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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
22/126

スルトゥ~1

筋肉かモフモフか・・・どちらがお好きですか?

スルトゥはダンジョンの街とは聞いていたが、脳筋天国とは聞いていなかったぞ?


ガチムチマッチョばかりで暑苦しいったらありゃしない、筋肉自慢が多いのか、これ見よがしに胸元をはだけて大胸筋をさらしている、けしからんもっとおやり!


その中に有っても、虎さんはひときわ光輝いている。

ふっ、むやみに近づくなよ、背中の和泉守兼定が黙っちゃいないぜ!キランッ。

虎さんの褌にも熱い視線が集まっているようだ、逞しい大腿四頭筋や大腿二頭筋・腓腹筋が発達していないと、着こなせない一品だ。褌が大殿筋のラインを美しく飾っている、あれだね、大人の男の色気ってヤツだね。それともアーッの輩が居るのか?虎さんは渡さんぞ?


女の子達はフロートの中に隠してある、可愛い子達だからね安全第一だ。

何かと問題を起こしそうな、狼少年3人組も閉じ込めてある、用心・用心・身の用心。ギャース2頭の手綱を虎さんが引き、フロートの山ギヤは詩乃と野牛さんが手綱を握っている。目立つ一行には違いないが、激しくジロジロと見られている。

因縁を付けられる前に宿屋に入りたいのだが・・6男が予約を取って(もちろん王太子乃のツケでだ)くれている、獣人もOKな良心的な宿屋はどこだ?



街は西部劇の〇✖〇タウンみたいに、左右にお店が100メートル程ズラ~ッと並んで建っている。飲食店や酒屋・ダンジョンに必要な雑貨を売る店、パン屋・病院や薬屋。

出ました、岡場所的な綺麗なお姉さんの居る店・・等々が連なっている。

う~ん、ここはやはりポンチョで決めたかったね、作る暇が無かったけど。


視線がチクチクと刺さるが、不思議と不愉快な敵意の籠った視線は無い。

脳筋の街らしく筋肉が全てなのか?<虎の目部隊>と通じるモノがあるのか?

そんな事を考えながら街の中心部へと向かう、スルトゥの名が付いた街役場的な所が有った、隣は兵士の宿舎か?此処で兵士をするのは大変そうだね脳筋ばかりの所で・・魔力持ちでもいなけりゃ言う事を聞かないだろうな。


街で一番デカい建物が冒険者ギルドか、次にデカい建物は・・パガイ商会・・・パガイ?・・だと?


『何か懐かしくも合いたくない名前の商会だねぇ・・。

トデリ時代に、死ぬほどお守りの願い石を造らされた商会の名前じゃんよ』


早く宿に入って寛ぎたい・・予約しておいたお宿はどこだ・・!

「あった、こっちだ」の虎さん声に振り向くと・・ありました、パガイ商会の横に<安らぎのホテル・ノア>・・ノア?


『随分と偶然だね、知り合いの名前に合えたのは嬉しい様な・・はて面妖な・・な様な。パガイさんはまだノアさんの事が好きなのかねぇ?もう人妻だし』


「どうした?何か問題でも?」

「いや、別に・・。色々思い出していただけでやすぅ。

疲れたからねぃ、早くチェックインいたしやしょうかぃねぇ」


頑丈そうな造りの、石の建物のドアを開けると・・何と言う事でしょう。

カウンターに居て、にこやかに接客しているのは・・猫獣人の若者でした。


どういう事だ?獣人は皆、鉱山で働いていたのではなかったのか?

聞いていた情報と違う現実に、どう言う事だと理解が追い付かない。

彼らは奴隷なのか?はたまたフツーの従業員なのか。


「人手の足りない所では、昔から獣人が人の代わりに労働を担っているぞ」


聞いたことが有る声に、思わず寒イボを立てながら振り向くと・・出たっ!


