冬の生活~3
新製品の開発は大変ですね。
草木染は優しいお色で大好きです、桜の色が特に好きです・・・似合わないけど(*´Д`)。
虎さんとムースさんが集めて来たサンプル達は、なかなか興味深いものだった。
たしかメキシコの原産だったかな?サボテンの葉に寄生するコチニールと言う名前の虫に似た、カイガラムシのような魔虫が一杯詰められていた袋があった。彼らはテントウムシの様に集団で暖を取り、越冬する魔虫の様で木の洞にゴッチャリと詰まって居たのだそうだ。虫が集まっているのを見ると、ムズムズするものだが・・良くぞ取って来て下さった。有難う御座います~~~。
コチニールは確か乾燥させて・潰して・煮込むんだったかな?
よく覚えていないけど、大体そんな感じだったような気がする。赤い色素が出て食紅とか・・・そう、口紅何かにも使われているそうだった。
面白いよね、綺麗なお姉さんが唇に虫の色を付けているなんてさ。
ひとつかみの虫を(げっ!まだ生きていてウゴウゴしている。大体デカいんだよ!この世界の生き物は何でもかんでも・・・(涙)。カイガラムシ風の魔主は一つがお菓子のグミ位の大きさで、弾力も有ってプニプニしているから本当にグミそっくりなのだ。・・・命名グミ虫。)
時短魔法で乾燥してカサカサにする。此処にはすり鉢の様な道具が無いので・・・「粉砕」と唱える。お鍋に入れて水を注ぎ煮る事30分・・何という事でしょう期待していた赤い色素は現れず、何故だか鮮やかな黄色になった・・・黄色?
黄色って需要が有るかなあ?真っ黄色の服を着ている人って、あんまり見た事は無い様な気がする。中国の皇帝様は黄色がシンボルカラーだったみたいだけど、どんなもんかねぃ・・・異世界では?
取り敢えず煮だした液で糸を染めて見た・・・黄色と言うより金色?に変化して、媒染にミョウバンを使ったら、何だか虹色に輝く黄金色になりました。
刺繍糸なんかなら需要があるかな?黒い軍服に黄金色の刺繍とか、派手でウケそうだよね?虎さんの黒いマントに刺繍をしたい、スカジャンみたいなドラゴンの刺繍はどうだろうかぁ?
その他の魔木や魔草は、何だか草木染って感じで・・・淡い可愛らしい色になった。此方はピンクから赤・緑・青と色の種類も、色の濃さの幅も広いし多い。ただどれも淡い色調なので若い可愛らしいお嬢様には似合うだろうが、銭をたんまり持っていそうなマダム達には似合わない感じだ。これは是非デビュタントとかの、清楚な初々しい淑女に着てただきたい。
しかしこの結果はパガイさん的にはお気に召さない様で、もっと他に出来る事は無いのか?あったら残らず試せ、などとせっついて来る。我儘だなぁ~~。
さて・・・そんな事を言われたって、どうしましょう?
後は媒染する金属を変えるくらいしか思いつかない、ミョウバンは元からこの世界に有ったのだが、鉄媒染はどうだろう?中学の手芸クラブでは、粉末になった金属らしからぬ粉が有った様な気がするが・・・・忘れた。あぁ、此処にパソコンが有ったのなら検索ができるのに。空の魔石でパソコンらしき本体は作れても、中身は詩乃のオツムが反映されるのだから、何の意味も無さない空っぽだ・・・クッ。
良く解らないので、取り敢えず草木染した糸をトンカチ(鉄製)を煮出した液に漬けてみる。我ながらいい加減なものである、これで上手い事染まったりしたら世界中の染色作家に凹られるよね。
トンカチ液に漬ける事10分・・・さっきのミョウバン液と違い、今度は鮮やかな色調に変わった。これなら年齢を選ばず(御婆には無理だと思うが・・・トライしたければするがよい、止はしない。)纏えるだろう。老若男女に適応できる、新しい魔力入の布地の完成だ。
パガイさんは気色満面で、踊るように鍋の間を動き回っている、楽しそうでなによりだ。やっぱり6男に似ているねぇ・・商人の特性なんだろうか?
