白骨街道~1
3人の旅の不仲間が、歩き始めました。
昨日はお昼時に、ふんふんふんふん~~~と連呼し、申し訳ありませんでした。
夜に書いているので、失念しておりました。食事中だった方御免なさい。
【こんにちは王妃様さま、お元気ですか?詩乃です。今は旅の偽名?でノンって呼ばれています。まぁ、基本お前呼ばわりされているんですが】
王妃様から異世界人から見た、この世界の気になった様子をレポートする様に言われているので、面倒臭いが魔術具に思いついた事を録音していく。慣れないから照れくさい、旅レポさんや食レポさんは凄いよね。
【今は、白骨街道と呼ばれるこの国の大動脈・・の割にはショボイ街道を歩いております。道幅は・・甲州街道ぐらいかな?いちおう4車線だけど・・要するに狭いです。道は石畳で、凸凹だから足が地味に痛いです。此処では車の代わりにフロートと呼ばれる、空中に浮かぶソリみたいな物を使っている様です(金持ちは)。そのフロートを馬?みたいなんだけど、ワニみたいな鱗が生えていて、堅そうな皮膚をしている動物に引かせています。ちなみに草食で大人しい良い子達が多いそうですが、悪い子は固い皮膚を利用した<何か>に加工されてしまうそうなんです・・生きるって大変だね】
王妃領の近くでは、そんなフロートもかなり行きかっていたのだが。
街からかなり離れた今では、ほとんど行きかう人もフロートもいない。このくらいな距離なら海路の方が、コストも安いし安全で楽なのだろう。
春本番な麗らかな空に白い雲と青い空が映えて、大変に気分は爽快だ。
白い石畳の白骨街道がどこまでも続き、丘の上までウネウネと登っていく。
『坂の上のジ〇リ雲か、・・そして白骨街道を行く。お爺ちゃんは歴史小説が好きだったな』
ジイィィィゴォォォォ~~ジィィィゴオォォォ~~虫が五月蠅い。
此処異世界の虫は大層巨大で、どいつもこいつも多分15センチぐらいは有るのかな?近くで鳴かれると頭が痛くなる程の騒音だ。これは正しく騒音、右脳で聞く気分にもなれやしない。
まだ春・・多分春のはず。この虫達、今からこんなに全力で鳴いていて、夏本番まで体力がもつのだろうか?まぁ、何事にもホドホドと言う言葉を知らない異世界ですわ。
「ノロノロ歩くな、置いていくぞ」
偉そうに指図して来るのが、プマタシアンタル・・元②王子、現王太子の傍に張り付いていた男だ。何が有って天敵の詩乃と、この王国1周世直しの旅に付き合う事になったのだろうか?訳が分からん。以前は詩乃の事を奴隷と蔑んで、攻撃まで仕掛けて来た男だ・・忘れはせんぞーあの屈辱は。
だから旅の仲間だなんて綺麗ごとを言ってきても、絶対信用も油断なんかしていない。勿論指示など聞きませんとも、置いていきたいなら置いていくがいいさ。
けっ!だ!今は偽名でプウって呼んでいる、おならのプウだ・・けけ。
『歩き疲れて、我ながら自暴自棄になりつつある様だ。大体足の長さが違うのだから、遅れても仕方が無かろうに。そんな事も気付かえ無いから、女にモテないんだよ・・朴念仁』
「もう疲れたか、体力が無いな。おいラチャ癒しの魔術を掛けてやれ」
「ダメだ、魔術に頼ると基礎体力が低下してしまう、せいぜい自力で頑張る事だ」
『相変わらず聖女様以外には厳しい男だね。ああぁぁ因りによって、何だってこの2人と旅をしなければならないのだろう。・・王妃様・・う~ら~み~まぁ~す~』
そう、この王国1周世直しの旅は、王妃様の発案で聖女様の推薦(魔術師長のみ)があったそうなのだ。この旅に当たっては色々な意義を、針小棒大にして付けられた。じゃないと予算が出なかったんだろう・・でなきゃ良かったのに。
その結果、私達3人の旅の不仲間は、王妃から宿題を課せられたのである。
ノンは・・・異世界人の目線で、不合理を正し、平民の生活を豊かにする事。
ラチャは・・魔術を平民の生活に生かし、創意工夫をして創造経済?を成す事。
プウは・・・平民の生活を知って、平民の為に騎士のなすべきことを考える事。
それぞれ難問である、平民の暮らしを知らない&理解しようとしない貴族のボンボンと、この世界の不合理さえ知らない異世界人だ。
・・これは永遠に帰って来るなと言う事なのだろうか?
