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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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それぞれの道~クイニョンを目指して

皆が自分の居場所を求めて、行動していきます。

楽しい一夜は終わり、今日もおはようさんの朝が来た。


山ギヤの世話も終わり、フロートの引き綱も付けて出発準備万端だ。慌ただしく準備をしていた詩乃の所に、野牛さんとモーちゃん、それから村長夫妻がやって来た。

『これは、お目出度い話カナ?』


「おはようでごんず、今日も良い日寄りだねぃ。何か良いお話カナ?」

詩乃の言葉にモーちゃんは頬を赤く染め、恥ずかしそうに野牛さんに寄り添った。


「旅の途中で申し訳ないのですが、俺達この村で所帯を持つ事に決めました。」

決定事項なんだね?モーちゃんを見ると、恥ずかしそうにしてはいたが、決意の有る目で、しっかりと頷いて見せた。これなら大丈夫だろう、後は村長の意向だ。

「村長さん、この二人は誘拐されて来たもので、これと言った財産も結婚準備もござんせん。二人が新婚で住む家は、貸して頂けるので?」

聞くと空き家が数件あるらしい、農作業を嫌って商会に働きに出て、そのまま帰らなかった者の家が有るそうだ。家は基本村の共同財産なので、使うのは構わないらしい。それほど傷んでもいないので、すぐに入居できるそうだ、家財道具も家具などは置いてあるので、好きに使って構わないと言う。かなりの好条件だね、過疎地の村はどうあっても人を増やしたいらしい。

「仕事は有るんですかい?」

「新しく段々畑を作るから、その作業中は村から手間賃をだそう。出来た畑は、作った者の所有物だ。」

2人はそれでいいのかぇ?詩乃の言葉に野牛さんとモーちゃんは、嬉しそうに頷いた。

・・・それならばだ、2人の門出にお祝いを送らねばなるまいよ。


クイニョンに持って行く慰謝料替わりのあれこれの中から、2人が希望する物を選ばせる。野牛さんは自分の慰謝料で、スルトゥで買い求めてあった農作業の道具を持ち出し、荷物の中からは大工道具を欲しがった。モーちゃんはスルトゥでは洋服などを買っていた、その他には裁縫道具を欲しがった。この村はスルトゥにも近いからね、何か欲しくなったら自分達で買いに行けばいいだろう。だから残りは現金を支給する事にした。

それからだ・・・野牛さんが居なくなると、山ギヤの世話が詩乃にのしかかって来る、これは避けねばなるまいよ。

「山ギヤの牝と牡、フロートも要りやせんか?家畜として殖やしても良いし、フロートなら輸送にも便利でしょう。」

おぉ~~~、これには村人達は大喜びした。

「これらは結婚する2人へのお祝いと、村への持参金代わりだ。そのつもりで、大事にしてやっておくんなされ。」

山ギヤは肉食系獣人が怖い様だったので、このままクイニョンに連れて行くのは可哀想に思っていたからねちょうどいいさ。気が弱そうで、相性の良さそうな2頭を選んでおいていく。ここの村人達や野牛さんは良い人なので、きっと親切にお世話してくれるだろう。幸せに生きなよ。



残りの荷物を1台のフロートに詰め込む、むぅ?ギュウギュウだね。

野牛さんの代わりに狼(大・中)にギャースに乗る様に指示を出す、彼らは何気に嬉しそうだったが、振り落とされないように気を付けたまえよ。虎さんの前にはチビ猫ちゃん、交代で猫ちゃん・・・ここは変わらない。フロートの手綱は(小)が握って、豆柴ちゃんは詩乃の膝の上だ・・あぁ、ヘブン。



村の皆に手を振って、旅を進める・・・野牛さんとモーちゃんは、此方の姿が見えなくなるまで手を振っていた。どうぞ末永く、この村で幸せに暮らしていけますように・・・詩乃は心の中で祈った。

これで旅の一行は、みんな肉食系になったね?


