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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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カポエの街~7

痛そうな話・・・注意です。

 館の玄関ホールの中は、それはもう凄い有様だった。


巨大な魔獣は館の中に入れなかった為なのかホールにはいない様だったが、虫型で大型犬位の大きさの魔獣が沢山湧いていて使用人達に襲い掛かっていたのだ。使用人達の悲鳴に如何にかしなければと焦るが、小さくて数が多いのも厄介だ。


「虎さん、これを使ってくんねえ!!」


詩乃は<空の魔石>で瞬時に武器を造り虎さんに渡した、すいませんが重いので自分で取りに来てくださいな。虎さん仕様で、大太刀よりもでっかいぞ!!でも刀の名は。


      =和泉守 兼定=


幕末に義侠心を燃やした侍擬きの集団で、鬼と呼ばれた副長様が持っていた刀のお名前だ。詩乃は何気にファンだったりする、勿論ゲームやアニメ、2・5次元の副長様も好きだぞ。萌えから歴女までカバーは腐った方面に広い。

虎獣人のフルフェイス、メリケンサックに日本刀装備ときたら、これはもうマニアには垂涎の的だろう!腰布が襤褸なのが頂けないが、無事この事件を乗り越えたら素敵な衣装をプレゼントさせて欲しいぞ!!ブッといベルトにターコイズの飾りなんか良さそうだ。


=あまりにも凄惨な現場なので、心が趣味に走った=


虫なら<ホイホイ>とか<シュー>が効くのだろうが、この混乱状態では使用人まで巻き込んでしまいそうでとても使えない。

『もう、・・どうしよう』


虎さんは兼定と果物ナイフで、バッタバッタと虫を倒している。絵になる。

見とれてばかりいられないので、詩乃も胴巻からY型のパチンコを取り出すと<空の魔石>を打ち込んでいく。


「絶対零度!!」


石が当たった魔獣は凍り付き、自らの水分の膨張で割れ崩れて行く。

次々に打ち込むが、それでも余りの数の多さにどうしようもない。また使用人の一人が集られ、虫の塊の中に姿を消していった。


『埒が明かない・・・』

詩乃は渾身の魔力で、ホールに滝の様に水を降らせた。


          ドシャァァァァァ~~~~~~~ッ。


突然の水と異様な殺気に驚いた虎さんが詩乃を振り返ると、詩乃は両手をバチバチとスパークさせながら膝丈位に溜まった水に触れようとしていた。


「小娘!何をする気だ!!」


焦る虎さんに返事もせずに詩乃は叫んだ。


「みんな、ジャンプして!!いきます!!」


            =電撃=


威力の程は解らないが君の瞳で万ボルト?電気鼠は何ボルト出せるんだっけ?


送電線をイメージし<空の魔石>で電気を起こす、水に触れていれば感電するはずだ一気に片を付けてやる・・詩乃の顔に青い火花が映り込んで目と髪を銀色に染め上げた。

虎さんは咄嗟に近くに居た人間共を3人程ひっ掴むと吹き抜けの天井近くまでジャンプした、その直後・・バチッ・・と、裂けるような音と共に白い光がイナズマの様に輝いた。


         =バアアァァァンンンン・・・=


大きな破裂音と共に何かの破片が飛んでく来た、焦げたような嫌な匂いが充満する中、水に浸かっていた虫達は・・感電したのか真っ黒に焼け焦げていた。

使用人達は・・傷を負った者が何人か逃げ遅れてしまったようだ。


「チッ」


思わず臍を噛む詩乃。

しかし良心の呵責を覚える暇も無い程の大混乱の中で、麻痺した心が下手を打った状況を受け付けようとしない。気持ちばかり焦って、ジリジリする・・モフモフ達は無事だろうか?!ホールの虫は粗方片付けたので、皆を逃がした抜け道の有る小ホールに向かおう。そうしよう。