「もう少し歩けば、今夜の避難場所が見えてくるはずだ頑張れ」
白骨街道の名前の由来は造った時に、あまりの難工事で死屍累々となったと言う説と、魔獣が出て来て食べられちゃうから・・と言う説が有る。
・・どちらも、かなり有りそうで、良い気持ちはしないよね。
避難所と言うのは、そんな白骨街道に有る無料休憩所で1日歩いて進める分の距離ごとに設置されている。まぁ、只の空き地なんだけど・・30メートル四方に結界石が置いて有って、魔獣などが入れないようにしてあるのだ。もし魔獣が出て来て、避難所から出られなくなった場合には、照明弾の様な(助けて~)の、弾(避難所の小さな物置に配備されている)を打ち上げてると、騎士がやって来て魔獣を討伐してくれるのだ。システムとしては良く出来ているかもしれない、ちゃんと騎士が来てくれればの話だが。
夜になる前、夕方遅くにようやっと次の避難所に着いた・・くたびれた。
避難所の中央に、火を熾して食事が作れるように竈が設置されていた。これは有難い、石を組んで竈を作るのは面倒だもの。
食事作りの係は詩乃だ、これは自分から志願したのだ、だって不味い物はキャンプだって食べたくないもの。日本人の食への拘りを舐めないで頂きたい、食系の漫画や小説は一定の支持がある物だ。
王妃様は旅する一行に細かい条件を出して来た、なるべく平民と同じ様に魔力を使わず、平民の気持ちになって生活する事・・などと、まったく無茶を言う小母さんだよ。だけど水だけは大目に見て貰った、水が変わると体調を崩すというし、寄生虫なんかも怖いからねぇ。
「プウさん、火熾しやすら、薪なりそう、乾いた小枝や木さがし来てさい」
この男、初めの頃は木ならば何でもよかろうと、生木を折って持って来たアホだ。細かい事まで支持しなければ解らないので疲れる、軍で演習とかしても野外で調理しないのかい?生木は燃えにくいって、カブスカウトでも知っている事だろうが。それとも偉いさんは何にもしないのか?ご飯が出来上がるのを、優雅に待って要るんかい?一人になったら飢え死にかぃ?
背中のリュック(浮遊の魔術が掛かっているので、見た目よりは軽い)を降ろしながら頼む、今夜は何にしようかな?
「おい、鳥を採って来たぞ料理しろ」
途中から姿が見えなかったラチャだったが、どうやら晩飯を採ってきたようだ・・野鳥か、なんかデカいね。初めの頃は丸ごと持って来たが、首を落として血抜きをしないと不味くなる事を知って(2羽使って実食させたのだ、どっちの処理が美味いかと。コイツは詩乃の事を基本馬鹿にしているので、言葉だけでは信じないし納得しようとしない)から、血抜きをしてから持って来るようになった。
お湯を沸かして鳥を熱湯に漬けて羽を毟るのだが、そんな大きい鍋は持参していない、仕方が無いので避難所の物置をあさる、時々鍋や薬缶・盥とか置いてあるんだよね。
ラッキーな事に盥があった!これに熱湯・・ズルはいかんね・・地味にお湯を沸かして熱湯を作る。盥に満たしたら鳥を入れて羽を毟る。矢羽に使えそうなのと、ダウンになりそうな羽は除けといて大切にしまう。いつか羽毛布団を作るんだ!!これは野望だ!欲望だ!
肛門からナイフを入れ内臓を掻き出す、ううぅぅぅ~~~グロイ。
トデリでもお肉を捌いていたから、初めてでは無いものの苦手は苦手だ。
水を出して綺麗に血を洗い流す、血とか内臓は竈の近くにある<生ごみ処理機>に入れると、魔術で跡形も無く処理してくれる、血をそのままにしておくと魔獣を引き寄せてしまうからだ。こう言うところは、良く出来ているね・・異世界も。
肛門から野菜やら香辛料やら、堅くなったパンなど居れてハーブの茎で縫い合わせる。全体に塩とハーブを刷り込み肛門・・何度も使われてご愁傷さま・・から首まで鉄串で貫いて火にかける。あれだ、グルグルって回す奴だ・・中まで火が通るには時間がかかる。初めの頃は待ちきれないラチャが、魔術を掛けようとしてプウに怒られていた。
魔術師のプライドにかけて、無駄な時間は許せないらしい時短魔法とか有るしなぁ。
「食事一つ作るのにも、平民は時間と能力が要るんだよ!ステイして待ってろ!」
食事係は偉いのだよ、この時間は2人は大人しい。
夕方遅くから始めて、辺りがすっかり暗くなって不気味さが増した頃、ようやっと鳥の丸焼きが完成した。串に刺したままワイルドに取り分ける、もも肉は大食いの(成長期なんて、とっくに過ぎたくせにさっ)二人の皿に載せてやる。何でも魔力を使うと、腹が減るそうで・・って、いま魔力使ってないじゃん!太るぞ!
