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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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新しい種~2

・・・最後まで・・書いた・・ぞ・・・ガクッ(+_+)

「へその下・・・そう、丹田に魔力を溜めるのだ。そのまま我慢して・・・1・・2・・3・・4・・5・・息を吸って・・・ゆっくり吐いて、まだまだそのままキープだ。」


ターさんの特別教室が始まった。

感情の乱れによって魔力が増幅されたりしたら、周囲が危険で迷惑だと言う事で、詩乃も一緒に習っている。思い返してみれば、魔術をきちんと習ったのは初めてだ、王宮の庭師のお爺ちゃんに初歩の魔術を習っただけだったし。ほとんどが独学・・っと言うよりも我流?オリジナル?詩乃スペシャルと言ったモノだった様に思うけど・・いまさら勉強などかったるい、そんな心を押し隠して1・・2・・3・・とやっている。


「ゆっくり吸って・・指先に魔力を集めて・・・1・・2・・3・・」


何だかねヨガを習っているみたいだね、呼吸法とか・・・ヒッヒッフーーはラマーズ法だっけ?子供達は(詩乃よりも)魔力の扱いと制御が上手になって来て、自分でも安心したのかイグニス(子爵様の息子君)にも笑顔が増えて来た。


ターさんは仕事が有るから、早朝の朝飯前に教室を行なっているのだが、眠いだの何だのと文句も言わず大変に熱心で感心なお子様達である。


「よし、では一人ずつ得意な魔力で的に向かって放出してみろ。ソル。」

「はい!」


ソルは風が得意な様で、指先から細く尖らせた風を吹かせて的に穴を貫通させた。


      スパッン!!


「よし、今度は風を曲げて放出する練習をしておけ。」


カーブですか・・・・・この人、結構スパルタですね。


平民のアクアを含めて、優秀な子達ばかりだ・・先が楽しみだね。


アクアの魔力はA級平民の中でも、中の上くらいになるかな?昔の詩乃より余程魔力が強い。昔なら有無を言わさず、無理矢理にでも王都に拉致されていたクラスになるだろう。

彼は貴族になどにはなりたくないそうだから、トデリで兵士でも船員でもすれば良いだろう。水を湧き出させて、風を吹かせる事の出来る船員なんだから、それこそ引く手あまただろう、何処にいたって生きて行けるさぁ。


「次、シノ。」

「は~い。」


      ドッカーーーーーーン!!


「加減をせぬか馬鹿者、其方屋敷ごと破壊する気か!」


・・・あるぅれぇ・・・?

子供達の視線が痛いです、すいません・・お姉ちゃん開拓農家向きなんです。


こうして・・・早朝にターさんのスパルタ教室。

朝食後はターさんに出された宿題を練習し、座学の勉強(執事さんが子供に合わせて課題を出す・・・➁王の要求で仕方が無く始めた。)、10時のお茶の後は軽い運動と遊び。

お昼ご飯の後は歯磨きとお昼寝、目覚めたら楽しい社会科見学だ。

ランパールの街を散策したり・・漁師さんの船に乗せて貰ったり、お菓子屋さんの厨房を覗いたり、キツネエのお店に訪問したりもしたな。

食肉加工場に行った時には、みんな顔色が悪くなっていた・・・お皿に乗る前の姿は想像できなかったのだろう、御残しは何処の世界でも許されません!


御婆様のQ様の商会にも行ってみた、書類が沢山あって、大勢の人々が凄い勢いで働いているので驚いた様だ。(あんた達の婆さんは、鬼だからね!人使いが荒いブラック商会の親玉なんだぞぉ。)

丁度いい所にパガイさんが来たので、子供達に遠い異国の話や、手に汗握る海賊船とのデスマッチの冒険談、綺麗な海に掛かる3重の虹の話などをしてもらった、パガイさんは話し上手で臨場感が有り、聞いていて本当に楽しく勉強になった・・・が、後に講師料の請求書が来ていたので➁王に回しておいた。その後はどうなったのかは知らない。



