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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
122/126

撒く種が清い物とは限らない

「復興請負業者<マグデンス>の代表、詩乃です・・ヨロシクね。」


ブスッと押し黙った11人の男達は、挨拶も返すことなく不穏なオ~ラを撒き散らしている。


「先に言っておくけど<マグデンス>の隊員は、全員ドラゴンの絆持ちだから、喧嘩はしない方が良いよ?隊員は兎も角、ドラゴンが怒るからね・・・まぁ、プウを殴っても黒さんは怒らないとは思うけどね。」


苦り切った顔で

「余計な事を言うな。」

と話すプウ・・・あんた仕事にかまけて、この頃黒さんに挨拶していないだろう?そろそろ本気でヤバいと思うよ、モルちゃん達のお世話係のラセンさんが、黒さんに急接近・・黒さんも悪い気はしない様で、この頃よく連れ立って作業している。


「この者達は公爵家に列なる者で、あの公爵と血縁関係にある者もいる・・母親はA級平民だがな。」


ご本人様達の前で、心温まるご紹介有難うございます・・・って?!


「あの公爵ってエライ爺じゃないの、なんちゅう絶倫・エロ爺!!いくつの時の子なんだい、全く異世界って奴は、乱れていて言葉も出ないよ。」


お前、言葉を慎め・・・プウはそう言って怒るけど、誰に向かって言葉を慎めば良いのかい?

詩乃が怒っていると、男の1人が自虐的に解説してくれた。

貴族は対立し合っていて、いつ何時寝首を掻かれるか解らない。

だから身の周りに裏切らない血縁者を置いて、常に攻撃から身を守っているんだそうだ。たとえ大事に扱われなくても、親は親だから仕方が無い・・と、逆らう事も出来ずに<庶子>達は言う事を聞いて過ごしているのだと言う。


「何それ、訳わかんない?さっさと裏切ればいいじゃん。」


心の底から不思議そうに詩乃は言う・・

「だって父親らしい事は何もしていないし、あんた達の母親の事だって、大事にもしていないでしょう?権力や金にモノを言わせて、無理矢理子供を産ませるような事をして、ただの助平な糞爺じゃん。何その毒親・・ぶん殴ってやりたい、いや・・むしろぶん殴れ。」


「お前・・仮にも父親に対してその態度は何だ。」

「家のお父さんは浮気なんかしないもん、ちょっとマイペースだったけど毒親では無かったね。」


詩乃は毒親に詳しかった・・・例の<一人山村留学>事件の後、学校で事の顛末を愚痴ったら<意識高い系の茉莉ちゃん>に、そう言うのは<毒親>って言うんだよ・・・と教えられショックを受けた事があったからだ。家に帰ってさっそくネットで<毒親>を検索したところ、酷い事例が山と出て来て凍り付いた覚えが有る。詩乃の家の場合は、少々自己中っぽい?が・・・暴力や金銭的DVも無いので・・・まぁ、許容範囲じゃ~ないかなぁ・・と結論付けた記憶が有る。


「大体、その<毒親>って何だ?」

プウが、そんな言葉はこの世界には無いとかぬかしやがった。


「毒親はね、子供の人生を支配し、子供に害を及ぼす親の事を言うんだよ。」


詩乃の言葉に其処に居たプウを含む12人全員が息を飲んでいた、思い当たる事が沢山有りそうな顔をしている。人権が無いも同然な世界だもの、子供の権利や気持ちなんか、はなから考えられてはいないのだろう。貴族の方が酷そうだね、<庶子>とか<御妾さん>の存在が有るから。

