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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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クイニョンにて~1

涙の再会です。

は~るばる、来たぞクイニョンへ~~。魔獣や喧嘩を乗り越えて~~。


豆ちゃんに怖がられて、少しばかり(いや、かなり)気分の落ち込んでいた詩乃は、ミッションの完遂を前にホッと胸をなでおろしていた。可愛い豆ちゃんをご家族の元に無事にお返したい、その思いがこの旅の原動力だったのだから。

それから隙が有ったら、虎さんにスリスリしようと思っていたが、猫娘達の黄金色の目が光っていて、そんな余裕は無かったのは残念な事だった・・・トホホ。


クイニョンの街の入り口は、切りこんでいる谷に頑丈そうな鉄で補強された木の門が設え付けられ、外部とクイニョンをガッチリと遮断していた、其処で出入りを細かくチェックするようだ。

いきなり押しかけて不振に思われては拙いので、先に事情を話しに(大)を差し向ける事にした。猫族より狼少年の方が良いだろうと考えた虎さんの配慮だ、どんだけ仲が悪いのさ?猫と犬、同じ獣人だろうに。訳が解らん。


待つこと数十分、ようやっと重そうな門がギィィィっと、軋みながら開いた。

いよいよクイニョンだ!『歓迎モフモフパラダイス!』



この時は、まぁ歓迎されると思っていたんだ・・・被害者を連れて来たんだからさ。しかしこの後、詩乃が思っていたより、獣人の人間嫌いが根深いことを知る事となる。




クイニョンは山間の街で、そもそも耕地は少なそうに見えた。

それに家も無い、みんな何処に住んでいるのだろう?不思議に思った詩乃が、キョロキョロ見渡すと「頭を動かすな」と、強い叱責が掛けられた。

『ほう、前だけ見てろと?』

注意をしてきた男は、狼の耳と尻尾を持つまだ年若い兵士だった。

『詩乃が若いと思われて、舐められているのかな?』

詩乃は軽く顎を下げて了解を示したが、目は可視範囲ギリギリまで動かして観察を続けた。面白い、この街は谷の岩をくり抜いて、集合住宅を作っているようだ。トルコのカッパドキアみたいだね、洞窟住宅か・・短期間に出来るものでは無いだろう・・・昔にこの地を開拓して手放した異民族でもいたのかな?

北側の日当たりの悪そうな谷を住宅地に、南側の日当たりのいい場所には段々畑を整備中に見える。よくそんな知恵が有ったな・・・ザンボアンガの者にでも教えを乞うたのか?谷の平たい所には、麦でも植えてあるのか、緑が青々と茂って風にそよいでいる。

・・・どっかで見たような風景だな?どこだったかな・・・?

『あぁ、これで風車が有って、凧があったら、姫〇様の谷に似ているんだ。』

不思議なデジャブ気分が解消されて、思わずテーマ曲を口ずさむ。

フ~フフフッフ~フ~フ~フフンフフフ~、好きなアニメだったなぁ懐かしい。

気分は姫〇様、〇トはどこだ?怖くないよ、ほ~ら怖くない~~。


詩乃が獣人の領地に入って来た人間の癖に、ふざけた態度でオチャラケて見えたのだろう。イラついた年若い兵士が、槍の先で詩乃を小突こうと振り上げた。

その途端、バンッ・・・音と共に槍の穂先が粉々に粉砕された。

小突こうとした兵士を始め、周りに付いていた者達が驚き、怒気を強め殺気を放って来る。

呆れた詩乃は解説する、いきなり槍を向けるなんてやり過ぎも良いところだ。

「旅は危ないからねぇ、用心に魔力で結界を張っているのさ。悪意を持って近づくモノは、ほらこんな風に壊されるのさぁ。怖いねぇ?クイニョンは聖女様の御使いの者に、槍を向けるのかぇ?」

詩乃は殊更に、余裕を見せながら鷹揚に構えて見せた。

「此方は争う気など、サラサラ無いのにさ。コレがクイニョンの礼儀かぇ?」


「獣人の娘を攫ったのは、其方だろう!」

若い兵士は血の気が多いのか、はたまた身内でも攫われたのか?やたらに詩乃に噛みつき喚き倒して来る。

「話を聞いてはいないのかぇ?その御立派な耳をかっぽじって良く聞きねぇ。アッシは聖女様の御使いだ、此処の人間のした事なんか知らねぇよ。何たって異世界人なんだからさぁ、知ったこっや無いのさ。人間だからって、勘違いするな。迷惑な話さぁ。」

聖女様・異世界人?理解が追い付かないのか、若い兵士はどう反応していいのか解らない様に固まっている。そのまま固まっていな、黙って案内するがいい。


兵士たちの行動に、虎さんも不機嫌そうに押し黙っている。前に座っている猫ちゃんも緊張しているのか、毛が逆立っていて手が震えている・・・。

どう言う事なんだ?どうにも理解が追い付かない、何故獣人の領地が怖いのか?

此処は、モフモフパラダイスではないのか?