「漬け込む時間や、煮だした液を混ぜる事で違う色が出来るかもしれやせん。まぁ、頑張って研究してくれなんしょ。」
役目は終わったとばかりに、撤収しようとする詩乃。
「何だ、お前はやらないのか?研究したら開発費として賃金を弾むぞ?」
でもあんまり興味は無いんだよなぁ・・・・大体匂いがキツイしね、詩乃には楽しい仕事ではない。不思議な事に鼻が良いはずの獣人達は平気な様だ。
それよりも!
「今日は天気が良いから、子供達にミニスキーを教える約束をしているんでさぁ。子供との約束を違える訳にはいきやせんからねぃ。」
そうなのだ・・・保育所のお披露目の日から、詩乃は毎日1度は保育所に顔を出し子供達と遊んでいた。どの子もみんな、詩乃を特別な目で見ないし、素直で大変に可愛らしい、ノン姉ちゃんと言って慕ってくれているのだ。決して精神年齢が近いとか、背が同じくらいの子がいる為では無い。
ボールを作ってドッチボールの真似事をしたり、縄跳びも教えたな・・・獣人は身体能力が高いから皆あっという間に上手になってしまった、3重飛びとかを軽くする。大縄跳びで100回チャレンジとかしていたら、大人が参戦して来て対抗戦になったりもした・・・雪が続くと体が鈍って大人でも動きたくなるようだ。
要するに・・・脳筋なんだな。
そうそう「だるまさんが転んだ」を教えようと思った時に、この世界にだるまさんが居ない事を思い出した。他の地方では「ぼんさんが 屁をこいた」だったっけ?だから神官は見た事が無いだろうから「長老さまが屁をこいた」に改悪した。これには子供達にも大受けしてゲラゲラ転げ回って大笑いして、余りに笑うものだから心配した大人達が様子を見に来たりもしたくらいだった。
鉱山では人間の監視の目が厳しく、子供達が好きに暴れ回ったり、大声で笑ったりなんか出来なかったんだって・・・クイニョンに来て、ダンジョンハウスが出来て本当に良かったと・・・そう聞いた時にはホロリとしてしまった。微力ながらもお役に立てたのなら良かったよ。
失敗してしまった事もあった・・・子供が鼻血を出しながら、あんまりにも暴れ回るので少しクールダウンさせようと<お話>をしたのだ。
<お話>は以前にも時々やっていて、子供達はドラゴンが活躍する「魔虫を糞塵爆発させた話」が大好きだ、何度も何度も同じ話をせがむ(もちろん無粋なラチャ先生やプウ師範は出てこない)主人公はあくまでドラゴン様達だ。その他にも「海の魔物から逃げ切った船乗りの話」とかが受けがいい。
その日は興奮が激しいので<怪談>を話したんだ、武士を貴族に置き換えれば簡単に話は出来上がる。お菊さんをデイジーに変えて、例のお皿のお話だ。声のトーンも低く落として・・・だんだん小さな声にしていく。話が佳境に入ると子供達の息使いも聞こえるほどに静かになった・・・狼の子供としては驚異的な事である。
「一枚・・・・二枚・・・・三枚・・・・四枚・・・」
突然詩乃は後ろを指さし大声で叫んだ。
「ウオゥでmどsf、jんっじぇえlscjfs!!!」
ギャーーーーパニックになり泣き出す子供達・・・純真だねぃ、こんな事で驚くなんて。ゲラゲラ笑う詩乃に、嘘だったと気が付いた子供達に集られて、あちこちチョッと本気気味に噛まれたのは自業自得と言えるだろう。
だから御免って、痛いってばよ。
・・・その晩遅く、あちこちの家庭で夜泣きする子供が続出して、怖い話は二度とするなとガッチリ怒られた・・・のは一昨日の事である。雪女も考えていたんだけどな?残念!