何より喜ばれたのはトンスラの見学だった、ドラゴンはこの国に住む者にとっては英雄・崇拝の対象みたいなものだからね。

ドラゴン騎士を目指すソルは勿論、王子達も目をキラキラさせて喜んでいた。


『黒さ~~ん、この子達が➁王子の息子なんだよ。聖女様に似て可愛く生まれてよかったねぇ。』


黒さんは興味無さそうにチラッと見ただけで、ノーコメントだった・・クールだねぃドラゴンは。乗せて飛んであげたい所だけれど、こればっかりはご法度なのだ。ドラゴンを得るには自分の力で、自由な魂の輝きを得て、彼らに認められて相棒を獲得しなければならないからだ。

ドラゴンのダルさんが、ポアフ隊長と婆伯爵を乗せて飛んだのは、偏にダルさんの好意に他ならない、それだけポアフ隊長に心を寄せていると言う事だ。彼らは今も南のNEWポワフ領で復興を頑張っているハズである。

モルちゃんは気の良いドラゴンさんなので、子供達が触る事を許してくれたけれど・・・他のドラゴン達の視線がチクチクと痛いので、遠慮させておいた・・・まったくドラゴンって奴はヤキモチ焼きさんで困ったものさんである。



「詩乃ちゃん、たまには飛ぼうよ。」



モルちゃんが誘って来てくれた、このところモルちゃんはトンスラにダーリンズ達が居るので、屋敷とトンスラを行ったり来たりで忙しい。詩乃とゆっくり話すのは久ぶりだ・・大人になったと言う事なのだろう。

子供達をムウアやエフルに(子供に慣れている面々)に預けてフライトをする事にした。鞍の付け方を見学させ、颯爽と跨ると・・・魔術教室で失墜してしまった尊敬の眼差しが蘇って来る。


「モルちゃんありがとね、子供達に面目が立ったよ。」

「ふふふ・・詩乃ちゃんは、皆に尊敬されているし懐かれているよ。どの子も詩乃ちゃんが大好きだって顔をしているもの。」


たたた・・と走ってフワリと浮かぶ、風を操りながらドラゴンを下から持ち上げる様にアシストするのだ、5~6回羽ばたけば地上は遥か下に・・・ふふふ・・・・見ろ、まるで蟻のようだ・・に見える位の高さになる。


挿絵(By みてみん)


空の青と海の青・・・その只中にただ2人、寄る辺も無く柵も無く・・澄んだ空気と風に吹かれれば<清々とした>孤高の開放感に包まれる。

この感覚を寂しいとか怖いとか、そう感じてしまう者にはドラゴンの騎乗者には向かないだろう。


「やっぱり空は良いねぇ~。」


何処までもどこまでも飛んでいけば、知らない世界へと吸い込まれるような感じがする。


「子供達と詩乃ちゃんが、仲良く遊んでいるのを見ている時のターさんの視線ったら、眩しい物でも見ている様で、何だか可哀想になって来るぐらいだよ。」

「あれが貴族のスタンダードな遊びだと思われても困るんだけどね、アッシが向こうの世界で遊んでいた遊具や玩具だし。」


普通のお貴族様など、子供達と転げ回って遊んだりしないものだろう。

フラフープや跳び箱・缶蹴りやローラースケートなんてこの世界には無い物だ。

その他・・けん玉や、竹とんぼ・竹馬なんかはお爺ちゃんに習った物だったな。


子供の頃には2度と戻れない・・・自分がして欲しかった願望を、子供にしてあげる事で、過去の自分を慰め心を満足させる人もいるのだと・・何かの本で読んだ覚えが有る。


「ターさんが、もし親にでもなったら、凄い溺愛するかもしれないねぇ。」

「風邪でも引いたら、それこそ一晩中付きっ切りで看病したりして・・癒しを掛けたいけど、それでは子供の為に成らないとか言って、一人で悶々と悩んでさぁ・・その脇で詩乃ちゃんがスースー寝ていたりしてねぇ。」


あははは・・・・ありえそう・・・。


そんな未来が有るのなら、与えてあげられるのは詩乃だけに違いないのだろうが。



    *****



楽しい休暇はすぐに終わってしまう、また詩乃達マグデンスに出動辞令が来た、例のプウ略の実家の復興だ。子供達とも、お別れする時間になったようだ。


子供達は既に魔術の制御を習い終えていたので、イグニスとアクアは王都に居る子爵様に迎えに来てもらいトデリに帰る事になっている。

予定より早く制御方法を習得した2人を、子爵様は親ばか丸出しで褒めまくったので、ターさんを唖然とさせていた。どうやらターさんは、術を習得しても魔術師長に褒められた事などなかったらしい。