「フォロミー!!」


詩乃は叫ぶと小ホールに走り出す。

窓から見える空に突然裂け目が出来たと思ったら<虎の目部隊>の精鋭達が現れてくるのが見えた、館前の広場に溢れた大型の魔獣に対峙するようだ。


館内には青狼など雑魚クラスの魔獣がまだいたが、虎さんの殺気を感じるとそそくさと逃げて行った、其処をどけ!控えおろう!お役立ちだね虎さんは。青狼ほど知能が無いのか虫的魔獣は脊髄反射で襲い掛かって来るが、集団では無く一匹づつならば雑魚と言って良いだろう。どうにかこうにか小ホールにたどり着き、小ホールの扉を開け放った。


其処には・・小ホールの中には、年老いた使用人頭?侍従・女官?上級の使用人と思われる男女が5人いた。彼らは突然飛び込んで来た詩乃達に顔色を変えて身構えた。




 この混乱の最中にでも、彼らはお仕着せの衣装一つ乱さず綺麗な姿なままで立っている。おそらく貴族の命令通りに魔獣を放すと、自分達が逃げる時間を稼ぐ為に下級の使用人達を魔獣の餌にと与えて此処まで逃げて来たのだろう。

【小ホールの秘密の抜け道を、自分達だけが避難する為に使おうと】


「残念だったねぃ?秘密の入り口が開かなかったんだろう?」


詩乃は侮蔑の笑みを浮かべると、上級風の使用人達にそう言い放った。


「アッシが封印しておいたんだ、命根性が汚い小悪党が入り込んだりしないようにねぇ」


侍従長なのか、小奇麗な身なりの初老の男が苦り切った表情で口を開いた。


「黒髪の小娘か<見せしめの宴>が終わったら、特別にお前が主役の宴が始まるはずだったのだがな・・」


何でも此処に集った貴族達はすべてアンチ聖女様のグループで、同じ色を持つ詩乃を鬱憤晴らしにいたぶって溜飲を下げるつもりだったらしい。


「お前など貴族達が見守る只中で、獣人に嬲られ・殺され・食われる予定だったのにな」

「断る!こちらにも選ぶ権利が有る。」


あら酷い、虎さんに存在を全否定されちゃった。


「ふん、そんな口を聞けるのは今の内だ。獣人など、これさえあれば此方の思い通りに・・」


侍従長が懐から何か取り出すと、虎さんに向かって投げつけようとした。粉状の何かだ、咄嗟に詩乃は風を吹かせて虎さんに粉が届かない様にディフェンスした。


「くっ、ビタタマ粉か」


鼻と口を覆って後ずさる虎さん、この粉は猫族の神経に作用して奴隷状態にする麻薬の様なものらしい。


「此処はアッシが何とかしやすんで、虎さんは表の<虎の目部隊>と合流して巨大魔獣の方をお願げえしやす」


詩乃は虎さんの腰をビタビタ叩いて窓から追い出した、背中を叩きたかったが届かないモノはしょうがない。虎さんは流石に猫族と言う身軽な感じで、ヌルリと窓を潜り抜け広場の方に出て行った。

侍従長は強そうな虎さんが居なくなったせいか俄然強気になり、一緒に小ホールに来ていた生き残りの下級使用人に命令を出し始めた。


「お前達、この小娘を捕まえて封印を解くよう拷問せよ!」


あら酷い、拷問ですってよ奥様。

呆れかえった詩乃はふんぞり返って腕組みをし、足は貧乏揺すりをしてイラつきを表現してみた。下級の使用人が詩乃に手を出せるはずもない、今さっき虫型魔獣を一瞬に黒焦げにしたのはこの小娘なのだから。


「何をしているか、早くしないか」

「早くして、聖女の<虎の目部隊>が来ているのよ。このままでは私達もお前達も捕まってしまう」


女官の様な年嵩の女がメイドを庇いながら喚いている、どうやら2人は親子のようだ顔が似ている・・うん?もしかして父親は侍従長なのか?残りの2人は、息子とメイド娘の彼氏と言ったところか?人でなしの所業をしていても、家族は別で大事らしい・・笑えるねぇ。


