クイニョンにて~4
あっと驚く秘密が・・・・。
「おぉ、ドラゴンよ・・・この世界の覇者よ・・・。」
詩乃が朝ごはんのバケットで口をモゴモゴ動かしながら振り向くと、いつの間にか狼獣人の長がやって来ていた。ドラゴンが飛来したのを知らされて、慌てて来たのだろう、息が上がってハァハァしている。それでも目は輝いて、嬉しいのだろう尻尾が激しく振られている。
憧れのスターに合えた気分なのかな?嬉しいよね~それは。
詩乃が気を利かせて、長と場所を代わろうとした時だった、バシャァ・・・と鋭く聞いたことの無い様な音が響いたのは。
獣人達は皆、色を失ったように立ち竦んでいる。
『?なんだ、どした・・・?』
凍り付いたように固まる長や狼獣人達を不審に思い、一心に見つめている・・後ろ?後ろに居るのはドラゴンだが?詩乃はドラゴン達を振り返る。
【なあに?】とばかりに首を傾げるドラゴン達・・・ウッ可愛い・・・???
訳が解らずまた獣人の方を見ると、バシャァと音が響く・・・なんぞ?
詩乃が勢い良く振り返ると、ドラゴンがパワーストーンの様に美しく輝いている鱗を逆立てて、狼獣人達を威嚇しているところだった。
あらまぁ、その鱗・・・可動式でしたか。
崇拝しているドラゴンに、威嚇されたりしたら、悲しいだろうし気の毒な事だ。
困った詩乃はオーナーの2人を見たが、肩をすくめて見せるだけで静観の構えだ。
【我らは、魂の輝きを好む。純粋で自由な魂の輝きを。】
そんな声が頭の中に響いたと思ったら、ドラゴン達は軽く翼を広げただけで空に舞い上がって去って行った。6男が魔力で風を起こし、飛び上がるのをアシストしたようだ。引き留める間もない、あっという間の出来事だった。
『魂の輝きねぇ・・・ドラゴンさんは自由と自己中を、はき違えてないかぇ?自己中な魂の輝きだったら、ラチャ先生とプウ師範は良いセン行っているかもしれないが。』
狼さんはドラゴンに片思いなのか・・・可哀想に・・・案外自由に憧れていて、ドラゴンさんが好きなのかもしれないな、そんな事を詩乃は感じた。
傷心で尻尾ダラリの狼達をチラリと見ていながら、そんな事はどうでもいいとばかりに、6男が声を張り上げた。
「狼族の長よ、私はボコール商会を預かるスラカルヤ・ボコールと申します、以後お見知りおき下さい。さぁ、商いを始めましょうか!我々はその為に此処に来たのだから。売りたい物は何ですか?わざわざ遠くから来たのです、つまらないモノでは無いでしょうね?」
うわ~~~、始めっから喧嘩腰だよこの人・・・狼族が面子を大事にするって知っているだろうに。ワザとかワザとなのか?
詩乃が売主で良かった、狼相手にこの有様では喧嘩沙汰になる所だった。
「はぃ!アッシが売り主でやす。この地方にしかいねい、珍しいレアモノの魔獣をお見せしやしょう。」
詩乃は手を上げると、狼達をかき分け急いで走って行った。冷凍物の魔獣達をテントの脇から持って来るのだ、テントの杭にロープを引っ掛けておいたからね。浮遊の魔術具が(王太子からの借り物である、返却しないと五月蠅そうだ。)付いているから軽くて便利だ、詩乃は遊園地で風船を買って貰って喜ぶ幼児の様に、フワフワと魔獣を揺らして走り、息を切らせながら冷凍ギャースを持って来た。
ハァハァ「どうでぇ!この肉ギャースは、冷凍してあるからねぃ鮮度は抜群だぁ!首の無い方は血抜きもして有りやす、すぐにだって料理(食材にできるのか?)できやす。見て下さい、この虹色に輝く鱗!!硬いでスからねぃ、貴族様のパレード用の甲冑にしたら映えるでしょうやぃ。その他、ご婦人のバックや紳士物の鞄、財布やベルト・・・そうそう、靴にだって加工したら大人気だ!!
え~~~とぅ、そう!この鋭い牙や爪、ナイフに加工したらどうでやす?若い(中2病の)貴族に大人気な事間違いなしだ・・・ドラゴンの鞍にしたらどうで?ドラゴンも喜びましょう?それからそれから~~~~。」
渾身のプレゼン・・・これ以上話す事が無いよ。困って虎さんを見たら(た・す・け・てぇ~~)目を逸らされた、酷い!!虎さんは初めから詩乃に丸投げする気満々なのだ。
「確かにオレウアイはなかなか狩ることの出来ない、希少魔獣だ保存状態も良いだろう。しかし此方の2体は牝ですね。形が小さいし、色も虹色とは言い難い。」
詩乃が捕まえた2頭は確かに虹色とは言い難く、何だろう・・・赤系のグラデーションなのだ、多少の保護色なのだろうか?
