新しい種~1
「マルウム子爵から連絡?どなた様だったっけ?」
河馬公爵の領地の復興作業も終わり、久々にランパールの自宅で寛ぎながら8ちゃんの蔵書を呼んでいた詩乃の所に、テレビ電話の劣化版みたいな魔術具で<緊急に>と連絡が入った。
柴犬風執事さんは微笑んで
「トデリの領主様ですよ。」
と教えてくれた、そう言えばそんな名前だったかな?珍しいな何の用だろう、そう思いながら詩乃は魔術具に向き合った(パソコンくらいの大きさかな、執事さんが抱えて持っている。)。
「シ~ノン様、御休みの所申し訳ない。」
「いえいえ、退屈していた所だったんですよ~(8ちゃんの蔵書は、あちらで言うところのR15くらいの刺激なので、腐敗の進んでいる詩乃には少々物足りない感じなのだ。)どうしました?パガイさんにでも虐められましたか。」
詩乃の軽口に情けない笑顔で笑う子爵様、何だか深刻そうな感じだねぇ。
「6歳になる息子が、私より魔力が強くてね・・・制御の方法を上手く教えられなくて困っているんだ。それでシ~ノン様の事を思い出してね。」
「様はやめて下さいよ~柄じゃないんで。
それはご心配ですね・・どうします?ここランパールまで来て、家にホームステイをしながらターさんに制御の方法を習いますか?冬になると行き来が難しくなるから、春まで滞在する事になると思いますけど・・息子さんはそれで大丈夫かな?
ご両親が王都に居るなら、時々見に来てもらえれば、息子さんも安心するかもしれませんね。」
「そうして貰えると凄く助かるよ・・息子が悪気無く友達を怪我させてしまってね、随分落ち込んでいるんだ。自分の事が怖いと泣くしね・・・どうしてやれば良いか途方に暮れてしまってね。」
「それは可哀想に、お優しいお子さんなんでしょうね。
大丈夫ですよ、此処には腕利きの魔術師が居ますし(自分の家を全壊させた男だしね。)ああ見えて子供の扱いが上手い(子供は正直で、言葉が解りやすいからね。)んですよ。世話好きなメイドさんも沢山いるし、心配しないで預けて下さってOKですよ。」
「有難う、他に頼る所も無いしね助かったよ。
・・甘えついでで悪いんだが、もう一人お願いできるかな?
平民の子なんだが・・・母親が未亡人になって親子でトデリに戻って来てね、その息子さんが亡くなった貴族の血を引く父親に似たのか魔力が強い質てね。このまま魔力を制御できないと、平民に混じって暮らしていけそうも無いんだよ。着の身着のままでトデリに逃げ帰って来た親子なんで、いろいろと複雑な事情も有りそうなんだがね・・その子は貴族を凄く嫌っていて、このまま平民として暮らす事を望んでいるんだ。その子のお母さんは、今はオイ君の父親と再婚していてオイ君の家に住んでいる。下の妹ちゃんと一緒にね、随分懐いていて引き離すのも可哀想で。」
『ほえぇ~~、トデリも変化が有るねぇ。そう言えばオイの上の妹ちゃんは、旧詩乃の家で手芸用品のお店を始めたってパガイさんが言っていたっけ。』
「解りました、その子も引き受けますよ。貴族の屋敷に行くけど、怖くない家だからと、良く言い含めて連れて来て下さいね。」
まぁ、そんなこんなの連絡が終わり・・3日後には6歳の男の子が2人、我が家にホームステイに来ることに成ったのだ。
しかし・・・何処から情報が漏れたのか、なんと【うちの子もお願い(うふふ)】と、聖女様からも申し込みが来たのだ。
何だか王様(あの➁のボケが)かなり強権を使って改革を断行した為に、今年の冬の社交界はきな臭い感じになりそうで、危険が危ないから王子2人を疎開させたいと言う。
【魔術師長夫妻は変人なので、社交界に出てこなくても誰も不思議に思わないし、ラチャターニーは最強の盾なので安心して預けられるわ。】
と言う事だ・・そう簡単にやられる御仁達でもあるまいが、子供に見せたくない事でも起きるのであろうか?くわばらくわばら。
「他の子と同じに扱いますよ、王子様だからって一切手加減や甘やかしはしませんからね。メイドや侍従は此方にもいますから、面倒が起きるから付けて寄越さないで下さいね。うちの使用人はみんな獣人ですからね、舐め腐るとお尻ぺんぺんですからね。」
委任状を一筆書かせて、5歳と4歳(年子かよ!がっついたな➁)の、やんごとなきお子様までお預かりする事になりました・・・気が重い。
それだけでも気が重かったのに
「義姉上ーー!遊びに来ましたーー!」
バンメトート侯爵家の3男坊が、単身魔術陣を起動して転移し(結構凄い事)、勝手に遊びに来やがりました。
8・6・5・5・4歳のダンスィ~ですよ?これは制御出来る気がしないね。
とりあえず・・美味い肉でも食べさせておけば良いかな?
