耕す人
胸糞悪い話です・・・閲覧注意です(´Д`)。
「さぁ、ゲームを始めようではないか。」
プマタシアンタルがこのセリフを、父上から聞いたのは2度目だった。
1度目は8歳の頃だったか、良く覚えてはいないが・・・国の魔力検査を受ける前ぐらいだったように思う。
思えば・・自分の父上は変わった人物だと(現在進行形で)思う、魔力が強い子供を産ませるのが一族の繁栄の元だと言い張り、正妻のプマ略の母親(故人)の他、没落貴族の娘や、魔力が強めだと言うA級平民の娘まで・・・手当たり次第に屋敷に連れ込み、無理矢理子供を産ませていった<強姦魔+種馬>の様な人物なのだ・・故に兄弟姉妹は何人いるのか見当も付かない。
王都の屋敷近くに住む平民達は、娘が生まれると隠れて引っ越して行ったそうだし、あの屋敷の連れ込まれると地獄を見ると噂されていたと・・・後に軍の同僚に聞いた時には成程なぁと思ったものだった。
そんな屋敷だから、女の泣き声など四六時中響いていたし、逃げ出す者や、自害したり、病を得て儚くなる者は後を絶たなかった。
ちびプマ自身はまだ幼かったし、感覚も感情も麻痺していたので、特に何も感じずに過ごしていた様に思う。兄弟は増えたり減ったり・・・出来の悪い者は、母子共々僅かな手当を持たされて屋敷を追い出されて行った。
畑が悪いのだと父上は女を責めていた様だが、父上の魔力も誇れるような強さでは無かった様に感じる。むしろ祖父の隔世遺伝を受けた、ちびプマやちびジャンビの魔力の方が強めだったようだ、そのせいで父上は余計な夢を抱いたのかも知れないが・・・。
毎月の初めには魔力検査と学習の効果測定・剣の模擬試合が有り、成績が振るわないと食事の量を減らされ、補習や特訓を受けさせられた。
『詩乃が聞いたら、何その虎の穴みたいな場所は!』と驚く事だろう。
ちびプマは魔力の強さと剣の腕で、辛うじて下位グループに残されていた。
彼は感情の薄い、喜怒哀楽が無い(この環境で喜が有れば不思議なものだが)可愛げの無い子供だったと自覚している。また、彼には同腹の年上の姉がいた様だが、魔力が少ない為に父上の合格ラインから脱落し、<王宮>のメイドでもする様にと屋敷を出されていたそうだ。
今日呼び出された片割れ、年子の<ジャンビ>は、魔力が強く、学習の出来も良く、剣の腕も優秀だったが・・・ある日突然魔力が使えなくなり、自分から志して<神殿>へと去って行った男だった。
<ジャンビ>が魔力を使えなくなったのは、父親が若い女を魔力で折檻している所を見てしまった事が大きいと、彼を診断した医者が言っていた。心的外傷になったのだろう・・・。
「お子様は、お優しい性格なのでしょう。」
しかし・・診断した医者の言葉に
「そんな腑抜けた奴は、我が一族にはいらん。」
その一言で<ジャンビ>は屋敷から追い出されて・・いや、今思うと自ら魔力を封印して、自分の意志で屋敷を出て行ったのだろう。
ちびプマはちびジャンビが出た行った日の事をよく覚えている、裏庭で一人剣の素振りをしていた時だ、僅かな荷物を抱え使用人が使う裏口から出て来たのだ。見送る者も無く・・ちびジャンビはちびプマの横を素通りして、目を合わす事も無く・・裏門から一人出て行ったのだった・・僅か7歳の子供がである・・。
そうして、あれやこれやあって・・子供が10人を切った頃
「さぁ、ゲームを始めようではないか」
と、父親が言い出したのだ。
子供達は1人ずつ父上の<書斎>に呼ばれて、<指令>を受けた・・・それは何やら面倒臭いものだった。やれ3男を孤立させろとか、2男と組んでグループを作り長男を排斥せよとか・・・およそ脳筋なちびプマには、理解の範疇を超えたモノだった。
・・・ので、何もしなかった。
