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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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それぞれの道~野牛さんとモーちゃん

お土産を買うのは楽しいですね。

狼少年はどうにも静まらず、大声を出し続けるので、最後は虎さんの腹パンチで沈められた。


朝早くからお騒がせいたしまして、申し訳ありません。

詩乃は見物人に頭を下げ下げしながら、スルトゥの街を後にした、全く持って恥ずかしい限りだ。



スルトゥから白骨街道を外れる、白骨街道が国の背骨なら、クイニョンに行く道は肋骨と言った所か?クイニョンが最終地点で、その先は3000メートル級の山並みが連なっている。クイニョンも標高1000メートルはある高地で、何をして生業としていくのかは聞いていない。

『高原野菜とか、ドラゴンでもいれば運べるかもしれなけど。』

王妃様からは、何か良いアイデアを出すことを期待されているんだろうけど、長野や山梨に親戚は居なかったからねぇ・・・高原の暮らしなど解らない。

そんな事を考えながら、先頭が虎さん・間にフロート2台を挟んで、野牛さんの隊列で進んで行く。


2時間も経っただろうか、うめき声と共に狼少年(大)が目を覚ました。

「具合はどうだぇ?」

(大)はむっくりと起き上がると、腹を撫でながら不満そうにグルルルと鳴いた。

「虎さんを恨んじゃいけねえよぅ?アッシの代わりに腹パンをしてくれたんだ、恨むならアッシにしておくんねぇ。」

(大)は何も喋らず気まずい雰囲気が流れた、豆柴ちゃんは怖がって詩乃にへばり付いている。これじゃぁ可哀想だね、詩乃は野牛さんに合図を送ると、豆ちゃんをギャースの方に移動させ乗せて貰った。

これでフロートの中は狼少年達だけになった、これなら少しは話しやすいだろう。しばらく無言でフワフワ揺れていたら(大)が喋り出した、昨日の自由時間の時の話のようだ。


彼らは白熊さんも居るし、安心して街を散策していたらしい、楽しい時間だった様だ。スルトゥはダンジョンで取れる鉱物で鍛えた刃物が名物だそうで、白熊さんはお土産を買うなら日常で使う刃物が良いだろうと案内してくれたそうだ。店には数えきれない刃物が並べられていて、少年達は大層興奮したと言う。

彼らが生まれ育った鉱山の街では、人間の監視の目が光っていて刃物などは持てなかったらしい。肉などは切られた状態で支給され、刃物を使う必要は無い様に管理されていたそうだ。


『男の子って、武器に憧れる年頃ってあるよね?中2病って言うのかな、お兄もメリケンサックやトンファーを買っていたし。』


ズラリと見せられた刃物類は、彼らにはかなりのカルチャーショックだったし、同時に強い憧れも感じた様だ。

「凄い大剣があったんだ、刃の幅が15センチはありそうで、長さも2メートルはあった。虎の刀みたいな細い軟弱な奴でなくて・・・」

「あぁ?和泉守兼定に文句が有るってか?」

思わず喧嘩腰になる詩乃。

「日本刀の美しさが解らないなんてまだ子供だね。あの幅とソリが良いんだ、世界一斬れる刃物なんだぞ!京の都に血桜を咲かせて・・・・。」

余りの熱弁のドン引きされたようだ・・・コホン・・。

「それで?どうしたぃ?」

皆のお金を集めて、使い勝手の良い包丁を選んでもらった。店主は人間だったが、自分達に特に注目も変な目で見る事も無かった。たくさん買ったので、店主はオマケに狼用の爪切りをサービスしてくれたそうだ。店主の姿は人間だったが、足元の纏わりつく可愛い子供にはケモ耳が有り、そんな二人がごく普通に笑い合っているのが不思議な感じだった。

買い物を終えて、落ち着いて周囲を見渡せば、人間と獣人が入り混じって何の事も無さそうに、ごく普通に暮らしている・・・。とても、とても不思議に感じたのだと言う。


宿に戻る為に街の表通りを歩いている時に、遠くに山々が夕日に映えて連なっているのが見えた。凄く遠くに見える、あの山の麓の所にクイニョンがあると白熊さんは教えてくれた。