挿絵(By みてみん)


ここの街道は、白骨街道と違って小さいので避難所が無い・・・詩乃達は魔術具の魔獣避けを使っているが、普通の旅人はパガイ商会謹製<魔獣避けパワー>を使っているらしい。効くのかいな?生産地の村で貰ったので、試しに本日の野営に使ってみる事にした。風上に2か所<パワー>を焚く、何だか蚊取り線香の様にグルグル巻きの形をしているので、妙に懐かしい気持ちがする。緊張の夏だね。程よい広場を見つけたので、今夜のキャンプ地にする。

夕方、辺りのパトロールをしていた虎さんが、小さめの鹿を狩って来たので解体をする。

「おい、狼少年達。解体するから手伝いな。」

虎さんに木に吊るして貰って、下には穴を掘って血や内臓などを埋めて処分する、血の匂いで魔獣が来たらヤバいからね。狼少年達は意気揚々と、スルトゥで買い求めたナイフ片手に寄って来た。さぁ、遠慮はいらない、捌きたまえ。


・・・結果として貧血で倒れた(中)泣きながら逃走した(小)、かなり頑張ったが自分の手を切っちゃった(大)・・・鉱山では、肉はカットされて支給されてたんだっけ?これはどうしたもんだか。クイニョンは今頃大丈夫なのか?かなり不安を感じた。


食材(鹿さん)が料理に出来上がると、人一倍食べる狼少年達、働かざる者食うべからずだね。これからクイニョンに着くまでは、毎日肉の解体教室の開催か?虎さん含む全員強制参加だ、異論は認めない。それから狼少年3人組は、虎さんにお願いして狩りの仕方を習うが良いと思うよ?



そんなこんなの日々が続いて、だいぶ山に近づき標高も高くなったようだ。

夏なのに朝晩は寒いくらいだ、冬にはどうなるのか、想像もつかない。トデリとはまた違った寒さなのだろう。詩乃はモモウ柄のコートを着こんで防寒をしている、獣人達は寒さに強いとの事だが、慣れない環境は体調を崩しやすい。スルトゥの人の忠告に従って、ポンチョやらマントなどを着こんでいる。


虎さんはマントだ・・・黒で裏地が緋色・・・そうです、詩乃がプレゼントしたのです。それを兼定をすぐに抜けるようにと、片腕を出して斜めに羽織って来ている。マントのひもは金色で房飾りも付いているぞ!!素晴らしい、詩乃の理想な勇者(?)に近づいている。後は編み上げのサンダルと、サークレットでも付けてくれたら完璧だ!

楽しい妄想にふけっていたら、虎さんから檄が飛んだ。


「前方から中型魔獣、数8体。騎獣はフロートの横に付け。」

左側は高い崖だし、右側は渓谷なので崖側にピッタリ付ければ左側の攻撃は避けられる。詩乃はすぐに魔獣避けの魔術具を作動させた、女の子達・少年(中・小)はフロートの中に避難させる。

「魔獣避けの魔術具が有りやすからね、此処に居れば心配はいらねえよ?顔を出さずにジッとしているんだ、解ったねぃ。」

詩乃は胴巻からY字パチンコと、<空の魔石>をもって外に出た。


ギャースの肉食バージョンの様な、恐竜パークに出て来そうな爬虫類型魔獣が出て来た。前足に鋭い爪が見えるし、鶏の様な足には鋭い蹴爪が生えている。かなりのファイターのようだ、爬虫類特有の縦線の目は何の感情も見せずに猛々しい事この上ない。

