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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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春の女神の祭り

詩乃さん、ついに人妻に( *´艸`)。

貴族の<春の女神の祭り>は大変につまらない。


神殿に集められて、何やら辛気臭い神官の講話を聴きながら、ひたすら神妙に座っているだけだからだ。

その点、庶民の<春の女神の祭り>は良いやね・・・長い冬を乗り切って、また命芽生える春を迎えられた喜びで溢れている。冬の像を火あぶりにしたり、持ち寄ったご馳走を沢山食べたり・・・歌って踊って楽しんで・・・。トデリのお祭りは楽しかったな・・・ピザを焼いて働いていた方がナンボか楽しかったよ。


神官長は昔見た<白い髭のお爺ちゃん>から、世代交代したのか・・<ちょび髭の爺ちゃん>に代わっていた。神殿のホールはもちろん、その昔詩乃が雪かきをしていた平民用の場所ではなく、絢爛豪華なステンドグラス風な装飾が施されたロココ風?の建物で、当然のように照明も魔術具だし空調の魔術も使われていて大変に快適なのは良いのだが・・・つまるところは・・・おねむになるのだった。


詩乃とターさんは、前列の特等席に座らされているので・・(何でだ?)・・派手に船を漕ぐ事も出来ずに意識を保つための戦いを強いられている。指に爪を立てたり、頬っぺたの内側を噛んでみたり・・涙ぐましい努力だね・・・数学や科学の時間を思い出すよ・・内容はサッパリ覚えていないがな。


すーすーすーすー・・いつもより深い息使い・・寝ているなターさんよ。

ターさんは例の<思考の残滓>とやらの、カウンター魔法陣を作る為に3徹していたからね、無理も無いのだが・・・目を開けて寝るなんてその道のプロだねぇ。

(後で聞いたところによると、認識疎外の陣の変形の応用で、目が開いている様に見えているだけで、本当はつぶっていたらしい。ズルい!アッシも使いたかった・・・そうターさんに詰め寄ったが、シノでは椅子から転がり落ちるであろう?と言われてムグゥと押し黙る羽目になった。)


詩乃だって眠いんだぞ・・・結婚式にはお肌を整えなければ・・とか言われて、シスターズに無理やりマッサージされたり、メイド長さんに<閨の心得>とかレクチャーされたしねぇ・・・(知ってます・・もっと凄い事も知っています・・・その一言が言えなくて。)グダグダと長い時間を無駄にしてしまった。こちとら耳だけは大年増の腐った中学生だったんでぃ、本当は8ちゃんなんか土下座する勢いのゾンビ具合だったんだ。


『モルちゃ~~ん、暇~~お助け~~~。』

『大変だねぇ、詩乃ちゃんはじっとしているのが苦手だものねぇ。』


モルちゃんは詩乃の結婚式に間に合わせる様に、魔術具に映り込むであろう半身だけ先に脱皮、変化していたのだった。今はお屋敷で、残りの半分をやっつけている最中なのである。


『マグデンスから、連絡あった?何か欲しい物とか有るかなぁ。』

『ダイプゥさんに聞いてみるね・・・。』


詩乃が密かに<頭の中>で会話して気を紛らわせていると、オオトリなのか聖女様が登場して来た。豪奢な神官服を身に纏い、登場して来るだけで場の雰囲気が清浄なモノへと変わっていく。


『流石だね~~、これは召喚してみたくもなるってものだわ・・・。』


ターさんはかつての思い人に気付く事無く眠っていたが・・・起こしてあげないのは、何も焼き餅を焼いている訳では無い・・・たぶん無い。



    ******



【話は過去に戻って、一昨日の晩の事。】


「詩乃ちゃんおめでとう!あなたもついに結婚するのね。」


聖女様が詩乃の結婚式の為に、王妃領ランパールにやって来た。

到着予定は<朝>のはずだったのだが、聖女様のスケジュールは押しに押されて<真夜中>にやっと到着となっていた。


「わざわざ来て頂き有難う御座います、王太子は随分と反対したでしょう?」

「ふふふ・・・ガタガタ言うなら、神殿に籠るって脅かしてやったわ。」


惚れた弱み・・って奴だろうか、此の先も尻に敷かれる事間違い無しである・・・貴様が選んだ道だ、生きろ王太子。

王太子やプウも一緒に来たがったそうだが、ターさんから<雑多な魔力>が混じるから来るな!と言われていたのだ(ざまぁ)。

何でもカウンターの魔術陣を動かす為には、純粋に<詩乃>の幸福を思い、先細った向こうの絆へと届かせたい・・と願う心(魔力と感情はリンクするのだそうで)が必要だとかで・・・王太子やプウはじめ、王妃様・王様・各種神官、ターさんの両親バンメトート侯爵夫妻の参列は<邪魔になる>とお断りされていた。

