冬の生活~1
どうにか冬までに、お家がととのった様です。
温泉はどうした・・・?
お腹が一杯って、何て幸せな気分なのだろう。
いやいや20歳の妙齢の女性が(この世界ではすでに行き遅れの、周回遅れなのだが。)このような有様で良いのだろうか?・・・少なくとも詩乃は気にもしていないし、童顔と小柄な事も有ってか<お節介お見合い御婆>からも放っておかれている・・・自由な身だ、ヤッフウ。
詩乃はご機嫌に草系の部屋に戻った、今日は良い一日だったな。
男衆と帰って来た女衆が、もっと揉めるかと思ったが・・面倒な事は振られ男が全部持って行った感じだ。これからは女衆も経済力が付くし、今回のシェリさんの件は、嫌な事が有ったのなら無理をして心を偽らなくても、群れを離れても生きて行く事ができる・・・そんな前例を作ってくれたのだろう。
亭主関白の終焉と、かかあ天下の台頭を見る思いだ。
やっぱり、経済力を自ら持つことは大事だね~~。常々うちのお母さんの言っていた事だが、界を跨いでも真実だった様だ・・・さすが年の功。
部屋に入って寛いでいると、ノックをしてパガイさんがやって来た。少し話が有るので部屋に入って良いかと聞いて来た、詩乃には異存は無いが・・・虎さんとムースさんは?OK?ではどうぞ~と部屋に招き入れる。
パガイさんは不思議空間から色々取り出して、お湯を沸かし紅茶を入れてくれた。懐かしい良い香りだ、セイロンに近いかな?紅茶の名前はそれしか知らないが。虎さんとムースさんも、食後には良い飲み物だと気に入ったようだ。良かったねぃ。
「パガイさん、村に行った草系の皆さんは恙なくお暮らしかぇ?もう冬が来るだろう、準備の方は万端だろうか?不自由な思いはしチャァいないかね。」
送り出した後は丸投げなので、少しばかり心配はしていたのだ・・・正直ほぼ、忘れていたが。
「あぁ、問題なく村に定着して仲良くやっている。みな働き者なので、村人の評判も良いようだ。そうそう、お前が置いて来た牛系の獣人だが。」
「モーちゃんと野牛さんですねぃ、どうかしやしたかぃ?」
「来春の中頃にはお目出度い事があるそうだぞ、彼女の方は悪阻も無く元気に過ごしているから、安心して欲しいそうだ。」
「そりゃぁ目出度いでやんすねぃ、お祝いの一つも贈らなきヤァ。」
詩乃は嬉しそうに、何を贈ろうか考えだした。
その様子にパガイさんは。
「お前、結婚祝いに山ギヤとフロートを贈っただろう?それだけで破格の扱いだぞ?もう十分牛の夫婦には尽くしてやっている、他の者にも目をかけるべきだ、不公平は良くないぞ?」
そうか王太子の金で買ったから、気にもして(少しは気にしろ!・・・トンスラ王太子の幻聴が・・)いなかったが・・・高いんだよねフロートって。
「山ギヤも子を産んだから、村々で交配させていって増えていくだろうし、畑仕事は楽になっていくだろうさ。お前は他の事を考えろ。」
・・・他の事ねぃ。
「ムースさんはアッシの護衛の為に此処に残っていてくれて、山ギヤの世話も引き受けてくれているんでさぁ。村に入るのは遅くなってしまったけど、受け入れてくれそうな村は有りヤスかぃ?出来ればムースさんと、年の見合う可愛くて心映えが良くて、料理が上手で手芸の得意な働き者の女の子が居る村が良いのだが・・・。ムースさん、女の子に好みは有りヤスかぃ?可愛いタイプが好みか・綺麗なタイプが良いとか。ボン・キュッ・ボンの我儘ボディが好みとか?」
純真なムースさんは顔を赤くして、珍しく慌ててる様子でひっくり返った声で言い張った、小さな子供が言う事では無いと。
「小さいと言ったって、これでもアッシは20歳過ぎている年増でさぁ。」
「お前の様な奴は、耳年増と言うんだ。」
パガイさんに耳を引っ張られた・・・痛いでしぃ。