「お前さん娘や息子はそんなに大事かぇ?人様の娘っ子は平気の平左で、かどわかして来るくせにさぁ?連れてこられた女の子達は非合法な方法で来てるって事は先刻承知の介だろうよ?よそ様にした酷い仕打ちは、巡り巡って自分に返って来るんだと、その年なら解っていそうなものだぁあよ」


幼い子供に見える詩乃から説教を食らったせいか、侍従長は怒り狂って吠える様に叫んだ。


「五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い!あの気まぐれで残忍な貴族から、家族を守って行く苦労など、お前ごときに解ってたまるか!!」

「解りたくも無いね、あんただって相当な残忍な奴じゃぁないか。手前らが助かる為には、平気で手下の使用人を魔獣の餌に差し出すんだからよぅ」


詩乃の言葉でようやっと侍従長は下級の使用人達に目を向け、彼らがボロボロになっている事に気が付いたのだろう。驚いたように、ヒュッと息を吸い込んで黙り込んでしまった。

彼らのその姿を、その目に宿る怨嗟の光をどう認識するのか。この期に及んで、下級の使用人が自分の命令に従うとでも思ったのか?思うとしたら、とんでもねぇトンチキ野郎だ。


下級の使用人達はまるでゾンビの様に、侍従長とその家族に迫って行った。彼らの喉からはとても人間のものとは思えないような唸り声が漏れている、どんな思いが込められているのか・・恨みか、絶望か・・何故なんだ?と思う心なのか・・。


「悪かった、俺が悪かった!金なら払う、金なら此処に有るぞ!!あの馬鹿主の金庫から盗んで来たんだ。皆で山分けしても一生楽に暮らせるだけの金額だ!!ほら、ほら!見てくれ~。だから早く逃げよう、此処に抜け道が有るんだ。あの小娘に開けさせれば、もう大丈夫なんだ。本当だ」


身に危険が迫っている時に金の相談か?・・そりゃぁ、お金は大事だけどさぁ。殺しかけた相手にそんな話は響かないだろうに。


ガンッ・・・ドシャァ・・・。


痛そうな音と共に、侍従長が床に投げ出された・・殴られたようだ。


「それ以上はイケねえよ?こいつらは王様のお裁きを受けなければならない。それに聖女様のお許しが無ければ魂だって救われないだろうさぁ」


魂云々はどうだか知らないが・・このぐらい言っておかなければ使用人の彼らも気が収まらないだろう。


「あぁ、ほら。王宮の近衛も管区の騎士団もやって来た。もうお終いさ成敗完了だ」


空に沢山のドラゴン騎士が溢れ、この館を取り囲んでいる、もうこれでは逃げ出すのは至難の業だろう。シクシクと泣いているメイド娘と慰めているその彼氏、殴られた侍従長を労わる女官妻と息子。このシーンだけ切り取って眺めれば悲しい家族の物語で、同情心も悲しみも覚えるだろうが・・人が傷つき過ぎたよ・・彼らを庇う証言をする気にはとてもならない。


詩乃は深い疲れと、痛みを心に感じて溜息を吐きだした・・。

あの、白いドラゴンは・・・王太子か。

『あのトンスラ王太子、一発殴りたい・・そう思うのも無理ないよな』

この事件を裁く事になるのは、おそらく王太子と聖女様なのだろう。人を裁くって事は、それなりの痛みと悲しみが伴うのに違いない。


詩乃的には取り敢えず可愛いモフモフは守れたんだから、それで良しとしようじゃぁないの。



『疲れた・・・』

このまま寝落ちしたい・・そう思いながら詩乃は、どんどんやって来る援軍を見ていた。

詩乃も疲れましたが、作者も疲れました・・・。痛そうな話はこれでお終いです。

後は思う存分モフモフするぞい!

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