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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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新しい風~2

冬は恋の季節でもありますねぃ( *´艸`)

ヘリアイアに無作法にも雪崩れ込んで来た、女衆と子供衆に対してホール内の男衆は騒然となった。


「立ち退け!ヘリアイアには通過儀礼の儀式を無事に乗り越え、成人と認められた男衆しか立ち入る事は叶わん仕来りだ!退かぬか、退かずば女子供でも容赦はしない!叩き出すまでだぞ!!」


まず気の短い仕来り好きな老人達が激高した、ジジイ共は傍目には威勢よく女衆に詰め寄ってはいるが・・少しばかり及び腰だ。女衆がクイニョンに行ってしまい、留守にされた7日間の不便な生活と、男衆のメシマズの記憶が、彼らの行動の邪魔をしているのは間違い無いだろう。

女衆を怒らせたら、面倒事は自分達に(飯や洗濯・掃除などだ)降りかかってくるのを・・・身に持って体験したからだ。なんだかんだ言って、お母ちゃん達に頭が上がらないのは見え見えでなのである。

狼的には・・・可哀想だから指摘はしなでおいてやるが。

詩乃が観察するに・・・オ~ラから見ると、男衆の方が形勢は不利のようだ。明るい女衆のオ~ラに、暗い男たちのオ~ラは押され、体の陰にへばり付いているように小さくなっている。勝負は初めから付いている様な物だねぃ。


そんな喧騒の最中、見知った女衆が詩乃に近づいて来た。あの女衆は確か・・あの腕白坊主のお母さんだ。虎さんがガードしようと前に出たが、彼女は膝を折り敵意が無い事を示すと、そのままいざって詩乃の前まで進んで来た。そうして詩乃に額ずいて最敬礼のお辞儀をした。まあ日本で言うところの・・・土下座だが。

息を飲み、やがてザワつく男衆。

誇り高い狼族の一員が、ちっぽけな人間風情に頭を下げ、最敬礼の礼をするなど噴飯ものなのだろう。


「聖女の御使いのオマケ様、私の息子を助けて頂き有難うございました。御身の危険も顧みず、あの恐ろしいオレウアイの只中に駆け付けて頂けなければ、子供の命は儚くなっていた事でしょう。母として、厚く御礼申し上げます。お礼が遅くなり申し訳ありません、オマケ様の部屋の前は監視人が付いていて、訪れる事が出来なかったものですから。」

ほら、お前もこっちに来て有難うを言うんだ。お母さんが、息子を押し出す様に詩乃の前に引っ張り出した。彼は緊張のせいか、尻尾が股に挟まっている・・・おねいちゃん、こあくないよぅ?


「ノン姉ちゃん・・・ちが・・えぇえと、聖女様のお使い様・・・。有難う、とても怖かった。俺、体が痺れたように動けないで・・・もう、駄目だ食べられちゃうんだと思って。でもノン姉ちゃんが・・・助けてくれた。俺・・いえ僕は、今も生きていて、ご飯が食べられる事がとても嬉しい・・・です。」


プゥッ・・思わず吹き出す、ご飯が食べられているのならPTSDとかの心配は無いのだろう。やっぱり頼もしいね狼の子は。

「お腹が空くのは良い事だねぃ、今度は皆の言う事を良く聞いて安全に遊ぶんだよ?単独行動は敵に狙われるからねぃ。皆と一緒なら、また外に出て雪で遊べるさぁ。スキーは楽しかろう?」


二人のやり取りを、複雑そうな顔で男衆は聞いていた。

本来なら女子供を守るのは男衆の役目だし、その為に兵士職までいるのだ。自分達の無力さと、存在意義を問われる事態だ。男衆は面目が立たず、押し黙るほかしようがない。


そんな事はお構いなしに、詩乃の周りを子供衆が取り囲み、また遊んでね!と乞うてキャッキャウフフと騒いでいる。女衆も微笑んでその様子を眺めていて、オマケの魔力だとか、その不可思議な魔術の危険性だとかを考えている素振りも無い。

ピリピリしているのは、男衆だけのようだ・・・それがまた腹立たしい。


結局<ヘリアイア>は審議もされず閉会となり、詩乃は結局無罪放免となった。


『でもせっかく皆が集まっているのだから、この際皆に知らせておこうかな。

守り石の事だ・・・皆が日々の暮らしの安寧を願い、石にその気持ちが宿れば、詩乃がクイニョンを去った後も守り石が働いてくれるかもしれない。』

詩乃は周りを見渡すと


「トクさん?この辺の広域地図はお持ちかえ?」と、声を掛けた。


トクさんは小さめだから大きな狼が居ると埋没して見えなくなっちゃう。

詩乃の呼びかけに、すぐにトクさんは地図を持って来てくれた。

手渡された地図をステージの上に広げると、皆に集まって見る様に促した。

詩乃は<空の魔石>を取り出すと「位置情報」と唱えた。


「見てごらん、此処が皆のハウスだ。ハウスを囲むように黒い点々が見えるかい?これが<守り石>が埋められている地点だ。」


<守り石>はハウスを中心に、円状に囲むように埋められていた・・・その数、およそ2百個あまり。かなり面倒な作業だったのは確かだ、でもクイニョン付近には青い森のほとりより強力な魔獣が住むと言う。ハウスの安全を考えて、密かに頑張っていたのだよ・・・御使い様はねぃ。


