風が巻き起こり、魔獣の目に砂礫をぶつけた様だ。

ナイス!!


「グオォォォ~~~」


魔獣が大気を振るわせるほどに大きな声で咆哮した、こっちまでビリビリとするほどの迫力だ、それでもチビ達はひるまず魔獣に向かっていく。

田舎の子は逞しいね、感動ものだ。


「ふん、まだまだ脇が甘いな」


プウさんや、感想は後でいいから早く助けてあげちゃ如何かね?

プウは大剣を背中から降ろすと、おもむろに・・いや、無造作にブン投げた。

大剣が今まさに子供達に襲い掛かからんと、立ち上がった魔獣の胸にグサッと突き刺さっていた。瞬殺である・・・が。


「だ・か・ら~~ぁ、毛皮に傷がつくってぇ~と、商人に買いたたかれるって、何度も言ったでやんしょう?考えて仕留めて下せぇえよぉ」


青熊はレア魔獣だトデリで襲われた苦い思い出も有るが、死した今では銭の塊にしか見えない。


「ボス(腹黒王妃)から、旅の予算を削られているんでさぁ。自分で稼がにゃぁ日干しになるんでやんすよ?大飯食らっている場合じゃあござんせん」


たらふく食いたければ働け、そういう事だ・・単純な話なのである。

どうもこの2人は銭を稼ぐって事が理解できないらしい、貴族のボンボンらしい微笑ましい(そうか?)資質だが、これではいけないと考えたらしい王妃様に旅の予算を削られてしまったのだ。

王妃様の気持ちも解ら無い訳でもない、日々金策に追われている身からしたらデカい図体をして生産性の有ることもせず、ただテクテク歩いているだけでは腹の一つも立つのだろう。

『でも、強盗と恐喝騎士は捕まえたんだけどな、王妃様の評価基準は厳しいよ』

そんな事をウダウダ考えていたら、チビっこいのに怒鳴られた!!


「なんて事してくれるんだぁ!!これじゃ台無しじゃぁないか!!」


目に一杯涙をためて、チビが言い募る・・・台無し?

すでにプウはムッとして、大人げなく睨み付けているが何か様子が変だ。


「すまんこったなぃ、坊主は困った事になりやんしたんだね?何が困るてぇのかアッシに教えてくれなんしょ?そうしやしたら、何か手伝える事が有るやもしれやんせん」


努めて優しくフレンドリーに言ったつもりだが、呆れた様に坊主に言われた。


「お前、えらく訛ってんな?どこの奴だ!」


随分と警戒している様だ、お姉ちゃんは後ろでハラハラしている兄弟思いの良い子だね。この坊主は脳筋予備軍の様だから、もっと話の通じそうな子供を探す。見渡していたら見習いを過ぎたくらいの少年と青年の間な感じの子が出て来た。片足を引きずっている怪我をしているようだ。


「僕が説明します・・この村は、ノードス伯爵領の外れにあるマチュと言います。見ての通り青い森に面してますので魔獣の被害が大きいのです、畑を荒らすような小さな魔獣はまだましですが。時々、青熊などが餓えて村を襲って来ます。この足も、この前コイツを追い払った時に怪我をしました」


話を聞いて何か変だと気が付いた・・・この村マチュでは大きな魔獣を倒した場合、血の匂いで誘われて次の魔獣が来ないようにと処理を村の外部の商人にお願いするらしい、その手数料が大変にお高いらしいのだ。

『はあぁ???』

どこの世界に売れる商品を持ち込んで、逆に銭を払う馬鹿がいるのか?

大層おかしな話である、どうやらマチュには越後屋と悪代官様がいるらしい。


「そう言う事なら此方が処理をいたしやしょう、此方の懇意にしている商人に連絡してもよこざんすか?」


ラチャに頼んで6男と連絡を取ってもらう。

王妃領からかなり離れて来たから、魔力が強くないと通じないのだ。ラチャの手に持たれたままの魔術具に向かって声を出す。


【どうも、はいはい・・。それでですがね・・ええ青熊です。大きさは、この前の虫の小さめ位・・そうそう。・・えっ?・・毛並みはえいですやんすよ。はい・・傷は胸に一か所だけでやんす。・・ええ、はい現物支給でお願いします。・・はい・・そうですね、かなりペコな(餓えているの隠語)感じです。ノードス伯爵領のマチェ言います。・・ええ、その辺もお願いしんす】


