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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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カポエの街~4

獣人さん、ゾクゾク登場。

 取り敢えず可愛い者達は逃がしたので良しとしようか、さて、次はどうしてくれようかと考えていた時だった。(ノープランなのかい!セルフ突っ込み)


地の底の方から響き渡って来る様な、野太い声がヴォオォ~と聞こえて来たのは。

思わず耳を塞ぎたくなるような、嫌なノイズが満ち溢れている悪鬼の様な声だ。


「何だぇ、ありゃぁ・・尋常じゃ無いね」


隷属の首輪を外されて自由になった、青年に近い少年が教えてくれた。


      <見せしめの宴>が、始まったのだと。


奴隷として此処に連れてこられても、従う気などサラサラない者もいる。

それはそうだ、いきなり誘拐されて自由を奪われ、故郷や家族から離され、今日からお前は奴隷だと言われても納得は出来無いだろう。

そんな者達の心を折り従順にさせ、自分達の嗜虐的趣味を満足させるが為に、一番気に食わない男を見せしめとして魔獣のいる囲いに突き落とすのだと言う。

大概は従わせるのが難しい、力の強い獣人の男が選ばれるらしい。


『何てこったい!モフモフが危ない!!

いや、別にツルツルだろうが、カチカチだろうが助けるけどさぁ』


宴を行なっているのは館前の広場だと言う、重ねて言う!何て事だ!!

トデリでは平和に<春の女神のお祭り>が行われている広場で、そんな血だら真っ赤な宴が行われているなんて、とてもじゃ無いが信じられない。

広場を見下ろすならバルコニーが一番だ、よく子爵様の奥様が御手振りしていた場所だ。こっちが近道だね、詩乃は先頭を切って走り出した。

・・・が、すぐに追い抜かされ肩に俵担ぎされて運ばれてしまった。

『そりゃぁ、こっちの方が早いけどさぁ・・解せぬ』


   ****


バルコニーに近づき様子を窺うと、用心棒?傭兵?ギルドの冒険者?

良くは解らないが人相の悪い男達が3人程見張りに就いていた、魔力は下の中位な様だが腕の筋肉は詩乃の太ももより太そうだ。さて、どうしよう?




「バーカ、バーカ!おたんこ茄子のコンコンチキぃ!!べ~~~だ。」


寄り目をして舌を出し、手を顔の横で振って思いっきり馬鹿にする・・。

うん、異世界人としても少々恥ずかしいのだが、祖国は罵倒語が少ない国で有名だったのだ、これ以外思いつかなかったのだ仕方が有るまい。

それでも馬鹿にされたのは十分伝わった様で、単純な男共は詩乃を捕まえようと追いかけて来た。OK!フォロ・ミー付いて来なぁ、バルコニーの脇にある控室に向かう細い廊下に男達を誘導する。

バルコニーを出て右に曲がり廊下に入り込む、少し離れた所で待機していた元奴隷の皆さんが、詩乃が通り過ぎたタイミングで床に<空の魔石>を100個程まき散らした。


「ホイホイ、捕まっちゃいな!」


詩乃が叫ぶと同時に、廊下の大理石が粘着性溢れるホイホイ床に早変わりした。

思わずズッ転ぶ見張り達<ビッタァア~~ン>と大変に良い音がした。3人とも胸から転んだので、それこそ捕まったG状態である。必死に手や足を動かして逃げようとしているが、舐めちゃぁいけないニッポンブランド、そう簡単に取れると思うなよ。

叫ばれると不味いので、お口にもホイホイしてあげましたの、鼻が詰まっていたらヤバいかね?フガフゴ言っているから大丈夫だろう多分。

そんな些細な事(そうか?)より、モフモフを助ける方が余程大事だ。

バルコニーに向かう為に見張りの男達を踏みつけて為、体の上を歩いて行く・・だってさ、床がベタベタしているんだもん。しょうがないんです。



 バルコニーから下を見ると、3頭の魔獣と1人の獣人が戦っていた。

すでに1頭は自力で倒した様で地面に伏して動いていない、強いね?フルフェイスの虎獣人だ、体もデカくて2・5メートル近くあるかもしれない。

虎獣人も凄いにゃぁ凄いが、魔獣は市内を走るシティバスぐらいあるだろう・・どうしようか?虎さんは果物ナイフくらいの大きさ(虎さんが大きいから、そう見えるのかもしれないが)の得物しか持たされていない。これじゃぁ不利だ、と言うより不公平じゃぁ無いの?意義あり!