「パガイさん!!あんた何処から湧いたんですか?」

「人をボウフラみたいに言うな、自分の経営する店にいて何が悪い」


敏腕・悪辣・剛腕・悪徳?商人のパガイさんが、呆れた様な顔で腰に手を当てて立っていた。


    ****


何とパガイ商会は、ランケシ王国内に支店を持つこと60店、祖国日本の某医療品店なんたらキヨシには遠く及ばないが、かなり大手の総合商社なのだと言う。


「その若さで凄い事でやすねぃ、実は大貴族のお坊ちゃまかなんかで?」


話は長くなるがな・・そう切り出したパガイさんに。


「あ、長くなるなら結構でやす、アッシら疲れているもんで」


そう返したら冷たい奴だと詰られた、でもフロートにも客が居るんですよ、早く降ろしてあげなきゃぁ可哀想だし騎獣達の世話も有りやすから。


そうか・・そう言うと、パガイさんはテキパキと獣人の使用人さん達に指示を出し始めた。騎獣の世話に人を付けたり、女の子達や少年組・虎さんや野牛さんを部屋まで案内させる為に、わざわざ獣人のメイドさんを呼んで来た。

豆ちゃんも初めは不安そうにしていたが、犬獣人のメイドさんが優しく対応してくれたので、やがて尻尾が足の間から出て来てダランと下がってきた・・この分なら大丈夫だろう。女の子達は少々狭いが4人部屋だそうだ、皆と一緒の方が心強いだろうし、その方が良いよね。

狼少年は3人で一部屋だ、彼らは街を見学したいと言って来たので、ホテルの従業員(ガードマン的な)を付けて貰って明るい内に帰るように言い聞かせて送り出した。彼らには王太子から見舞金が出ているので、家族に会う前に何かしらお土産的な良い物を買いたいらしい。お付きの従業員さんは白熊の獣人で、虎さん並みにガタイがよろしい。


「言う事を聞かないようでしたら、獣人的にシメて貰って構わないので。よろしくお願いしますね」

と言ったら真顔で頷かれたので、3人組は羽目を外す事も(でき)無いだろう。



さて、パガイさんはどうやっても詩乃を解放する気はないらしい、年寄りの話は長いので困っちゃうねぃ。仕方が無いのでお茶とお菓子を条件に、話に付き合う事にした。私ってば心が広い、大人の対応ってやつだな。虎さんは心配そうに、付いていようか?と聞いてくれたが、昔の知り合いだから大丈夫と遠慮した。虎さんは一番疲れていると思うんだよね、深夜番も一番多くやっていたしね。


後で皆一緒に食事しようねと話し、それぞれ部屋に行って休んでもらった、獣人の人が付いていてくれるので女の子達も安心してくれているようだ。


   ****


パガイさんに社長室みたいな、がっちりとした家具に囲まれた部屋に通される。リス獣人の女の人がお茶とお菓子を運んでくれた、魅惑の尻尾!!フワッフワあ~。

お茶とお菓子を頂きつつ、パガイさんの話を拝聴する。

パガイさんの一代記は、さして興味が無いので(酷い)簡単に要約するとだ。


彼は王妃様の祖国と同じザンボアンガの貴族の出身で、パガイ一族は祖国滅亡と共に領民を引き連れ、命からがら王妃様を頼って難民としてランケシ王国に来たらしい。

パガイさんが5歳の時だそうだ・・と言うと・・パガイさんは今御幾つで?33歳!そりゃぁ御見それしました50歳オーバーかと思って。

痛い痛い痛い!グリグリはもう卒業したと思っていたのに(涙目)。



ランケシ王国に着いたのは良いが領地は無く、王国から配慮もしてもらえず、大勢の領民を食べさせる為に元領主一族は大変な苦労をしながら色々な事業を起こして来たのだそうだ・・パガイさんの爺様や親父様世代がな。

ランケシ王国の岩盤規制の為、内陸に活路を見いだせなかった彼らは船を造ってそれを操り、新しい航路を開き海運業を始めたのだという。儲けた金をやりくりして船を増やしていき、やがては自分達で商会を開き、商品の流通を独占するまでに至った。今では王国の海運・陸運はザンボアンガの者が握っているそうだ。


『王妃様は空輸も始めそうですよ、誰のせいかとは言えないが』


「シ~ノン、今はノンか。王都からボコール公爵領スランに行く時にフェリーに乗っただろう?あれもザンボアンガの系列グループが運航する船だ」


大きな立派な船で、荷物も沢山積み込んでいた様に記憶している。


「船長さんは魔力を操り結界を張って操船してやした凄い技術でしたねぃ」

「ランケシ王国の海運関係の船員は、ほとんどがザンボアンガ出身だ。魔力持ちの元貴族も、ここランケシ王国の貴族達には馴染めなかったからな、海に漕ぎ出して清々したと言う話だ」

「なぜでやす?ランケシは貴族が減って困っていたんでしょう?結婚話や養子縁組の話何ぞが無かったんですかぃ?」

「・・見解の相違が邪魔をしてな」


何でもザンボアンガでは農耕が主な産業の為に、力の強い獣人達が重宝されて大切に扱われていたらしい。長年仲良く暮らしているうちに、で何やら恋心も芽生え結婚もして混血が進んでいたそうだ。


