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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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白骨街道~2

青い狼・・・可愛いだろうか?

 「走れ!死にたくなかったら全力で走れ!!」


詩乃は今、プウに怒鳴られながら必死に走っている。横っ腹が痛いし、胸は空気を上手く吸えずに張り裂けそうだ。く・・苦しい・・。


           「バアァアァァンッ」


プウが投げた煙球が僅かに青色狼の群れの足を止めた、これは別に反則技では無い、煙球は平民達も使う魔獣避けのアイテムだ・・ただ、効き目が弱いのが難点なのだが。


「この愚図!死にたいのか!!」

プウは詩乃の横にピッタリと付いて、檄を飛ばしながら走っている、ブートキャンプなのかここは。一方のラチャは2人を気にする事もせず、1人でサッサと先に行ってしまった。あの薄情者!


『あの引きこもりの魔術オタクが、意外と良い足してるじゃん』

ううう~もう涙が溢れそうだ、トデリの懐かしいあの家に帰りたい!!

『みんなに会いたいよ~、何だって私がこんな目に・・』

そうだ!<空の魔石>だ。以前、走るのに使った事が有ったっけ!聖女様の安否が気になって、丘の上の王宮まで走って戻った時だ。


『お願い<空の魔石!>力を貸して!次の避難所まで、青色狼に捕まらない走る力をオラにぃ・・』ドウァアアアァァ・・か・かそ・く・・そう・ちぃ・・。


挿絵(By みてみん)


 結果として、2人を大きく引き離して避難所に一番乗りしたのは詩乃だった。


『ぜぇぜぇぜぇ・・く・・くる・しい・・・』

水~冷たい水ぅ~。飲みたいのに呼吸が苦しくて上手く飲めない、大半を服に零してしまった。無念。はぁはぁはぁ、生き残ったぞ・・・ちきしょうめぃ。

後から遅れてやって来た二人は、不服そうに詩乃に詰め寄った。


「卑怯者、お前魔力を使っただろう」

「いや、この者の魔力であの加速は叶わん、術か魔石を使ったに違いない」

「・・・使ってないし・・しいて言えば根性?」


詩乃が<空の魔石>で、色々と小細工している事は2人には秘密だ。

彼らは仮想敵の貴族様だし、王妃様のパシリと言えども過去が過去だけに信用は何かとても出来ない。<空の魔石>は詩乃だけのオリジナルなアイテムだし、いざと言う時の奥の手だ、味方かどうかも解らない様な者達に己の手の内を明かす訳にはいかないのだ。


ラチャこと銀ロンが魔力の残滓を調べている、魔力など出る訳は無い空なのだから。

「魔力は確認できない・・・」


ラチャさん、もの凄~く不本意そうですね。

世の中には貴公の知らない事も有るのですよ、ほら~?女心とかさぁ。


避難所で3人全方位に睨みあっていたら、青色狼達がやっと到着して来た、遅いね君たち四足だろう?結界の張ってある避難所の敷地内には入れない為に、グルグルゥと、唸りながら周りを徘徊している。怒っているねぃ。彼らは口が大きいし、お涎が凄くて気色悪い。あの口にガブッとやられたら、痛そうだし何か悪い病気にでもなりそうだ。この世界に狂犬病は有るのかなぁ?不安だ。


 今日はもう疲れたから少し早いが夕飯にして、明日まで狼共が粘っていたら救難信号の球を打ち上げる手筈となった。此処は王妃領とはもうかなり離れているし、何処の騎士団の管轄になるのだろうか?ちゃんと助けに来てくれるのだろうか?プウには悪いが、騎士団とか・・王宮の地下道の一件もあるし、余り良い感じも信用もしていない。


まぁ、それよりも今は夕食の支度だろう。


詩乃の荷物はプウが親切にも持っくれたので、返してもらう。

なんか・・食料が減ってるんですけど?狼の陽動に投げた?干し肉やベーコン・ソーセージを?どーりで来るのが遅かった訳だ、美味しかったかい君達、塩分が強いからあまりワンコにはお勧めはしないが。


