砂漠の悪魔~3
虫はお好きですか?
虫は卵をたんと生む、そしてビックリするほど大きく育つ生き物だ。
カマキリなんか卵胞から生まれて出て来た頃には、ワラワラと固まって可愛いくらいだが(一丁前に、小さな鎌を持っているところがまた可愛らしい)晩秋のEND前のカマキリときたら、デカイし(体も・態度も)威嚇して来るしで本当に宜しくない。まぁひと夏生き抜いて来た猛者には違いないが、秋風に吹かれる姿は哀愁が漂っていたものだ。黒光する憎いアイツGも、一匹いたら30匹は居ると言う・・。
この虫型魔獣も幼虫の内に始末しないと、後々大変な事になるだろう。
おばあちゃんの家の椿の木に、茶毒蛾と言う毛虫が付いた事が有った。なんか<シャリシャリ>音がすると思ったら、毛虫様ご一行が横に並んで一心に葉っぱを食べておいでになっていたのだ。
『なんか凄いな~~~』と、思って見ていたら。毒の粉が飛んだのか?はたまた毛に刺されたのか、全身に赤い点々が出来て、その痒い事といったら。
もう、全世界の毛虫を敵に回して撲滅してやると誓ったぐらいだ。
おばあちゃんの園芸を手伝っていたから虫は基本エネミーだ、この世界の益虫なんか知らないし、巨大テントウ虫とかいたら可愛いかも知れないが・・あれアブラムシ食べるんだよね・・魔虫なら人間食べちゃうかなぁ???
・・・すいません・・・。
このエグイ状況を受け入れたくなくて、心が時空を超えておばあちゃんの庭に行っていました。帰りたくない・・。
だって、調子に乗った銀ロンの攻撃を逃れるだけで精いっぱいなのだ。
魔獣を倒しても喜ばれないタイプだな、とばっちりを受ける被害の方が大きそうだ。帰ってくれウル〇ラ〇ンみたいな?
6男に岩陰に避難させてもらって、ようやく生きた心地が付いた。
『なんだかなぁ、銀ロンの歩いた後は草も生えないみたいになりそうだ』
それにしても、この砂は何処から来たんだろう?真っ白くサラサラしていて、香りも・・かお・・り・・いや?におい!?これは匂いだ!臭い臭い臭い!!!
魔獣だって生き物だ生きる為には食べなきゃならない、おそらく此処の森を食べたんだろう。食べた後にはどうするか、すべての生き物はやる事が決まっているではないか。
「そうだぁ!この砂漠は魔獣のウンコなんだっ!イヤァ~~」
うげぇ~~~ウンコ、もとい排泄物、糞?・・・どれでもヤダな。
今の今まで白くて綺麗なんて思っていたけど、発言の撤回をいたします!
ダメだこれはで!しかし・・ウンコなら燃えるはずだ、どこかの国の方々が動物の(草食獣)排泄物を乾かして燃料にしていたはずだ。サラサラの砂状の排泄物(燃料)か。
これは異世界召喚のお約束その3!(ちなみにその1は<知らない天井だ>で、その2は<ライト>と言って指先に光を灯すあれだろう)が出来るかもしれない。
「ヤったろうジャァないの!」
6男に合図して全員を呼び集めてもらう、闘いの途中で呼び戻された狂戦士2名は少々オカンムリのようだ。血の気が多いねぇ。
「どう言うつもりだ、逃げるなどありえないぞ!」
唾が飛ぶので静かに話してくれんかね?大魔神さんよぉ、あの返り血を(小豆色だけど)浴びても溶けないとは、特殊な魔術で作った繊維で出来た戦闘服なのだろう。まぁ、あんなに汚して!お母さん(王妃様)に叱られるから!