「嫌だと思ったんだ、前に住んでいた鉱山も山の中だった。また山の中に閉じ込められる様に暮らすのは、とても嫌だと思ったんだ。」


・・・狭い街で見知っている人々と、安心して暮らしていくのが幸せと感じる人もいるだろう。余りの狭さと、伝統とか言う従来のやり方に僻僻して、故郷を出て外の世界に飛び出していく人もいるだろう。どっちが良いかと決めるのは、人それぞれだ・・・トデリでも新世界を目指して、自分から手を上げて売られて行った少年達が居た。


「ザンボアンガの人々の話とスルトゥの成り立ちは聞いたかぇ?あそこの街は特別だ、王妃様が頑張って守って来た街だからな。残念な事にランケシ王国は、獣人にはまだ慣れていない・・・何もかも、これからなんだ。聖女様は2年前に人身売買を禁じる御触れを出したが、蔭で悪党どもがまだ暗躍しているのは知っておろう?」


だからと言ってべっに山に籠って、引っ込んでいろって訳じゃぁ無い。


「何年かかるかは分からないが、いずれはザンボアンガの民の様に双方仲良く暮らせると良いな。王国は別に獣人の移動を禁じてはいない、王国の民の一人として好きな所に出かけていいのさ、建前はな。」


人間嫌いは少しは軽くなったんかぇ?茶化して聞いたら、親切な人間は良いと思う・・と。答えて来た。

「不思議でやんすねぇ?アッシ程の親切さんは居ないと思うんでやすが?」

狼少年達は・・・ぶっきらぼうに、年下のくせに生意気だ、と言って来た。ワンコは序列に五月蠅いね。

「バアァカァ、アッシは今年で20歳でぃ。お前ら頭が高けい!」

そう言ったら、本当にビックリ驚いて・・・しばらくたったら、ごめんなさい・・・と謝って来た(笑)。

「とにかく成人までは、親の言う事を聞くもんだ。親達はみんな、クイニョンで心配しながらお前達の到着を待っているのさぁ。無事な顔を見せてやりな、それが親孝行ってなもんだ。そうしてしっかり見習いを頑張って、成人したら改めて自分の進路を考えればいいさぁ。スルトゥの人も、パガイさんも真面目に働く奴には親身になって働き口を紹介してくれる。焦る事はないのさぁ。」


平民の人口は一時期ヤバいぐらい減ったから、何処でも人手不足で労働力は常に求められている。求人率は高いだろう、たとえ獣人であってもだ。ある意味獣人達が、人間と混じるチャンスの時なのかも知れない。獣人は力も強いし、人間の3倍は働けるだろう・・まぁ、その分ご飯も食べるがな。


詩乃の声は隊の全員に聞こえていたのだろう、皆スルトゥの街を経験して何かしら思うところが有るようで、沈思黙考していて静かだった。豆ちゃんも、空気を呼んだのか静かに野獣さんの前に座っていた。


    ****


半日ほど進んだだろうか、お日様が中天に差し掛かった頃、前方の方から人々がガヤガヤ話している声が聞こえて来た。何事か?用心の為に豆ちゃんをフロートの中に移し、前方に虎さんと野牛さんが並んだ。

もう、この辺になると道幅は狭く、白骨街道が4車線の幅なら、ここは2車線位だろうか。後退するのも難しいので、敵だったら蹴散らす方が楽かもしれない。・・・この道に山賊が出るとは聞いてないが。


虎さんが先行して様子を見に出ている、フロートは離れて待機だ。

待つことしばし・・・虎さんが困惑した表情(多分)で戻って来た、何でも落石が道を塞いでいるらしい。声の主たちは近場の村人達で、今最盛期の農作物をスルトゥまで運んで売りたいのだが、馬車を出せずに困っていると言う。


ほうほう・・・どれぐらいのブツですかぃ?


