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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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スルトゥ~2

ダンジョンの街、お土産は有るのか?スルトゥ饅頭とか。

年寄りの話はすべからく長い・・・幸いなことにパガイさんは、まだ年寄りのカテゴリーには入らない歳な様で(見た目はともかく)お茶を一杯頂いている間に話が終わったのは幸いだった。ほっ。


とにかく忙しい人だから、入れ替わり立ち代わり指示を仰ぎたい人が出入りして来て、落ち着かない事この上ない。此処はお暇した方が良いだろう。

「そう言えば、パガイさん。トデリから買い取って行った子供達は、どうしていやす?元気ですかい?」

「あぁ、北の方の商会で見習いに付いている。中々有望な奴もいるぞ、一人は船が好きで外洋に出る大きな商船でボーイをしている。」

「皆に手紙を書く様に、言ってくだせぇ。親は心配していまさぁ。」

解ったと受け合ってくれるパガイさん。

「お前もトデリに手紙を書いちゃどうだ?時間はかかるが、確かに届けてやるぞ。」

曖昧な顔で微笑みながら退場する、日本人全開だ・・・手紙か・・・。

・・・気持ちは有難いが、書くのはどうも苦手だ。それにここ数か月のあれやこれやを書いたら、普通だったら心配されるレベルの毎日だろう?

糞の爆発に、893の様な代官との出入り?誘拐未遂に館の粉砕だ。普通の生活では無いな、どう考えても・・・・リーとかアンが知ったら要らぬ心配を掛けそうだ。オイの事は、只々はじゅかしい。年下~~のお・と・こ・の・コゥ。


    ****


夕食の前に久々のお風呂と洒落込もうか、詩乃の部屋は一人部屋でお風呂も有るそうだから・・・お高い部屋に違いない。王太子の奴、請求書を見て驚いているかな・・・ざまぁ(笑)。部屋に案内されて、テーブルの上を見ると一抱えは有りそうな木箱が置いてあった。


    【トデリの皆より   シ~ノン様へ】   と書いて有る。


突然の驚きと、嬉しさと、離れてしまった悲しい気持ちが混ぜこぜになって、思いが胸から溢れて止められず・・・口からグフウゥ・・と、変な声が出た。

武骨な木の箱が、トデリの皆を思わせる。詩乃が愛おし気に木箱を撫ぜると・・・指に棘が刺さった。痛てぇ。

紙の札で封印して有る箱を開けてみると、モモウ柄のコートが出て来た。そう言えばパガイさんに頼んで、送ってくれるように手紙に書いたんだっけ。クイニョンは高地で雨が多く、寒いそうなのでちょうど良かった。

その下に手紙が3通、お守りの石の依頼書、トデリの名産ギーモンの卵の瓶詰めや、魚の干物の瓶詰(わざわざ輸送用に瓶詰めにしてくれたらしい。)おばちゃん達の新作のつまみ細工、もう凄く上手で詩乃の腕前を越えているようだ。

それから・・これは?おがくずに包まれて、壊れないように梱包されていた物は。木彫りの置物だった・・・ヨイさんが彫ったのだろうか?15✖20センチ程の大きさで高さも20センチ位だろうか?石窯を後ろにピザを焼いているワンシーンが彫り込まれている。トデリ名産の飴色の樹脂が塗ってあり、大変美しく出来上がっていた。

木で出来た大きなヘラにピザを乗せて、石窯に入れようとしているのが詩乃か?両手にピザの皿を持っているのはリー。テーブルを覗き込んでいるアンとオイ、傍でウロウロしているチビは近所の子供達だ。

楽しかった日常がよみがえる、これは石窯が出来上がってみんなで試食会をした時の情景だ。下町の皆も来たから、ヨイさんも会場に居たに違いない。

皆の笑い声が聞こえるような作品に、嬉しいのだけれど涙が少しだけ出た。

それにしても、詩乃の身長がエラク小さく作って有って、顔も随分平らだね?

リーもアンもかなりリアルに作って有るのに、これは如何なものか?その場にいたら問い詰めたい感じだが、まぁ良いや。写真も絵も無くて寂しかったから、皆に合えるだけ良しとしよう・・・。

それからオイはこんなにかっこ良くないぞ?




貰った手紙は全部で3通、子爵様からは詩乃を守り切れなくてすまなかったと、お詫びの言葉が書いて有った。王妃様には勝てないよ・・仕方が無い事だと思う。


もう1通は街の皆から、代表して世話役さんが書いてくれたらしい。アンが無事男の子を生んだそうだ、シ~ノンのシと、アンのアを取ってシアと名付けたとの事だ。・・・アシじゃぁ無くて良かったよ。

リー夫婦はピザの味が安定しないで、試行錯誤中らしい。それから水石は上手い事作動して、美味しい水をトデリに供給出来ているそうだ。良かった良かった。

街の皆は変わりなく元気に過ごしているらしい、ヨイさんがシリィさんにプロポーズして、秋には結婚式を挙げるんだって・・・ほうほう目出度いジャァないの。

ワイワイガヤガヤ五月蠅いトデリの街そのものの様な手紙だった。


最後の1通は・・・オイ君。

パガイさんの商会の船に乗って、トデリの外の世界に出るそうだ。必ず見つけるから、待ってろよ・・・だってさ。

ストーカーみたいだね、何でそんなに懐いたかな?やっぱりピザか?ピザなのか?