ターさんは何やらウンウンと頷いていたので、将来親になった時には自分も褒めてみるつもりなのだろう・・何でも試して見たい人だから。

今や財政が豊かになった子爵様は、自前の移動の魔術陣を持ち、王都~トデリ間の往復の魔石など心配することも無いようで、沢山のトデリの名産品をお土産に残し、さわやかに挨拶して去って行った。

今夜は<ギーモンの卵漬け>でイクラ丼にしよう・・・これは楽しみだ。



王子達二人は、御婆様であるQ様にお渡しした。


「私が王子達を預かった小さかった頃は、国内は荒れていたし、祖国は滅亡の危機だったし・・・ゆっくりと子供に付き合っている暇も無かったのよ。今更小さい子供を預けられても、どう扱ったら良いのか解らないわ。」


・・等と愚痴垂れていたが。

王子達にゲームや玩具を沢山持たせて<御婆様にお教えして差し上げたまえよ。>と教えておいたので、孫の方から関わっていくだろう。

Q様がフラフープを回していたら、笑えるよなぁ~。運動神経は良さそうなので、意外と上手くできたりしてね・・。




最後にターさんの弟のソルだが、マグデンスと一緒に行って復興の手伝いたいと申し出て来た。心がけは大変結構に思えるが、まだ10歳にもならない子供だ・・・復興する為に向かう現場は、目を覆いたくなるような悲惨な所もある、子供にはとても見せられない。


「ソルはまず自分の家、バンメトート家の領地の勉強をしてごらん。お父さんやお兄さんに聞けば教えてくれるさ、ソルのお父さんの領地経営の方法が、きっとソルがこれから色々な領地を見る時の目安になるだろうから。まず良い見本を見て、理想の形を覚えると良いんじゃないかな。」


渋るソルを<見習いの歳>になったら連れて行くから、それまで色々鍛えて実力をつけておくが良いよ・・そう言い含めてバンメトート家へと返却した。





子供達が去り、パーテーションを片付け、ベットを運び出してガランとしたホールを眺めていたら、何だか無性に寂しくなった。

子供の暖かい小さな体や(ソルはでかいけど)、良く伸びる頬っぺたは・・かなりの癒しの効果を持っていた様だ。


「奥様、坊ちゃま達がお手紙とプレゼントを残して行かれましたよ。」


そう言ってメイド長さんが手渡してくれたのは、B4くらいの白い板に、寄せ書きで<有難うございました>と大きく、それから小さく各自の楽しかった感想が書いて有った。


ソルは・・・・自分の髪が好きになれた、ずっと<ソル>と名乗って行く。

イグニスは・・友達を守れるような人に成りたいです。

アクアは・・・楽しかった、怖くなかった、ありがとです。

ルクスは・・・友達が出来て嬉しかったです、玩具は御婆様に沢山作って貰い、皆にもあげたいと思います。また遊びに来たいです。(流石王子、遠慮がない。)

テラは・・・・(一番のチビッ子だったが)玩具で儲けたお金は、御婆様から3割貰う約束なので、シーちゃん様には1割上げます。・・そう書かれていた。有難うよテラ。


何だかテラがラスボスになりそうだ、まだ4歳なんだよねぇ・・・おばあさまの隔世遺伝か?いや血は繋がっていないか。環境のなせる技か・・ランケシ王国は安泰のようだ。


それからプレゼントと言うのは、クレヨン(超高級品・Q様が渡したのだろう。)で描かれた<絵>だった。モルちゃんと思われるピンク色のドラゴンに、小さく棒人間(ポニーテール付き)が乗っており、傍にはエラくデカい銀色の髪の男が描かれていた。かなり遠近法が狂っている絵だが・・自分より強い者は大きく感じるものの様だから、ターさんが大きく描かれているのだろう。

正しく<幼稚園児が描いたような絵>でした・・ので・・詩乃の目が横線一本で描かれていても仕方が無い事なのでしょう。ターさんの目からは、何故だか光線ビームが発射されていた(笑)。



    ****



夜・・・詩乃が自室で、明日出張する際の備品の数々を確認していたら、ノックをしてターさんが入って来た。普通ノックをして、返事を待ってからドアを開くべきだと思うのだが・・知識が中途半端のようだ。