ザンボアンガ出身者が開拓している村は、この付近以外にもまだまだ沢山あるから心配は要らないとパガイさんは言う。
「ムースさんは気配りしぃだし、力持ちで働き者だ。顔だって爽やか系の(薄塩味系かな?)男前だから心配は要らないだろうけどさぁ。出来ればムースさんの希望に添ってあげて欲しいのさ?」
ムースさんは恥ずかしいのか、藁の布団の中に潜ってしまった。純情だねぃ。
虎さんは・・・と思って顔を見たら、ジロリと睨まれた・・・怖いでしぃ。
虎さんはこの手の話が有ると、押し黙って不機嫌になってしまうから、本当の気持ちが解らない。そもそもクイニョンには護衛で来てくれたんだから、来年の春にクイニョンを出た後は詩乃の我儘に付き合う必要も無い。大人でしっかり者の虎さんだから、詩乃が心配する必要も無いのだろうが・・・やっぱり気になるよね。
散々お世話になっているんだから。
「本題の話だが、これが何だか解るか?」
コホンと咳払いして、パガイさんは懐から白い何かを取り出した、繭だねぃ。
「これは繭ですかい?随分と大きいなぁ、鶏・・コッコの卵程有りヤスねぃ。アッシの世界の繭は親指の先程としかありやんせんでしたが。」
魔虫の繭だからな、パガイさんはそう言うとまた大事そうに懐にしまった。
「ここの女衆に、冬の手仕事に頼んだんは魔虫の糸で織る布地の生産だ。糸にも魔力が含まれていて、人間の平民には触れない代物だ。その代り貴族には凄く喜ばれる、自分の魔力の底上げになるからな、これは魔力に強い獣人向きの仕事と言って良いだろう。この繭もだな、此処の狼族の鉱山より先に閉山した、他の狼の獣人達が開拓した村が生産しているんだ。」
へぇ~。
「お前、以前に言っていただろう?近すぎる血は病を招くと・・・この繭を仲介して、双方の村の交流を図れば良いのではないかと思ってな。狼族は縄張り意識が強いし、数は力の所が有る・・・上手く事を運ぶために、聖女様のオマケ様の力を使いたい。」
一方からの技術供与的な力関係になると、話が難しくなるそうだ・・狼的には。
「具体的には、何をすればいいんで?」
「お前、トデリにいた時に毛糸の染色をしていただろう?セーターとか編むのに。この繭は魔虫の糸だから魔力があるせいか、普通の染粉では色が弾かれて染まらないんだ。今は生成りの糸でしか布を織れない、白い色の布地だけだ。色付きの布が出来ればクイニョンの名産になる、ここクイニョンでしか生産出来なければ強みになるだろう?」
はぁ、それはそうだけど。
「あれは<空の魔石>で造ったパワーストーンを染粉に変えて染色してやした、染粉を作るのは良いけれどアッシ以外が使って染まるかどうかは分かりやせん。トデリでは一人で作業していましたからねぃ。」
年に1回ドラゴンに乗ってクイニョンを訪れ、染色するのは全然かまわないが。
詩乃がお婆さんになって亡くなってしまったら名産品が途絶えてしまうだろう?
「染色作業と並行して、誰でも使えるような染粉の開発をしてくれないか。」
う~~ん、魔虫の糸なら、魔木や魔草・・・魔虫の体液なんかなら染まる様な気がするね。これはプラントハンターのお仕事だねぃ。
「虎さん、ムースさん。魔虫の糸が染まる様な、魔力を含んだ草木や虫を集めて来ては下さいませんかねぃ。パガイさんが賃金を弾むそうですよ?」
もう谷に居ても、詩乃が狼達に脅されることは無くなって来た。2人ともやることが無ければ暇だし、護衛より遣り甲斐のある仕事だろう。狼達と顔を合わせる必要もないしね、2人とも狼達にウンザリしているのは解っているんだ(笑)。
何だろうね、気質が合わないのか・・・どうにも馴染めないらしい。
「しばらくは此処にいるから、これの心配はいらない。不本意ながら俺が監督しておこう。」
不本意?監督?・・・何ですノンそれは!
