新しい旅の仲間~2
旅は道ずれ世は情け・・・。
フロートはガタゴト揺れはしないが、小舟が波に揺さぶられる様に、微妙な感じにフゥワァ~ッと前後・左右・上下に揺れる。そんなものだから、船酔いの様な感じなのか?具合の悪い子が出てしまった。
可哀想な事に、豆柴ちゃんが酔ってしまったのだ。顔色はフルフェィスなので解らないが、目がドヨ~ンとして生欠伸ばかりしている、涎が気になるのか常に口をペロッペロしていて・・・辛そうで可哀想だ。
外の空気を吸った方が良いかなと、虎さんに頼んでギャースに乗せて貰った。虎さんの懐にすっぽり包まれる様に座るので、落ちる心配は無いだろう。船的な揺れよりガタゴト揺れの方がマシな様で、しばらくしたら元気になったので、ひと安心した・・・のだが。
今度はチビ猫チャンが気持ち悪いと言う、はぃ?猫さんも気持ちが悪いと?
どういう事だとジト目で見つめても、素知らぬ顔で気分の悪さを訴えて来るのだが・・・尻尾が・・・尻尾が微妙に膨らんでいて<虎さんと相乗りしている豆柴ちゃんがズルい>と白状している。ヤキモチかい!?
仕方が無いので、もう一頭のギャースに乗っている野牛さんに豆柴ちゃんをお願いして、猫ちゃん達は順番に虎さんに乗せてもらう事で納得させた。猫は嫉妬深いと言うから、気を付けないとキャットファイトとかになったら大変だ。
片やモーちゃんは、野牛さんと豆ちゃんカップルの事を気にもせず、逆に豆ちゃんの具合の心配をしてくれていた。大体大きさも種別も違うし、嫉妬する方がおかしいと思うが・・・猫娘の心は解らない。
そんなこんなで、本日も距離を稼ぎ無事避難所へと着いた。
詩乃はやりたい作業が有ったので、夕食作りを女の子達に任せてフロートに籠っていた。何を造っていたのかって?
ぐふふぅぅぅ、趣味の<虎さん>の装備造りです。
虎さんは詩乃の造った<メリケンサック>や<和泉守兼定>を、護衛中身に付けている、使い勝手が良いと高評価だ。ちなみに兼定は忍者みたいに背中にしょっている。
グフゥ、カッコいい。惜しむらくは、まだ襤褸の腰巻を身に着けている事だろう。
そこでだ!ブッ太いベルトを制作中なのだ、もうすぐ出来上がる。
形としてはチャンピョンベルトみたいな感じで、ど真ん中に仮〇ライダーみたいな謎の風車が付いているのだ。それから左側にナイフを挿す所と、背中側にはポーチ的物入れ(応急手当用品とかお財布とか入れられる)右側には2回分くらいの水筒が付けられている。水は飲んでも、怪我を洗うのにも使うからね。
このベルトの内側に、着脱できるような褌・・・前後に布が垂れているタイプ、が付いている。色は黒!でもただの黒では無い・・・裏地は真紅のど派手な奴だ。後はベルトの側面に鋲の様に、魔石を打ち込んで魔力を封印していけば出来上がり・・・・なのだが。
下手にプレゼントしたら、猫娘共に要らない嫉妬されそうなのが悩みの種だね。
どうしよう?
「虎さん、ちょっと良いですか?」
夕食後の自由時間、兼定を手入れ中の虎さんに詩乃が声を掛けて来た。
「これ、あの館から助けて貰った女の子達、みんなの気持ちです。どうぞ受け取って下さい。」
ニコニコ手渡すのは、猫娘達だ・・一番目立つであろうプレゼンテーターを任せたのだ、これで文句も有るまいよ。布に包んでリボンも付けてあるぞ、チャンピョンベルト褌。可愛い娘に貰ったら、嫌とは言えまい・・履きたまえよ。
狼少年3人組も興味があるのか覗き込んで来た、虎さんは何か嫌な予感を覚えつつも包みを解いた・・・何と言う事でしょう?
