表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
45/126

女衆のご帰還

お母さん、お帰りなさ~い(*'▽')

約束の7日目の朝が来た、お留守番組には待ちに待った朝だろう。


詩乃は竈の前で朝ごはんを作っていた、今朝のメニューはくず肉を入れたチャーハンだ。ラードを使っているからね、肉が少なくてもそれなりに美味いだろう、良い匂いが漂って来る。

子供達が気が付いて近寄って来た、狼的沽券感はまだ薄い様なので、腹ペコには勝てないらしくグウグウ腹を鳴らしている。きみきみ、お涎を拭きたまえよ。


「いいかぇ?今日はお母ちゃんたちが戻ってくる日だ、沢山の「お買い物」の荷物を持ってな。家族の部屋の中は綺麗に掃除出来ているかな?絨毯はすぐに床に広げられる状態かぇ?お母ちゃんが見て喜ぶ状態にしておかないと、お土産のお菓子は無いぞ?」


何人かの子供はヤバッて顔をしている、男所帯に蛆がわく?だったっけ?


「飯を食ったら、子供衆は今日は1日掃除と洗濯だ!お母ちゃん達は街で勉強して来て、凄く疲れて帰って来るんだ、それなのに部屋の中が汚れていたら何と思う?悲しくはないかぇ?」


子供達は真剣な顔で此方を・・・正確に言えば、詩乃の後ろのチャーハンを見ている。


「腹が減ったら働けない、だから掃除をすると約束する子には飯を授けよう。聖女様は子供が腹ペコなのはお嫌いだからな、どうする、約束できるかぃ?狼族の子供としての神聖な約束だぁ。」


子供達は腹ペコとお母ちゃんが喜ぶぞ・・・の言葉に促されて、次々に約束しながらチャーハンを受け取って行った。大人達は・・・その様子を黙ってみている。

大人達も腹が減っているんだろう、でも「悪かった」の一言が言えない。

すまなかったオ~ラはビンビンに(尻尾に)出していて<察してくれ>なのだろうが、悪いが詩乃は狼では無い<察してちゃん>が通用すると思うなよ。

これから異人種交流も増える事だろう、狼族の流儀に合わせてくれる相手ばかりとは限らない、今の内に対応の仕方を良く考えておくと良いと思うよ~。

チラチラと男衆の視線を感じながら、詩乃もガンとして譲らなかった。


本当に狼族と言うのは意固地と言うか、よほど面子が大事なのか・・・とうとう朝食を食べる男衆はいなかった。気をもむ詩乃に、虎さんとムースさんは放っておけと言っていた。獣人さん達は体が丈夫で、飢えにも強く10日くらい絶食しても大丈夫らしい。・・・凄いねぇ。




今日は肌寒いので、モルちゃんは虎さんと狩りにいかずにお留守番をするらしい。

じゃぁ草系の部屋で手芸でもしようか?

積み木とおままごとセットを作り上げた詩乃は、今は縫いぐるみの制作に忙しい。

ピンク色のドラゴンちゃんと山ギヤ・モモウなんかを作ったぞ。勿論リアルな物じゃなくて、デフォルメした可愛い2頭身の物だ。今日は何を作ろうかな?茸なんかも可愛いかな?あれか!お母さんゴッコをするのに赤ちゃんも必要か?

胴巻の中から下賜された端切れを取り出す、端切れって言ってもメーター単位でかなり大きい。そうだ、モルちゃんの専用クッションを作ろうか?そう言ったらモルちゃんはたいそう喜んで、気に入った布を選び出した・・・王妃様の御印が入った真紅のビロードですか、御眼が高いことで・・・。クッションの周りを金モールで囲み、4ッの角には房飾りも付けた・・・アレだね、シンデレラのガラスの靴を載せていたクッションみたいだね。

モルちゃんは喜んで鎮座ましましている、有難がって狼達が拝みそうだ。



    ****



スルトゥの街のタンザナイトさんからモルちゃんに連絡が入った、お母さんたちは3時ごろにはクイニョンに戻るらしい。微妙な時間だな、夕食はどうしよう・・・真新しい調理室で初料理を作りたいかもしれないし、疲れていてご飯を作る気力も無いかもしれない・・・どうしよう?迷っていたらモルちゃんがタンザナイトさんにお伺いを立ててくれた。


するとタンザナイトさんからお返事が来た。


何でも機織り機の講習は全員が受けていたのではなく、希望者達だけで残りの人は別の勉強をしていたそうだ。調理好きのお母さんたちは<安らぎの宿・ノア>の料理長さんに料理を習っていたらしい。勉強して来た料理を是非披露したいそうで、夕食はお母さん達が作るとの事だ。


今夜はパーティだな・・・詩乃達はお招きされないだろうが。ちょっとだけ寂しい気もするが、まぁ余所者はそんなもんだろう。詩乃はぼんやりそう考えていた。



   ****



3時にはピッタリにクイニョンに飛行船が到着した、時間に正確だねJRもビックリだ。


飛行船からお母さんたちが顔を出すと、お留守番をしていた者達は歓声を上げて出迎えた。アイドルが来たみたいで笑える・・・が、歓声はそれ以上大きくなる事無く、尻すぼみに消えて行った。

何故ならお母さん達が目に見えて疲れていたのである、7日間の間にできるだけ知識を吸収しようと貪欲に頑張ったのだろう。目の下に盛大に隈を作って、フルフェイスのお母ちゃんは尻尾をだらりと垂らして、体全体で疲れを表している。彼女たちの疲労に比べたら、男衆の腹ペコなんか単なる我儘で、子供が拗ねたようなみっとも無さだ。