そうですか・・では、補給が出来るまで精進料理だ、覚悟したまえ。



 もともと平民は、そんなに多くの蛋白質など摂取出来ない。

海辺に住んでいれば、小魚や貝などは手に入るが、立派な魚は売り物だ・・貴族や金持ちの口には入るのだろうが平民の口には滅多に入らない。

それだから、みんな年に1度の<春の女神のお祭り>を楽しみにしているんだ。

モモウの半身のバーべキュウ、これこそが年に一度の大ご馳走で、お祭りの前になると街中が浮足だっていて面白かったっけ。

詩乃の作ったパイやピザは美味しかったかなぁ?感想を聞きたかったな。


『・・・ピザか・・・』


此処に石窯など無いし手持ちの小麦粉も少ない、膨らし粉も無いからクレープもどきかな?小麦粉を水で溶いて鉄板の上で四角く焼く、その上に携帯していた(詩乃が王妃領の市場で買った、香辛料をブレンドして作ったカレー粉もどき)カレー粉を振って味を付ける、うぅんスパイシー、オイがいたら喜びそうだね。そこに乾燥野菜を乗せてクルクルと巻く、カレー風味の乾燥野菜クレープの出来上がり。それから乾燥野菜とチーズの組み合わせも作ってみた、どちらが受けるかな?後はお茶を入れてお終いだ。

平民にはお腹を空かせながら眠る子供なんて、それこそごまんといるのだ、食べれるだけ有難いと思わねば。


「飯が出来やんした~~」


詩乃の呼びかけに、武器の大剣を手入れしていたプウと、結界石を見直していたラチャがやって来た。

夕飯のメニューを前に座り込むと、たちまち眉間に皺が隆起する。


「食べたくなけりゃあ食べなきゃよこざんしょう。

こんな物でも食べられずに親に売られる子供達が大勢いやすんでぇ、親は金の為にだけじゃぁねぇ、食うにぃ困って、せめて飯の一つも食えるようにと泣き泣き子供に手を合わせて手放すんでさぁ」


トデリの最初の冬・・夏の嵐で遭難死が出てしまった為に、何人かの子供が売られてトデリを出て行った。最も買い手はあのパガイさんだから、能力の高い有望な子の青田買いと言えなくも無い。売られた子達はみんな優秀で、野心に溢れ見込みの有る2男・3男ばかりだった。残されたメンバーとトデリの将来は・・まぁ、みんな脳筋で肉体労働が主流だから、何と言うか・・大丈夫だろう。



 唸る二人をサッサとおいて、詩乃はパクッとクレープもどきを食べる。

・・美味しい、フニャァっと笑顔になる。やっぱりカレー粉は偉大だね!癖のある乾燥野菜が気にならない、どれどれチーズの方はどうかな?おぉ、これまた癖のある塩気が強いチーズが良い味を出しているではないか!!これは要研究だね、生ハムとか各種チーズで試してみたい気がする。うんうん、イケる。

美味げに食べる詩乃を見て、まずラチャが手を出した・・性格的に何でも試さなければ気が済まない男なのだ。黙ってシャクシャクとやっていたが・・


「この黄色い粉は何だ?これが良い。香辛料のようだが、何種類かを混ぜてあるな?何故混ぜる?目的は?効能は?産地は何処で値段はいかほどだ?」

・・始まっちゃったよ、黙ってお食べ。


保守的なプウは逡巡していたが、腹ペコには勝てずチーズ入りを恐る恐る食べ始めた・・が、美味しいと解れば後は身分を忘れて奪い合いだ。

見苦しい・・ウッホン!