兄弟達からは、妙に優しくされたり、因縁を付けられたり・・・階段から突き落とされそうになったりと、なかなかハードな目に合ったのだが。其処は脳筋なので深く考えることも無く、淡々と過ごしていたら・・・父上から不合格の烙印を押されて、屋敷からの退去命令が下されたのであった。
理由は・・頭の悪い奴は伯爵家には必要ない・・との事だった様に思う。
伯爵家には何の未練も無かったが、行くところも無いし・・軍の下働きでもすれば良いか?と考えて居た所に、王宮にメイド長(出世していたらしい)になっていた年の離れた姉から<➁王子の付き人にならないか>と打診が来たのだ。
何でも➁王子は、母親の元を離され、意地悪な王妃様監視の元、王宮で窮屈な暮らしをしているせいかなのか、手が付けられないほどの我儘者で、高位の貴族の子弟を付き人に据えてもすぐに逃亡されてしまうらしい。
「取り敢えず1度会ってみたらどうかしら。」
との事で王宮の後宮と言う場所に案内された、其処は華やかな装飾は有るが・・・子供の目線では、何も無いつまらない所だった様に思う。
肝心のちび➁王子は我儘を言ったせいで叱られて、1人部屋の隅の壁の前に座らせられている所だった。膝を抱えて指の爪を齧って、体を小刻みに揺らしながら・・・不機嫌を背中一杯に体現している小さな➁王子。ちびプマが黙って様子を見ていると、人の気配に気づいたちび➁王子が力一杯振り返って
「わたちを ひちょりに ちゅるなぁ!!」
と喚いたのだった。
「いちゅでも わたちのちょばにいて わたちを~~~~おこりゃすなぁ!!」
と涙と鼻水を流しながら、ちびプマに命令して来た。
脳筋なちびプマは考えた、
「私は王子様を1人にする事無く、いつでも傍に居て、怒らせなければ良いのですね?」
「ちょうだっ!」
・・そんな事なら、父上の訳の解らない<命令>よりも余程簡単だ。
ちびプマは➁王子に騎士の誓いの真似事をし、以来影法師の様に王子の傍を離れないで暮らして来た。もう20年以上の付き合いになって、目の前にいる老いさらばえた男より、はるかに長い時間を共に過ごして来た事になる。
「ゲームに勝った者には、この伯爵領のすべてを与えよう。」
誇らしげに伯爵領を語るが、近年の魔獣の侵攻で領内は荒れ果て、領民は近辺の領地へと逃散し、負の遺産としか言えない代物だ・・ただでくれてやると言われても断りたい。
「ゲームの内容は・・。」
「必要ありません、私は放棄します。貴方の残す全ての物を、受け取る覚悟も有りませんから。」
プウ略が断りを入れる前に、ジャンビに先を越されてしまった。
ジャンビは頭が回るから、プウ略が考えて居る前に話し出してしまう・・・思えば伯爵に見切りをつけて屋敷から去って行ったのもジャンビの方が早かった。
伯爵が残す遺産は、荒れ果てた領地だけではなく・・命を絶った女子供の怨嗟の念や、幾らいるか解らない兄弟など、人の恨み辛みの怨念を具現化したようなモノなのだろう。
「情けない男だ、貴様は昔からそうだった・・・気持ちが弱く、人の上に立とうとはしない、そんなだから・・・」
伯爵の説教は続くが、ジャンビは気にする様子も無く静かに座っているだけだ。魔獣との戦いの最前線で<虎の目部隊>を指揮をするこの男に、気持ちが弱いも無いだろうが・・・。
「伯爵、私も放棄します・・・この領地はもう駄目だ、私の手には負えない。領地を国に返還するのなら、復興顧問として<マグデンス>の派遣も検討しましょう。」
「何を言う・・お前まで、この父を裏切るのか!」
プウ略は深いため息を吐くと、周囲を見渡した・・前から陰気臭い屋敷だと思っていたが、これほどだったとは・・・。領民も減り収入も無くなった為か、使用人なども立ち去って行ったようだ・・今この屋敷に残っているのは、精神を病んでしまった兄弟と、伯爵の手下として美味い思いをしてきた古参の使用人達だけである。広いだけが取り柄の屋敷に人気は無く、幽霊屋敷そのものの空気を醸し出している。