「此処の点は色が赤く変わっているだろう?此処からアイツら肉ギャースは侵入して来たようだねぃ。山の稜線近くで、雪が少なくて歩きやすかったんだろう・・・。こんな吹きさらしの所を、爬虫類が来るとは思わなかった。異世界の常識が判断の邪魔をしたんだねぃ、この世界の生き物の生態とか・・・アッシはまだまだ知らない事ばかりだ。」

詩乃は10個程「モリオン」を造り出すと、腕白坊主のお母さんに渡した。


「このパワーストーンは、悪運から身を守り邪気を寄せ付けず、不幸から身を守ると言われている<守り石>だ。春になったら、この赤く記されている所に埋めると良い。皆を守ってくれるだろうさぁ。朝起きたら、太陽に向かって皆の幸せを願い、沈む夕日に一日の平穏を感謝すれば・・・きっと守り石は願いを宿してくれるだろうさぁ。まぁ、信じて実行するかしないかは皆の自由だ、別に押し付けるつもりはない。」


手渡されたお母さんは守り石を、おっかなビックリ持っているが、指はしっかりと石を握りしめていた。


「そうそう、ついでに地下の冬虫夏草の事だけどさぁ。」


冬虫夏草と聞いてザワッと狼達が背中の毛を立てた、相当嫌いで恐いらしい。


「魔術師が結界を張ったし、アッシも確認したからハウスに影響は無いだろう。でもさぁ、野生のオオコウモリとかが洞窟には住んでいるだろう?彼らがもし怪我でも負って下に落ちたりして、万が一冬虫夏草が出来たとしたら・・・。そう考えて<お知らせの石>を置いて来たんだ、洞窟の中に。」


出来たらどうなるんだ・・・銀さんが呻いた。


「見て御覧な、この石は灰色だろう?元は白かったんだ・・・。多分洞窟の何処かで、胞子が伸び始めているんだと思う。色が黒になったら完成・・・冬虫夏草の出来上がりだ。」


詩乃はポイッと銀さんに石を放った、慌てて受け取る銀さん。

「こんなもの、俺にどうしろと言うのだ!!」

銀さん、尻尾が股に挟まってるよ?


「スルトゥに連絡して、冬虫夏草をパガイさんにでも売り付ければ良いだろうさぁ。いい儲けになる、借金も返せるだろう?」

詩乃はパチッとウインクをした。

借金の話に赤くなったり青くなったりと忙しい銀さんだ、ダンジョンハウスは随分と凝った造りに出来上がっているからねぃ、赤字じゃぁ無いかとカマをかけたら図星だった様だ。




それまで大人しくムースさんと一緒に控えていたモルちゃんが、パタパタと飛んできて詩乃の頭に止まった。何やら詩乃と二人で話し込んでいる。


「銀さん、スルトゥのドラゴンさんから連絡が入った。

何でも機織りを教える為に、余所の狼族の若くて綺麗で可愛らしく、心映えの良い優しい女の子達が此方に向かって来るそうだが?心当たりは有るかえ?クイニョンには相談済みだそうだが?客間の設えは完璧かな?若い彼女無しの男衆は、清潔で綺麗な身なりになっているかぇ?女の子は不潔な男は嫌いだえ、歯を磨いているか?爪は伸びていないか?」


若い衆はビックリして固まっている、どうやら詳しくは聞かされていなかった様だ。若くて綺麗で・・以下略の女の子達がクイニョンにやって来るだとぅ!!

ドオゥオゥオオゥ・・・若い衆が沸き返った。


「まだ間に合う、今から風呂に入ってその煤けた顔を磨くんだ!!服も清潔な小奇麗な物に着替えてちゃんとしな。第一印象がその後の人生を左右すると心得よ!急げ!!」


詩乃の怒鳴り声に、脱兎の如く若いのが風呂に向かって駆けだした・・・銀さん、あんたもかぇ?ヘリアイアに呼び出されて、裁きを受けるはずだったのだが・・・どうしてこうなった?

