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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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新しい風~3

クイニョン編 ・・ 感想やブックマークありがとうございました。

詩乃はパガイさんに乞われて、魔虫の糸を染色している。

まぁ、あれだ・・・詩乃が意識が無かった時に、治療に来てくれた魔術師さんの出張費&治療費だ。立替手数料込みでガッチリ請求されたよ、さすがだねチベットスナギツネ・・・ナアナアなんかにしない。治療は詩乃が魔力を弾いてしまう為難航したらしいが、スルトゥの患者さんの獣人達もそんなケースが多かったようで魔術師さんは慣れていた様だ。

ただの過労だったので、死なない程度に点滴のような感じで、栄養を補給できるような魔術をかけてくれたらしい・・・その点滴代が馬鹿に出来ないぐらいお高いのだが。


まぁ、詩乃も結構お高く手間賃を頂いて、染色の作業をしている。

虎さん達が取って来てくれたサンプルは量が少なかったので、あくまでも研究用にしかならなかったからだ。パガイさんが持ち込んで来た魔虫の糸を、研究で出来上がった色に似せて大量に染色していく。来年からはクイニョン近くで採れた素材を使って、狼さん達が頑張って染色していく事に成るはずだ。

綺麗な色だと思うよ?王都のパステルカラーとか、くすんだ色だった様な気がするし?販路は沢山あるだろう。何しろパガイさんが・・・王妃が出資しているのだ、儲からないはずは無いのである。




余所から来た娘さん達は、機織りの先生として活躍している。

今まで生成り一色でしか布を織れなかった為、模様を浮かび上がらせるように工夫をしてきたのだそうだ。エンボス加工みたいな感じかな?細かい作業がとても難しそうで、詩乃にはできる気がしない。

機織り場は若い娘さんの華やいだオ~ラが溢れキラキラした感じで、彼女達は他の方面でもダンジョンハウス中に良い影響を及ぼしていた。


主に独身のむさ苦しかった・・・あの若い衆達にである。


何と言う事でしょう!あの微妙に匂っていた若衆部屋が!臭くなくなったのである!掃除が行き届く様になった為か、はたまた洗濯を小まめにする様になったせいなのか?あの独特な嫌な匂いが消えたのだ。

凄いよね!ファ〇リーズ娘と名付けてデビューさせたいくらいだ。


ダンジョンハウス内も楽し気な雰囲気で、なにやら幸せそうな感じで明るいオ~ラが漂っている。今までは何となく不満そうで、鬱屈していた負のオ~ラが漂っていたものだったが・・・。それが綺麗サッパリ消えるなんて・・・やっぱり娘さんは世の中の輝きで、天使で、希望の光なのだろう。


しかし・・機嫌の良くなった狼達は、また別の匂い?(何だろうね?詩乃には良く解らないのだが?)を発散させているそうで、護衛の2人組は僻僻している様だ。

・・・かなりの吹雪でも外に出ている、なにやらキツいらしい。


このままでは余りにも気の毒なので、染色が済み次第クイニョンを離れるつもりだと、パガイさんには伝えてある。パガイさんはそれなら飛行船でスルトゥまで戻ればいいと言うが、それでは山ギヤ達を連れて帰れない、あの子達を此処に置き去りにするのは可哀想でとても出来ない。

それに草ギャース達も出来れば連れて帰りたい、肉ギャースと色違いで姿形が似ているせいか、狼達が怖がって・・・この頃はどうもお世話が行き届いてないらしいのだ。モルちゃん経由で本ギャース達から文句が入っている。


あと1週間もすれば雪も収まって来るそうだし、行きと違い身軽なマッチョ達との旅だから、2週間も有ればスルトゥまでたどり着けるだろう。結界を張れば雪も寒さも防げるし、胴巻に食料を入れ込めば如何にかなると踏んでいる。

クイニョンに来て、はや半年は過ぎている・・・早かったような遅かったような?不愉快な目にも合ったが、それは狼族も同じでお互い様なので・・・まぁ、水に流してチャラにしようかな?


そんな事を考えながら染色をしていたら、休憩のお茶に誘われた・・・なんでも天使ちゃん達の希望なんだとか?詩乃が王宮に居た事を聞いたそうで、是非お優しい王妃様の御話を聞きたいんだそうだ。


お優しい王妃様?


悪いが腹黒な王妃様しか、思い出せないぞ?慈愛の心で庇護する王妃様??

なんじゃそりゃ、この国には王妃が二人いたのかな?

はてさて・・・?若干の疑問と、大いなる不服を感じながらお茶会に参加した。


お茶会は何とホールで開催されていた。

初めは重鎮達と会議室でと予定していたが、幹部ばかり狡いと若い衆からクレームが出て、会場が変更になったのだとか。アイドルだねぃ!流石だ消臭娘達!!