平民は助け合いながら、仲良くやっている家も多いかな・・たぶんね。

しかし・・・この男達、突っ張っている様で、親に碌な反抗も出来ない様では<盗んだバイクを走らせる>事など出来ない感じではないか。

親に<下剋上>なんて出来ないかな?・・この作戦は不発になるかもね。


「プウもう帰っていいよ、あんたがいると現場の雰囲気が悪くなる。」

「失敗して此方に泣き付いて来るなよ・・こいつらは軍の問題児だ。」

「あらまぁ。」


そう言い残して消え去ったプウだったが、あんた以上の問題児が居るのかい?そんな疑問が残った。




「11人もいるんだ、サッカーが出来るね。」


シノの軽口に返事もしない・・感じ悪ぅ。そんな時には・・・。


「シャルワ~~~、説明お願い~~~。」


頭脳労働は苦手なんです、ここは適材適所と行きたいね。

問題児達をサッサとシャルワに丸投げ(シャルワも、公爵家の情報が欲しんだろうし。ウキウキしながら寄って来た・・変態だ。)して岩の掘削現場に向かう。

今は、山を迂回しながら隣の村まで行くのが面倒臭いので、地下水の流れに沿ってトンネルを掘っている最中なのだ。

何故だかこの頃、体に魔力が溜まっている様な感じがして・・体の奥がムズムズする、派手に魔力をブッ放すとスッキリして気持ちが大変に宜しい。

辛気臭い男達の相手は、これまた辛気臭く、不機嫌顔がデフォのシャルワさんにお任せすれば良いだろう。



午前中あちらこちらを見学させながら、シャルワは今回のミッションの説明に勤めていた様だ、ドラゴン経由で「代表に言いたい事が有るそうだ。」と連絡して来た、ちょうど昼飯時だしご飯を取りながらお話をしようと言う事になった。

・・・因みに、今日の昼ごはんは炊き込みご飯だそうです。



「あぁ~~、お腹空いた~~。」


昼ごはんの食事は、<鬼狼>達を売った領民からの半金で作られている。

<マグデンス>からは、料理に使う<火の魔術具>や<水の魔術具><各種調理器具・食器>などを提供しているから、お相子なのだ・・・木を切り過ぎているからね、燃料の節約の為に<魔術具>を提供している。


「みんな、ご飯の前には<石鹸>で手を洗って、<うがい>もしてね。病気になるのは嫌でしょう?」

「はーい。」


子供達はこの2カ月で栄養を付けたせいか、みんな元気になって肌艶も良い、素直に詩乃に懐いてくれているので大変に可愛らしい、<うがい>も上手になって来た。

工事中だからね埃が凄いのですよ、結界が張れない工事現場で働く村人達は鼻の穴が真っ黒だ。鼻もついでに雪ぐと良いと思うよ、失敗するとキ~~~ンとするけどね。マスクも一応渡してあるけど、それでは間に合わないほどのペースで工事は進んでいる。


汚れた水は一か所に集められて<清浄の魔術具>で、綺麗にしてから排水される・・・いずれはスライムを使った浄化装置も必要だな。お金はいくらあっても足りない、今度は鷲みたいな空飛ぶ魔獣をGetして6男に売り付け様かな・・この前ドラゴン達に因縁をつけて来たから要注意魔獣なんだ。




「お待たせ~、お腹が空いたから食べながらで良いかな?」


両手を合わせて<いただきます>だ。


ムグムグ・・うん、美味しい。生姜を使っているのかな、さわやかな風味が良いアクセントになっている。腹が減っては戦はできぬ、美味しくてモリモリと食べる。


「俺達は、あの公爵が大嫌いなんだ。」

「同感だよ~、アッシも嫌いだ、あの河馬公爵。」


ウンウンと頷く詩乃、彼らは河馬が何かは解らなかったが、かなりの悪口なのは感じた様だ。話の出端を挫かれた様で、代表の脳筋そうな大男はムグゥと押し黙ってしまった・・口ベタらしい。黙っていたら話にならないと、2番手で鬼の副長の様な感じで、青白く死神っぽそうな中肉中背の男が話を引き継いだ。