詩乃の後ろで虎さんとムースさんが、呆れたようにため息を吐いていた。



    *****



それから3時間後に、パガイさんの飛行船がクイニョンに着いた。


狼達は飛行船の降りる場所を綺麗に雪かきなどをして、お迎えの準備を万端に整えたいた。詩乃も面白いから協力して横断幕を造り、トクさんに【歓迎!ようこそクイニョンへ】と可愛い文字で書いて貰った。トクさんは本当に器用で、何でもこなすから便利な狼さんだね。横断幕は子供達に持たせて無邪気さを演出する、若い衆があんまりがっついていると引かれるからねぃ。


飛行船のハッチが開いた・・・皆が期待に震えながら見ていると。チベットスナギツネ顔のパガイさんが出て来た・・・膝カックンだ、まったく期待を裏切らない親父である・・・。

パガイさんはクイニョンの様子を見渡すと「ニヤリッ」と、悪い笑顔を残して一度引っ込んだ・・・そうして、今度こそ若くて綺麗で・・以下略・・さんたちが降りて来た。キラキラして笑顔で迎える独身彼女無しの男達、何だか農村とか離島の嫁迎えのTV番組みたいだね。微笑ましい様な・・そうでも無い様な。



ダンジョンハウスの中も華やかな雰囲気に沸き返って、午前中のヘリアイアの重苦しい雰囲気は微塵も感じられない。単純と言うか何というか、これが獣人の特性何だろうか?

このまま忘れ去られているうちに、ソ~~~ッと消え去ってしまえれば良い様な気もする。雪の中スルトゥまで戻るのは難儀だが、結界を張れば吹雪の中でも雪には当たらないし、多分寒くも無いだろう・・・護衛の二人にも要相談だな。



    *****



その晩は【歓迎!ようこそクイニョンへ】と言う事で、絶景食堂でご馳走を囲んでのパーティーとなった。意外な事だが、詩乃と護衛の二人も招待された・・・モルちゃんのオマケの様だが?


食堂の前列(お誕生日席かな?)にやって来た女の子10人と、お目付け役なのか強面のオッサンが座っている。あれだ、某有名魔法学校の食堂の配置と同じだ。

詩乃達は末席の目立たない所に座った、モルちゃんは専用のクッションに座ってテーブルの上である。美味しそうだが食べ物では無い・・念の為。


歓迎会は恙なく行われ、クイニョン代表としての銀さんのスピーチは中々サマになっていた。冬虫夏草にビビッて、尻尾が股に挟まっていたとは思えない程の男前に見えた。何気に張り切っている様で、結構な話である。

女の子達も恥ずかしがりながらも、自己紹介をしっかりとこなし、優秀な子達を連れて来たんだな・・と感じられた。最後に、金色のゴージャスなフルフェイスの女の子が話し出した。


彼女達は南の方の魔石鉱山で暮らしていたそうだ、もともと産出量も少なく、閉山の話はかなり前から出ていたそうだ。もう魔石は無いだろうと目されていたのだが、欲に目がくらんだ人間達の命令で、無理な採掘を繰り返した為か、ある時大きな落盤事故が起きてしまったと言う。獣人の男たちの半数が亡くなり、今後の事に不安を抱えていた時に王妃様から救いの手が伸ばされたそうだ。

王妃様は魔獣の襲撃で人口の減った村を統廃合し、空けられた村に獣人たちを入植させた。そこの村は火山灰性の大地で、普通の植物達には育ちにくい土だったが、魔樹・・・特に、糸を紡ぐ魔虫の好む「ワクワ」と言う魔樹を育てるには適当な場所だったのだ。王妃様は獣人達に村を整えさせ、段々畑を作らせ「ワクワ」を植林させた。そうして魔虫を育て繭を作らせ、糸を紡ぎ機を織り・・・6年経った今、余所の獣人の村に注力できるまでに発展したそうだ。


「私達は王妃様に救われました、王妃様が手を差し伸べて下さらなかったら・・・私達女子供は、人買いに売られてしまった事でしょう。狼族の誇りも、何もかも失い儚くなるしかなかった・・。王妃様には返しきれない御恩が有ります。クイニョンにお手伝いに来る気持ちに成ったのも、王妃様が大事になさっている聖女様が・・・聖女様の御使いとされているオマケ様が、ここクイニョンに肩入れされていると聞いたからです。王妃様に、獣人に心を寄せて下さる聖女様に、ご恩返しをするつもりで頑張りますのでよろしくお願いいたします。」


・・・金嬢様のスピーチに、クイニョンの獣人(男衆)は息を詰まらせた。オマケのチンチクリンは其処まで重要人物だったのか?あれがか・・・?言いたいことは色々あるが・・・またまた、不味い事をした様だ。実は午前中ヘリアイアに掛けようとしていました・・・そんな事はとても言えない雰囲気だ。




男衆の奇妙な沈黙の中、詩乃は上機嫌で料理に舌鼓を打っていた。

「美味しいねぃ。」


パガイさんは詩乃の様子を、絶えずモルちゃんからタンザナイトさん経由で聞いていたので、男衆の奇妙な沈黙の意味は解っていた。


だからシ~ノンが、谷を・・クイニョンを離れるのは遠い話ではないな。

そう思いながら・・・黙って詩乃の事を見ていた。


クイニョン編も長くなりました、狼さんはもうお腹一杯です~~。

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