詩乃の咳払いに赤面した二人はレアものだろう、写メが撮れたら王妃様に売り付けるのにな・・買わないかな?買わないな。



     ****



 おはようの朝が来た・・眠い、そして筋肉痛で体が痛い。

詩乃はノソノソと寝袋から這い出ると、テントの外に出て深呼吸をひとつし、結界の外をウンザリと眺めた。青色のモフモフの塊が、団子のように固まっている。狼団子だ。


「おはよう執念深いね、でもそれが命取りになるかもしれないよ?」

青色狼達は一塊になってクウクウと寝ていたが、詩乃が見ているのが解ると目をギラつかせて威嚇の唸り声を上げた。グワゥ~~~ッ。


「警告はしたからね」


やはり虫型魔獣より哺乳類型魔獣の方に情は移る、たとえ昨日食べられそうになったとしてもだ。元々犬好きな詩乃だ、飼い犬ウララちゃんの散歩は詩乃が一番多くしていただろう。お兄はいつまでも走るからウララちゃんが嫌がったのだ、犬だって限度があるからねソリを引く犬じゃ無いんだから。どっちかと言うと昼寝が好きな怠けモンの小太りな犬だった、ウララちゃんとは一緒に成長してきたようなものだ、詩乃の愚痴はウララちゃんが聞いていてくれた、涙を舐めてくれたのもウララちゃんだった。


「ウララちゃん・・まだ生きているかなぁ、あれから6年以上過ぎたから今は13歳か?まだまだ大丈夫だよね」


ストックの鶏ガラで出汁を取り、乾燥野菜と小麦粉でスイトンもどきを作る。

朝方はまだ涼しいから、温かいメニューが嬉しいよね。プウはあの顔でなんと猫舌だった、ケツ顎の猫舌男(笑)。だから器に入れて冷ましておいてやる、別に優しさでは無い、眉間に皺を寄せて食べられるのが不愉快なだけだ。

食事は3人で取る、一日の予定とか打ち合わせが有るから仕方がない。

食欲が湧かないので自分の分にだけカレー粉を少し入れる、目敏い2人にバレてずるいと言われた・・大人げない事だ。


「このカレー粉はアッシの私物でやす、昨日の食事に使ったのはアクまでも、わ・た・く・しの好意ですぅ。ありがと言いな」

貴族と言えども我慢する事や、諦める事も覚えた方が良いと思うよ・・そう言ったら、奴ら苦虫百匹噛み潰した様な顔をして押し黙った。


その後、片付けを終えて、例の<お助け弾>を打ち上げて待つことしばし。

助けに来ないじゃん・・全然来ないじゃん。

プウの方を見るとデコに青筋立てて仁王立ちしている、仕方が無いのでもう一発上げてみた、これで来なかったらもう・・故意としか言いようがない。




 その後、一日が潰れ夕方が近づいて来た頃。

ようやっと陸上型俊足爬虫類?ギャースって感じ?の生き物に乗った8人の騎士達がやって来た。彼らはまず結界で青色狼達を囲い込み逃がさないように確保すると、ニヤァ~っと悪い笑顔でこちらに向いた。


「災難だったな平民、こんな雑魚に手間取るようなら、白骨街道を歩くのはやめておいた方が賢明だぞ」

『お説ごもっとも、是非王妃様に意見して頂きたい』


「今回はたいして手間もかからなかったからな、これで手を打ってやろう」

そう言うと指を2本立てて来た、何ですか?チョキですか?ではこちらはグーを出しますよ?


「ええぇ・・と。すまん事だぎゃ、アッシゃぁ旅なれちゃ~ぁおらんもんですけぇ~。これは何のこったか~とんと解らんのですぎゃぁ?」

詩乃は同じようにチョキを出して、隊長風の男に首を傾げてみる。


・・とんだ田舎者だな。隊長風はそう呟くと詩乃を無視して、まだ話の通じそうなプウに向かって話しかけて来た。賢明な判断だ、ラチャは詩乃より世間の常識が通じない。


「お前はこの田舎者の護衛か?旅の作法を教えてやれ」

プウはデコに青筋浮かべ、腕組みしたまま微動だにしない。


「此処でぇ困ったら~、弾を打ち上げるとぉ騎士様が助けて下さると教わりやしたぁ。騎士様はお国の強い方達で、あっしら平民をお守りくださる、そりゃぁ偉い方達なんだと~。平民は守る対象だから、タダでお助け下さると」

「小娘覚えておけ、この世にタダで済むモノは無いとな」


はぁ・・そうですか、詩乃は懐からごそごそと財布を出して中を覗く真似をする。


「あのぉ・・指2本っていうのは・・銅貨2枚のことですけ?」

「阿呆!銅貨で命が助かると思うなよ!!お前達の出方次第では、結界を破って青色狼を放っても良いんだぞ!平民の命など採るに足らんわ!お前らは放っておいても、いくらでも増えて行く虫けらの様なモノだからな」


