谷の上には~2
卵ちゃんは、蛇の卵の様に柔らかいタイプです。
ピンクのマーブル模様のお洒落さん( *´艸`)
卵ちゃんがフワフワ~と、頭の中に話しかけてくる、詩乃には聞こえるのだが・・・不思議と虎さんやムースさんには聞こえないと言う、これはどういう事だ?
「詩乃ちゃん・・・寒い。」
オオオオアォゥウ・・・・、卵を地熱の有る窪みから出したからね、寒い様だ・・地熱の温度はどの位ですかね。詩乃は慌てて懐に囲い込み、<空の魔石>を取りだして保温と呟き、玉子一緒に懐に入れる。
「どうだえ?塩梅は、ちょうど言いかぇ?」
玉子は懐の中で、フルフルと震えて見せた。ホッとした・・・大丈夫な様でさぁ。
それにしても何の卵かねぃ?大きさはラグビーボール位の物だから運ぶのには苦労はしないが・・・近くに親でもいたら大変だ。親子連れは熊にしても、魔獣にしても・・・人間でさえも厄介なのだ。
詩乃の父方の美代子叔母さんと言う人は、自分の子供(従兄弟の由紀ちゃん)が大好きで、詩乃より由紀ちゃんの方が皆に可愛がられていないと不機嫌になり、蔭で当たり散らしたり悪口を言って来たりして・・迷惑この上なかった人なのだ。
詩乃が異世界に去ってただ一人、心配も悲しいみも覚えていないであろう人である・・・従兄弟の由紀ちゃんとは、それほど付き合いが無かったし。あれ?顔を思い出せないぞ?
まあ、とにかく母という種族は無駄に強し、触らぬ婆に祟りなし・・・なのだが。
卵ちゃんが「こっち・・・こっちよ。」と案内して来るのだ・・・。行かない訳にはいくまいよ、そう話をすると護衛の2人は険しい顔をした。
魔獣は卵生の物が多い、爬虫類系や虫系・・魚系など、ほとんどが卵生だ。たまに哺乳類系の魔獣もいるが、野生の動物が魔力を持った感じで、大きさとか強さは2~3割増しな感じだそうだ。気を付けるに越した事は無いが・・死にそうな程の脅威はこの二人には無いと言う。
しかし卵系は要注意!!との事だ・・・。しかし、この卵・・・話しかけて来るし、何故だか詩乃の名前まで知っているしで逃げられる気がしない。仕方が無いので、卵ちゃんの言う通りに歩いて行く。凸凹の岩盤が続き、足の裏が温かい。しばらく歩くと岩石が落盤でもしたのか、はたまた地滑りか・・・ボッコリと指で押したように凹んだ穴があった・・・そこの下に横たわっていたのは。
「おかしゃぁん・・・。」
卵ちゃんが呟く・・・穴の中に眠っていたのは、完全に白骨化したドラゴンの亡骸だった。
「おかしゃぁん・・怪我痛いして・・飛ぶ無理だった。ここ地面暖かいので、おかしゃん秘密の穴に<卵ちゃん>産んで隠したの。卵ちゃん・・暖かかったから、ずっと眠っていたの。ずっとずっと長い間・・・卵ちゃんの・・声が聞こえて、答えてくれる誰かが来るのを、ず~~~~っと眠って待っていたの。」
これだけの大きさの身体が、完全に白骨になるには、相当な時間が流れたのだろう・・・・何億年単位での話なのだろうか(まぁ、異世界だから解らないが。)?ドラゴンの姿に、護衛共々驚きで声も出ない。
ドラゴンの骨は化石化したような感じで、ケイ酸でも含んだ熱水に充填されたのか・・・骨が不可思議な色に・・・虹色に光るオパール化されていた。
「詩乃ちゃん・・・光る石好き・・・おかしゃぁん・・・綺麗?売れる?」
いやいやいや、それは素晴らしく綺麗で貴重な物だと思うけど、卵ちゃんの大事な<おかしゃぁん>だもんさ、いくら銭の素になるって言っても、売ったりしたら不味いだろうよ。
「おかしゃぁん・・・此処にもういない。ドラゴンの魂は自由だから、風に乗って空を飛んで・・山を越えて海を渡り・・この世界の源に戻って行ったの。」
卵ちゃん、まだ産まれてもいないのに、凄いね・・・哲学者と言うか宗教家みたいと言うか・・。難しい事を話すんだね?詩乃がそう感心すると。
「ドラゴンは皆、前世の記憶を受け継ぐの・・・前に生きていた時には、火山が沢山噴火していたよ?」