舞台の上にお嬢さんたちが並び、対面するように重鎮達が・・・それを眺める様に階段席にギャラリー達が座る。大勢だねぃ・・・保育所の子供以外、爺婆含めほぼ全員が集まっている様だ。

詩乃は階段席の端っこに座った、美人どころに混じるほど度胸も根性も無い、己の分を知っている賢い子なのだ・・・私はなぁ。


舞台上では金色の美女狼さんが話をしていた、王妃様が皆を救出してくれた感動の場面をである。


「私達は男衆とも、子供衆とも引き離されて、狭い箱の中に詰め込まれていました。助けを呼ぼうにも、馬車は既に走り出している様で箱は振動で揺れ、騒音で声は消されてしまい、とても誰かに気づいて貰える様な状態では無かったのです。

私達は狼族の誇りを胸にと・・教え諭されて来た様に自害するほかないと覚悟を決めていましたが・・・ナイフも釘一本も無く、どうしたら良いのかと・・・思い悩んでいました。」


オオオォォォォゥゥゥゥ~~~~


同情に溢れるギャラリー達の悲しみの声、豆ちゃんだってそんな思いをしたのに、随分と反応が違うんだねぃ?チョットばっかりムカとする。

でも豆ちゃんは現在はスルトゥで、元気に幸せに暮らしていると報告が来ているので・・まぁ・・良いやと思い直す。

若いお嬢さん達だもの、怖さはひとしおだったに違いない。


「その時、突然箱が蹴破られて・・・ビックリしましたが「大事無いか?」と声を掛けられて、助けが来たのだと悟りました。何とその方は、緋色のマントを纏い、勇ましい甲冑をお召になった王妃様だったのです。」


挿絵(By みてみん)


『はぁ?緋色のマントぉ~?リアルオス〇ル様かい?』

良くやるねぃ、どうせ助けるのも予定の内で、仕込んだみたいなモノなんだろう?

それで狼娘達の心をガッチリと捕まえて、魔虫の養殖と魔布の生産に打って出たって訳だ・・・。魔力を含む物の生産は獣人しか出来ないもの、上手い事やったもんだねぃ・・・そう思ってしまうのは、詩乃が捻くれているからだろうか?

王妃様の手の上でコロコロと転がされている身としては、感動話にチャチャの一つも入れたくなるのは仕方が無いと思うのだが?


「聖女のオマケ様、オマケ様は王都でお優しい王妃様とお目に掛かったことがあるのでしょう?王妃様はどんな御様子でお過ごしですか?お幸せにお暮らしでしょうか?」

突然振られてビックリする・・・お優しい王妃様・・・だと?


別に偶像(良い思い出)を否定する事も無いので、聖女のオマケ様バージョンで微笑みながら話す。

「王宮でお優しい王妃様とお目に掛かったのは、ほんの僅かな時間でしたからねぃ・・。大した事は喋れませんが。お忙しい王妃様は絶えず机に向かい、書類の山に囲まれて文官達を使いまくって仕事をしておいででしたねぇ~。

自分の幸せより王国の、滅びた祖国の民の幸せを考えて、休む事無く働いて(働かせて)おられましたね~。」

嘘ではない、王国を実質動かしているには王妃様だろう。

詩乃の言葉に女の子達は涙目だ・・・有難い事・・・そんな言葉が聞こえる。

その有難いお仕事に巻き込まれて、ホウボウ歩き回されて、死ぬような目に遭わされているのは・・他ならぬ詩乃なのだが・・・。


「聖女様はどんな御方なのですか?」


・・・うん、あんまり知らない。

そんな事も言え無いので、適当に美談を紡ぎ出す。

「聖女様は王妃様をこの世界の母として、また尊敬する師匠として御使えなさっておりますよぅ。聖女様と王妃様は民の安寧を第1と考え、少しでも暮らし向きが良くなるように、その方法を日夜考えておられますねぃ。お二人は仲良しで、似ているような(腹黒と腹黒予備軍な所とか?)気がしやす。」


「聖女様の旦那様の王太子様は、どんな御方ですか?見目麗しい御方と聞いておりますが、お似合いのお二人ですか?」


王太子だとぅ~~~。

思わず鼻に皺が寄る詩乃、ダンジョンハウスに滞在しているうちに、どうもリアクションが狼風になってきている・・・背毛があったらおっ立ちそうだ。

何秒かの沈黙の後に・・・

「王太子は真っ白なドラゴンに乗っています・・・。」

・・・それだけを答えた。



    ****



頼まれた染色が一段落しそうな前に、詩乃は調理室にスルトゥまでの3人分の食事を発注したり、山ギヤ達に履かせるカンジキを作って試してみたり、クイニョン撤退の準備を始めたいた。