その晩➁から
「俺の息子達だ、心して丁寧に扱えよ、解っているのか貴様~~~。」
と、魔術具で連絡が来たのでガチャ切りしてやりましたよ。
あんなウザくてアホな➁でも、お父さんしているんだなぁ~~と、少しは見直していたんだけど。旧王妃様・・名付けてQ様が言う事には、聖女様の<愛>を取り合って、幼児の息子2人と張り合っているんだそうだ、情けない・・とっても情けないぞ➁よ。
因みに引退したQ様は、単身(旧王様は、面倒だから王宮に置いて来ちゃった・・えへへ、だそうです。)ランパールに拠点を移して、バリバリと商売に励んでおられるのだった。パガイさんの悲鳴が聞こえる様だ・・・頑張れ~~生きろ!!
考えてみれば・・王子達2人は、お婆様であるQ様の所で預かれば良いんじゃね?そうご注進申し上げたのだが。育てた王子2人がアレだったので、自分は育児には向いていないと思う・・そう言って逃げられた。ズルい・・・。
*****
「今日から<春の女神のお祭り>が終わるまで、一緒に暮らしながら魔術の勉強をする事になりました。みんな仲良く勉強したり遊んだりしましょうね。」
屋敷のホールで5人の子供達を前に、先生面して詩乃が話している。
どの子もきちんと教育されている様で、大人しく姿勢よく椅子に座って私語も無い。➁の子供時代とえらい違いではなかろうか?
「此処では身分の違いや、大人の都合だからだなんて面倒な決まり事は一切有りません。皆、同じに過ごしてもらいます、良いですね~。嫌だと言うなら、今すぐお家に帰りなさい・・・。」
子供達は神妙な顔で黙って座っている。
「宜しい、ではまず初めに・・皆にコードネームを付け合って貰います。名前を伏せていた方が良い子もいるからね、此処ではその名前で呼び合って下さい。ちなみにお姉さんの事はシーちゃんと読んで下さいね。では・・・其処の君、この子にネームを付けてみて。」
お姉さん?シーちゃん?
ぴちぴちのお肌の眉間に、無理やり皺を寄せて考え込んでいる子供達・・そこはサラッと聞き流せると大人の階段を一歩登った事になるよ。
トデリの子爵様の所から来た平民の子に、バンメトートの3男坊のネームを付けるように促す。平民の子は大人しい子で、寡黙で滅多に喋らないと聞いていたが、あえて無視して指名してみた。
「・・・・・・・・ソル。」
「ソル(太陽)ね、強そうでカッコいいね、何でそう決めたの?」
「髪の色が・・・凄く綺麗だったから。」
3男坊の顔が一瞬固まった、銀髪・青目が尊ばれるバンメトート家の中で、赤身の強い金髪は彼にとっては嬉しい物では無かったのだろう。
・・・しかし彼はヘニャァと笑って。
「綺麗か俺の髪の色・・気に入った、俺の事はソルって呼んでくれ。」
晴れ晴れと笑って喜んでいた、髪の色なんてバンメトート家から一歩外に出てしまえば、大した話でも無かろうよ。生まれ持った自分の色を好きになって、正々堂々と生きて行ってほしいものだ。
「ではソル君、この子は何が良いかな?」
「こいつは・・火の魔力を強く感じる、だからイグニスが良いと思う。」
子爵の息子さんは息をヒュッと吸い込んだ、彼は火の魔術を暴発させて友達にやけどを負わせてしまったと言う・・・トラウマになっている最中なのだ。
息子さんの前にしゃがみ込んで、目を覗き込んで話す。
「大丈夫。強い魔力をコントロールする術を覚えたら、それは君の強い味方となって、君や君の周りの人を守る事が出来る素晴らしい力になるんだよ。その為に勉強しに来たんでしょ、頑張って覚えましようね。」
半分涙目だったが
「はい・・・頑張ります。僕はイグニスです。」
と、答えてくれた・・・・『良い子じゃぁ~~~~。』
そんなこんなで・・・
平民の子は目が水色なので<アクア>。
➀王子は光の魔力が強そうなので<ルクス>
➁王子は土の魔力で<テラ>と名付けられた。
小さな子供達に個室は必要ないだろうとの事で、屋敷にあるホールをパーテンションで仕切り、それぞれベットと洋服箪笥を設置した。勉強はね、隣の小ホールに大きな机をドーンと置いて、其処で各自する事になっている。
➁王は王子達のカリキュラムを寄越して、勉強に遅れが出ない様にせよ・・・とか指令を出して来たが。5歳と4歳に何を学ばせると言うのか、アホらしい・・小さなうちは好奇心の赴くまま、色々な事に触れて、見て感じて、興味の幅を広げた方が良いだろうにさぁ。
寄越された書類は早々にカッポって、詩乃さん流にやらせて貰おう。
今日はターさんは仕事で帰りが遅いからね、今日の所は・・遊び倒そうかな?