ラブレターもどきを貰って、こんなにも心が躍らないのはこれ如何に?

悪いが今の詩乃には、ギーモンの卵漬けの方がトキメキが深いぞ?



    ****



厨房の料理人さんに我儘言って、胴巻に溜め込んでおいたお米を炊いてもらう。

「フンフンフン~~~~。」

スープ皿にてんこ盛りご飯をよそって貰って、ギーモンの卵漬けをドバアッとかける。昔と違って今は醤油擬きが有るからね、憧れのイクラ丼擬きが出来るんだよ!ワサビの様なハーブも有ったし、これで海苔でも降りかけリャァ完璧だね。

獣人の皆さんは内陸の出身が多い為か、恐々とイクラ丼を鑑賞している。この赤いツヤツヤしているイクラちゃんが不味い訳が無いだろう、皆にも勧めたが丁寧にお断りされてしまった。解せぬ。

スプーンに山盛り乗せて、一口に・・・おあぅっプチプチ弾ける海の旨味!!

「げぇーーーっ、あのチビ目玉の集まりを食いやがった。」

たまに喋ればそれかい?狼少年(大)よ?

しかし安心したまえ、人間美味しい物を食べている時には寛容に成れるものなのだ。今の詩乃なら、プウ師範の説教も軽く流せる気がするぞ。

何故か同席していた商人魂の塊パガイさんは、詩乃の醤油に目を付け作り方などいろいろ質問して来た。まぁまぁ、そんな事より、ご一緒にイクラ丼を楽しみませんかね?

「うわぁぁ~~~、人間は不気味なモノを食うなぁ。気持ち悪い。」

狼少年達よ、黙って食え?

パガイさんはイクラと醤油のコラボに、いたく心を奪われ丼を完食していた。

「おいノン、この調味料はイケるぞ。パガイ商会で研究開発させてくれ。」

残念でした、醤油の仔細は6男にすでに報告済です~~~。大豆を持って来てくれたのは6男だったしね。

「ボコール公爵か。」

何でもボコール公爵は、ボコール商会を立ち上げていて、かなりの年商を上げているらしい。パガイさん達の強力なライバルなのだそうだ。今度何か思いついたら、ボコールじゃぁ無く、こっちに情報を流せ。


美味しい食事だったが、メンバーがチョッと五月蠅かった・・・。



    ****



翌朝早くにスルトゥを出発する、朝食を済ませ山ギヤ達の準備も万端だ。


詩乃はパガイさんに木箱を手渡した、トデリに送って貰う為だ。

木箱の中には注文の守り石とボタン、子爵様の奥様のお子さんと(そろそろ第2子が生まれるはず)アンのシアちゃんへ、元気に育つようにお守りの石。リーには詩乃特製のカレー粉(レシピ付き、ただし字じゃ無くイラスト入りだ。)今年結婚する人達の為には、クッキーを焼いて真空パック(空の魔石制)に詰めた。結婚式の花道で撒いて貰うようにだ。

ヨイさんにお礼とお祝いを送りたいとパガイさんに相談したら、スルトゥはダンジョンで取れる鉱石で造る、切れ味の良い刃物の産地だそうなので、彫刻に良い刃物を贈って貰うようお願いしてお金を渡した。

ついでに街の皆にも出刃包丁をあげたくて手配した、魚の加工には刃物は必需品だ。切れの良い刃物なら、寒く冷たい加工場に立つ苦労も少しは軽減するだろう。


今の詩乃は、6男に売った情報料や、王妃様からの給料も有るので、そのくらいのプレゼントは出来る身分になっていたのだった。


手紙は・・・書く時間が無かった。クッキーとか作っていたからね。

パガイさんに元気で頑張って仕事をしている、トデリの皆を懐かしく思っていて、プレゼントを喜んでいた・・・と、伝えて貰う事にした。

「オイはパガイ商会の船で、甲板員として頑張っているぞ。何か伝える事は無いのか?お前、結構冷たいな。」

むぅ、お節介ジジイめ・・・船乗りならアクアマリンだろう、チョッと大き目なオーバルカットの石を造りパガイさんに渡した。

「船乗りの守り石ですやい、ポッペに気を付けて・・・と、伝えて下され。」



さぁ、もう出発だ。みんな準備はいいかぇ?そう声を掛けたが、何やらコソコソ話していて返事が無い。

「どうしやした?何か有りやしたか?」

詩乃は依頼の石を造ったり、クッキーを焼いたりしていて、皆から目を放してしまった自覚はある。何か困り事でも発生していたか?

これは、職務怠慢だった・・・。


その時、ホテルの先の方から大きな声で、抵抗している様な騒ぎが聞こえて来た。よく見ると虎さんが、狼少年(大)の襟首を捕まえて引きずってやって来るのが見える。

「放せ、放せよーー!俺は此処に残る。クイニョンなんかには行きたくない!」

頑張って暴れているが、ガタイが違い過ぎる。(大)はまだ見習いの年齢で、虎さんの胸ぐらいしか背が無い。

「俺は、ここで冒険者になって、ダンジョンに行くんだ~~~。」

どうやら、昨日の自由時間に将来について考えたらしい。



悪いがそれは、できない相談だ。


手紙にはメールにない暖かさが有りますね。

請求書は・・・別ですけど。

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