「アの魔獣はアッシの世界に居た虫に良く似ておりやす、今のアレは幼虫の姿で、成虫になるッテイともっとでかくなって羽が生えて飛びまスカラねぃ。このままだと青い森中に広がるでしょうや、今が叩くチャンスですゼィ」
「だから、戦っている最中ではないか!」
「あぁ☈話は最後まで聞ケヤ、なぁアニィさんよ」
幼虫や卵は地中深く潜っている事、まず地中からすべて引きずり出す事が大切だ。だから、こうやって・・・。
「どっこいしょ~~~~っ!」
詩乃は渾身の魔力で砂を吸いあげ、虫魔獣事空中にほおり投げた。
3メートル四方程だが小さな虫がウジャウジャ出て来た、卵から返ったばかりなのだろう成りは小さいが形は魔獣の6分の1スケールだ。
「今のを参考にしヤシて、魔獣の卵から幼虫の大・中・小まとめて集めてつカァサい。1匹でも逃がしやしたら元の木阿弥デサァ、虫はソう言う生き物でゴザんすよ」
詩乃に命令されるのは大変に不愉快だが、虫など見たことも無い、有る意味温室育ちの貴族の坊ちゃん(トウが絶ち過ぎているが)達だ。渋々だが頷いた、砂を巻き上げて魔獣を露わにすれば良いのだろう?簡単な事だと言いながら。
流石に魔力が強いと小自慢コイてる輩達ではある、銀ロンが砂ごと吸い上げる様に吹き上げて、大魔神が風を使い中央の一か所に集め始めた。どちらも流石で器用に風を操る、庭師の御爺ちゃんも上手に風を使っていたが彼らとはパワーが違う。みるみる内に虫の小山が出来上がってきた、ウジャウジャと蠢いていて気色悪い・・げ~だ。
2人に仕事を振っといて、今度は6男とドラゴンに頼みごとをする。
どうも双方が納得して絆が出来上がると意思の疎通が出来る様になるらしい、凄いね?ドラゴンと義兄弟になるなんて。
6男が詩乃の作戦をバディのドラゴンに説明し、後はドラゴン同士で伝え合ってもらう。賢いねぇ、何で人間なんかに従っているのだろうか?
まぁ、どうでもいいけどさっ。
小山から大山になった虫塚、丁度良い頃合いだろう。
詩乃は手を振り上げドラゴン’Sに合図を送った、彼らは一斉に飛び立つと大山の近くで羽ばたき風を舞起こし始めた。白い砂(糞)がモウモウと吹き上がり、辺り一面が白く煙った視界が靄る!OKだ!
隣にいる6男の背中を叩いてGOサインを出す、6男の役割は大山を囲むように結界を張って周囲と遮断する事だ。
「今だ銀ロン!火炎の魔術ブツけろし!」
それだけ叫ぶと詩乃はさっさと岩陰に潜り、しゃがみ込んで目を瞑り耳を押さえ口を開けた・・何で口を開けるのかはサッパリ知らないが・・昔漫画で読んだ覚えがあるのだ爆発の近くに居る時にはそうするのだと。
『・・上手く行くかなぁ・・これがほんとの糞塵爆発・・』
詩乃のしゃがみ込んでいた地面が、派手な地響きと共に大きく振動した。
ドオオオオンンンンン・・・・・・
おめでとうございます・・成功したようです。
結界の外の砂が舞い上がって、ところどころ連鎖したように炎が空中を走っている。
燃え残った砂は、重力に引かれて当然の様に落ちて来た。
「嫌あぁぁぁぁ~~これぇ~フンフンフンフン!!!」
詩乃は自ら風を起こしてシールドを張る、微細な糞だから吸い込んだら堪らない。
「うぅぅぅ・・・少し肺に入ったぁ・・・」
1人で、ひ〇姉さまゴッコをしていたら頭に拳骨が入った。痛い!!
「馬鹿野郎!俺たちまで殺す気か!」
「何だあの爆破は、魔力は感じられなかったが?おぬし一体何をやった?」
『・・痛いなぁもう、死ぬようなタマじゃ無いでしょうが』
岩陰から恐々覗いてみたら、こんがりと黒焦げになって足を天井に向けている魔獣の皆さんが。まぁ、成功なのかな?空を見上げればドラゴンの皆さんも無事な様だ、吹き飛ばされたのだろう、かなりの上空で羽ばたいていた。ビックリした?ごめんね?