詩乃は魔獣の動きを注意深く観察し始めた<まず相手の動きを良く見て、どうすればコケさせられるのか考えるんだ>青い森のほとりの村の<チビ師匠>の声が聞こえるようだ!


『チビ師匠、詩乃はやるよ、見事やって見せる!!』


魔獣は元地元の爬虫類みたいに、左右の足が同時に動くコモドドラゴンみたいな奴だった。でも体高が無駄に高いく、背中に恐竜みたいなヒレが付いているので、動くたびに頭共々体が左右にブレる。変な動きだねぇ?だが助かる。


魔獣が虎さんに向かい突進して来た、体が揺れ右に傾いたチャンスだ、虎さんに体を開いた瞬間に足首に向かって風の弾を渾身の魔力で打ち込む。

イメージは柔道の出足払いだ!スッコーンと真横に転がる魔獣、1本!

その隙を逃さず虎さんは、スルリと魔獣の喉元に滑り込むと室温に戻したバターを切るが如くに、滑らかに腕を流して移動して行く・・途端に吹きだす血吹雪。


          ヴッシュウ~~~


派手に命を吹きだし辺り一面に撒き散らした、何か緑色なんだけど・・。

それはそれで、げ~~~だ。

見せしめに参観させられている奴隷予定の男達以外の観客、馬鹿貴族共が雄たけびを上げて興奮している、こいつら何方の味方なんだい?

不愉快を隠さずに鼻に皺を寄せながら囲の中を見つめていた詩乃に、チラッと虎さんが視線を寄越して来た。風でアシストした事が解ったのかな?冷めたような冷静な瞳だ・・クールガイだねぃ。

最後の魔獣は雲丹の仲間ガンガゼの様に、体中が棘だらけで、しかも毒が有りそうな妖しい色をしている棘でも飛ばされたら厄介だね。

どうしようかと、またしても逡巡していると、何と虎さんが力技に訴えた。

倒したドラゴンもどきの尻尾を掴むと、ハンマー投げの様にグルングルンと振り回し、ガンガゼにぶつけたのだ凄い力だね?金メダルは確定だ。

ドラゴンに己の棘が刺さた為に身動きが出来無くなったガンガゼは、残りの棘を虎さんに向かって(目でも有るのか)飛ばそうと力を込め始めたのかウゴウゴと動き出した。

危ない!と、思った時には・・何と虎さんは大ジャンプをかまして観客席の近くまで飛び上がって来た、其処に飛ばされるガンガゼの棘。

貴族達は慌てて結界を張ったが、遅れた者は棘をもろに浴びてしまった。


        ドスドスドス!!!


鈍い音が聞こえて棘が身体に突き刺さったのが解った、今度は赤だよ補色だねぇ。

虎さんは何と、貴族の結界を足掛かりに詩乃達が居るバルコニーまで駆け上がって来た。もの凄い運動神経だね、何で人間何かに捕まったんだろう?


「おい人間の小娘、何故助けた?」


図体はデカいし、牙は凄いしで迫力満点の筋肉小父さんだ。正直ビビる。

あと、ほぼ全裸だが腰ミノみたいのは付けている、その辺もお約束なのか?


