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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
51/126

襲撃~3

絶体絶命なピンチ!

    キャァァッァァアアアアァァァァァーーーーーー


ドラゴンの幼子の悲鳴が、クイニョンの谷に響き渡った。


   *****


あの日あの時あの時間・・・旧重鎮こと長老達は、いつもの様に谷の最上階にある<岩盤浴>・・・狼達が言うところの<ケツぬくめの部屋>で牙の細工物の制作に勤しんでいた。あの半狼の商人パガイさんに、見事な細工なので高値で売れるぞと太鼓判を押され、大変に気を良くしていたのである。小金を稼いで孫に菓子の一つも買って良い顔をしたい・・爺の考える事は何処の世界でも共通である。カリカリとオレウアイの爪を削っていた。


そこにあの小娘の声である・・・またあの厄介者の小娘め、今度は一体何をやらかしたんだ?面倒な事で無いと良いのだが・・・ブツブツと文句を言いながら彼らはドッコイショと立ち上がった。長老たちは北側に面している部屋にいるので、窓を開け外を覗いて・・・オレウアイに囲まれた子供を発見し、初めて目前に迫る危機を悟ったのである。


「なんだ、このオレウアイの数は・・・あの、馬鹿デカいのは何だ!あれもオレウアイの仲間なのか?デカすぎる・・・まるでバケモノではないか。」


たった一人の子供に、数頭のオレウアイ・・・・殺られる!


もう駄目だと思った瞬間、突然何処からか降って湧いた様に小娘が現れ、危ないと思った時には、いきなりオレウアイが爆発した・・・魔術・・・だ。あの小娘、魔力が無いと言っていなかったか?誇り高い我々獣人が・・・乗り越えられない壁として人間に膝を折っていたのは、魔術の存在があったからに他ならない・・・。子供は無事助けられ、ヘンテコな板を履いてドラゴン様に導かれ、その場を如何にか離れる事に成功したが。


恐ろしい・・長老たちの心に、初めて詩乃に対する恐怖の感情が芽生えていた。


    ☆☆☆☆


兵士達は誰しもが驚き、悲鳴の先・・・猛スピードで飛んでいく小さなドラゴンの姿を目で追った。ドラゴンが心を許した只一人の友、あのオマケの小娘がやられたのだろう。慌てて小娘の姿を探すが・・・尻尾が千切れ飛び無くなって、痛みに絶叫しているオレウアイの姿しか見えない。小娘はどこだ?

小娘は・・・雪の中に半身が埋まり倒れ込んでいた、ピクリとも動かずまるで屍の様だ。ドラゴンが飛んで行って、小娘にまとわりついて起きる様に促している様だが・・動こうともしない。死んだのか?

尻尾の千切れたオレウアイは、痛みの為かしばらくの間叫び声を上げていたが、小娘とドラゴンの姿を見つけたのだろう。体を酷く左右に揺らしながら、緑の血を滴らせ小娘に近づいて行く・・・・止めを刺し鬱憤を晴らすつもりなのだろう。


このままではドラゴンが危ない、ドラゴンを守らねば!!


谷で戦っている兵士達は皆殺気だち、救援に駆け付けるべく走り出した。


   ★★★★


一方の銀さん達は・・・ゲートへと急いだが、外から封鎖されている為に出る事が出来ず(ドン臭い)、もう一度3階へと戻り、格子の付いていない窓から何とか抜け出て(窓は基本構造が小さいのだ、明り取りが主な用途なので)、外壁を伝い降りながら戦いの現場へと援護に向かうべく急いでいる最中だった。

突然のドラゴン様の悲鳴を聞いて谷を見上げると、オマケの小娘がオレウアイの尻尾の攻撃を受けて吹っ飛んだところだった。15メートルは飛んだだろう、雪面に叩きつけられ何度もバウンドをして、10メートル程滑り落ちてようやっと止まった。あの太い丸太の様な撓る尾に力一杯打たれたら、我々狼獣人だってひとたまりも無いだろう。小娘は元々子供の様に小さな体をしていて細い手足は弱く力も無い、少し力を籠めれば易々と骨が折れそうな只の人間の娘だ。死んだのか?

色々面倒事を引き起こしてはくれたが、他の人間達の様に嘘をつく事は無かったし・・・大きなお世話が多かったが、それが善意から来ている事は皆も解っていた。


『せめて葬式は立派にあげてやろう・・・。』


銀さんの中では、詩乃はすでに死んでいる様だった・・・・・・殺すなよ。


   +++++


パガイさんは詩乃の声を聴いて、すぐに染色工場を飛び出した。

洞窟内には避難の指示が響いている、何が起こった?ノンの奴、確か外で子供達を遊ばせると言っていなかったか。下に有るただ一つの出入り口のゲートは、封鎖する様にとノンの指示する声が響いてた。アイツの指示が有ろうと無かろうと、狼共は自分達の避難が無事済めば、当然閉ざすであろう事はパガイさんは良く解っていた。

『狼共は余所者には冷たい、血の繋がりがすべての奴らだからな。』

皆に逆走して、上の階で空いている窓を探す。何処の窓も狼達が外の様子を見ようと、鈴なりになって溢れかえっていた。パガイさんはやっとの事で狭い明り取りの窓を見つけると、無理やり体を押し込んで外に体を出そうと奮闘した。如何にか窓から半身を乗り出すと、スルトゥに残して来たマイドラゴンに連絡を取った。