襤褸の腰巻から艶やかな褌へと大変身です。
「いらん。」
「えええええぇぇぇぇ~~~酷っ!ただの褌付きベルトでは無いんすよぅ、虎さん!!」
制作者としては、大ショックだ!!パタンナーのお母さんも、会社で駄目出しされた日は帰宅してから荒れていた。〔このはげーーーー〕って叫んでいた。
虎さんは禿げてないので説得をする。
「ちょっとした物も入れられる、ポーチもついてやんすから便利ですよぃ。それにだ、秘密はこの鋲。ただの飾りジャァござんせん、魔石で出来てやすからねぃ。例えば嫌な人間がいちゃもんを付けて来たとしやしょう、其処で<解除>と唱えた途端、鋲から魔力が染み出すって寸法だ。人間共は気分が悪くなって逃げだすに違いないやぃ。その間にトンズラすりゃぁ要らんトラブルは防げやす。」
詩乃は気付いていなかったが、獣人達が顔色を変えた。
「人間避けになるんですか?」
「えっ?うん・・・普段は封印してあるから影響はないけどね、自分が嫌な時には<解除>の呪文で、魔力が漏れる様になってるよぅ。」
「私も欲しいです!」「もっ、もっ。」
恐怖で失語症みたいになっている、豆ちゃんも必死に頼み込んできた。
女の子達の目の色が変わっていた、そりゃぁ誘拐されて怖い目に遭ったんだもの、当たり前か。・・・気が付かないでごめんね。
でも、これとそれは話は別だ。詩乃は、悪い笑顔でこう言った。
「虎さんが着替えてくれたら、皆の分も作りましょうかいねぇ。」
おまえ、卑怯だぞ!そんな声が聞こえたような気がしたが、空耳だろう~~そうだろう~~。
かくして、ごついベルト付き褌姿になった虎さんは・・・そりゃぁもう、眼福ものでした。拝みたくなるぐらいだ、あぁ写メ採りたい。
何がそんなに気に食わないんだ?我儘な顧客だねぃ。
詩乃+猫娘達はホォ~~~ッと見惚れているが、狼少年達はヒソヒソ話しているし、モーちゃん達はひたすら困惑している。
「この妙な丸い飾りは何なんだ?目立って叶わん。」
よくぞ聞いて下さいました!それこそ(某ライダー風)最大の工夫だ。
「少年(大)、ちょっと離れて・・・そう5メートル位。後ろに危なそうな物はないかぇ?大丈夫?そう、では虎さんに向かって、粉状のもの・・・うん、地面の砂でいいよ。投げてくりゃれ。」
少年(大)は砂を掴むと、思いっきり虎さんに投げ付けた・・その途端!
虎さんのベルトの飾りの風車が回って、強い風を巻き起こし砂を吹き返し、少年(大)ごと転がした。
「どうでやんす、これで<ビタタマ粉>の攻撃も無力化出来やんす。これで虎さんは最強の戦士だぇ!」
凄い凄いだろうと大喜びする詩乃に、虎さんは困った様に言った。
「お前は人間だろう?獣人を強くして良いのか?」
「確かに人間ですけんど、此処の産ではありやんせん。アッシは異世界人だからねぃ、気に入った者には好きに肩入れしやすんだ。」
異世界人と言う詩乃の言葉に、みんなどう反応して良いか解らない様だった。
皆がフロートの中で眠っているので、詩乃は月明かりの中、ランプを灯して作業をしていた。<人間からの守り石>を全部で9個つくるのだ。手持ちの魔石は例の館の、奴隷の<隷属の首輪>に内臓されていた物なので魔力は余り強くない。せいぜい平民の、魔力無しの者に効くくらいだろうか?
それでは心もとないので、<空の魔石>コーティングして補強するべきか?
それとも自分で発動するのでは無く、一定条件で発動した方がいいか?