    ****



谷の中央のちょっとした広場に、獣人の代表者か?偉そうな人物が数人並んで待っていた。どの顔も狼族の様で、他の獣人族は代表者のメンバーにはいないようだ。

う~~ん、これでは余り住みやすそうな所じゃぁ無さそうだね、狼族以外の獣人の者達にとってはさ。


かなり手前でフロートや騎獣から降り、それなりの礼儀でゆっくり近づいて行く。周囲の兵士はそのまま周りを取り囲んでいて、手を武器に掛けている・・・随分と警戒されているようだ。魔力は無いからノイズやチクチク感は無いけど、殺気と言うか・・嫌な感じの圧力は感じる。猫に囲まれたネズミの気分?いや、狼に囲まれた子羊と言うべきか?子羊だってさ、可愛いね・・・。

この状態を予想して、体よく詩乃にミッションを押し付けたな、トンスラ王太子。まぁ、手を上げて志願したのは自分だけどね、世間知らずは怖いモノ知らず・・と言う事だな?なっとく・納得。


こう言う場合、どちらから話しかけて、礼を取るのかで上下関係が決まり、その後の交渉に影響が出ると教えられた・・・誰から?・・・パガイさんにだ。


スルトゥの<安らぎの宿ノア>で、パガイさんは深夜に眠りについていた詩乃を無理矢理に起こし、口を酸っぱくして、叩き込むように教え込んでくれたのだ、獣人との付き合い方のマニュアル?をである。

教えてくれるなら、もっと早い時間にしてほしかった・・・眠くて頭がグラングランしている詩乃が、そう文句をたれると、仕事で時間が取れなかったんだと・・・言い訳していたが。

あれだね、パガイさんもワーカーホリックって奴だね、早死にしそうで大変だ。


・・・この場合どうすれば最適解か?

詩乃は聖女様の御使い何だから、軽々しく頭を下げるのはよろしく無いだろう。

かなりの数のデカい獣人達に周囲を囲まれて、ただ一人立つ人間としては、かなりのプレッシャーを感じざるを得ない?殺気が満ち満ちている事だし。

減るもんじゃ無し、こんな頭は下げ下げしてもかまわないんだけど・・聖女様の看板をしょっているからねぇ。

詩乃は背中に嫌な汗をかきつつも、脳内で某ヨシオの<そんなの関係ない~~。>の映像を繰り返し思い出しながら微笑みつつ立っていた。オ〇パッ〇ーーッ!!


目が笑っておらず微笑みあう事、数十分・・・かなり長い時間向かい合って対峙していたように思う。

その時フロートが止まったまま動かないのに不安を感じたのか、豆ちゃんがフロートの隙間から顔を覗かせた。沢山の獣人に驚いた様子でビックリしたように一度引っ込んだが、またソロリソロリと顔を覗かせた。

か・・可愛い!!

見回した獣人の壁の中に、会いたくて会いたくて仕方が無かった、最愛の家族の顔が見えたのだろう。豆ちゃんは空気を読まず、泣きながらフロートを飛び降り、お母さんに向かって走りだした。


「おっ、おっ、お・お・おかしゃ~~~んっ。」

「ラリィ!ラリィ!!」


お母さんと豆ちゃん、2人は走り寄るとぶっかる様に抱き合った。もう放さ無いとばかりに、小さな体が見えなくなるほど懐に深く抱き込まれる。その上からお父さんが、お母さん事まとめて抱きしめている。

「良かった。よく無事に帰って来てくれた。あぁ、ラリィもっと顔を良く見せておくれ。会いたかった、ラリィ・ラリィ私の可愛い娘!」

涙涙の再会である。

このような小さな娘が、病にも掛からず怪我もせずに、こうして親の手元に無事に帰って来れたのは奇跡と言って良いだろう。


獣人の代表者も周囲の獣人達も、一瞬警戒を忘れて思わず親子の再会を見入った。

ハッとして、人間を振り返ると・・・。



詩乃は・・・詩乃は泣いていた。

一目を憚れず目から大粒の涙を滂沱と流し、少しばかり鼻水も光らせながら泣いていた。口からは・・ただ・・良かった良かった・・と、そればかりを繰り返している。


そこで初めて獣人の代表者は有る事を思い出した。

人間との話し合いを仲介してくれた、異世界出身の聖女の事を。聖女も、もう一人のオマケの娘も、異世界から攫われてこの世界に来たのだと言う。涙を流すあの小娘は、自分の境遇と、あの小さな狼族の娘を重ね合わせているのだろうか・・・。


獣人の長は周囲が驚くのも気にせず、涙で酷いありさまの詩乃の前に跪くと声を掛けた。

「同族を連れ帰ってもらい、感謝している。聖女の御使いのオマケの娘よ、旅の疲れをゆっくり癒して行くが良い。クイニョンの獣人達は聖女の御使いのオマケの娘を歓迎しよう。」


涙でグチャグチャで、とても聖女の御使いには見えないが・・・周囲の獣人達はそう思ったが、長が決めたのだから従うしかない・・・狼族の掟では。

何だかなぁ・・・噂にきく美しい異世界の聖女様のロマンに、少しばかり影が落とされた・・・ロマンチストな獣人の一部はそう思っていたそうだ。



どうにか無事に、獣人達に受け入れられたようだ・・・と詩乃は感じた。

「聖女様から、心よりの償いの品がフロートに入っております。獣人の長よ、どうぞお納めください。」





クイニョンで、聖女の御使いのオマケとしての生活が始まった。


カッパドキア・・・行ってみたいですね~。ダンジョンみたいなお家。

酔っぱらったら帰れなくなるかも?

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