【チビドラゴンの絆の友の命が危ない、ギルドに延命が出来る治療魔術師がいたら連れて来てくれ。】


スルトゥのタンザナイトさんは、すでにモルちゃんの悲鳴を聞いていた様で、ドラゴン仲間に掛け合い治療の出来る魔術師を探している最中だと言う。流石パガイさんのマイドラゴンだ、3手先を読み行動出来るとは、さすが辣腕商人であるパガイさんを見込んで選んだドラゴンと言えるだろう。


パガイさんは窓から体を半分以上乗り出すと、詩乃に対峙しているオレウアイに向かって魔術でクナイ(詩乃に作らせていた)を飛ばそうと試みた、しかし残念な事に其処まで魔力が強く無く、遠い谷の上の方までは飛ばなかった。援護出来たのは、気に入らない分からず屋の兵士達にだった。


「糞ったれめが、後で援護料金を請求してやる!」


兵士達の戦い方は余りにお粗末で、パガイさんと詩乃の、飛び道具での遠距離攻撃の援護が無ければ、死者・重傷者が続出したであろう程に酷いモノだった。


   キヤアァァァアアアアァァァァーーーーー


チビドラゴンの悲鳴が、喧騒に溢れた谷に響き渡る。

ノンがオレウアイの尾の攻撃をまともに食らい、吹き飛ばされたのだ・・チッ・・ダメージはどの位だ?アイツの事だ、リスクマネジメントは取っているだろう・・・この位で死ぬような女では無いはずだ。祈るように見つめるが、ノンは一向に立ち上がるそぶりも見せず動かないままだ。くそゥ、何をしているんだ、オレウアイが近づいて来ているぞ。


「立て立つんだ!!シーノン!!」


パガイさんは拳を握りしめて、爪が手を傷つけ流血しているのも気が付かずに何度も何度も叫んでいた。


    *****


「詩乃ちゃんしっかりして、死なないで・・・モルを置いて逝かないで~~~。」


傍にモルちゃんが居て泣いている・・・泣かないで、ねっ?コホッと小さく咳き込みながら詩乃は優しい目でモルちゃんを見つめた。


「大丈夫だよ、これは作戦なんだ・・・じ~っとしていて、アイツを油断させてなぁ。ほら、これ。」


詩乃は見せたのはモルちゃんのお母さんの爪だった、爪と言っても牙の様に鋭い物で、長さも30センチ以上は有るだろう。


「肉ギャースの鱗は固いでヤスが、目ん玉はどんな生き物も柔く出来てやす。アイツが油断して覗き込んで来た時がチャンスでさぁ、ブスッとねぃ。お母さんの爪が目から脳にかけて突き刺さるって寸法さぁ。それならアイツだって、イチコロだろう?」


だから安心して、此処から早く離れて空の上から見ているんだ・・・。顔半分雪に埋まりながら詩乃が言う、隠す様に爪を体の下に握り込んでいる。


「そんなこと言ったって、顔を近づけてこなくて・・・爪や足で攻撃されたらどうすんの?」


       「ウッ」


「そんな事だと思った~~詰めが甘いよ、詩乃ちゃんの馬鹿~~~。」


泣かないで大好きだよ、詩乃は笑っていた・・幼いドラゴンを安心させる様に。


「モルガナイト、此処から離れろ・・・これは命令だ。」


嫌だと言い張る前に、風が巻き起こり小さな体は空の上まで吹き上げられた。詩乃が残り少ない魔力で風を使ったのだ。


「嫌だぁあ、詩乃ちゃん~~~。」



雪がギュッギュッと沈み込む音が聞こえる、奴が近づいて来たようだ・・・。

震える手でお母さんの爪を握りしめる・・・チャンスは一度きりだ。中くらいの強さの結界も作動したから、今は弱い結界を纏っているだけだ。さっきの様な、強い攻撃にはもう耐えられないだろう。あの時は手に<空の魔石>を握り込んでいたから、咄嗟に「エアバック」と念じてしまっていたのだ。何かにぶつかる場面が頭を過ぎったら・・・小学校の時の安全教室のビデオで見た、交通事故の時にハンドルから飛び出す「エアバック」のおなじみの映像を思い出したのだ。尻尾が当たる瞬間、詩乃の脇腹との間に「エアバック」が出現していた。御蔭様で尻尾の直撃は避けられたのだが、出来れば何かもっとこう・・・カッコいい技で反撃したかった・・・ポンコツのオツムが恨めしい。


「死んだふり・・死んだふり・・・。」


匂いの一つも嗅いでくれれば良いのに、詩乃はそう思ったが・・・肉ギャースは事の他賢い様で、むやみに詩乃に近づく事は無かった。

薄目をそ~っと開けると、すぐ傍に鶏をゴツくした感じの鱗に覆われた足が見える、鋭い蹴爪が禍々しい。その足が・・ゆっくりと持ち上げられると・・・詩乃の身体を踏みつけてきた。徐々に体重を加えて来る肉ギャース、詩乃の身体は雪の中にズブズブと沈み込んで行く、弱い結界がギシギシと音を立てて軋んでいくのが解った。

尻尾千切れは足の爪に力を入れると詩乃の服を掴み、高く放り投げると雪の上に転がった体をあおむけにひっくり返した・・・肉ギャースの酷薄な、爬虫類特有の(雪の中を動き回っているくせに)縦線の瞳がゆっくりと細められ、瞼が下から上に持ち上がって行く。


『こいつ、アッシが生きているのが解っていて、いたぶって殺るつもりだ。』


再び胸の上に乗せられた足に、体重が掛けられギシギシと骨が鳴る・・・肉ギャースが口を開け鋭い歯を見せつけて来る・・・よだれが糸を引いていた。


アクションシーンは難しいですねぃ(*´Д`)。


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