こんな詩乃だが、それでも子供達はノン姉ちゃんと呼んで慕ってくれていた。
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さて、スキーと言ってもスポーツ用品店に有る様な本格的な物では無く、雪国のホームセンターに売ってるようなプラスチック製の子供のお遊び用のアレだ、小さな子が遊ぶ為のソリも作ったんだぞ。
詩乃は遊ぶ気満々である、家の中ばかりでは気分が塞いでしまう・・・晴れたなら外で雪に慣れ親しむべきではなかろうか?段々畑にも雪が吹き溜まって、今やなだらかなスロープと化している、滑っても怪我をする事も無いだろうさぁ。
引き留める声を無視してサッサと作業場を抜け出し、ルンルンと鼻歌交じりに玄関?・・・ゲート(見張りの兵士が付いている)の外に出る、時間厳守は狼族の良い所だね、すでに元気が余りまくっている子供が雪の中を転げ回っている様子が見えた。
保育室の子供17人にお世話係のお母さん4人、怪我をしない様に見守る為に若い衆(パシリとも言うが)が8人付いている。大事な子供達だ、サポート体制が整っているねぃ。
虎さんとムースさん(肩にモルちゃん)も一緒だ、この2人 晴れた日には大概外に出ている。・・・ダンジョンハウス内はどうしても狼臭いから、外の空気を吸いたいんだってさぁ・・・鼻が良いのも考えモノだね。
詩乃の実家にもウララちゃんがいたから、遊びに来た友達が「ワンコの匂いがする~~~。」と、言っていたが5分もすれば鼻も慣れてしまって何も感じなくなるものだ。5分経っても匂いが気になる場合は、それは・・ちょっとばっかり掃除が行き届いていないのだ・・・掃除したまえ、次亜塩素酸が良いぞ?
ダンジョンハウス内は概ね清潔に保たれているのだが、ほら・・・若衆部屋とかあるからね?御察し下さい。若衆部屋は風下の一番辺鄙な場所にある、でも・・どうしても青春時代の匂いと言うのかな?するのだよ青春の汗と涙と情熱の香りが。
思えば・・・悪いが詩乃のお兄の部屋も臭かった。体育会系中高生男子は存在自体が匂うものなのだ・・・妹の偏見だろうか?いやいや、お兄の合気道の道着は漂白剤をぶち込んで別洗いしていたものだ、だって他の衣類に匂いが移るんだものさぁ。
若衆達だってこの状況(くっさい部屋)を喜んで受け入れている訳では無い。
潔癖症とズボラが争えば、潔癖症が負けると言うのが世の道理なのである。ズボラは汚染の耐性も高く時間の体感も緩やかなのだ、掃除するように注意されたって「解った、そのうちにな。」で済ませる。
よって潔癖症の人物は、過労に陥りながらも掃除をし続けるのだ・・・終わりのないマラソンの様な悲劇である。お兄の道場にもそんな綺麗好きな人がいて、泣きながら掃除をしていたそうだが・・・お兄は諦めの悪い奴と切って捨てていた・・・家のお兄が御免なさい・・・合掌!