それでも旧長様が文句を言おうと口を開きかけて・・ギロッ・・と奥様に睨まれて口を噤んだ。女衆の身体からは、文句言うな・・・のオ~ラが滲みだしていて、誰も声も掛けられないぐらいだった。子供衆も気後れして、お母ちゃんに近づけないでいる(笑)。


「みんな良い子にお留守番しておりましたよ、今日も張り切って掃除に洗濯に活躍してござりやした、褒めてやって下せぇ。」

声をかけると、お母さんたちもハッとして子供衆を見た。途端に破顔一笑、双方ともに駆け寄ってハグし合っている。男衆は置き去りだ(大笑)。

「おい、荷を降ろすぞ、手伝ってくれ。」

パガイさんの声に、硬直の呪いから解けた様に男衆が動きだす。沢山の荷物だからね、頑張って運ぶがヨイ、役に立って何よりだ。


久々のパガイさんだ、相変わらず腹黒そうだ。

「随分強引に講習を受けさせましたねぃ、思わぬ人員確保に小躍りして飛行船を出したんでしょう?パガイさんが何の得も無しに、そんなサービスをするとは思えませんやぃ。」

「人聞きの悪いことを言うな、冬の手仕事の件は女衆から言い出した事だ。」

まぁ、ほんの少し餌はチラつかせたがな。

・・・後半の声は小さくて詩乃にしか聞こえない。


楽しそうに荷物を運んでいる皆は、この7日間の苦労は溶けて消えたようだ・・単純で何より。

「お前に相談が有ってな、機織りの糸の事だ。おまえ以前トデリで・・・」

そう話していた途中、大きな叫び声でパガイさんの声が消された。



「何でシェリがいない!!スルトゥの街に残るなんて聞いてないぞ!!」

灰色の髪をした若い男が喚いていた。


シェリさんは今年の冬には成人に成る女の子で、獣性が少なく狼族の中では浮いた存在だった様だ。スルトゥの街を見て、思うところもあったのだろう。タンザナイトさん経由でパガイさんから連絡が有り、モルちゃん経由で詩乃がご両親にシェリさんの意向を伝えた。


「スルトゥの街の、手仕事の店で働きながら生きて行きたい・・・と。」


ご両親は娘を一人街に出すのは大変心配したが、クイニョンに居ても辛い思いをするばかりで、結婚は叶わないだろう・・・。娘の好きにさせてやりたいと返事をくれた、長様の銀さんには事後報告だが(扱いが軽い?)後で話す予定だったのだ。


「シェリは誘拐されたんだ!シェリを返せ、許さないぞ!!」

許すも何も、シェリさんが望んでご両親がOKを出したのだ。何の文句が有るのだろうか、だいたいアンタあの子の何なのさぁ?

詩乃の疑問に飛行船から降りてきた、年若い勝気そうな女の子が答えてくれた。

「シェリは自分で希望してスルトゥの街に残ったのよ、クイニョンに居てもどこかの阿呆に嫌味を言われるだけだからね。」

・・・どこかの阿呆は・・・喚いている若い男なのだろう、絶句して目を見開いている。

「耳が小さいだの、尻尾が小さいだのあんた嫌味ばかり言っていたじゃないの。あの子はもう僻僻して、クイニョンを出て行ったのよ。」

「俺はそんなつもりは!」どこかの阿呆が喚く。


「あれか?・・・好きな女の子の悪口は聞きたくなくて。でも自分が言う分には悪気がなくって、色々言っている内に、心の底から嫌われちまったってケースかぃ?」

小さな声で話したつもりだが、周りがシ~~ンとしていたせいで、思いのほか声が通ってしまったようだ。どこかの阿呆の顔が歪む。

「やっちまったねぃ。」

「やっちまったな。」

腕を組んで首を横に振る、やれやれ・・・小学生じゃあるまいし、自分が嫌われない自信は何処から湧き出て来たんだか・・・阿呆なんだろうなぁ。



「ウオオオオオォォォォォゥゥゥゥゥンンン・・・・」

阿呆の絶叫が谷に響いて木霊した、哀しい叫び声だったが・・・同情は出来ないよね。若い娘が身寄りも無い街で、ただ一人で生きて行こうとまで思い詰めたのだ。そこまで追い詰めた、どっかの阿呆の責任は重いだろうさぁ。


1人へたり込む若い男を置き去りにして(声の掛けようも無かったのか)荷運びはサッサと終わり、飛行船は帰って行った。バイバイ。


「あれ?パガイさんは居残りで。」

お前に相談したい事があるんだ。


面倒の予感しかしないけど?



その晩は・・新しい調理室を見て、喜び勇んだお母さんたちが腕を振るい、沢山のテーブルが並べられた絶景食堂で楽しくお食事会が行われた。パガイさん初めスルトゥの街の出向組や、詩乃と虎さん・ムースさんもご相伴に与かり、大変楽しく美味しい夕食だった。

モルちゃんは専用クッションに神々しく座り、狼達の挨拶を軽く頷く事でこなしていた。貫禄が出て来たねぃ。




シェリさんに振られた阿呆の振られ野郎だけが、食事会に出てこなかった。

・・・合掌!


振られ男は来年、スルトゥの街に見習いに行くつもりです。シェリさんを連れ戻すつもりでしょうが、そのころにはシェリさんは強くなっていると思いますよぉ?くすくす。

シェリさんは豆ちゃんの家に下宿しています、一人じゃぁ無いので安心して頑張っています。(^_-)-☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