ダンジョンハウス~2
世界には、洞窟ホテルが有るようですね。行ってみたい。
お昼はガッチリ食べたので、夜は解体した鹿の骨で取った出汁に、野菜とか小さな肉など入れたスイトンで良しとした。他にやることも有るからね、飯ばかり作ってばかりはいられないのだ。
夕食を終わらせた後、ムースさんにダンジョンハウスの草系獣人がいた空きスペースに案内してもらう。1年間は其処で寝泊まりするつもりだ、けど・・・随分と狭いね?此処で一人分ですかぃ?違う??この狭い所に17名で押し込まれていたと?
・・・・もともと鉱山の獣人宿舎は狭かったらしい、公共スペースとして食堂や風呂・トイレなどが有って個人のスペースは寝る場所だけだったとか。江戸時代の貧乏長屋みたいだね?
この草系の部屋は、窓も無い行燈部屋で換気も出来ないし、洞窟のせいか湿気が凄いしで、ウガァアァァァ~~~と言いたくなりそうだ。はぁ~~、これじゃあ健康にも良くないし、気持ちが塞いじゃうよ。床にはゴロゴロ石(いやこの大きさはもはや岩だ。)が落ちているし、草系が冷遇されていた様を見せられて気分が悪い。これじゃぁ出て行きたくなるのは当たり前のコンコンチキだ。
「此処がいっち悪い部屋かぇ、狼達はもう少しまともな部屋にお暮らしかぇ?」
何でも草系の女の子達に悪ふざけをする、不貞な狼がいて怖いので、皆で集まって守り合っていたそうだ。う~~ん、草系の本能か?
詩乃は落ちている一抱えもある岩に<空の魔石>を押し付けると、3Dマッピングと呟いた・・・すると、何ということでしょう?岩が透明に透けて、洞窟の内部がアリの巣の様に現れた。
「今日歩き回った道と部屋は、これに現れていまさぁ。この部屋は此処だね、北側の隅っこだ・・・。でも何だか変だね?螺旋階段の様にグルグル道が回っていて、真ん中が空っぽだ・・・何でそんな風に作るかな、遠回りだろうに?」
谷側に面している場所には、所々明り取りの小さな窓が開いていた、北側に面しているから本当に小さな窓だ、住居内はほぼ真っ暗と言って良いだろう。何故真ん中を掘らなかったのか?強度を考えての事なのか?不思議だな・・・。不思議と言えば洞窟の中で、時々水音が聞こえてくる事もか。どこから水が流れて来るのか、温かいのも水のせいなのか?行燈部屋の3方の壁に耳を押し付けてみると、ドアの反対の壁から何やら水音が聞こえてくる様な気がする。詩乃は石を拾うと壁を叩き始めた、ガンガンガン・・・。突然の奇行にムースさんは唖然としているが、虎さんは慣れているのか無反応だ。奥の壁は他の壁と音が違う様に思える・・・空洞でもあるのか?空洞が有るのなら、真ん中を掘らないのにも頷けるね。元々空間が有るのなら道など作れない、ふうぅん~~~?
「虎さんすまないがメリケンサックを付けて、此処の壁を・・・ちょっとばっかり殴ってみチャァくれませんかね。」
何を言い出すんだ?胡散臭そうな顔をしていたが、虎さんは素直にメリケンサックを手に付けると大きく振りかぶって壁をぶん殴ってくれた。
バコッ の ガラガラガラ・・・ポッカリと開く大きな穴、急に吹き込んでくる風と水の飛沫。やっぱり壁の向こうは空洞だったね。
壁の厚み1メートル程の向こうには、垂直に50メートル・直径30メートルはあろう空洞が広がっていた、ザァァァァ~~~~ッ激しい水音が響いて滝が流れ落ちている。穴の上に乗り出して下を見ると、どこに流れて行くのだろうか、地下の洞窟を川が水しぶきを上げながら流れて行く。余りにも詩乃が身を乗り出すので、心配症のムースさんが服をおさまえていてくれる。ありがとね。
今度は上を見上げる、すると星空が見えた・・・上は抜けているんだ。滝は何処から?谷の上には川が有るようで、其処から流れ落ちて来る。手を伸ばせば飛沫が温かい、これ温泉だ・・・凄いスケールだね。この谷の近くに火山が有るのか?それとも異世界の不思議って奴か?