もしかして年齢は10万6千歳とかねぇ、そう心で思ったらクスクス卵ちゃんに笑われた。
「とにかくドラゴンは神聖なものだから、売り買いしちゃぁアカン奴でしょう?此処で眠っていれば誰にも見つかりやせん・・・そっとしておきやしょう。卵ちゃんが<おかしゃぁん・・・>の印が欲しいのなら、爪でも頂いて飾りを作りましょうか?」
そう聞くと、自分と詩乃でお揃いの飾りが欲しいと言うので、虎さんに頼んで爪を2本取ってもらった。
「狼族もドラゴンを崇拝しているので、滅多な事はしないでやしょう、虎さんもムースさんもこの事はご内密に願います。」
2人とも頷いてくれたので、安心して<おかしゃぁん・・・。>に別れを告げてその場を離れた。
源泉も見つけた事だし、今日のミッションは大成功で終わった・・で良いだろう。
帰宅途中に肉ギャースの群れに遭遇したが、結界を張り身かくしの魔術具のおかげで事なきを得た。この辺が縄張りなのかな?源泉を引く工事の前に片付けるか、それとも魔術で凌ぐか・・・工事を請け負う狼さんとも要相談だな。
戻って参りました~~~オーバーハングの帰り道。虎さんとムースさんに、ファイト5発!!くらいカマシて貰って、宙吊にでも何でもしてもらって降りるしか無いだろう。虎さんもそのつもりなのか、ロープを伸ばして用意を始めた。ウウゥゥ~~怖いが仕方が無い、此処を降りなければ戻れないのだから。
「詩乃ちゃん、こあい?ここ降りるするの?」
卵ちゃんが話しかけて来た、詩乃の不安が伝わったのかな?・・・何気に心拍数が上がっていたぞ、こんな小さな卵ちゃんに気を使わせるなんて情けない。
「心配いらないよぅ、卵ちゃんの事はアッシがしっかり抱えますからねぃ。無事に降りれるから、大船に乗った心地で待っていてつかぁさぃ。」
そう言って、卵ちゃんをそっと抱きしめた時だった。詩乃の身体がフワリと浮いて、ゆるゆると降下していったのは。足元に地面が無い、谷の外側に浮いている。ヒエェェェ~~~玉は持っていないが、ヒュンヒュンだぁ!!
「玉?なに?卵ちゃんはいるよ?」
いえいえ、その玉ジャござんせんが・・・浮かびながら降りていく詩乃を見た虎さんが、慌てて先回りして流れる様にスルスルと降下する。無事にスジ道まで降りると、虎さんは手を伸ばして詩乃と卵ちゃんを受け取った。
「ドラゴンは凄いな、まだ卵なのに飛べるのか。」
虎さんに褒められて、卵ちゃんはポワンと光った・・・嬉しいらしい。可愛いねぇ、殻もピンク色のマーブル模様だし。
「卵ちゃんは女の子なんでヤスか?」
何でも性的には未分化で、大きくなり魂の半身を見つけた時にどちらかに変化するそうだ。
「魂の半身かぁ~ロマンチックでやんすね。」
これぞ異世界ファンタジーの王道だ、詩乃の半身はどこかにいるんでヤスかねぃ?そんな妄想をしていたら、ムースさんが降りて来たロープや何やら、荷物を沢山置いたまま来ちゃったから後片付けが大変だっただろう。御免なさいと謝ったら、護衛の仕事だと軽く流された・・・うぅぅ~~んクールだね。
後ろからムースさんが手すりの様に手を伸ばしてくれるので、それに捕まりながらスジ道を下って行く。
途中遠くの山々が夕日に染まり大変に綺麗だった、卵ちゃんにも見せてあげたいと思ったが、疲れたのか詩乃の懐の中でクウクウ眠っているようだった。まだ卵なのに詩乃を浮かばせたりして、無理をさせちゃったかな?反省をしつつ下っていく、登りよりも早く着きそうだ、下で夕飯の支度をしているのだろう良い匂いが漂ってくる。お腹がグウゥ・・・と鳴ってムースさんが吹きだした。
夕日に夕飯の匂い、帰れる家、待っていてくれる人。この4点セットは大事だね。
トデリの家では無いが、戻って来た詩乃達を見つけて集まってくる人達がいる。料理好きのお母さんが、大なべを指さして何か話している・・・暖かい人の暮らしが出来つつあるのを感じた。
詩乃の懐にある卵ちゃんを見て、狼族はみな膝を折って迎え入れた、ドラゴンの卵って何で解ったし?