「これで、大丈夫だよ~~。2時間も待てば来るとさ」


まだ疑っていそうな脳筋ミニは無視して聞き込みを開始する・・私は刑事、異世界デカ!もうすぐ食料が来る事だし、此処は大盤振る舞いをして胃袋から掴もうか。


「お腹が減りやしたから、何ぞ作りましょうかいねえぇ」


子供達の表情が固まる、僅かな期待で目が泳ぐ、これは相当困っているわ。


「竈を貸してくれたら、代わりに御馳走しやんすょ」


まだ疑わし気に、お互いを見合っている。


「プウさんや、皆が満足いく位の獲物を採って来ちゃぁくれませんかね?」


どなたか案内をお願いしやす・・そう振ったら何人かが頷いた。小さな魔獣でも、畑を荒らすエネミーに違いない、数を減らすのは有難いのだろう。


「プウさんはあの通り剣の達人なんでさぁ。それから、この小父さんは(ラチャが鬱陶しそうに睨む)魔術の天才ありんすよ。そこの坊主さっき青熊に砂礫を当てていんしたね、中々の腕前とお見受けしたがこの小父さんに勝てるかな?」


何をさせる気かと、ラチャがこちらを藪睨みで見てくるが気にしない。

さぁ、やってみなんしょ・・坊主にハッパをかける。

利かん気が強そうな腕白坊主だ、後には引けないだろう。


坊主はラチャの前に進み出てグッと睨み付けると、石礫を風で巻き上げ木にブチ当てて見せた。バチバチとブチ当たった木の表面には小さな傷が出来ている。


「ほう、なかなかやるな」


ラチャ先生はみんなの前に立つと、おもむろに魔術解説を始めた。

曰く、魔力が身体を巡り、丹田・・・へそのチョッと下の辺りにある、力を溜めやすい所だが・・解るか?そう、そこを通して魔力をガッと付けて、ぐるっと巡らせて右手に集めるのだ。手を握って魔力を溜める。そそう、バチバチ放電して来ただろう・・魔力がぶっかり合って火花を散らすのだ・・そこで堪えて頃合いになったら手を開いて指一本に集め、ギュッのドーーーンだ。


・・・有難うございます。

ラチャ先生に解説は無理でした天才ってそう言うものだよね、名選手が名監督になるとは限らないしさ。


ところが驚いた事に、村の子供達の半数はギュッのドーーーンを会得した。

信じられん・・揃って風を操り突風を吹かせている。

何なのだろう?これは・・王都の魔術庁の魔術師より覚えが良い様な。

多分真剣みが違うのだろう、此処では命が日常的に狙われているのだから。


ラチャ先生のよく解らない講義を聞きながら、借りた大きなお鍋でご飯を炊いていく・・南に近づくにつれ手に入るようになったのだ。

まぁ、雑穀だけどさ・・向こうの世界では健康食品として売られているんだ文句はあるまい。大勢で食べるならやっぱりカレーでしょう?女の子達にトポテと丸ネージュを切ってもらう。肉はまだかな?待っている内にと丸ネージュの薄切りを、飴色になるまで炒めるのがポイントだ甘味が出てお子様には喜ばれるだろう。女の子がラスとキッズーニを持って来てくれたので、此方は1度揚げて油を切っておこう。夏野菜カレーになりそうだ。トポテは煮崩れするとカレーがドロドロになるから、別に蒸かしておこうかね。竈が沢山あると便利だね。

そこに別の女の子が水を汲んで来てくれた・・薄茶色だ・・。

手ですくって匂いを嗅いでみると何やら土臭い、この村は井戸が無く沢まで行って汲んで来るそうだ。水を飲みに来る魔獣に遭遇する事も多く、不幸な出来事も起きているらしい。これは駄目だ・・・良くない事だね。女の子に全員集まるように声を掛ける、都合の良い事に各家に一人は女の子がいる様だ。