界を違えどその定説に狂いは無かったようだ、だから潔癖症?・・・と、言うか普通の感覚を持つ若衆は、いち早くこの若衆部屋(HELL)を抜けださんと、奮闘努力して恋歌の練習に励むのだ。
彼女が出来て目出度く結婚に漕ぎ着ければ・・・晴れてHELLからの脱出、ラブラブの彼女さんと新婚さんのスイートな(あくまでも気分的にだ、洞窟ハウスだし。)個室に移れるのである。
最もクイニョンの人口比は男3:女1なので、数多くの悲劇(若衆部屋から抜け出せなくなるとか)が生まれている訳だ、ちなみにある程度の歳を過ぎても独り者の場合には、江戸時代の長屋張りの小さなワンルームが与えられるらしい。それはそれで悲しい・・・。
パガイさんがお見合い爺になって、男女差を解消すれば随分と喜ばれる事だろう・・・頑張れチベットスナギツネ。
当のパガイさんは頗る音痴らしいので、恋のレースには参加出来そうも無いのだが。
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ミニスキーの履き方を教えて、先ずは歩かせてみる・・・カンジキぐらいの大きさなので、ミニスキーを履いていれば雪に足を取られることも無い。ヨッチラヨッチラある程度の高さまで登ったら、スイ~~~っと滑り降りて来る。5分苦労して登って3秒で滑り降りる・・・リフトとかが無いからねぃ自力で頑張って頂きたい、それでもみんな楽しそうに白い息を吐いて笑っている。
小さな子供組は若い衆に抱き上げて貰ってソリで滑り降りている、面倒見が良い所は狼族の美点の一つだろう(最も同族にしかサービス精神は発揮されないが。)気持ちが良いのか、キャーキャー歓声が彼方此方から響き渡る。詩乃は雪目で眩しいが、子供達は大丈夫な様で動きに支障はない様だ。
そんな様子を虎さんは横目で見ながら、遠くの方を意識しながら警戒している・・・新しい土地だ、何が起こるか解らない、それが虎さんの意見だ。
もうそろそろお終いの合図を・・・出そうとした時に、バキッっと破壊された音が頭の中に響き渡った。
「守り石が壊された・・・。」
これは、王都で聖女様の危機の時に聞いた、守り石が壊された音だ・・・何かが結界を破ってクイニョンに侵入して来た。モルちゃんが詩乃の異変に気付いて飛んで来た、モルちゃんにも聞こえたのだろう・・・破壊の音が。
「モルガナイト!警戒音を、狼族全員に非常事態を知らせて。」
詩乃の願いに反応して、ドラゴンの子がキャケーーーッと叫んだ、心に響く不穏な音。
「虎さん、谷の一番外側の結界が破られた。強い魔力を持ち敵対する何かが来る!!全員退避!ダンジョンハウスに戻れ!」
声に魔力を乗せて谷一帯に響かせる。
只ならぬ詩乃の様子に、怯えた子供達は若い衆に守られながら避難し初める。ハウスの中からは兵士達が出て来た、まだ訓練前の半人前の兵士達だ。
「兵士達とムースさんは、ゲートの前で待機。敵を一歩もハウス内に入れるな。入られたら終わりだ。」
詩乃の命令に気分を害する兵士達、お前の指図は受けない・・・とばかりに、ゲート前を離れて虎さんの方に走り出して行こうとする。その時だ・・・聞いたことも無い大きな咆哮が谷に響いたのは。
『何・・・ティラノザウルス?』
何で爬虫類が雪の中を跋扈できるんだ、変温動物ではないのか?卑怯者!
沢山の肉ギャースを侍らせたティラノザウルスの様なデカ物が、谷まであと100メートル程?と言うくらいまでに近づいて来ていた。逃げ切れるか微妙な感じだ。
「嫌ぁぁぁーーーー、私の子が。私の息子があそこに!!」
見守りのお母さんが悲鳴を上げた、一番元気で動きの激しい(落ち着きの無い)フルフェイスの狼少年が、段々畑のスロープの高い位置まで、一人で登っていったのか・・・佇んでいる。肉ギャースまでの距離は50メートル無いかもしれない。このままでは肉ギャースに囲まれてしまう。危ない!!
「女子供はハウスに入れ、兵士はゲートを守れ!」
そう言い残すと詩乃は駆けだした。
肉ギャース恒温動物でした、卵で産まれるくせに・・・異世界だから・・・・そうなのです。