「光と水は不便なさそうだね。」
詩乃はそう呟いた。
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翌朝の朝食の時間、皆が集まって炊き込みご飯を食べている(機嫌の良い)時に、詩乃は竈近くにある適当な大きさの岩に、3Dマッピングをして洞窟住居の全貌を見せた。誰もが驚き、食い入るようにアリの巣の様な住居を見つめている。自分達の住んでいる所がこんな風になっているなんて、誰も思わなかったに違いない。洞窟の真ん中を貫く様に、真っすぐに穴が開いていて滝まで流れ落ちているとは・・・。
「長様、滝の水がほのかに暖かいのが、此処の住居の暖かさの秘密のようです。今は夏だから少し熱いくらいで不快だけれど、冬になった時には暖房に使えるでやしょう。洞窟の中で火を熾すと、空気が悪くなって息苦しく成りヤス。熱いお湯を洞窟の岩の間に通して、岩ごと温めれば空気が悪くなって気分が悪くなることも有りやせんし、暖房用の木を集める手間も掛かりません。」
詩乃の造り上げた立体的な地図には、長様はじめ狼族の面々は非常に驚いた、それから少しばかり悔しかった。鉱山で働いていた時には自分達で坑内の地図を作っていたのに、此処ではそんな事も思いつかず数か月を過ごしてしまった。こんなちっぽけな素人の人間(異世界人だが)に出し抜かれて、説明されているのが悔しい思いだ。
「皆様は元鉱夫だ、穴を開けるのは得意でやしょう?どこにどんな風に穴を開ければ明るくて風通しの良い住居になりヤスかね?」
そう言うとオマケのチンチクリンはニヤリと笑った。
「お前さん、食堂は明るく日当たりの良い場所がいいわ!!」
長様の奥様が俄然張り切りだした。
「台所は北側が良いと思います、寒い方が食材も長持ちしやすからねぃ。竈を作るなら煙を逃がすトンネルが必要でやしょ?水も引いて来たいですね、お湯も有れば食器を洗うのも楽でいいやぃ。」
奥様達が集まってワイワイガヤガヤ話し出す、子供を集めてまとめて面倒を見れる場所が必要だとか。トイレは多い方が良いとか、若い狼が集まる若衆部屋は(なんだそれ?)女衆の部屋から遠い場所が良いとか。
「お風呂も必要でしょう、洗濯する場所や干し物を掛ける場所は日当たりが必要だ。皆で手仕事するのは、食堂で良いかな?」
いやいや、手仕事する場所も必要だ!!それなら大工仕事する場所はどうするんだ?テーブルやイスを作るのは俺達だろう?機織りして服を作るのはこっちだよ!!ケンケンガクガク、大討論が始まってしまった。
長様はウンザリした様に詩乃を見たが、詩乃は軽く肩を竦めて見せただけだった。
『自分たちの住む家だもの、自分達で考えなきゃねぃ。』
見事な丸投げ返し!!1本!!
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何だかやる気をなくして拗ねていた様な狼族達だったが、やる気の方向が決まれば俄然張り切り出し頑張り始めた。3Dマップを見ながら、ああでもないこうでもないと討論している(笑)。
その間に詩乃は食事を済ませて、虎さんとムースさんと打ち合わせしていた。温水を上手く利用するなら、源泉を見つけて其処からお湯を引いて来たい。お湯と水を分離出来れば夏は涼しく出来るはずだし、今のままでは暖房にするには温度が低すぎる。
「だからね、谷の上に登って源泉を探してみたいんでヤス。虎さんこの谷を垂直に登れやすかぃ?」
「一人なら登れるが、オマケまでは無理だな。」
「酷い~~~、ドーム壊す時には連れて登ってくれた癖に~~。」
2人の掛け合いを見て困ったようにムースさんが、谷にジグザグに登れるように岩がU字型に掘られていると教えてくれた、最も道幅は30センチも無いが・・・と。
「凄い!立山の下の廊下みたいでやすね、アッシの父様はああみえて山男でやしてね、たまの長い休みには家族放り出して山に行ってましたよ。こっちは一緒に行こうと誘われないか、ビクビクしていやしたが。」
それは良い父親なのか?不思議そうにムースさんが聞いた。・・・どうだろうか?詩乃は山に行きたくは無かったのだから、良い父親なのではなかろうか?
「では、今日は山ギヤを連れて上まで登りましょうか?お弁当が必要でやすねぃ。」
「山ギヤも連れて行くのか?」
「おいて行ったら、✖✖✖✖に食われちゃうかもしれんでしょう?」
そんなに心配なら狼避けのお守りでも付けておけ、そう虎さんに言われた・・・そうか?それもそうだね、虎さんてば頭良い!!
ムースさんは、大丈夫かコイツみたいな顔で詩乃を見ていた。
大丈夫だよ?
ちょっと短い話でしたが、キリが良いのでここまでにします(*´Д`)
次回、谷の上には何が有る?です。