塩味だけどね脂が乗っているから美味しい、大きい手羽2つでお腹一杯になりそうだ。プウに鳥を半身に割ってもらう、流石にナイフの使い方が上手だ(そのナイフで人切ったりして無いでしょうねぇ)中に詰めた堅いパンや野菜も、肉の旨味を吸って良い感じだ。もぐもぐ・・・。
「いやぁ、避難所で肉など豪勢ですなぁ~~」
一見してヤバそうな、顔に悪人ですって書いて有りそうな6人組がやって来た。
「こちらもご相伴に与れますかな?」
ノイズがする、魔力は有りそうだ・・中の下?下の上と言ったところか?
魔力持ちが3人、後は腕自慢の盗賊か?このくらいの魔力でも、青い森にアジトを作って生きて行けるのかな?この辺では力の強い魔獣はまだ少ない様だ。
「無視ですかい?御高く留まっていられるのも、今のうちだぜ、おい嬢ちゃん」
嬢ちゃん?私の事ですか?あれぇ~~久しぶりだな、女扱いされたのは!
「何を照れているんだ、おかしなアマだな。」
きゃぁ~~~きゃぁ~~~アマだって!!何か新鮮!うふっ。
「これが何だか知ってるか?」
生ごみ処理機ですよね?詩乃が首を傾げると・・・。
「おめえらを殺してバラバラにして、この魔術具に掛けると跡形も無く消え去るんだ。殺しの証拠も、何もかも綺麗サッパリおさらばって訳だ。まぁ、おめえはチンチクリンでも女だから、特殊な趣味の奴には需要も有るかもしれん。助けてやらん事もないがな?くくく・・」
まぁ!絵に描いた様な悪い人だこと・・こんな輩が生息しているなんて、白骨街道の不都合な真実と言う奴だろうよ・・あかんでしょうよ。
詩乃はユラリと立ち上がると、悪党6人に向き合った。
プウとラチャは無視してまだ食べている、成長期も過ぎたのに食いしん坊なことだ。
「この世に悪が有る限りぃ、アッシらの旅は終わらねぇ!何故かと聞かれるにゃぁ答えやしょう、悪を滅せよと命じたお方がおられるからでぃ!聖なる光で世を照らしぃ、人々に生きる希望を授けるお方・・・この紋章が目に入らぬかぁ!」
・・・嬢ちゃん、何を始めたんだ?悪党どもはポケっと見ている。
王国漫遊するなら、お約束のセリフはぐらいはキメたいじゃぁないか。
だから詩乃は寝ないで考えたのだ、どうせ旅するなら水戸〇門ごっこで遊んで聖女伝説を残したい。吟遊詩人に語られたり、芝居に掛けられたりしたらカッコ良いし良い嬉しいじゃぁないですか!!あっ、私の役は美少女枠でお願いしますね。詩乃は聖女様の紋章も<空の魔石>で自作していた、勿論葵の葉っぱ(ウル覚え)の紋章だ!悪人に出すにはこれ以外考えられない。
「この紋章こそ聞いて驚けぇ、見てひれ伏しねぇ!恐れ多くも有難くぅ、異世界からやって来た、愛と平和の使者こと<麗しの聖女様>の御紋章だ!頭が高けぃ!控えおろう!!」
・・・聖女様?誰だ・・なにそれ?阿保かいな?
『あぁ、それNGワード!』
「貴様!聖女様を愚弄する気か!!」
・・・ほんと、ラチャは聖女様LOVEだよね。
ラチャが制御を忘れて、魔眼で威圧し睨んだだけで悪党共は昏倒してしまった。
「これにて、成敗完了~~~」
プウさんや、骨は明日のスープに使うから生ごみ処理機に入れないで下せぇよ。
悪党共は、翌朝連絡した騎士達に連行されて行ったとさ。
その後の調査で白骨街道から少し外れた所にあったアジトから、行方不明だった旅商人の物と思われる遺品が複数発見されたと言う。
悪党共は罰として、魔石を掘る鉱山に永久労働の刑に処された。魔石が地表に露出している為か、人体が害される恐ろしい場所だ。身体が病み崩れ、ドロドロと溶けて行く地獄の様な鉱山だ。魔力の無い者は3か月、有る者でも1年はもたないと言う・・死の山だ。
呑気に草笛を吹きながら歩く詩乃には、伝えられる事は無かったが・・・・。
詩乃はキメポーズも考えてありますが・・・なかなか、プウとラチャの許可が下りません。
セリフは許可済み(笑)。