人質の約束は春迄だが、もうクイニョンとスルトゥは魔布造りの仕事でガッチリと結びついているし、信頼関係も出来上がっている(認めようとはしないけど)。

詩乃達が無理してクイニョンにいる必要も無いだろう、銀さん達にもそう話して了解を得ていた。銀さん達は何気に詩乃が去るのが嬉しいのか、尻尾が振れて振れて仕方が無い様子だった。

長居して悪かったね!銀さん?プチトンスラが消えると良いねぃ。


撤退話に喜んだのは虎さん達も同じだった、虎さん達は山ギヤ達を雪に慣らさせる為に散歩を繰り返して訓練に励んでいた。モルちゃんも雪中訓練が好きで同行している、外の方が気持ちが良いらしい。




そんな忙しない日々の中、トクさんがやって来て少し付き合ってくれと言い出した。何でも詩乃を案内したい場所があるそうで、コートを着て付いて来てくれと言われた。

コート?外なのかな?ハウス内は何処でも適温で快適だからねぃ。何だろうね?


そうして案内されたのは、何と谷の外側に作られたバルコニーの様な所だった。

谷側に出っ張った岩場を掘り抜いて作ったらしい、出入りは窓からで梯子を渡して有り、かなりデンジャラスな感じだ。そのデンジャラスなバルコニーの真ん中に・・・染色で使う桶が置いてある。桶と言ってもかなりデカくて、詩乃なら足を伸ばして座っても、スッポリと浸かれるほどの大きさだ。そこにお湯が竹を割って作った様な樋を伝って、ドバドバと流れ込んでいる。


・・・これって・・・露天風呂??


「私達狼族はノンさんに大変なお世話を頂きました、その御恩を人間のノンさんに、素直に「有難う」と言えない狼達ですが・・・。こんな形で感謝の気持ちを表してみました。ノンさんは外で景色を見ながら温泉に入りたかったのでしょう?どうぞ思う存分浸かって、クイニョンでの疲れを癒して下さい。」


オオゥ・・・これは絶景風呂だね・・・。

「有難う御座います、とっても嬉しいです!」


トクさんはニッコリ笑って、どうぞ御ゆっくりと言うと下がって行った。


ふんふんふん~~~ろ・て・ん・風呂~~~ぉ。


よくよく見ると、木で作った屋根の様な所が有り、其処が脱衣所の様だ。

チョッと寒いけどね、お気持ちは頂かなくちゃぁなるまいよ?

詩乃は思い切りよくババッと脱ぐと、急いで温泉に飛び込んだ。


「くぅ~~~~っ、沁みる~~~ぅ~~~~。」


顔をお湯でバシャバシャ洗う、冷たい空気で肌が引き締まる感じだ。熱いお湯に凝り固まった筋肉がが弛緩していくのが解る、これは気持ちが良い・・・お肌もツルツルだ。

遠くには雪山が十重二十重と連なり、青い空と白い雪が最高に美しい。


「はぁ~~~~~っ」


体中の空気が抜けて、詰まっていた不満とか苛立ちとか抜けていく様だ。

トクさんの言う通り、目を瞑るとクイニョンで起こった事件の、あれやこれやが脳裏に蘇った来たが。そんな疲れはお湯に溶け出して、溶けて流れて消え去って行く様だ・・・。

そうだよね、いろんな目に遭ったし、思う処もあったけど・・・。

綺麗サッパリ忘れて流しましょう!沐浴は禊だもの、温泉だから更に効果抜群!浮世の憂さとはオサラバして、気持ち良くクイニョンを旅立って行こう。

終わりよければすべて良し!!だ!


知っている温泉関係の歌を片っ端から歌う、やっぱ温泉には民謡でしょ?

ニッポン人此処に有り、異世界で温泉に浸かり民謡を唸る、気分は最高!絶好調!




「何がはぁ~~だ!!」

「なんてふしだらな格好だ!恥を知れ!!恥を!」


突然怒鳴られてビックリしたら、上空にドラゴンが2頭・・・。


「それでも聖女様の同胞なのか!許しがたい!!許さんぞ!」




・・・最高な気分から、急降下だ・・・。

何だって来るかなぁ~~~?プウ師範とラチャ先生・・・旅の不仲間は自然消滅したんじゃないのかね?


「見なけりゃ良いでしょ、あっちに行った行った。邪魔しないでおくんなせぃ。温泉は日本人の心の癒し、聖女様だって此処にいれば一緒に入っていまさぁ。」



「嘘だぁ!聖女様は・・・聖女様は、そんな破廉恥な事は・・・。」


ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・五月蠅い。

詩乃の旅は、まだ終わりそうも無かった。



クイニョン編・・・長かった・・・。

最悪なお迎えで凹む詩乃・・・(~_~メ)


次回<それぞれの旅立ち> クイニョンとお別れです

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