詩乃は玄関先の馬車道の所に<空の魔石>で巨大なバルーン・・(あれだ、イベントなんかで子供が遊ぶ、トランポリンみたいに跳ねるやつだ。)を造り出した。
「子供の内に体幹を鍛えるのは良い事だからね、この上で跳ねてごらん。真っすぐ上に飛び上がるんだ、出来るかな?なかなか難しいものだよ。」
みんな恐るおそる飛び跳ね出したが、よろめいたり、尻餅を付いたり上手く行かない。どれどれ、見本を見せてやるかい・・・詩乃は大人げなく、トーーントーーンと垂直に高く弾んで見せた。近所の大きな公園に有ったのですよ、こんな遊具が・・・雲のなんちゃら・・とか名前が付いていた様な気がする。
「体の中心を支える筋肉がしっかりすると、軸がぶれなくなるからね、剣の鍛錬やドラゴンに乗る時に役に立つのさ。」
「ドラゴンに!」
ソルが食いついて来た、そう言えばこの子はドラゴンの騎士になりたいと言っていたっけな。
それでも、まぁ10分も飛んでいれば、クタクタになって、気持ちも悪くなるものだ・・・そのうち慣れるよ頑張り給え。
汗をかいたら着替えて、皆でそろって洗濯だ。
結界で大きな盥を作って、お湯を溜め<アワアワの実>を入れて、皆でパンイチになってフミフミする。平民のアクアは慣れた作業だろうが、他の貴族のお坊ちゃま達は初めての体験で、泡が面白いのかキャーキャーと楽しんでいる。そのうち興が乗ったのか、泡の投げっこや擦り付け合いを始めた・・・最後には揃って<目が~~目が~~>と喚いている。泡が目に入ったようだ、お湯を頭の上から滝の様に流して泡を落としていく・・ついでに体も洗うと良いよ~。
これは後片付けが大変そうだ・・・シスターズがウンザリ顔で見ているが、8ちゃんだけは目をキラキラさせて鑑賞している・・ペドはいかんよペドは?
身体を拭いて、着替えるともうお昼の時間だ。
皆揃って頂きますだ、王子達は聖女様と<いただきます>をしていたのだろう、何の抵抗も無く挨拶をしていた・・・他の子達にはその由来を説明する。体を動かしたので、スッキリしたのかみんな食欲も良い感じで、このところ食欲が落ちて、心配していたと言う子爵様の息子さんもパクパクと食べてくれた。
食後は歯磨きをしてお昼寝です、眠く無かったら横になっているだけでも良いからね、お喋りしないで静かにしている事。
4歳5歳はすぐに寝落ちして、ただ一人年が離れている兄貴分のソルは・・・それでも5分も経たないうちにクウクウと寝息をかいていた。
そ~っと、その様子を見て安心していたら、メイド長さんが傍に来ていた。
「すいませんでしたね、もう洗濯はやらせませんから。自分の着ている服が、どうやって綺麗になっているのか知って欲しかっただけですから。」
「そんな事を学ばせようと思う貴族様は、シュノ様の他はおられませんねぇ。ほほほ。」
メイド長はニコニコと笑いながら
「子供は可愛いでしょう?ご自分の子供なら、なおさら可愛いものですよ。」
『キターーー、謎のプレッシャー!!』
何でだかメイド長さんは、その手の催促?圧力?をしきりに詩乃に掛けて来るので困惑してしまうのだ。詩乃がもういい歳をしているのに、仕事ばかりしていて、屋敷を空けてばかりいるので気がかりなのだろう。何たって異世界は早婚で、20歳過ぎれば子供の2人や3人いるのが平民ではあたりまえの事だからなぁ・・。
そうですねぇ~~うふふ・あはは・・と笑いながらその場をそ~~っと離脱する、思わぬところに姑さんがいた様だ、こう言うのはマタハラとか言うんだっけ?
「午後は何をしようかな、リバーシとトランプ大会で良いかな?」
そうして平和に過ごしていたのだが・・。
3時のお茶休憩の時に、詩乃が<デイジーさんが、井戸にお皿を落として1枚・・2枚・・・。>と数えるお話をして脅かしたら、盛大に泣かれて慌てたでござるよ。
・・・狼族の子供達の様に、怒って齧っては来なかったが。
大きなおメメに涙が溜まって・・・ご馳走様でしたぁ。
「お前・・・俺の息子達を泣かせたんだってな・・・。」
夜に➁王から苦情が入った・・・なんでばれたし?
子供は・・・忍耐力養成ギプス( 一一)だと思います。
次話・・・今度こそ最終回です~~(*´Д`)。