「俺達はあいつに手を貸す気は無い・・・アイツも、アイツの正妻腹の一族も嫌いだし、俺達とは関係の無い者だと思っている。俺達が軍に身を寄せているのも、アイツの指図を受けたくないからだ。」


ふ~ん?消極的反抗って奴かな・・これが異世界の精一杯なのだろう。


「公爵家の人間関係や勢力図がどうなっているのかは知らないし、興味も無いけど・・・アノ河馬ね・・多分もうすぐ亡くなるよ?王宮の舞踏会で会って絡まれたけど、体から・・面妖な匂いが・・仕事先の修羅場で嗅いだ様な・・・死の匂いがしたもの。」


詩乃の言葉に、またしても唖然とした男達・・・口を閉じたまえよ。

公爵ブラザーズとでも呼ぼうか、全員軍の仕様なのか、同じ髪型で同じ制服なので見分けが付かない、兎シスターズとタメを張っているな。


「せっかく今、こうやって公爵領を立て直しても<河馬男>が亡くなった途端に、公爵家が混乱し領地が荒らされてしまったら困るのさぁ。一族の者達って貴族然として、領地の事なんか気にも掛けない者が多いだろう?だからあんた達が代官でも、責任者にでもなって、公爵家の土地の管理をしてくれたらなぁ・・と思ってさ。」


「それでも、・・・奴らを助ける事になるだろう。」


領民の苦労より、自分達の怨恨の方が大事なのかい?みみっちいね。

「そこは、あんたらのやり方次第だろう・・・あんた達が脳筋で、モノを考えられないピーマン頭なら仕方が無いが。」


ピーマンが何かは解らなかったが、悪口であることは伝わったようだ、気色ばんでいる。


「今回の仕事で、事前に公爵家と取り決めた契約なんだけどさぁ。

魔獣を狩って得た利益の半金は<地元の復興支援>に使う事になっているんだ・・・それでも、公爵家に金を渡せと使いを寄越したよ・・あの河馬は。

だからね、魔獣狩りで儲けた<半金>は、すべて食料とかの現物支給や、復興の為の指導者を呼び寄せる為の代金、給料や出張費に宛てているのさ。河馬に金は絶対に流さない・・・汗も流さないで美味しい思いはさせないよ・・・領民の苦労も知らないで、ほったらかしていた癖に・・絶対許さないから。」


詩乃の身体から殺気が漏れ出し、男達に緊張が走った。


・・・が、炊事場の方から子供が食後のお茶を持って、危なっかしくお盆を揺らしながら、真剣な表情で運んで来るのが見えた。途端に殺気を引っ込めて、子供に嬉しそうに<ありがとう>とお礼を言って受け取っている。ニコニコと笑い合って、随分と此処の村に馴染んでいる様だ。


俺達を呼び出して来た相手は、貴族の奥方と糞上官に聞いていたが、思っていたのと勝手が違う様だ。


お茶を一口すすると、情けない顔をした、どうやら苦かったらしい。

「正妻腹の人間の中でも、扱いやすくて調子に乗りやすい、そんな御人はいないかえ?適当におだてて御輿に担いで、いい塩梅のところで引っ込んで貰える様な・・・そんな御人は?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いる・・・・・・。


死神男が腕組をして、三白眼を更に物騒にして話し出した。


「後妻の3男で、魔力もたいして強い方でも無く、頭の出来が残念な男がいる・・・他の兄弟と比べられて、不満の塊で・客観性が乏しく・自己評価だけは異常に高い・・・そんな男だ・・・いまは、確か16歳だったか。」


『いやぁあぁ~~、この人悪い顔してるぅ。』

「まぁ、そっちの話はアンタらの領分だから任せるよ、好きにやれば良いさ。

その代わり領地の復興は<マグデンス>に任せて貰って構わないから、夜のミーティングの時には、これから復興していく村の順番とその計画、買収して<マグデンス>が手に入れる土地の話でもするよ。」


