カポエの街~6
詩乃頑張ってます!
虎さんが気合一発、全身の毛を逆立たせてスー〇ーサ〇ヤ人の様になった途端、渾身の一撃が要石を貫いた。
ドゴオォォッ・・石の割れる重い音と共に、ガシャァン・・馴染みのある、そう薄い御高そうなガラス製品を床に落とした時の様な、繊細な何かが壊れた様な音が空一杯に響き渡ったのだ。
『何ぞ?』
焦った詩乃が辺りを見渡せば、朝日の中に粉々に砕け散った薄い氷の様な透明感の有る、不思議なガラス状の多くの切片が見えた・・あれは・・何?
「あれは魔力の残滓だ!この石には何らかの魔術が施されていたのだろう、魔術陣が破壊されて飛び散ったのだ。魔力が飛び散るなんて初めて見たぞ。お前、一体何をやらかした!?」
まぁ、びっくり要石にそんな仕掛けがしてあったなんて!
そう言えばドームを見上げる度に何だか不愉快な、嫌な感じがしていたのはそのせいだったのか。トデリの子爵様の所と造作は同じなのに、不愉快になるのが不思議だったのだ。『・・納得したよ』
要石が徐々に崩れ出して、周りのドームを構成する石もズレ始めた。
「虎さん、早く逃げなんし!」
足場が不安定に揺れ出して、もう立っていられそうにない。ドームの石は天辺の所から徐々に崩落して行き、詩乃は何とか後退するも・・足場はすでに無くなりつつ有り体を支えられなくなってきた。このまま石と一緒に落下するのだろう・・詩乃は思わず傍に有った天使の彫刻にしがみ付いた。
『どうせ死ぬのなら、綺麗な物と一緒に・・』
ところがよく見ると天使の像はオッサン臭くて全然可愛く無かった、何で異人さんはこんな風に表現するかな?天使だろ?ナマハゲみたいじゃないか。萌えが無いぞ萌えが。文句を言いつつも、ナマハゲと共に徐々に体が横に傾いていく。
虎さんは落ちる石を踏み台にジャンプを繰り返し、どうにか地上を目指して飛んでいる様だ。
『スゲ~流石虎さん。巻こんじゃって御免ね、無事に逃げてね』
詩乃は覚悟を決めて、目を瞑ろうとした時だ!
「ノン!手を伸ばせ!!」
?な声が聞こえて来たのは・・プウ師範?どうして?どこ?
見るとプウ師範がラチャ先生の張る結界を踏みつけ、ジャンプを繰り返しながら詩乃の方に近付いて来ている。
『来た・・・??』
手も伸ばさず、呆然と景色の様にプウ師範を見つめている詩乃。
ボケッとしている詩乃をプウ師範がその手に抱き寄せた瞬間、とうとうわずかに残った最後の足場が崩れ落ちて空中に投げ出された。!息を詰めて体を固くする詩乃を小脇に抱えたプウ師範は、長い鞭を撓らせ空を泳がせるとドラゴンの首に巻き付け、僅かな足場を使って足を思い切り屈伸し大ジャンプをした。そうして詩乃を抱えたまま、空中で1回転すると無事ドラゴンの背中へと飛び移ったのだ。もの凄い運動神経だ・・人って何かしら取り柄があるものの様だ。
「この考えなしの大馬鹿者!事が終わったら説教だ!」
何だかラチャ先生も顔を真っ赤にして吠えている、訳が分からん?
立派に囮を果たし魔術具を破壊したのに・・虎さんが・・此処は褒められるシーンだろう?
詩乃は3通りの未来を思い描いていた。
【死に戻りして自分の世界に帰る。やったね帰還だぁコース。
落下死して、もう誰にも利用されず自由になる、あばよっコース。
それから・・旅の不仲間が助けに駆け付けてくる、すまなかった許してくれ、だが断る!コース】
正直、あの2人が助けに来てくれるとは思わなかった、貴族は詩乃の天敵だし・・それは今も変り無い。
それなのに詩乃を抱き止めるプウ師範の長い腕が、脇腹に食い込んで痛いぐらいだ・・て言うか痛いんですけど。
「折れるから、肋骨が折れて内臓に刺さるから!!」
叫びながら後ろを振り向くと、プウ師範のジト目が苦し気に歪められているのに気が付いた。護衛任務に失敗した自覚は有るのだろう。
「心配しなくても、聖女様には言わないよ」
詩乃の言葉に低く呻くプウ師範・・囮の件はきっと初めから決められていて、当然ながら聖女様には内緒だったのだろう。王太子はそんな頭は無いから、王妃様辺りの差し金だろうか・・あのオバはん・・やりよるわ。
****
【へぼ護衛Side】
詩乃の救出劇が始まる数分前、2人はドラゴンに乗り青い森の上を飛んでいた。
青い森の上を何の手がかりも得られず、仕方が無くドラゴンと共にウロウロしていた2人だったのだが。突然すぐ下の足元に結界が現われたと思ったら、瞬時に破壊されて粉々となり、魔術の悲鳴の様な音に驚いたのだ。驚いて見つめていると、薄い氷の破片の様な魔力が砕けては消えて行く。その割れた切片の向こうに、全く違った景色が広がって見えて来た。ドームが、貴族の館が見える!
