頑張れ男衆
やればできる!頑張れ男衆(-_-)/~~~ピシー!ピシー!
女衆が旅立って今日で5日目だ。
傍から見ているといい加減慣れて、自力でどうにかしたら良いんじゃね?と思うのだが、男衆は煤けるばかりで進歩がみられ無いようだ。子供衆は早々に父ちゃん達に見切りを付け、出向組の料理長の手伝いをする事で食事に有り付いている。大きい子供が小さな子の面倒をよく見いて感心する、子供衆って言う名の集団だったかな?大人は子供の成れの果て・・・な、訳だがどうしてこうも融通が利かないのか?不思議な事である。子供は逞しいね・・・変化に敏感に対応できるのが若い者の特性なんだろうな。彼らは基本命令を効く側だから、指揮系統が変わろうが、創業家の悲哀が有ろうが無かろうが、そんな事は関係ないのだろう。
男衆の中でも特にしょぼくれて居るのは新長様の銀さんだ、ドラゴン様の怒りを買い、詩乃を排除するようなセリフを吐いたあげくに、飯を食えなくした張本人だ・・・と自他共にを責められている様だ。尻尾がダランと垂れ下がり、覇気が感じられない。ジジイ共にはネチネチ嫌味を言われている様だし、大変だね~(他人事)。そんなに悩むと白髪になるよ?まぁ、元々銀色だから目立たないか・・・プチトンスラのタイプかな?
まぁ頑張れ、君から言い出した事だ。
詩乃はまだまだ絵に夢中なので、基本狼達に眼中は無い・・・生きろ。
そんな谷に飛行船が2艘やって来た、見知ったドラゴン様が引いているスルトゥの街の船だ。女衆が戻って来たのだと(残りはまだ2日有るが)勝手に早合点して、男衆は船の周りにワラワラと集まりドラゴン様に威嚇されている(笑)。
キシャァーーッ!
船から出て来たのは設備商会の親方で、調理室をいよいよ完成させるために、機材や部品共々やって来たようだ。茹で卵の様なツルンとした頭に、濃い髭を生やしたいかにも職人です!って感じの親方だ。ちなみにこの親方、一度へそを曲げると機嫌が直るまで仕事をしない・・・厄介な男との評判が有るようである。
「なんだ?えらく歓迎されているようだな?悪いが女衆は乗っちゃぁ居ねえぜ。」
あからさまにガックリしている男衆に、呆れたパガイ商会の猫執事さんが声を掛けた。
「いいですか皆様?奥様達は、まだ仕事が軌道に乗っていないクイニョンの為に、何でも良いから冬の手仕事を頂け無いかと、我がパガイ商会に訴えてこられたんですよ。皆様の為に、身を粉にして働く御覚悟なのです。今日も扱いが難しい、最新の機織り機械の動かし方を習得せんと、寝る間も惜しんで勉強なさっています。決してスルトゥの街で、楽しく遊んでいる訳では御座いません。
大変失礼とは存じますが・・・言わせて頂きます、皆様は奥様方の努力に報いておられますか?これから調理室の設備の設営をいたしますが、調理室は片付いておりましょうか?すぐに仕事が始められますか?
皆様は奥様達がクイニョンに戻ってきた時に、出来上がった調理室を見せて、喜んで頂きたいとは思わないのですか?僭越ながら、皆様の今やるべき事は怒り嘆く事では無く、掃除と洗濯だと確信いたしますが、如何でしょう?」
慇懃無礼の猫さん、ニコニコしているが目は笑っていない・・・怒らせると面倒なタイプと見える。
呆然と立ちすくむ狼達に、親方が檄を飛ばした。
「今日中に始末をつけるぞ、グズグズするな。荷を下ろす間に調理室の掃除を済ませておけ!」
ビリビリと腹の底から響く声に、慌てて狼達が走り出す。親方さんはナリは小さいドワーフだが、人心掌握には長けている、さすが工房を切り守する親方だ。
格の違いを見せつけられて、銀さんはまたトンスラが出来そうだ・・・モフモフだと隠せていいね、気にすんな。
****
ダンジョンハウスの外で、そんなやり取りが有ったとはツユ知らず、詩乃は最後の仕上げに奮闘していた。今度は絵ではない、この部屋をプチアスレチックにする為のイメージ画を描いているのだ。
何たって、冬の間は外に出て遊べる事も少ないだろう?運動不足にならない様に、遊具を制作してチビ共にプレゼントするつもりなのだ。
『ブランコでしょ、滑り台・・・腕力を鍛えるために登り棒とか・・あぁ、鉄棒とかも良いね。手に豆が出来るけど。ロープ登りも良いかな、柔道やレスリングの選手がやっていたような・・。トランポリンは無理かぁ・・・体感が鍛えられるのになぁ、あんなに大きな皮は無いか。』
帆船の登り網の様な、梯子の様な網も良いかも知れない、昼寝するのにハンモックはどうだ!秘密基地も欲しいし・・・そう、積木は必要だね、崩した時当たると痛いけどさぁ。あと、女の子におままごとセットが必要だ・・・此処の子はお人形や縫いぐるみを持っていないが・・・それが普通なのか?作ったら喜ぶかなぁ。
考え始めるともう止まらない、だって楽しいジャァないのさぁ!
厳しい異世界の生活なんだから、子供時代くらい楽しい思い出を作って欲しい。ソリやスキー、スケートは出来るかな?