一方の6男は涼しい顔で魔獣の様子を観察していた、こんなに大きい虫型は初めて見るそうだ。
「素材として使えそうなのは、尾とハサミの甲羅部分かな?足も固いので使えるかもしれない、甲冑を作るのには良さそうだ」
有効利用ですか、只では転ばない商売人の鏡だね。
早速遠距離通話のできる魔術具で輸送人員の派遣を要請している、この黒焦げがお金になればその一部は詩乃達にも還元されるのだ、頑張って商売して欲しい。
粉塵爆発に興味を持った銀ロンが、詳しい話を聞かせろと迫って来る・・そんな事よりもだ。
「この白い砂の様な物はよぅ、おそらく魔獣の糞でござんショウ。作物を作るにやぁええ肥料になるかもしれやぁせん、研究させリャァよこザンしょう。何たってよう、魔獣の糞でヤンスカら。モモウの糞や人糞より優れているかもしれやぁせんぜ」
「それは良い考えだね!早速うちの(公爵領)農業試験場で研究させてみるよ!」
それからしばらく大魔神のお説教(チームワークの大切さとか?作戦を説明する事の重要性とか?お前が言うのかよ)をたら耳ホジで聞いていたら、空からファンファン音がして来て、不思議に思って見上げたら飛行船の様な物体が飛んで来た。
動力はドラゴンさんのようだけど、機体が自力で浮いていればドラゴンの負担は随分と軽くなるのだろう。飛行船は地面から2メートル程の距離まで降下すると、錨を下して空中にフヨフヨと停泊した。ドラゴンさん達は牽引ロープ外されて、ご褒美の水と食事にありついている。
そんな平和な空気の中・・突如響き渡る爆発音。
飛行船のクルーもドラゴンさん達も、驚いてパニックになりそうだ。
銀ロンめぇ・・詩乃が後でと原理を教えなかったから、待ちきれずに再現実験を行ったようだ。周囲を遮らなかったから、爆発は小さかったようだが・・十分人騒がせな奴だ。
取り敢えず今日の所は、飛行船組に後を任せて王妃領に戻ることになった。
帰りのドラゴンフライトで、詩乃に懐かなかったドラゴン達が恐々と詩乃を見つめているのがおかしかった。強い奴認定でもしたのだろうか、別に詩乃が爆発させた訳ではないのだけれど。自分のウンコで爆死するってどんな気持ちだろう?虫はエネミーだが、もうちょっと小さく生まれて来たら、こんな目には合わずに済んだろうにね。・・合掌!
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夕食の席では王妃様に肥料に付いて根ほり葉ほり聞かれ、銀ロンには<粉塵爆発>について怒涛の質問が有った。
・・・だから、理系は無理なんだって!
<粉塵爆発>はファンタジーのお約束、その3だから知っていただけで。
そんな言いで訳で銀ロンは納得する訳も無く、火は何故燃えるのか?から話を始めねばならなかった延々と説明させられた挙句、魔術と科学(化学?よく解らない?)は、相容れない物らしいトカぬかしやがった。・・・知らんがな。
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森の中の<トンスラ・命名詩乃>では、しばらくのあいだ爆発が続き、騒音と不穏な空気をまき散らしていた。銀ロンが納得し、粉塵爆発を習得した後には、虫型魔獣の欠片も残されてはおらず、凸凹の大地が広がるばかりで・・・。環境破壊も甚だしい・・けしからん事だ。
そうして王妃様は<トンスラ>を平らにならし、ドラゴンの好きな牧草の種をまき、幼いドラゴンの鍛錬所を作ったのだった。
「ドラゴンで、空飛ぶ宅急便をしたら儲かりそう」
詩乃が呟いたアイデアを頂戴した訳である、陸送や海送より断然早い、空を行く運送屋これはイケる!
・・・聖なるドラゴンに荷物を運ばせるなんて・・・。
一部の者は茫然として、涙目になっていたそうだが。
詩乃にとっては・・・まぁ、羽の生えた爬虫類である。
茶毒蛾に近寄ると、本当に酷い目に遭います、ご用心下さい。