「身隠しの魔術、こんな初歩の魔術をこのように大掛かりに展開させるなんて・・有り得ん!おそらくは禁忌に手を出して、魔獣の他に奴隷からも魔力を奪って練り上げた魔術なのであろう」
「ノン!」
プウの叫び声にラチャはハッとした。
破壊されて崩壊寸前のドームの上に、虎の獣人が一人に・・何故かノンまで居るではないか!
「何故ノンが、あんな所に!」
それなのに当のノンは落ち着き払っていて表情も変えず、透明に透き通った様な雰囲気をしていた。
『ノン、其方・・死ぬ気なのか?』
そんなに我らと旅をするのが嫌か?こんな時に場違いな想いが胸の中に溢れて来た、今はそんな場合では無いだろうに・・ラチャは自分の気持ちに驚いていた。
「ラチャ!」
プマタシアンタルが叫ぶとドラゴンの背中を蹴り空中に飛び出して行った、慌てて落下地点に結界を張り足場を作る支援魔術を展開して行く。5度ほどの跳躍で詩乃に追いつき腕に抱きとめた、途端に残りのドームの残骸も崩れ去る。
「ノン!!」
プマタシアンタルは鞭を使いドラゴンの首に巻き付け如何にか難を逃れた、2人は巻き込まれ無い様にドラゴンの高度を上げ全体を俯瞰で見下ろした。
「こんなに大きな施設が隠されていたとは、信じられぬ・・」
****
ラチャ先生がデコに盛大に皺を寄せて感想を述べていた、自分より優れた魔術を使うのは許せない様だ。人の住む館の他に魔獣でも飼育しているのか、大きな囲いが有る建物が有る。また各地に飛ぶための魔術陣が有りそうな、魔力の強い建物なども有った。貴族達のモノだろうか?魔力の塊がゾクゾクとその建物に集まり始めているのを感じる、逃げるつもりだろうが・・そうはいかの塩辛だ。
「ラチャ先生!これの出番でありんしょう?」
大声で叫ぶと詩乃は胴巻の中から、大きな土嚢袋くらいのブツを取り出した。
<糞>・・・・である。
「貴族達は皆仮装していて、気障ったらしい仮面を被りカツラも身に着けていやす。(あれだ、ハイドンみたいな長い奴だ)カラっと爆発させてトンスラにしちまいやしょう」
ニヤッ・・ラチャ先生はニヒルに笑うと、詩乃が土嚢袋の口を開けてばら撒いた<ブツ>を風を使って操り建物の中へと誘導して行った。
ドラゴンで離脱しながら見ていると、カッと光ったと思ったら・・。
ドオオォォ・・ンンンン・・である、腕を上げたねラチャ先生。
魔術陣が有ると思われる建物は天井が吹き飛んだ為、中の貴族達の様子が良く見えた。呆然とする者、何か喚いて此方に手を振り上げている者と様々だ・・性格が出て面白いね、こんな時は。
皆揃ってトンスラだ、良かったね王太子、お仲間が量産されたよ。
眺めていたら空に<お助け弾>が上がった、元奴隷達が打ち上げたのだろう。
良かった、これで<成敗完了>できそうだ。
<虎の目部隊>が来るのなら2人は忙しくなるだろう、詩乃は隠れていた女の子を助けに地下通路に向かうつもりだ。そう言うと、何だか急に心配性になった2人に難色を示された。
「囮に使えるくらい、優秀な人材でしょうよアッシは」
詩乃の吐いた皮肉に、珍しく2人は「すまん」と誤ってくれた。
・・・まぁ、許さないけどね。
下を見たら、呆れたようにこちらを眺める虎さんがいた。
「あの虎さんにガードして貰いやんすから心配はいらねえよ、虎さんとアッシは戦友なんだ、オ~~イ、虎さ~~~ん」
「断じて戦友でも、友達でも無い!!」
あら?聞こえていたのね、全力で拒否されてしまった、詩乃悲しい。
詩乃はドラゴンから滑り降りる様に地面に向かった、高さは3メートル位は有るかな?あんなことを言ってた割に虎さんは慌てて詩乃を抱き止めてくれた。
『ふふん・・・本当は優しいくせにさ、私ってば魔性の女・・・』
ニヤニヤしていたら虎さんにホッペを引っ張られた、頭グリグリとどっちが痛いかな?
「虎さん、女の子達を助けに行きやしょう。獣人の子もいるから虎さんが居てくれれば、その子達も安心するでありんしょう?」
早く早くとせかせるように手を引っ張ると、ドラゴンの上から声が掛かった。
「その者を頼む、礼は後で必ず」
珍しく2人揃って頭を下げていた、どうした?何か悪い物でも食べたか?
何やら護衛同士で通じるモノでも有るのか、互いに頷き合うとドラゴンは空へ、詩乃達は館の中に駆け込んで行った。
館の中では残された使用人達が、時間稼ぎの為に放たれた魔獣と血みどろの戦いを強いられていた。
「酷い・・・これが、人間のやる事か?」
呆然と呟く詩乃・・知れた事・・これこそが、人間の正体よ。
虎さんと詩乃の第2ラウンドが始った。
アクションシーン・・・イメージはラピ〇タのシー〇、救出シーンなんですが。
上手く書けない~~~~~(*´Д`)