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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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新しい風~1

眠っていてもお腹が空きます~~~。

グウウルルルゥゥゥキュゥゥゥ~~~~~


自分の腹の音で目が覚めた事は有りますか?私は有りますよ・・・。

今がまさにそうです、腹減ったぁ~~~。



腹の音をグウグウゥと鳴らしながら、ノソノソとテントから這い出して行く。

朝ごはんが食べたい・・・しかし、よくよく見ると窓の外は夕暮れで・・・夕ご飯どきのようだ。

あれぇ?何がどうして、どうなったんだっけ・・・何だか服も酷く汚れているし・・臭いよ?色々と思い出せずに、ボゥ~~としていたら、呆れたような顔で見慣れた3人が夕飯?を食べていた。


虎さんと、ムースさん・・・それに可愛いモルちゃんだ。


するといきなり2人の間からモルちゃんが飛んで来て、泣きながら詩乃に抱きついて来ようとした。けれども現在詩乃は、彼方此方に緑色のコベコベが付いていて、非常に汚れているし、臭い身なのでストップをかける。


大事なモルちゃんが、汚れてしまったら大変ですからねぃ。


不満そうに泣きじゃくるモルちゃんに、今綺麗にするから待っていてね?と話しながら、魔術具(ラチャ先生謹製の、少ない魔力でも使える優れものだ。)で清浄の魔術を全身と、ついでに部屋中に掛けた。キラキラ光ったり、グルグル回ったりするわけ(アニメの見すぎ)でもないが・・・なりましたよ綺麗に。

気分的にはサッパリ感は無いけどね、まぁそこの所は仕方が無い。洗浄の魔術具はあくまでも、アウトドア用品であって、日常に使うものでは無いのだから。

それでも本当に便利だよね・・・あんなに汚く臭かった詩乃がクリーンアップされて、ビューティ詩乃に大変身だ。美少女戦士の変身ポーズの一つも付けたいところだが、何だか部屋の空気が重くって、オチャラケが出来そうな雰囲気ではない。

どうしたんだろうねぃ・・・?


モルちゃんを抱きしめヨシヨシする、かなり憔悴しているから随分と心配をかけてしまった様だね。ごめんね?何度も謝って許してもらうしかなさそうだ。


「えぇ~~と、オハヨウから御休みまでの、どの辺でしょうかねぃ?今何時で?」


呆れた顔をキープしたまま、ムースさんが教えてくれた。


あの肉ギャースとの死闘から、今日で7日経っていると言う。7日間!!

信じられない、どおりでお腹が空く訳だ・・・。何たる強制ダイエット、良く餓死や脱水症状で死ななかったものだ。

そう言ったら、パガイさんが治療の上手な魔術師をクイニョンのギルドから手配してくれて、良くは解らないが、何らかの手当を施して、様子を気にしつつ5日前に帰って行った・・そうだ。

それは大変有難い話だが、後で幾ら治療費を請求されるかと思うとドキドキしてしまう。借金が出来ていたらどうしよう?何だか取り立てが厳しそうだな、ビシバシと働かせてバッチリ回収していきそうな気がするんですけど。


むぅ・・・7日間も絶食したのに、このところ気になっていた腹回りだとか、二の腕のプニプニとかは余り減っていない様な気がするねぇ。まぁ、その御蔭様でささやかなお胸も減ってはいないのだが。

凄いねぇ、治療魔術。貴族のA級の魔術だから、ザンボアンガ系の元貴族の人にでも頼んでくれたのかな?流石パガイさん、無駄に顔が広いね・・・。

モルちゃんにタンザナイトさん経由でパガイさんに目覚めた事と、お礼を伝えて貰いたかったが。こんなに泣いちゃっていたら、頼める状態じゃ無かったね・・・それともモルちゃんの気持ちが、スルトゥまで伝わったかな?ドラゴン様は携帯要らずの様だし、モルちゃんのストーカーが沢山スルトゥには居るからね。


モルちゃんは暫くの間グジュグジュと泣いていたが、やがて泣き疲れたのか詩乃の腕の中でス~ス~と眠ってしまった。ムースさんによると、目覚めない詩乃を随分と心配して、あまり食べても眠っても居なかったそうだ。小さな体に負担をかけてしまったのだろう、主としては情けない限りだ。抱っこしたままテントに入り、綺麗になっている寝袋の中にそっと入れてやる。詩乃が目覚めて安心したのか、モルちゃんは起きることなく眠っていた。



さてと・・・と立ち上がり、扉に手を掛けようとした時だ。

「どこに行く?」珍しく虎さんが聞いて来た。

「え?・・・トイレだけど。」

送って行こうと言って、ムースさんが立ちあがった。連れションですか?中学生でも無いのに??何だろうな、この過保護感、今までこんな事は無かったのに?