「獣人と人間で子が授かるんですかい?」

「普通に生まれるぞ、出生率も高い。両親のどちらの血が濃く出るかは運命次第だがな・・人間の血の方が強いのか、先祖返りでも起きない限りはそれほどの違いは無い。だが、ここランケシでは獣人を忌み嫌っていたからな。だが俺ら貴族の血の中にも当たり前の様に獣人の血が混じっている、ザンボアンガ出身者は皆そうだ、それがランケシの貴族達に疎まれた原因だな」

「確かにパガイさんのお尻には、はっきりとタヌキの尻尾が見えやす」

「誰がタヌキだっ」


そうか・・何だって詩乃の情報がそんなに沢山、王妃様に漏れているかと思ったら、ここに王妃様の手駒が居たのか・・納得だよ。

ハァ~~思わずため息を吐く詩乃、詩乃も王妃様の手駒の一つに過ぎないのだ。

詩乃の様子に、少々気不味くなったのか。


「パガイ商会の最大の出資者は王妃でな・・お互い苦労するな」

パガイさんは申し訳なさそうに、そうのたまった。


「とにかく、ここスルトゥのダンジョンはザンボアンガの者が発見し開発したものだ。街もザンボアンガ出身者が造り住んでいる、此処に居る獣人は皆ザンボアンガの者達だ。王妃によって保護されているし、身分も保証されている」


聖女様によって奴隷身分から解放される遥か前に、王妃様は祖国出身の獣人を保護し守って居たらしい。


「良くザンボアンガ出身の姫を、王妃に迎えましたねぃ?ランケシは」


ザンボアンガの王家は他国との婚姻を繰り返していた為に、獣人の血は混じっていないのが建前だそうだ。ランケシ国王自身は強烈な支配的な母親に育てられた為に、大の女嫌いの人嫌いだそうで、妃選びに難航していたらしい。どんな美妃を連れて来ても、首を縦に振らない。

唯一色よい返事をしたのがザンボアンガの姫だったそうだ。


「その当時にはもう魔樹の進出で困っていたからな、立場の弱い国の姫ならば、自分に逆らったりしないと思ったんだろうよ」


国王夫婦の間には波風も立たずに、むしろ万年凪状態だったらしいが・・。

後ろ盾が弱く、まだ年若かった王太子妃(当時)現・王妃様はランケシの貴族達に大層虐められていたそうだ、王妃様の鋼の精神はこの頃育てられたらしい。

何と言うか・・今ではその王妃様の存在無しでは、ここランケシ王国が上手く回らないと言う事実が可笑しくも有り腹立たしい思いがする。


王妃様は長年、迫害されているランケシ王国の獣人達に心を痛めていたらしい。

王妃様の影の部隊(そんなのがいるんか?是非会いたいぞ!)は、逃亡を企て逃げ回っている獣人を保護し、スルトゥに連れて来たりして生活の支援をしていたのだそうだ。


そう、ここスルトゥは・・ランケシ王国の法律が及ば無い、ザンボアンガ的なアンタッチャブルな街だったのだ。何か、凄いね。



「それで?長々話し込んだのは、年寄りの思い出話ではないでしょう?アッシに何をさせたいんですぅ?あんまり買いかぶって貰っちゃぁ、困りやスゥ。アッシは何の力も無い、ただのオマケでヤスからねぃ」

「オマケのノン君にしか、できない事も有るだろう?」


「クイニョンに行けば解る、彼らは俺達ザンボアンガ系を信用して居ないからな。如何にか彼らの気持ちを解し、移住を成功に導いてやって欲しいんだ」


珍しく憂い顔でパガイさんが話している、何だかあんまりにも親身だから不気味だ。


「クイニョンに何か思い入れでも?」


しばらく沈黙していたパガイさんだったが、ランケシに移住した当時、辺境の地に追いやられ、同族が随分と亡くなった。

・・・そんな事を、ポツ・ポツと話していた。




・・・そんな事言われても・・・それで?

そのミッションには如何程の予算が着きますんで?


「何かやらかす時には、それなりの御足が必要でがしょぅ?」

詩乃がそう言うと、パガイさんは明るく笑った。


オマケの詩乃にしか出来ないミッションとは?年寄りっ子だから、長い話を聞くのは得意だよぃ?

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