詩乃側にもこれと言って呼ぶような参列者も無く、(平民なんかだと、呼ぶとかえって迷惑になるからねぇ。)トデリの子爵様も同様だ・・年度初めまじかの忙しい中、お偉い魔術師長にわざわざ会いたいと思う奴はいないと言う事だ。


結局参列出来たのは、ターさんと詩乃(一応主役だったか・・)、2人と絆を結んでいるドラゴン2頭・・そうして聖女様のみだった。

それでもしつこい王太子は、ランパールまで聖女をエスコートして行くと粘ったようだったが、半径10キロ圏内に入るな!とターさんに言われて撃沈していたっけ・・・愛妻家ストーカーって言うのも大変だね。




「会場はドラゴンハウスとなっております、庭師の一家が頑張ってくれて、花が沢山飾られていて、それらしい雰囲気になっていますよ。お茶もそちらに用意してありますので、着替えて行くまでしばしお待ちください。」

「えぇ、此方の都合でこんな時間になってしまったのですもの、ゆっくりとお支度してね。そうそう、貴方が私の結婚式の時に送ってくれた桜のティアラ、持って来たんだけれど使う?結婚式には借り物を身に付ける習慣もあるでしょう?」

「・・・・そう・・ですね、付けてみて似合いそうだったらお借りします。」


聖女様はメイド長に案内されて、ドラゴンハウス・・・(結界張りの温室の様な物だが)に向かって行った。途中聖女様に星空をお見せするようにと、頼んでおいたから聖女様もこの世界の夜空を楽しまれる事だろう。


詩乃は一人で<空の魔石>で作った白無垢を着付けて行く、お婆ちゃんが時々近所の奥さんや娘さんに無償で着付けしていたので何となく覚えているのだ、綺麗になって行くのが見ていて面白かったので良く見学していたものだ。

帯など派手に結べないので、付け帯式に2つのパーツに分けて造ってある。

・帯は・・脹れたスズメだったっけ?よく解らないが、打掛を着ちゃえば見えないのでOKだ。半襟や裾回しなどチラッと見える裏地には真紅の赤が目立っている、懐に忍ばす懐剣の袋と房飾りも真紅にした。

帯には金の魔糸で刺繍を入れたし、地味じゃぁないよね?

せっかく聖女様がもって来てくれたので、ティアラは分解して(またもとに戻せるし)帯留めや、3次元の桜は2次元にして裾近くに模様として入れた。


「これ、トデリの桜なんだよね・・・フフ・・・嬉しいな。」


全然手伝わせないとシスターズが拗ねるので、メイクと髪はやって貰う事にする。

彼女らのメイクの腕前は、特殊メイクの域に達しているからね・・・でも、詩乃だと解らないと困るんだけどなぁ・・・そんな事を考えているうちに御仕度は整った。


出来上がりましたよ・・エ〇カ様仕様・・異世界劣化バージョン。

ヘッドドレスも余り大きいと、花に頭を食われている様になるから小さめに、高級な花だとまた貴族連中から批判が出そう(肖像画のお披露目とかあるそうな)なので、庶民的な花にしましたよ・・・気を使って生きるって大変だぁ。さて、そろそろ行くか。




着物は動きにくいのだ・・歩幅が狭くなるからね・・静々と歩いて花嫁御料の様に(実際そうなのだが)ドラゴンハウスに向かう、途中でモルちゃんから『ターニーさんが、会場に入ったよ。』と連絡が来た。


何でもターさんは、アナグマさん一家の苦心の作である花の舞台を見る事も、関心を向ける事も無く、魔術具の設置に余念が無いらしい。まぁ、ターさんにとっては、それが仕事でメインだしね。




それでもねぇ・・・これだけ着飾ったのだから、女心としては<奇麗だ>の一つも言って欲しい所なんだが・・どうだろうか?

聖女様も居る事だし・・無駄な期待はしないでおくものかな?

そんな気持ちは無いつもりだったけれど、案外聖女様にコンプレックスでも感じているのかな・・まさかぁ・・・相手は聖女級の美しさだよ?・・・張り合うなんてアホのする事だ。


月にスッポンって言うんだっけ?猫に小判?豚に真珠・・・これは違うか。


自分に意外な女心が有る事に驚いてしまう・・・綺麗と思われたいなんて、今まで考えた事など無かったのにな。そんなことを考えながら、ポテポテと歩いていたらドラゴンハウスの前にモルちゃんが待っていてくれているのが見えた。


「モルちゃん、お待たせ~~。体の調子はどう?無理をさせて御免ね。」

『詩乃ちゃんの一大事だもの、そんな事は言ってられないよ!わぁ~~詩乃ちゃん、凄く綺麗だよ。これなら魔術師長もイチコロだよ!聖女様なんかお呼びじゃないよ。』


モルちゃんには隠し事が出来ないねぇ、すべてお見通しでかなり恥ずかしい。

二人で話し込んでいたら、浮遊の魔術でフヨフヨと浮かんだ<映像の魔術具>が見えたので、思わず笑顔でピースしてしまいました(笑)。


挿絵(By みてみん)


此方の世界の結婚式は祝詞も無く、神父様の有難いお説教も(ほんとは有るそうだが、聖女様がパスしたのだ。)無く<人前結婚式>みたいなものでした。

花で囲まれた舞台に立って二人で向き合い、互いに言葉を掛けるんだって・・・聞いてないよ、何を話せばいいのやら。


「ラチャターニー魔術師長、詩乃・大西・・2人は夫婦となりますか?」


このときはじめて詩乃の衣装を見て、目を見張ったターさんは、辛そうな顔をして・・・辛そう?