ムースさんが扉を開けると、バタバタと音をさせて走り去って行った者がいた。


『何だろう、監視でもされている?』


トイレの場所は此処からはチョッと遠くて、40メートルほど歩く。その間中ダンジョンハウスの彼方此方から、詩乃を見つめる沢山の視線を感じた。

モルちゃんと絆を結んでから、共感覚と言うか・・・貴族の魔力を皮膚に感じていた時の様に、獣人の感情が・・彼らの身体を取り巻くオ~ラの色で感じ取れる様になっていたのだが。


『あんまり良い色では無いね、恐れや疑心暗鬼?嫉妬とか異物を見るようなドス暗い負の色だ。』


流石にトイレの中までは視線は感じなかったが、あまりハウスの中をウロウロ歩き回らない方が良さそうだ。これではもう子供達とも遊べないね・・・豆ちゃんに怖がられてしまった事が思い出される。


『やっちまったねぃ。』


詩乃がトイレから帰ると、調理室から食事が届いていた。

絶食の後の体調を配慮してくれたのだろう、優しいお味のスープの御粥だった。お母さんたちが詩乃が起きたら、すぐに食べられるように準備していてくれたのか。冷めている事なく暖かで美味しかったし、御粥には優しい暖色のオ~ラの光が残っていた。


    ****


それから数日間は、大人しく草系の部屋で過ごしていた。

軟禁されるのには王宮とかで経験済だからね、特に何かを感じる事も無く、春が来て人質業が終わるのを待つだけだ。

暇だから胴巻から端切れを取り出して、裁縫なんかをしてみたりしている。


ムースさんは着替えとか持っていないそうなので、命の恩人様でも有る事だし、着替えを何枚か作ってプレゼントしたりした。型紙は前に作って有るからね、作業自体は楽だったが・・・ただ端切れが貴族の残り布な物で、若干派手め?なのと、体が大きいから生地が足りずにパッチワーク風になってしまったのは仕方が無い事だと思う。ムースさんは顔を引き攣らせながらも受け取ってくれた、大人の対応である感心感心。

虎さんはその点は我儘で、デザインに文句をつけて来たり、色が気に食わないと言ったり・・・布を染め直したりして大変だった。

虎さんのシャツに・・・いいなぁ・・・と、呟いていたムースさん・・は、この際ガン無視する。いいじゃん!デカイ男のパッチワーク・・・可愛いと思うぞ?



食事は時間になると、いつの間にか扉の前に届けられており、ルームサービスとしては大変に優秀だと思う。

虎さんとムースさんは、交代で外に出かけて山ギヤ達のお世話や息抜きをしている。モルちゃんも連れて行ってもらう、気分転換は大事だし、心配していたドラゴン達が代わる代わる会いに来ていたしね。

彼らは部屋の中でも決して詩乃を一人にする事をしなかった、何だか護衛されている様な気分だ。いや・・・ほんとに護衛さん達なのだが。

今までそんなに意識して守られている感じは無かったのだが・・・それほどに危険なのかな?不可思議な事である、異人種の考える事は解りにくい。

そんな時に召喚状がとどいた、狼族の裁き所<ヘリアイア>からの御呼出しである。やっと動いたか、遅いんだよ!!


    ****


<ヘリアイア>はホールで行われる、ホールのお披露目がヘリアイア(吊るし上げの場)とは・・何だか幸先が良さそうでうんざりする。

狼族の大人達の、ケチ臭い矮小な所を見せる事も無いので、モルちゃんにはムースさんとお留守番しているようにと言ったのだが、モルちゃんは頑として付いて行くと言い張った。物分かりが良いモルちゃんにしては珍しい事である、仕方が無いのでムースさんから離れないように言い聞かせる。

虎さんを先頭に、詩乃・肩にモルちゃんを乗せたムースさんが続く。彼らの衣装は出来立ての詩乃のお手製のアレである、ムースさんは少し恥ずかしそうだったが・・・良く似合っておりやすよ?

ホールに入るとそこは・・TVで見た、ギリシャの野外劇場の様になったいた。ほ~~ぅ、頑張って作ったね。これはかなり銭っ子が掛かっていそうだ、お金は足りたのだろうか?まぁ階段状の椅子は岩を削れば良いのだし?手間賃がUPしただけだろう・・・手間賃お高いけどねぃ。


詩乃は真ん中の通路<花道のよう>を通って、舞台の真ん中に据えられている丸いステージの状な所に立った。立ったままである・・・皆は座っているのに、何だか犯罪者みたいな扱いで不愉快だ。斜め後ろに控えている護衛の二人は既に鬼の形相?で、激オコなご様子だし?

ステージの周囲を取り巻いている、銀さん初め重鎮達は何だか豪勢なお高そうな椅子に座っている。


ふ~~~ん?一言で言えば感じが悪い。


ヘリアイアを取り巻くオ~ラも、暗い色で好意的とは言えない様だ。面倒臭いのでさっさと片を付けるか?こちとら聖女様の御使い様だ・・・オマケだけれどね。こんな時には先手必勝?