後ろにいる騎士達もゲラゲラと愉快そうに笑っている、貴族の脳筋の2男・3男ってところなのかな?大きい口を聞く割には魔力は低い・・強い奴で中の上?くらいか、先日の悪党と似たり寄ったりの実力と見た。


「では・・銀貨2枚で?あっしゃぁ金貨の持ち合わせは無いんでやすが?」


とても話にならん、そう言うと隊長風の男は青色狼に向き合っていた騎士に合図を送った。途端に放たれた青色狼が、結界内になだれ込んで来た。はい、現行犯~。


キャインキャインキャイン・・魔獣でも、ワンコの悲鳴は聞きたくなかったよ。

狼達はラチャの魔力に当てられて、瞬殺されてしまいました・・合掌!


詩乃は御約束のセリフを言おうと、前に踊り出た・・それしか見せ場が無いからね。


「この世に悪が有る限り~~~」

「この馬鹿者どもが!!!」


ところがキレたプウの乱入で、見せ場が邪魔されてしまいました、残念なり~~。

騎士の醜い姿に我慢できなかったのか、プウが怒鳴り散らし暴れ出した、もう誰にも止められないし止める気などもない。やっちまいなー。


「お前たちの様な腐った騎士がいるから、世の中が良くならないし、平民からの人望も無いのだ!!」

もう、こてんぱん・・である。大魔神の面目躍如、ご愁傷さま合掌!




結局ラチャが魔術具(非常用)で騎士団本部に連絡を取った。

倒された騎士の小山と、青色狼の小山・・シュールな場所で待つことしばし。

何故か公爵の6男が竜に乗ってやって来た、スモーキークオーツちゃんだ!

ヤッホーって手を振ったら、尻尾をブンブン振り返してくれた。萌え!


6男は公爵領で手広く商売をしている敏腕経営者なのだそうだ・・自己申告だから定かではないが・・だから素材の買取もしてくれる。

何でも青色狼の毛皮はその毛色が珍しく、大変美しいので高値が付くらしい。全部買い取ると言って来た、王妃様に旅の資金を削られているから雑収入は有難い。

半分は自分の資金に回しても良いよね、この先何が有るか解らないもの、先立つ物は必要です。金持ち貴族のボンボン2人は要らないそうなので、有難く独り占めする・・商業ギルドカードを合わせて決済だ。そんなこんなをやっている内に、騎士団から偉いさんがやって来て、ラチャとプウに部下の不始末を詫び不良騎士達を連行して去って行った。

6男も後から来た飛行船に狼達を詰め込むと、差し入れの食料を置いて去って行った。

慌ただしい事だ・・やれやれ。




 また、此処の避難所で夜明かしだ。

食事は差し入れの中に、すぐに食べられるようにとお弁当が有ったのでそれで済ませた。流石6男さん!気が利くねぇ、今日はもう色々有ったから疲れたよ。

変に静かになった避難所で、お茶を沸かしてお弁当を頂く。美味し!


プウはまだ怒っている様で、何だかブツブツ文句を垂れている。

「まったく平民と言えども、命を何と思っているんだ・・・」


ふぅ~ん、へぇ~、そんな事言うんだ。

「でも、似た様な事、あんたに言われた覚えがあるんだけど・・」



詩乃はそう言うと、その場を離れてテントの中に入って行った。

無性に腹が立って、今はプウの顔など見たくなかったからだ。

あの不愉快な出来事を刺さる様な酷い言葉を、簡単に無かった事にされてたまるものか!寝袋に潜り込んで涙を堪える。

『・・帰りたい・・トデリで良いから・・帰りたい・・』


    ******


 その夜遅く、テントの外から「すまなかった」と聞こえてきたが、詩乃は聞こえないふりをして無視した。

『怒る事でパワーが出る時も有るんだ、あんたはず~っと私に怒られていればいいよ!』

詩乃はそう思いながら、目を瞑り眠りに落ちて行った。


ウララちゃんは詩乃の帰りを、今も玄関で待っています。昼寝しながら。

ウララちゃ~~~ん。(=_=)

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