詩乃は<空の魔石>を撒いて結界を張る、キンッと鳴って虹色の膜が張られるのが見えた。

「いいかぇ?取り敢えず結界の中は安全だ、虎さんの支持に従って動く事。無理をしてはいけねえよぅ?」

血の気の荒い(大)に、注意をする・・・がだ、(大)は初めて見た魔獣に驚き・震えていた。

『何だよ、冒険者になってダンジョンに潜るんじゃなかったんかい?』

青い森のほとりの村のチビの方が、場数を踏んでいる分落ち着いていたな。慣れって大切だ。

肉ギャースは結界にぶつかり怒っていたが、知能がそこそこ高いのだろう、同じところにぶつかって穴を開けようと考えているようだ。交代で一点を狙いドンッドンッと体当たりして来る。

「後ろに回る、結界は大丈夫か?」

「味方は出入り自由でヤスよぅ。」

詩乃が答えるが早いか、虎さんは大ジャンプをかまし、肉ギャースの後ろに回り込んだ。ギラッと光る兼定、堅そうなギャースの皮膚を易々と切り裂いた。大気を震わすギャースの悲鳴、しまった・・・フロートの中を防音にしておくんだった、豆ちゃんが怖がってしまう。

「おだまり!」

詩乃は叫ぶと、虎さんに注意を向けて背中を晒している肉ギャースに<空の魔石>を打ち込む。

「絶対零度!」

肉ギャースは虹色の鱗を凍らせて砕け散って行く・・・うん?虹色?

良く見ると肉ギャースは虹色の鱗に覆われていて、深緑色の草ギャースよりも遥かに美しかった。

「しまったぁぁぁーーーー!!!」

これは6男に高値で売れるに違いない、レア物の魔獣に違いない作戦変更だ。

「息の根を止めて瞬間冷凍!」

しかし、詩乃の放つ<空の魔石>が危ないと知れたのか、肉ギャース共は逃げを打って来た。

「まてーっ、お銭の素ぅ!」

つい夢中になって、結界の外に出てしまった。しまった!瞬間に思ったが、それより早く頭上に影が差したのだ。崖の上から数頭の肉ギャースが、飛び降り襲い掛かって来たせいだ。

「ノン!」

虎さんが振り返り叫ぶ、ギャースのズラリと並んだ犬歯が目の前だ。

「爆破」

詩乃の30センチまで肉薄した酷薄な生き物が、肉の破片となって弾け飛んだ。ドン・ドン・ドンあぁ黒の3連発。

お銭の素が・・・破片さえも残っていないとは・・・。


詩乃は常時自分に結界を張っている、30センチのパーソナルスペースを超えて来たエネミーには、自動的に攻撃が出来る様に設定してある。エネミーの強さによって、防御の方も3段階に分かれているが、今回は最強の防御が作動してしまった様だ。肉ギャース強いからね、仕方が無い。

石橋を叩いて、叩いて、叩き壊してしまう日本人の習性そのものに、何十もの安全装置を施しているのである。・・・安全保障は大事だよね?ねぇ、そ~り?


何とか逃げる2頭を氷漬けに仕留めて、戦いは終了した・・・虎さんは3頭倒したが、見事に首を落として有って他に傷は無い完璧な状態だった。此方も氷漬けに処置する、・・・頭も使うところが有るかな?一応持って行くか。5頭もの肉ギャース胴巻には入らない。仕方が無いので、冷凍のまま浮遊の魔術具を付けて浮かして運ぶ事にした。ギャースも山ギヤも嫌がるので、フロートの後ろに括り付ける。何ともはや、ヘンテコな格好だ。フロートの後ろを風船のようにフラフラ素材が漂っている。



全て終わって、豆ちゃんに安全宣言を出したのだが、詩乃が戦の雰囲気を引きずっていたせいか、怖がられて泣かれてしまった・・・地味に辛い。(大)も、昔は詩乃を馬鹿にしていたものだが、戦いを見てからは一定の距離を保って近づいてこなくなった。何とも微妙な雰囲気になってしまった・・・。


それでも旅は続いていく、そんな時だ、虎さんが皆に告げた。




「クイニョンが見えて来たぞ、この峠を越えればもうクイニョンだ。」


豆ちゃんに怖がられて、詩乃しょんぼり・・・(*´Д`)

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