「いいかえ?水も大事だが命も大事ださ、水汲みは女の子の仕事だと聞くがほんとかぇ?」


黙ってうなずく女の子達。


「これをご覧ねぇ、綺麗な石だろ?アクアマリンって言ってな不思議な力が有るのさ。ほらご覧よ」


詩乃が石をかざすと空の樽の中から、みるみる水が湧いて来た皆驚いて声も出ない。


「これをお授け下さったのは、有難くも異世界からやって来た聖女様だ。聖なる光で世を照らしぃ、人々に生きる希望を授ける為にぃ~と、この世界にいらしたのさぁ。

ほら手を出しな、ひと家族に一つだ。いいかぇ、これは内緒の事だ聖女様は貧乏な子供の味方だからな。自分の家の水瓶に入れて水を下せぇと願うんだよ、するってぇと水が湧いてきやすからね。大人や村の外の商人なんかに見つかっちゃぁいけねえょ、取られちまうからね、いいかぇ承知できるかぇ?」


コクコクと頷く女の子達、これで少しは労働も楽になるだろう・・。

荒れた手をしている幼い女の子を見て、詩乃はそう思った。




 そうしている内にプウが鬼ウサギを6羽も取って来た、取りすぎだろう。

燻製にするにも道具がいるしな、氷室も無いのにどうしましょう・・6男に売りつければいいか。


2羽は解体してカレーに使う、普通ウサギは骨まで叩いて使うが鬼ウサギはデカいので(柴犬くらいか?)骨が固いので使えない。骨は別の鍋で出汁を取るのに使う、肉もこびり付いているからスープにしても食べごたえはあるだろう。


呼んでも無いのにシャシャリ出て来たラチャ先生が肉を風の魔術で切るのを実演して見せた、こうすれば手が汚れないそうだが・・ほかにもっと使い道が有る魔術だろうに。真似した子供達が張り切って切り刻んだので、お肉がひき肉状になっちまったい!仕方が無いので蒸かしたトポテを繋ぎにミートボールにして揚げる事にした、油は鬼ウサギの脂肪が有るのでお大名の様に使いましょう。

これじゃぁ、盆と正月が合わせて来てみたいな大御馳走だね。


またまた別鍋にカレー粉(詩乃ブレンド)と、小麦粉を炒めて香りを出す。

家に引きこもっていたお年寄り達も香りにつられて出て来た、流石カレーだイベントや行楽地にはピッタリだよね。気分が上がるんだ!


しかしホントに子供と年寄りしか居ない村だ、大人は何処にいるんだろう?

丸ネージュの飴色炒めも加えて、骨で出汁を取ったスープを灌ぐ・・もちろんアクアマリンの美味しい水で作ったスープだ。にんじんも加えて柔らかくなったら蒸かしたトポテと揚げたミートボール・ラス・キッズーニをいれて<夏野菜とミートボールのカレー>の出来上がりだ!!美味いぞ、多分な。


もう子供達は最初の警戒心を忘れて大喜びだ!!食いたい、早く食いたい!喰わせてくれ!!目が雄弁に語っている。ラチャ先生はなかなか鬼教師で、自分の家から風で食器を運んでみろと無茶振りをしていた、魔術組はもう震えて涙目である。狩猟組は早々とカレーの前に皿を持って並んでいる、ワクワクテカテカの笑顔が可愛い。女の子達がカレーをよそり始めた、美味そうな食べ物がどんどん減って行く。


「ぐわあぁぁぁ~~~~」


あの砂礫のチビが気合一発、狩猟組の子の皿を空中に浮かせて・・自ら皿は自宅に走って取りに行った。チョッとズルだね・・まぁしょうがない、腹ペコなのだ可哀想ではないか・・聖女様ならそう言うだろう、ボソッと呟いたらラチャ先生もOKを出してくれた。皆揃って頂きますだ!!


お年寄りは家の中で、子供達は地面に座り込んで三々五々食事を始めた。

生まれて初めてのカレーは如何かな?お気に召しまして?ほほほ・・。

雑穀も美味しいよね、鳥の餌のようだが気にならない。プウもラチャ先生も満足げに食べている、大量に作ると美味しい料理って有るものだ。

良い気分でカレーを楽しんでいたら、無粋な声が聞こえて来た。



「この騒ぎは何だ、いったい誰の許しを得てやっている」


・・悪代官さま?村の管理者の登場だった。


ヘイトさん登場、悪代官と越後屋の2人組でい!(*´Д`)

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