「シノ・・・その姿が、ズィーズィとヴァアヴァが見たがっていた花嫁姿なのだな。とても綺麗だ・・。私は其方や其方の家族を離れ離れにした張本人だ、取り返しのつかない事をしてしまった罪を自覚している。・・それでもなお、其方がこうして私の傍に居てくれる奇跡を・・・喜ばずに要られないのだ。

今この時から、私の残る生涯を掛けてシノ・・其方を守り、共に有る事を誓おう。愛している。」


『ぎゃぁ~~~恥ずかしい~~、真顔で言わないで。』


ターさんの真顔は仏頂面なので、詩乃も仏頂面返しでお返事する。


「不束者ですが、よろしくお願いします。海誓山盟を目指します。」


聖女様がブホォと吹き出した・・いいじゃない四文字熟語、相撲部屋の挨拶みたいでさぁ。お互いに書類にサインをし、聖女様がそれに祝福の魔術を掛けて結婚式は恙なく終了した・・この間約3分。

ウル〇ラマンも帰る時間だ、聖女様は魔術陣で王都にとんぼ返りをしたし、ターさんは<映像の魔術具>をかかえて書斎にこもったしで・・。

アホみたいな恰好でただ一人、詩乃はやる事も無いので部屋に戻って寝ましたとさ・・・・。ちゃんちゃん。



    *****



<春の女神の祭り>は恙なく終わったが、それからが大変だった。

舞踏会の予告?通りに王様が退位を発表し、王太子が王位に就くことを宣言した為である。どよめきが起こり、会場が殺伐とした魔力に満ちたので流石のターさんも目を覚ました。


王太子改め新王が、聖女様改め王妃様と連れ立って祭壇の中央に立ち演説を始めた。ターさんが立ちあがり騎士の礼をとったので、仕方が無く詩乃もカーテンシーをする・・・(早めにお話し終えてよね!)。王太子派・・新国王派が次々に礼を取っていくので、➀王子派は仕方が無く恭順の姿勢を示した。


『このままこの国が落ち着くには、詩乃達<マグデンス>の働きも大きなカギになるのだろうな。人間腹が膨れれば多少の事は我慢できるものだ、公爵家の不満を何処まで解消できるか・・・不満を感じさせずに、何処までその力を削ぐ事が出来るのか・・・。』


そんな大きな事よりも、取り敢えずは<庭師のお爺ちゃん>の所の復興だな・・・こんなところで、カーテンシーしているよりも早く現場に行きたいよ。




新王が領地の変更やその他、新しい役職についての人事を発表している。


「新しい復興顧問はプマタシアンタルに任せる。」

『はぁ?意義あり!!』

何、この糞人事・・・・?

ぐぬぅぅ~~と思った詩乃は、頭を上げて壇上で新王様から辞令を受け取っているプマ略を睨み付けた。

『邪魔建てしたら、絞める!!』

そんな詩乃の視線を感じたのか、プマ略は<フンッ>と鼻で笑ってくれたが・・・相変わらずムカつく奴である。


この日、ターさんは正式にバンメトート侯爵家から離れた事を発表され、新しい爵位・・伯爵位(ちなみに領地は無い、魔術師長として・・要は公務員?サラリーマンなんだな。)と名前を授かった。

新しい名前はサマリンダ・・・かつて聖女をこの世に召喚した大魔術師の名前である。

同時に結婚した事も、その相手がオマケの娘である事も発表され、お嬢様達の熱い怨嗟の視線を浴びる羽目となった・・・良い迷惑だ。


ラチャターニー・サマリンダ伯爵様か・・因みに詩乃はサマリンダ夫人?

ふざけんな、そんな胸糞の悪い名前は御免だね。



詩乃は詩乃だ・・モルちゃんの相棒で<マグデンス>の代表取締役、ついでにターさんのパートナー。それで十分さ、貴族の奥様なんてノウ・サンキューだぜぃ。




詩乃の心は、すでにまだ見ぬ現場に飛んでいた。


結婚式の後って、やれやれ終わった終わった・・・って感じで、感動もへったくれも無いモノですよねぇ~~(´Д`)。おや?お嬢様方の夢を壊してしまったかな?すいません( 一一)。

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