「これで失礼する、貴方が生きている内はもう御会いする事も無いでしょう。」
「待て、行くのは許さないぞ!父親の言う事が聞けないのか!父親を見捨てるつもりか!」
何やら騒いでいるが、足を止めることなくサッサと歩き出した。
見捨てるも何も、先に不必要だと屋敷を追い出したのは父上の方ではないか。杖を突いて追いすがって来る、狂気を目に孕んだ気持ちの悪い老人に・・・吐き気を堪えて転移した。
伯爵の屋敷は王都の外れにある、自らの行いを隠す為に、あえて人気の少ない場所を選んだようだ。空中に浮いて、ただ静かに屋敷を眺めていたら、いつの間にかジャンビが隣に佇んでいた。
「私はね、あの人の血がこの身に流れていると思うと、血を流して抜いてしまいたくなるのですよ。」
物騒な事を話し出した・・・別に血だけでは無かろう受け継いだのは。
「あの人の様には成るまいと・・・そう思って生きて来たのに、結局私は一人の女性を踏みにじり、犠牲に捧げる事で、理想を成し遂げようとしてしまった・・。」
➀王子と組んで聖女を操り、クーデターを起こそうと画策していた事を言っているらしい。結局未遂に終わった事件だったが、陰謀を暴いて言い逃れ出来ない証拠を突き付けたのは聖女とそのオマケの小娘だった。あれからだろうか・・・異世界の女どもに頭が上がらなくなったのは。
「毒親。」
ジャンビにチラッと視線を向けると
「毒親と異世界では言うそうだ・・・子供の人生を支配し・害を及ぼす親の事を言うらしい。この前オマケの小娘がそう言っていた。」
「あの子がですか・・・。」
「・・・ぶん殴ってやれ・・・そうも言っていた。」
まるで接点の無かった、多分これからも無いであろう腹違いの兄弟は、顔を見合わせると愉快そうに声を上げて笑った。
「領地経営の能力が無いと判断し、国に返還する手続きをしておく。ガタガタぬかすだろうが、山奥の一軒家にでも放り込んでおけば良いだろう。」
詩乃達の<マグデンス>が領地復興の光の部分なら、プマタシアンタルは闇の部分で<復興顧問>の仕事をしていた。
領地経営の能力がない・領民を不当に虐待している等と王から判断が下された場合、そこの領主一族を強制的に排除・幽閉・裁判にかけるなど、強権的な政策の実行責任者をしているのである。貴族からしたら恐怖政治に他ならない様で、その手先のプマタシアンタルは<王の狂犬>と呼ばれ恐れられている。
「手を汚さなければ生きて行けない人生なら、俺は尊敬できる主に仕えたいのだ。」
「それは・・王ですか、王妃ですか?」
プマ略は何も答えず、ただ苦笑いを残して転移していった。
聖女様はランケシが豊かな、温かい心を持つ国になる様にと・・・今、その<種>を撒いている最中なのだろう。それならば、私やプマタシアンタルは<種>を撒く前の畑から、雑草や石など不要なモノを取り除く<耕す人>となるべきなのだ。
手を汚し、体が傷つき曲がり果てても・・・幸せの<種>が消えてなくならない様に、健やかに育ち、空を覆う大木となる様にと・・・余分なモノは排除していかなければならない。
それが小さかったあの日、目の前で苦しんでいた・・多くの女の人に対する贖罪となれば良いが・・と願いながら。
ジャンビは<虎の目部隊>へと帰って行った。
後日・・・。
「え~?プウ略の実家の復興作業?何で?自分でやれば良いじゃん。」
詩乃はそう思ったが、自分の地元だとやりにくい事も有るのだろう・・とシャルワに言われて・・・そんなものなのか?と思った。
プウ略からの命令書には
「思う存分にやれ。」
・・ただ、それだけが書かれていたが・・お前がな・・そう思ったのは無理からぬ事だろう。
<ちょうだ>が気に入っています( *´艸`)。