フンフン鼻歌を歌いながら、ラフスケッチを描いていたらヌゥ~~~っと影が差した。
「ウワイ!ビックリした~~~。誰ですのん?」
そこには背は低く(でも詩乃より大きいが)・・・横幅も半端ない髭卵が立っていた。
****
さすが本職の設備屋さんだ、詩乃のラフでは構造上の問題や、無駄なスペースが沢山あった様だ。
「ほら、こうすれば間仕切りも出来るし、秘密基地っぽくなるだろう。」
ホオオオオオ・・・・詩乃は感心する事しきりである、流石本職の髭卵だ。
詩乃は資金は自分が出すのでこの設計図通りに、保育室を整えてくれないかとお願いする。
積み木も作って貰えるかな?パズルはどうだろうか?ほら、よく温泉旅館に有る様な、きちんと並べないと箱に収まらなくなる奴とか?楽し気に話す詩乃に、髭卵は不思議そうに聞いて来た。
「お前さん、狼族に随分と肩入れしているようだが・・・感謝もされていないんだろう?銭まで出して、良いのかそれで。」
「別に・・此処は趣味で作っている様なものだしねぃ。狼達も急に環境や暮らしの仕方が変わって、戸惑っているんだと思うんだぇ。もし感謝される事が有るとしたら、生活が落ち着いて余裕が出来て・・・それからじゃぁ無いのかなぁ?その頃にはアッシは此処には居ないだろうが、時折フッと思い出す事でもあれば、それで十分で良いのさぁ。」
・・・変な女だな、まだ若いってのに婆の様な事を語りやがる。
突然ドスドスドス~~~と、廊下を走る音が聞こえて来たと思ったら。
「アぁ~~~、親方此処にいたんですか、探しましたよモウ!厨房の機材を搬入するから立ち会って下さい、水の通り道の確認も有るんですから、忙しいんですよぉ。」
熊さんのフルフェイス・・・始めて見た、デカいね~~力持ちさんの様だな。親方を探して走り回って来たようだ、鼻がピクピクしているから親方の匂いを(オエッ)辿って来たらしい。白熊の様だが、僅かにピンク掛かっていて、大変にラブリーだ。
「おう、見習いにこのラフの設計図通りに図面を引かせて、正確な寸法を測らせろ。誰が良いかお前が決めて此処に寄越せ。」
熊さんは設計図をちらりと見て、詩乃を確認し(親方の幅で見えなかったらしい。)頷いてくれた。見積もりもお願いしますね~~~と、話しかけておく、髭卵より頼りになりそうだ。
髭卵の親方は熊さんにヒョィと抱えられて消えて行った。バイバイ。
10分も待つと、髭卵の言った見習いなのか、ドワーフの少年がやって来た。彼は几帳面に寸法をあれこれ図ると、ソロバンを片手に見積もりをはじき出した・・・高いか安いかは不明だが、クイニョンまでの出張費や普段自分達は使わないロープやハンモック等の取り寄せ代も含まれているという。払えない額ではないけど・・・彼の態度が横柄で気に障ったので、積木などの小物はキャンセルした。
自分で作るからいいもん。
ドワーフの少年は契約書は改めて、親方と確認してくれと言って出て行った。
ふぅ・・・保育園で出来る事はもうないやねぃ・・・。
グルッと見渡すと、沢山の植物や動物の絵が描かれて、子供の部屋らしい優しい色彩の部屋が出来上がっていた。
『みんな、気に入ってくれると良いけどなぁ。』
詩乃は草系の部屋に戻って、積み木やパズル、おままごとのお道具を作る事にした。
****
そのころ厨房では石窯を設営したり、煙を逃がす煙突を岩の中に通したり、突貫工事の最中だった。勿論髭卵の親方も指図したり、機材の調整をしたりで忙しい。親方は狼達にも(顧客にもかかわらず)手伝わせて水の管を設置していく。
「いいか、機材が故障したらお前らが修理するんだ、その為に原理と管理方法をよく覚えておけ。スルトゥの街とクイニョンは遠い、そう簡単に俺らが修理に来れるとは思うなよ。今回飛行船が出ているのも、聖女のオマケ様のご厚意だ、そう簡単に飛行船は飛ばせるもんじゃぁ無い最後だと思え。」
髭卵親方の話に、男衆はじめ新長様の銀さんは背中に嫌な汗をかいて聞いていた・・・その、聖女のオマケ様には、すでに喧嘩を売ってしまいました・・・。しかも完全に八つ当たりです・・・どうしよう?
オマケ様の地図造りに参加していたトクからは、オマケ様は特に怒った様子も無かったと報告が来ているが。あの薄い顔は元から表情に乏しく、何を考えているか解らないし・・・。虎やムースに仲介を頼むのも沽券にかかわるし。
男衆が悩み働いている時、詩乃は草系の部屋でのんびり積み木を作って遊んでいた。
「グワァァ~~~必殺・積木崩しぃ~~~。」
ガラガラガラ~~~。
二十歳過ぎてやる事でもないのだが、たまにやると楽しいよね・・・。東京タワーを作って、自らはゴ〇ラになり切る。破壊衝動の発散だぃ!ノリに乗って遊んでいたら、虎さんとモルちゃんに見られた・・・。
てへっ。
積み木でお城は定番ですねぃ。