「土地の買収?」


「領民に逃げられて、荒廃した領地がいくつかある。傘下の下位の貴族の土地だけどね、幾つか集めて魔獣の保護地区にして人間と魔獣の住み分けをしようと思っている。・・・魔獣も狩れば<素材>が採れる資源だからね。失くしてしまうのもね・・ザンボアンガの例を考えると得策とは思えないんでね。」


あぁ、それから・・・立ち上がって数歩進んだ詩乃が振り返って話し出した。


「もし公爵家の中に<人質>の様に扱われている縁者がいるなら、強力な<結界と身隠しの術>を混ぜた魔術具を渡す事は出来るよ・・ただし、相応の対価は頂くけど。」


男達のオ~ラが、ザワッと蠢いた・・・やっぱり、母親とか弟妹とかを人質同然に囲われているのだろう。


「対価・・とは何だ、何を要求するつもりだ。」


だから~死神さんは顔が怖いって・・・・

「たいした要求では無いよ、もし領地の管理を引き受けてくれるのなら、あんた達の親父の公爵の様に弱い者虐めなどせずに、領民に寄り添い、つくす事を<契約のメダル>に誓って貰う・・・それだけだ。」


意外な申し出だったのか、みんな驚いて固まっている。

夜のミーティングまでに考えて返事を貰えれば良いから、そう言うと詩乃は持ち場に去って行った。


『人を疑うようで悪いけどさぁ事・・・今まで虐められていた人間が、急に立場が変わって強い側に立つと、突然いじめっ子に変身する事も・・・たまには有る様だからさぁ。』

詩乃の同級生でそんな子もいたように思う、虐めたり虐められたり・・・小学生の頃って案外サファリパーク状態だった様な気もするな、社会性がまだ育つ前だからかも知れないが。


領民の今後を思うと、安全装置は多いほど良い・・・難しい話では無いはずだ、トデリの子爵様みたいに生活すれば良いだけだし。



『嫌な話を聞いて、気分がクサクサする。此処は一丁、派手に行きますか。』


「領民の為なら~~どっこい~~しょ~~~ぉ。」


ドカーンと派手な音を響かせて、トンネルが掘り進められて行く・・・長さは精々3キロだ。日本坂トンネルやアクアラインの偉大さをヒシヒシと感じるね。


ドカーン・・・ドカーーーン・・・・・ドッカンカンーーーン

重低音の3連発、絶好調でぃ!!





「あの女は、いったい何者なのだ・・・・。」


11人の男達は、呆然と詩乃の働きぶりを見ている。


「何者って・・・彼女が有名な平民の味方で弱者の救世主、聖女様のオマケ様だよ。女性にして初めてドラゴンと絆を結び、海外の敵をビビらせ、俺達復興請負業者<マグデンス>の代表を務めていて・・かの有名な魔術師長様の・・・新妻(ここだけ面白くなさそうにボソッと話す)だ。」


まだ昼飯を食べていたムウアが、ご親切にも解説をして差し上げる・・・ムウア、もうお代わりはせずに持ち場に戻れ。どうもムウアは妹ラブの属性でもあるのか、詩乃が結婚して面白く無いようだ。面白く無い隊員は多いみたいだが・・彼らの勘違いだろう。


「しかし、聖女は黒目・黒髪で・・・オマケも・・・。」


無理も無い、昨今の詩乃のお気に入りのスタイルと言えば。

上下の迷彩服に、水色のキャップの上にヘルメット、サングラスを掛けての・・・すっかりPKOファッションで決めているのだから。

髪も目の色も見えるはずも無く、カリスマも感じさせず・・・正しく詩乃であったから、男達には舐められていたのだろう。


ユトリは形から入るんです~~~っ。悪かったね~~~。



「そぉれ。それ、それ・・・どっこいしょぉおお~~~~~。」

       ドッカーーーーーンッ!!

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