「少しナリは小さいけど、鱗自体は均一で綺麗でヤス、傷ひとつ無い良い皮だ。赤系統の色がお好きな貴族様も居るでやしょう?値引きの理由にはなりやんせん。」
「そうだね、此方の牡の方はかなり傷があるね。」
しまったぁぁぁーーーー!!!
虎さんは一刀両断したから傷は少ないはずなのだが、牡だから・・・過去の戦いの勲章、傷跡が其処かしこにあるのだ。性質が荒いのか、背中より胸側・・本来なら一番綺麗なはずの所に切り傷の跡が無数についている。敵と戦ったと言うよりも、牝を巡って同族同士でタイマンを張った痕だろう。
何て事してくれるんだーーー。
肉ギャース的には、知ったこっちゃ無いだろうが・・・自分達だってどうせなら高く売れた方が嬉しいだろうよ?たぶん。
6男は本当に細かい、傷の数からその大きさ深さ、それぞれ調べて査定している。とほほ・・・だよ。
あの時は豆ちゃん達を助ける事が第一で、獲物の状態まで配慮しながら戦う何て事出来なかった。凄腕の猟師さんや冒険者何かは、そんな事まで考えながら狩っているのだろう・・・プロって凄いねぇ。
もはやorz状態で項垂れている詩乃と、この様子を呆然と見ている狼獣人達・・・双方とも商いの厳しさを痛感しているところだ。
「宜しい、此方も勉強して・・・牝2頭と、状態の良い牡1頭で120万ガルで買い入れましょう。」
思わず6男を見る、高いね肉ギャース!青色狼が状態が良いモノで1頭5万ガルだから、さすが希少魔獣だ!詩乃は思わず売った・・・と言いそうになったが、その前にパガイさんが声を上げた。
「牝2頭、牡1頭で140万ガルだ。」
オオゥウウ・・・どよめく狼達・・・。彼らだって聞いたことの無い額だろう。
「もう一声!」と詩乃。
「145万ガル」⑥
「150万ガル」パ
「155万ガル」⑥
刻むね6男は・・・「もう一声!!おまけに残りの牡2頭も付けやしょう!!220でどうだぃ!」
「222」⑥
「225」パ・・・・そろそろ顔が険しくなってきた。限界か?
「240」⑥・・・パガイさんを突き落として来た・・怖いね~~。
「よっしゃぁ!!売ったーーーー!」興奮するよね、金儲け!!
争う事が好きなのか、狼達も歓声を上げ、興奮で背毛を膨らませて見物していた。
掴みはOKか?
その後⑥とは、ギルドカードで決済した。パガイさんがギルドカードん有用性をトクトクと解説している。
若い狼を中心に興味を引いているようだ、年寄りは頭が固いのかな?胡散臭い顔でパガイさんを睨んでいた。
商売を終わらせたらクイニョンに要は無いとばかりに、⑥は肉ギャースに近寄ると気障ったらしくマントを振った・・・マジックですか?途端に消え去る肉ギャース。マントの中に詩乃の胴巻の様な、不思議・格納空間が有る様だ、かなり容量が大きいらしい。・・・さすがモブ顔でも公爵子息、そんなマントを持てるなんて、大金持ちなのに違いない。
「本日は有意義な商いを、ありがとう御座いました。またのご連絡をお待ちしています。クイニョンに幸あらん事を。」
そう言い残すと浮遊の魔術か、体がフワッと浮き上がり、上空にいつの間にか来ていたスモーキーちゃんに飛び乗って去って行った。・・・モブ顔に気障は似合わないんだよ。けっ!
「パガイさん、せっかくクイニョンにまで来て貰ったのにすいませんねぃ。売るモノがもう有りやせん。」
パガイさんは腕組をすると、ジロッと狼達を見回した。
「売りたいものが有るなら、持って来て貰おうか?無駄足は避けたい、お前達が狩った魔獣や素材等は無いのか?」
・・・此方も喧嘩腰だよ、真夜中に詩乃に語ったマニュアルはどうしたい?