人間を恐れるあまり過剰防衛に成ったら、それはそれで問題になるだろう。
女の子達はともかく、狼少年3人組に持たすのには、それでは少々不安でもある。
「眠れないのか?」
今夜の深夜番の虎さんが話しかけて来た、護衛の装備は外しているが兼定だけは携帯していた。
「お守りがねぃ、何処まで守ったら良いか・・・解りかねているんでさぁ。今はこんなだが、いずれはみんな人間も獣人も仲良くなりぁしょう?強いブロックを初めからしても良いモノなのか?」
「人間と獣人の歴史は、異世界人には解るまいよ。」
・・・そうだけど、部外者は口を出すなと言う事か。
「クイニョンがどんな所で、どのくらい人口が有って、どんな産業が起こせるのかは知りやせんが。鉱山で働いていた者が、急に農業や林業をやろうとしても・・・そうそう上手く行くとは思えやせん。」
魔石を眺めながら、思いつく事をポツリポツリと喋っていく。
「山の中が嫌な者もおりやしょう・・・何か、もっと・・こう選択肢の幅が広くて、自分で選べると良いなぁと思いやして。虎さんはクイニョンに定住したいので?」
「今は解らん、クイニョンを見てからではないと答えは出ないだろう。・・・今はこのベルトが有るからな、冒険者として生きて行くのも選択肢の中に入るだろう。」
虎さんは<ビタタマ粉>がネックで、人間の世界には居られないと思っていたそうだが、詩乃のベルトが有れば、粉の心配は少なくなるだろう。
そう聞くと制作者としては、とても嬉しく思える。
猫族と狼族は、鉱山に居た時から折り合いは良くないらしい。
狼族が牛耳っている街には、猫族は居られないだろうと思っているそうだ。
「お前さんの贈り物は、俺に選択肢を広げさせてくれた。感謝している、褌はいただけないがな。」
「見解の相違って奴ですねぃ、良く似合っておりますよ?」
虎さんなら、いつでも<虎の目部隊>が待っていやしょう。
・・・そう言うと、虎さんはちょっと嫌な顔をした(笑)。
翌朝詩乃は旅の皆に、お守りを渡した。魔石を核として<空の魔石>でコーティングし、滴型に整えたペンダント。滴の上の方に穴が開いていて、革紐を通せる様になっている。青~黄色~緑~赤まで、一通りの色は作ったよ。
「人避けのお守りを造りやした、このお守りは命の危険を感じるほどの恐怖を感じた時に、魔力が漏れて人を撃退できやす。」
狼少年3人組をチラッと見て、なおも説明する。
「自分から、人間に喧嘩売ったりした時には使えやせんのでねぃ、悪しからず。」
3少年、顔は無表情ながら尻尾はピッと緊張した、図星だったかね?
「首からブラ下げているとね、例えば向こうから人間が歩いて来るとしやしょう、50メートル先から警告にコノ球がブ~~ブ~~と震えやす。」
マナーモードだね、隠れるなり、道を外れるなりすれば良いだろう。
「それから、首から下げているのを無理矢理取ろうとすると、大きな音が鳴って周りに知らせる寸法さ。」
やってみるかぇ?
チビ猫ちゃんのお守りを狼少年(中)が、ひったくろうとすると・・・
ビーーービーーービーーー不審者デス・不審者デス・ビーーー・ビーーー
「ワァぁ、五月蠅い!解ったから止めてくれ!!」
チビ猫ちゃんに中止と唱えさせると、音はようやっと止まった。
「さぁ、好きな色を選んでくんなぃ。今日の夕方には、少~~し大きな街に着きやす。心配はいらないんだが、不安でがしょう?お守りを付けていリャァ心持も違うだろうさ。」
クイニョンに入る街道の前で、最後の大きな宿場街スルトゥ。
ダンジョンもあるせいで独特な感じの街だ、街全体がダンジョンで成立しているせいか、硬派な様な享楽的な様な・・・ゴールドラッシュで沸き返った西部とはこんな感じだったのか?
お守りを作っといて良かった・・・と思いつつ、一行はスルトゥの門をくぐった。
虎さんの装備が増えた!褌は某錬金術師の弟さんの褌・・・のイメージです。