「これより・・・」

銀さんが話す言葉にかぶせる様に声を出した。


「聖女の御使いである、このアッシに・・・一体これは何の真似だぇ?ヘリアイアとは聞き捨てならないねぇ。ドラゴンに認められ、絆を結ぶ者に対してこの仕打ちは、どう言う了見なのか聞かせて貰おうか。狼族はこれより先、ドラゴン達を(モルちゃん親衛隊)を敵に回して生きて行く覚悟があるのかい?」


使えるものは、この際何でも使わせてもらいましょう。聖女様とドラゴンの権威は狼族の中では絶対だ、小娘の詩乃自身はともかく、付いているバックはデカい事を思い出して頂きましょうか?あぁ、王妃様もいたね?あんまり頼りには成りそうもないが・・・都合が悪くなると、蜥蜴の尻尾切りよろしくポイ捨てされそうな気がビシビシする。


案の定狼達は慌てて、その様な裁く意味は無いとか・・・話を聞きたかっただけとか、言い訳をしてきた。何を今更、ヘリアイアに掛けると言う事はそう言う事だろうが。

その態度にモルちゃんが「バシャァ」と鱗を立てて威嚇した、かなり怒っているようだ・・・詩乃の意識の無い間に、どんな憶測がハウス内に流れたのか・・・おおよその見当は付く。


〇子供達を故意に危険に晒した・・・とか?

〇オレウアイの来襲を事前に察したのが怪しい、谷にワザと引き入れてのではないか?

〇こんな小娘がオレウアイを倒したのは、我々に隠して魔石を使ったのではないか?谷に魔石を持ち込むのは約束違反だ。

〇人間の小娘の癖にして、争い事に指図して来るのが忌々しい。


まぁ、大体こんな所だろう・・・。

詩乃は<空の魔石>を取り出すと重鎮達に見せ、魔力が抜けていて「魔石」では無い事を確認させる。

「良いか?良くごらんじろ。」

詩乃は狼達にそう言うと、石を手の中に握り込み「モリオン」と唱えた。

とたんに手の中がパアァと光り、手を開いた時には漆黒の石が出来ていた。

「これはモリオンと言うパワーストーン、聖女様の世界では不幸を近づけない・邪気や危険な物を寄せ付けない・・・そんな力が有るとされている<守り石>だ。以前この付近の地図を作った時に、この守り石を要所要所に埋め込んで、この谷の安全を願っていたのさぁ。まぁ、あのデカ物のギャースの魔力には押し負けたのか、侵入を許してしまったがねぃ。この石が壊される音を聞いて、アッシは子供達に避難勧告を出した・・・それが真相だ。」


「何故その守り石の事を、我々に隠していたのか?納得がいかない。」

銀さんが反論して来た、周りの狼達もウンウンと頷いている。


「だって、あんたら石とか嫌いだろう?魔術の類も嫌いだし・・・勝手に埋められていたと知ったら、気分を悪くするんじゃぁないかぃ?」

図星なのだろう、グッと言葉に詰まる銀さん。

「それに<守り石>は魔石と違って、願いを宿すものだから・・・石を疑って、嫌う者の願いは宿りにくいし、力も貸してもくれない。だからこの<守り石>は、アッシが谷にいる間しか作動しないだろう。それ故に、アンタ達には教える必要は無いと判断していたんだ。」

アンタ達は身内以外を信用しないし、聖女様の御使いであっても疑ってかかる。アッシみたいな人間の小娘が気に入らないのだろう?けれどもそれでは<守り石>は働かない、その辺に転がっている只の石と同じだ・・・。


ホールの中に気まずい、それでいて不愉快で感情的に詩乃を認められない・・・そんなオ~ラが溢れている。何処まで頭が固くて頑固何だか・・・ドラゴンに好かれないのが解ってしまったような気がする。


「アンタ達が出て行けと言うなら、今すぐにでも谷を後にしよう。これ以上はもうこの谷で、聖女御使いとして出来る事は無い、後はあんた達の自己責任だ。健闘を祈る。」

ホールをぐるりと見渡して、詩乃はそう結論づけた・・・此処には少し長く居すぎた様だ。潮時だろうさぁ。誰も何も言葉を発しない、沈黙をどう解釈すれば良いのか。




バアアアァァァンンンアンン~~~~


その時だ、ホールの扉が見張りの兵ごと吹き飛ばされた。転がる兵達・・・。


「聖女の御使いのオマケ様!!私たちは貴方を信じます!!」


なだれ込んで来たのは、女衆と子供衆の塊だった。



虎さんとムースさんは詩乃が目覚めるまで、狼達の中傷を聞きながら詩乃を守っていました。かなり酷い事も言われたのでしょう・・・戦ったのは虎さん達なのに。

激おこぷんぷん丸(~_~メ)です。

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