「シノ用の<自己結界>を作った、其方以前に野営に使えたら便利だと言っていただろう?」

「ええーー、それは凄い!これで雨が降っても、風が吹いても不快では有りませんね。」


普通の結界でも風雨は除けられるが、周囲が惨憺な状態になっているのは見える訳だ、落ち着いて休めるものでは無い。横になって3分でバタンキュ~の詩乃だって、流石に野営ではそんなにぐっすり眠れはしない。・・・昔<旅の不仲間>をしていた時に眠れたのは、やはりターさんが傍に居た為であろうか?プウ略は関係ない、断じて関係は無い。


「これは、何人くらい入れるんですか?」


ターさんはムスッとして、其方だけに決まっている。他の者は入れない、駄目だ許さん・・とかブツブツ言っている。


「子供や病人は入れてあげたいし・・。」

「駄目だ、結界で十分だろう・・・それの中に入れるのは。」


ターサンがフワッと魔術を展開すると、美しい花々が咲き誇った結界内に2人で立っていた。

そうですか、入れるのはターさんだけなんですね?・・モルちゃんは?


「中も素敵ですね~~。わぁ、ベットも有るキングサイズだ~。」


フカフカ~~と、喜んで~~ベットを押し押ししている詩乃に


「使ってみるか?」


と、色気駄々洩れにして、ターさんが微笑んで近づいて来た。

笑うのを見るのは3回めですが・・・そんなに嬉しいのかい?










      ******



そうして出発の朝、珍しい事にターさんは見送りに玄関まで来てくれた。


「奥様、ご無事でお早いお帰りを、使用人一同お待ち申し上げております。」

「有難う、夫を頼みますね。」


一通りのセレモニーを済ますと、ターさんに行ってきますと改めて挨拶をする。


「シノ、頑張り過ぎて無茶をするな。困ったら早めに私を呼べ、何が有ってもすぐに駆け付ける。」


ふんわり抱き締められて、御凸に口付けを落とされる。

もう!みんなが見ている前で!!

一度ギュッと抱き着いてから、待っていてくれたモルちゃんにヒラリと飛び乗る。


「詩乃、行きまーーーす!!」









あっという間に小さく見えなくなっていく奥様に、執事は主の心を慮って声を小さく掛ける。


「宜しいのですか、行かせてしまわれて・・。」

「あれは閉じ込めておけるようなタマじゃない、澱む水は腐るものだ。」


そう言うと、主である魔術師長は屋敷の中に戻って行った。





<マグデンス>は軍では無いので、出発式の様な面倒なセレモニーは無い、むしろ時は金なりで無駄な時間を使うのを嫌う。今ももう上空には<マグデンス>の面々が飛んでいて、プウ略の実家の伯爵領に向かう風を読む為に感覚を研ぎ澄ませている所だ。

風を読むのが上手いのは野生のカンが鋭いニーゴさんと、ハーフエルフのエフルだ・・詩乃達は彼らの後に続けば間違いがない。


「西の方は初めてだね、しかも内陸なんだって?」

「湖が多くて綺麗な所らしいが、魔獣が住み着いて難儀しているそうだ。」

「軍が討伐すれば良いんじゃねぇの?そのくらいやれよなあぁ~。」

「肉が無くなる。」


文句を言いつつも、自信が溢れている面構えの隊員だ・・・頼もしい。


「さぁ、今回も希望の<新しい種>を撒きに行こう!子供達の笑顔の為に!」


・ふふ・・。

まぁな・・。

ふぅえ~い~。

・・・ん・。





この時、詩乃の内に<新しい種>が芽生えた事を、感じたのはモルちゃんだけだった。

詩乃さえも気付かない、小さな小さなコアが・・・。








<新しい種>が、可愛らしい女の子となって誕生し、王子達やソルやイグニスを巻き込んで、<別の物語り>を紡ぎ出すのは、まだまだ先のお話だ・・・。

親馬鹿の魔術師長を倒すのは誰だろう・・・乞うご期待だ(笑)。


長い間お付き合いいただき、有難う御座いました。

婆・・感涙です。感謝の気持ちは活動報告に乗せますので、よろしければお読みくださいませ。

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