ドラゴンに認められた人間として、詩乃の株も急に上がった・・・解せぬ。
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ドラゴンの卵を持ち帰ったら、何気に待遇がUPして、もっといい部屋にと誘われた。露骨だね、元の草系の部屋で十分でサァ。
夕食を頂くと(鶏肉のシチューだった、綺麗に羽も処理してあったので臭みも無く美味しかった。)早々に部屋に戻る、今日は沢山歩いたからね、疲れたんだ。
草系の部屋で、詩乃はテントを張って生活している。ほらプライバシーは大事だし・・・ムースさんは自分で作った藁布団の中で寝ているし、虎さんは旅の支度で支給された寝袋に包まって寝ているのだ。
狭い部屋だが3人なら、そんなに苦痛と言う程でもない、荷物もほとんどないからね。
寝る前に詩乃は服ごと洗浄の魔術具で綺麗にする、綺麗にはなるのだろうが・・・さっぱり感はしないね。早く温泉を引いて来たい、お風呂だお風呂だ温泉だ!!
ムースさんにも洗浄の魔術具を使い綺麗にする、初めは嫌がったが(獣人さんは大体が魔術嫌いで拒否観が強くて、使わず嫌いだ。)この頃は何も言わない。角も磨きましょうか?要らない・・・触るな・・失礼しました。どうも草系の角とかは、魂の半身にしか触らせない様だ。磨き粉要ります?はぁ、要らない。
そんなやり取りを見ていた虎さんが、穴ぼこ窓を覗き込んで
「昼間、落ちた鹿兎が気になる。食えるようなら拾ってくる。」
と言い出して、垂直の崖を下ろうとしだした。
「ロープやヘッドライトは要りやせんかぃ?下は暗いでがしょう。」
虎さんは夜目が効くから大丈夫だと言葉を残して、滝の反対側の壁を伝って降りて行った。
待つ事しばし・・・虎さん遅いでヤスねぃ・・・ムースさんとそんな話をしていた時だ。
暗い穴の中からヌゥ~~~っと虎さんが返って来た、何だか不機嫌そうで気分が悪いのか背中の毛がそそけ立っている。
「どうしやした虎さん、下で何か悪いモノでも見やしたか?」
いつになく不穏な空気をまき散らしている虎さんに困惑する、虎さんは何時でも冷静で何物にも動じない、鋼の精神の持ち主なのに珍しい反応だ。お化けでも見たのかな?
「川の下はほのかに暖かく、湿気も有って生育環境には良いんだろう・・・。」
「何か繁殖していましたか?スライムとか?」
スライムは異世界のお約束・・・その幾つだろう?ドラゴンも出たし、勘定しきれないや。
虎さんは話すのもオゾマシ気に、吐き捨てる様に言った。
「繁殖しているのは植物だ・・・多分茸の仲間だろうとは思う。まだ息のある鹿兎を苗床に、白い線を伸ばす様に包み込んでいた・・・生きながら胞子に体を蝕まれるのか・・・。」
そんな個体が彼方此方点在していたと言う、苗床にされた魔獣はやがては生気を吸い取られてミイラの様に干からびて行っている様だった。
虎さんは怖気ついて、滝の水で体を清め、胞子を洗い流してきたようだ。
「念のために洗浄の魔術を掛けておきましょう、そうすれば変な物は消え去りましょう。」
よほどショックだったのか、素直に洗浄される虎さん。
「ちょっと外に出て6男と連絡をしてきます・・。」
詩乃が外に出ようとすると、護衛で付いて来てくれるムースさん。有難うとお礼を言うと、もう遅いから短めにな。と、注意された。ぶっきら棒だけど優しいお兄さんみたいだね、家のお兄もムースさんの爪の垢でも煎じて飲んだ方が良いよ。
外に出ると満天の星空だった、高度が高い為か良く見える気がする。
【こちら詩乃です・・・はぃ・・・はぃ。聞きたい事がありまして・・・。】
《冬虫夏草は・・・この世界に有りますか?》
【・・・・・・・すぐに行く・・・・。】
どうやらお宝の発見のようだ。
冬虫夏草は今は、人工養殖が出来ているそうです。
それでもお値段は高いけど~~~(+_+)