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結果として・・・Orzの大量発生となった。
青熊など換金すると高値がつく毛皮なども有ったのだが、どれも状態が悪すぎる・・・。何で簾に切るかな?戦いに興奮してやり過ぎたのに違いない、これでは5千ガルでも引き取ってもらえまい。
今まで鉱山でホリホリしていたのだ、無理も無いとは思うが・・・これは教育が必要だね。魔獣を狩って生活の基盤を整える様な事を、文官中年狼は言っていたが、これではオマンマの食い上げだ。
獣人全員を食べさせていくのは至難の業だろう、どうするべきか・・・・。
「長様・・・聖女様の御使いとして、提案させて頂いてもよろしいでしょうか?」
なんかカルチャーショックの連続で、煤けてしまったような長様に声を掛ける。
「若者を中心に希望者を募り、スルトゥに勉強しに留学させるのは如何でしょうかぇ?猟師の見習いや、商人の見習い、兵士の見習いも必要でがしょう。それに出来れば此処に冒険者ギルドを開設できるように、ギルドに見習いを出すのも良いかもしれませんぜ。物を売るには、本来なら買ってくれる所まで持って行かなければなりませんやぃ。もうドラゴンで向こうから来てくれる事は無いでやしょう・・・今回は、聖女様の顔を立てての事でやんしたからねぃ・・・。」
「おい!まて、それじゃぁスルトゥに利点が一つもないじゃないか。」
パガイさんが茶々を入れて来た、スルトゥとしては生半可な気持ちの者は、引き受けたくは無いのだろう。
クイニョンが軌道に乗るまで、10年間は王国から援助を出すそうだが・・・王国自体がポシャったらそんな約束は反故になる。当てになんかしていたら危ないと思うぞ?後継があの王太子だしなぁ?魔獣の侵攻は深刻で、王国内はテンヤワンヤの状態なのは変わっていない。
「此処に、今儲けた240万ガルが有りヤス。それで、引き受けてくれませんかい?これは聖女様の御使いとして、クイニョンに肩入れしていると思って貰って結構だぁ。」
詩乃は指にギルドカードを挟んで、皆に見えるようにかざした。
狼達はどよめいた、それだけ大金なのだ240万ガルは。
・・・パガイさんは腕組して、長はじめ狼族重鎮達を睨み付ける。
「やる気はあるのか?人間と慣れ合って、狼族の誇りや獣人としての矜持を無くしたと言う俺達に、頭を垂れて教えを乞う事が出来るのか。」
なんだそれ?・・・パガイさんはかなりお怒りの様だ。
クイニョンに来る為には、必ず白骨街道の分岐点スルトゥを通る。長達は通過した際に喧嘩でも売って来たのか?ザンボアンガの人達が苦難の末に成し遂げた、あの平和なスルトゥの様子を見て、何も感じず誇りとやらで挑発したのか?
「誇りや矜持を守って、この谷で餓えて死んで行くか?この谷では獣人全員が食っていくには無理が有る、前からそう忠告しておいたはずだが?あっという間に夏は終わるぞ、どうするつもりだ長よ。」
・・・これ以上追いつめても、逆効果だろうに。
「長様、さっきドラゴンの言葉が聞こえやしたかぃ?頭の中に直接語り掛けて来る、ドラゴンの声が。」
狼達は驚いて詩乃を見つめて来た・・・自分達を差し置いて、この小娘に誇り高いドラゴンが語り掛けたのかと。
「ドラゴンは・・純粋で自由な魂を、その輝きを好むそうです。狼族にとっての自由とはどんな事だぇ?誇りを守るために狼族が居るのか、狼族が居るから誇りがあるのか?・・・部外者には解らないが?外の世界に飛び出して、やりたい事が有る者もいるでやしょう。やりたい者がいたら、やらして見ちゃぁ如何で?誇りと自由は相容れないモノでは無いでやしょう?」
苦り切った顔で詩乃を睨む者、希望を見つけたように目を輝かせる者。狼族といえども一枚岩ではない様だ、若い者ほど好奇心に溢れている様に見える・・・そんなものか?どこでも。
「それから、これもお願いだ。外の世界では万年人手不足で、力の強い獣人を村に迎えたいと願う所が沢山有りヤス。狼族以外の獣人で、行きたい者がいたら・・・行かせてやって欲しいのさ。」
力の弱い者が、強い者に逆らうのか・・・・唸り声と共にそんな声が聞こえて来た。
「弱い者にとっては、支配者が人間から狼族に代わったに過ぎない・・・彼らも、自由の魂を持っていやす。狼族と何ら変わりねえ。あんた達も人間の様に、彼らを押さえつけ支配するのかい?」
視線を感じて、ふと遠くに視線を向けると・・・狼族の向こうに、他の獣人達が集まり、此方をジッと見つめているのが見えた。山ギヤをつれたデカい青年も見える。
「明日の朝には此処を立ちやす、それまでに決めてくいなんしょ。」
話はそれだけだ、そう言ってパガイさんと打ち合わせをしようと、場を離れた時だった。
長様がパガイさんに向かって叫んだのは。
「お前は、我々獣人を裏切らないと誓えるのかっ!!」
「俺とて狼族の端くれ、獣人を裏切る様な事はしない。」
首を軽く振ると、パガイさんの顔が狼獣人のフルフェイスに変化した。オァオゥ。
貴族の出だから魔力も有って、魔術で顔を変えていた様だ・・・狼・・・だぁ?
いや、パガイさん・・・貴方の獣人顔って・・・。
チベットスナギツネ・・・・そっくりですから・・・・。
チベットスナギツネ・・・いいですよね~~~。(*´▽`*)
始めてネットで見た時、大ファンになりました・・・いい!!