近くに寄って驚いた、2車線まるまる塞いでいる10メートルは有りそうな大岩だ。

どこから落ちて来たんだ?人死にが出なくて幸いだったね。左側の崖の上から転がり落ちて来たらしい、そのまま右側の河に落とすと水が堰き止められて不味い事になると言う。


村はザンボアンガの者が開拓して開いた所なので、こう言う時にはランケシ王国の援助は望めないらしい。まったくケツの穴がコンマイ事だ。

宜しい!人肌脱ぎましょうかね・・虎さんが。

「何か燃やしていい様な物は有りませんかいねぇ?石を囲むように燃やして熱を加えるんでさぁ、その後水で急激に冷やすと石の中にヒビが入りヤス。その後虎さんが一発拳固をくれりゃぁ、大岩だってお陀仏さぁ。」

こいつ、何を言い出すんだ・・・って顔で虎さんが睨んでいるけど、気にしない~。岩がどかない限りは、こっちだってクイニョンに行けないんだもの。此処は頑張って貰いやしょう。


村の衆が廃材や倒木など、要らなそうな燃えるモノを持ち寄って来た、少し少ないね宜しい提供しようかぃ。詩乃は胴巻の中から・・・出ました<糞>の土嚢袋、二袋分も出してみました。爆破はさせないよ?熱するのが目的だからね。ゴミの山の様になった大岩に火をつける、糞が良く燃えて廃材に燃え移って行く。かなり熱い、風の無い日で良かったね・・・山火事でも出してら大目玉だ。


焼いている間暇なので、この辺の話を聞いてみる・・・ザンボアンガの者が開拓した村は全部で5か所、それぞれ特色のある物を栽培しているそうだ。此処の村は薬草の栽培が得意で、パガイ商会の医薬品部門を支えているらしい。換金出来る薬草の他に、自給自足できる規模の麦畑や野菜畑を持って居る。かなり裕福そうな村だ、薬草の匂いが嫌いなのか魔獣も近寄らないらしい。その薬草も<魔獣避けスーパー>としてパガイ商会で売り出されているそうだ、どんだけ儲けてんだよあのオッサン。


村長は「君良い体しておるねぇ~~。」と、野獣さんにヘッドハンティングを掛けていた。モーちゃんはそんな様子を、胸の前に両手を組んでフロートの影から祈るように見ている。


若い二人の(詩乃より年上だが、どうも口調がお見合い婆臭くなる)様子も気になるが、岩が良い具合に熱せられたようだ、火も消えかかっている・・頃合いか?

皆、離れていて下せえ。

そう言うと詩乃は<空の魔石>を使って、大量の冷水を浴びせかけた。


           バキッ


鈍い音が大岩の中から響いた、どうかな?虎さんいけますか?

虎さんはメリケンサックを付け直すと、身軽に大岩の上に飛び乗り構えた。

詩乃はポケットの、<空の魔石>を握りしめ願う。

『ヘタマイト戦いの守護石よ、彼に力を与えて勝利を導きたまえ。』


虎さんが拳を振り下ろした瞬間、願いは実行され大岩に大きな亀裂が入った・・・そして粉々に割れる大岩、もうもうたる煙で虎さんが霞んで見えた。笑ってる?


壊れた岩の破片は、ちょうど段々畑の石垣にぴったりとの事で、村人に大層喜ばれた。この夜は村長さんの好意により、村の集会場に泊めて貰える事となった。

男子は石垣用の石を、畑予定の場所まで運ぶ手伝いをし。詩乃達は村に石窯が有ったんでピザを焼く事にした。ワイワイ楽しくピザを焼く、女の子達も慣れた作業だ、豆ちゃんも上手にチーズを降りかけてくれる。良い香りは村中に漂った、村人それぞれ秘蔵の酒や果物・ジャム・ジュースなど持ち寄って楽しいお食事会と相成った。


ここの村人は全部で58人、高齢化が進み新しい入植者を探しているそうだ。中でも力持ちの獣人は何処でも引っ張りだこだそうだ。クイニョンに向かう人々にも随分と誘いを掛けたそうだが、人間も一緒に住んでいるから敬遠されてしまったと言う。その点野牛さんは人間に慣れていそうなので、押せば何とかなりそうだと踏んでいるらしい。露骨な求人有難う。


皆でわいわいピザパーティーをしている中、野牛さんがピザと飲み物を持ってモーちゃんに近づいていくのが見えた。モーちゃんはこの村に入ってから、何か元気が無かったものね。

2人とも、例の事件の前に身寄りを無くしているからねぇ・・・柵も無いし。お似合いだと思うよ?



詩乃は一人夜空を仰ぎ見て

「月が綺麗ですね。」

・・・と、呟いた。もっとも月は3っつも有るのだが。


詩乃もいよいよお見合い婆デビューか?

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