「えぇ~~とぉ、敵の敵は味方・・みたいな感じ?」

「この俺様が、お前の様な人間なんぞに手を貸すとでも?」


・・うん、無理だろうな、相当な人間不信な感じだし。

でも今現在、此処には獣人も捕まっているんだけどな・・無事に逃がさなきゃ。

うぅ~~ん、詩乃は両腕を組んで、首を傾げて試案しつつ提案した。


「アッシはこからあのドームを壊すでやすが、かなりの力が要りす。

・・・目障りでしう?あの何か偉そなドーム。どうです?一緒にぶち壊てスカッとしんかぃなぁ?」


そう言うと後ろを振り返り見上げた、そこには貴族の象徴の様なドームがそびえている。同じ仕様で造られているのに、子爵様の館の時には嫌な感じなど一つもしなかったのだが。此処に聳えるドームは何なんだろう?支配の象徴の様で、見ているとやたらとムカつくのだ。


・・それにやってみたい実験が有る、都市伝説の一つだが・・。



    ****



「アイツが誘拐されて馬車で運ばれたのは確かなのだ、どうして痕跡をトレース出来ないのだ?」

イライラした様にプウが喚いた。


「青い森の魔力が阻害している・・他にも後ろ暗い存在を隠す為に幻惑の魔術を展開している様だ。色々と小細工が入っていて確認がしにくい、それに既にかなりの人数の貴族が集まっている様だ・・彼らの魔力が錯綜して、あの者の様な微細な魔力は感じ取れぬ」


ラチャは冷静を装ってはいたが内心かなり焦っていた、魔術師長ともあろう自分が、こんな初歩の小細工に惑わされるとは思っても居なかったのだ。

これが机上の魔術論と実践の差なのだろうか、これこそが聖女様が言っていた弱者の悪知恵の魔術なのか?焦るばかりで手掛かりさえつかめない。


密かに護衛を外れ、一人で行動し始めた詩乃を囮に使い奴隷市場を発見・壊滅させる。これは王太子の力試しの為のテストの様な作戦だった、蔭でGOサインを出していたのは王妃様だったのだが。聖女様に歯向かう貴族を一掃する為に、同じ黒目・黒髪を持つ少女を囮として使っているのだ。

小娘の立ち位置が知れるようで、哀れを覚えたのは無理からぬ事だ。

だからこそ小娘が寝ている間に気付かれぬ様に事を片付け、何食わぬ顔で旅に戻ろうと考えていたのだ。何たってあの能天気な小娘は3分以内にはは熟睡して、一度眠ったら蹴ろうが叩こうが起きないのだから。


それに、この作戦が聖女様にバレでもしたら、それこそ大変な事となるだろう、王太子は聖女からの信頼を失い下手したら離婚の憂き目に合うに違いない。それだけは何としても避けなければならない、それがプウが詩乃を失う事を恐れる一番の理由である。忠臣の鏡の様ではあるが、詩乃にとっては関係の無い事に違いない。またラチャも、詩乃を死なせでもしたら完璧に聖女様に嫌われてしまうだろう・・その事だけを恐れていた。




か弱い?か、どうかはさておき、この世界の常識も知らない異世界人を壊滅作戦の仔細も知らせずに、了承も取らずに囮に使った・・・。

小娘との信頼関係は元より無いが、この件で完全に破壊されて修復不可能になったであろう・・その事が、妙に心に刺さり痛みを覚える。

・・それなのに居場所さえ解らず、奴隷商人どもに完璧に出し抜かれて、夜の青い森の上で右往左往しているだけの情けなさ。

己の不甲斐なさに、ギリギリと歯噛みする。


「あの者が、ノンが我らを呼び、思うだけで此方とラインは繋がるのだ!」


ラインさえつながれば、所在も知れるし作戦も発動できる。

それなのに何故ノンは、旅の仲間達を思い出す事も無く、助けを願う事もせずに、監禁されているのだろうか。呼べよ!仲間だろう!


「何故、我らを呼ばぬ!思い出しもせぬのか!!この薄情者!」




・・お前達がそれを言うか?逆切れすんなよ、詩乃がいたらそう言いそうだ。


詩乃ってば、本当に可愛そう。

次回、大暴れ・・・・やっちまいな!!

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