詩乃が脹れたら3人は愉快そうに笑った、ムースさん?布団の中で笑うのはよしなせぇいよう。
****
翌朝早く虎さんとムースさんは、プラントハンティングの旅に出た。
パガイさんのオファーに、二つ返事で了解したのだ、よほど谷には居たくないらしい。山ギヤの1頭にムースさんが乗り、もう1頭に食料や水・寝袋や着替え・採取の道具などを乗せている。虎さんは草ギャースだ、同じく装備は万端だ。
詩乃は2人に以前から魔獣避けの結界と身隠しの守り石を持たせていたし、お運び係の4頭にも魔獣避けと身隠れの守り石をぶら下げてある。この4頭とは以前にも地図造りの旅でご一緒したから顔見知りだ、守り石の意味が解っているのか?詩乃になつっこく寄って来る。懐かれると可愛いね、草ギャースでもね。
最強なコンビが一緒なのだから心配は無いだろう、帰りは7日後だと言う。君達せいぜいゆっくり開放感を味わってきたまえ。
詩乃はウズラの卵程の石を取り出すと説明を始めた。
「これは魔力を感じると、小さな音が鳴る仕組みの石です。音がしたら音を鳴らせたと思うブツに押し当てて下せぃ、魔力が強いブツほど石が濃い色に変化します。虫なんかは潰して色が出るものが良いかな?まぁ、冬も近いからそんなに虫とかいないでしょうから、一通り持って来てくダサいね。」
解ったと言うと2人は石を受け取り、胸のポケットにしまった。
そう、もう冬だからね、幾ら毛皮持ちでも寒かろう?だから2人には服をプレゼントしたのだ。はい、北国仕様の迷彩服・自〇隊スタイルです。趣味に走りました!災害救助で活躍している姿をTVで見ているからね・・・・正義の味方の制服でぃ文句あっか!!
尻尾の穴の位置が難しかったからマジックテープでフレキシブルにして有りますのよ奥様。ほほほ。迷彩服の上からごっついベルトを締めている虎さん・・・ちょっと笑える。
「行って来る。」
そう言うと、冬が近くなって薄暗い朝もやの中、彼らは旅立って行った。
1人残った詩乃は、パガイさんのリクエスト通りに染粉を作ってみた。
藍色の鮮やかな深いブルーのラピスラズリを、粉状に粉砕したら水にグルグルとかき混ぜて溶かす。トデリではこのままで、何もせずとも毛糸は染まったのだ、本来なら定着させるための触媒に鉄とか錫とか金属のイオンが要るのだが。その辺はウル覚えだ、無理もない。染色に関しては中学の時に手芸クラブの高桑先生が、学習発表会の時に教えてくれたのだから・・・かれこれ7年前の話だ。
染色液に魔虫の糸を漬け込む、長く漬けるほど色は濃くなる。砂時計を使って6種類ほど、漬け込み時間の違う物を作ってみた。発色が綺麗でいい感じに出来上がる、少ない糸束で染めたが、そのまま刺繍糸にでもなりそうだ。糸の魔力も減ることも無く、むしろ増えていて・・・お貴族様には垂涎の的になりそうな一品となった。ごく薄い藍から濃い藍までの6種類のグラデーション綺麗だねぃ・・・パガイさんも上機嫌だ。
さてさて染色に興味が有りそうな女衆に、詩乃がやった様に漬け込みをして貰う、作業自体は難しいものでは無い。が・・・不思議と言うか、やっぱりと言うか・・・詩乃以外の人が染色しようとしても染まらなかった。
なんでやねん?
不服そうにパガイさんは鼻に皺を寄せて唸るが、出来ないものはしょうがないでは無いか。プラントハンターの頑張りに期待するしかない様だ。
その他にもトラブルは起こった。
スルトゥの街から持って来た、最新型の織機の置き場所で揉めたのである。女衆は織り目を良く見る為にも、明るく広い場所を所望したのだが・・・そこは、旧長老・重鎮達の会議室(単なる駄弁り場)を予定してた場所だったのだ。当然ジジイ共は面白く無い、しかし女衆はこれから冬中働くのだから良い場所を確保したい。
また睨み合いが始まった・・・長くなるかと思ったが、パガイさんが織機をセッセと会議室に運び入れ設置し始めた・・・ジジイ共の言い分は完全に黙殺されたのである。
「鉱山も・・長の威信も・・遠く彼方になりにけり・・・。」
しょぼくれた旧長様達ジジイ共が嘆くも、邪魔だから余所で嘆いてくれと女衆に言われて、追い払われていた。
・・・・合掌!
トイレは学校みたいに、あちこちにあります。
浄化槽方式で・・・スライムが住んでいます。異世界のお約束 (#^.^#)