カポエの街~1
旅の不仲間が仲違いしそうですが・・・。
村と別れを告げて初骨街道をテクテクと進む事7日目、いい加減テント生活にも慣れましたよ。全然慣れたくも無いけれど。
案外と健啖家なラチャ先生が毎日蛋白質を狩って来るので、村に滞在していた時よりも栄養的には良い状態な様な気がする。しかし野菜はどうしても乾燥野菜のみになってしまうから、栄養的には偏っているだろうし、ビタミン類は完璧に不足しているだろう。だからと言って肉を生食する気にはなれない、衛生状態が良いからこそ生食は成立するのだ。あぁ・・寿司が食いてぇ。
某ラノベの様に可愛いエルフの衛生兵が居てくれるのなら、もう少しマシな食生活を送れるだろうに、残念な事ながら詩乃に其処までのスキルは無い。スキルどころかそもそも知識が無いのだから仕方がない、食べられる野草とか茸とかが見分けられない、切実に図鑑か鑑定のスキルが欲しい。
しかしながらラチャ先生によると、その様な図鑑的本は存在しないと言うのだ。
(本が無ければ作ればいい?そんな根性は有りません)
貴族にはその様な物は必要が無い・・だからだそうだが、平民が皆揃って逃散したら飢え死にする貴族が沢山でそうだね・・くくく・・。
「くくくく・・・・」
「何不気味に笑っているのだ、可笑しな奴だな」
お肉大好き、野菜?草だろとほざくプウ師範、あんたの方が可笑しな奴だと思うがな。野菜も食べろ、お肌が荒れているぞ。
「今日の夕方には少し大きな街に着く、久々にベットで眠れるであろうよ」
ラチャ先生が励ましているつもりなのか、珍しく詩乃に声をかけてきた。
「カポエの街は白骨街道の十字路、東西南北の道が交差する交通の要所で有り商業の中心地だ。最も白骨街道自体があまり使われていないから、街の発展具合も知れたものだがな」
大昔の日本のように海に面している土地と、内陸部では開発の速度が違うらしい。
「街に入ったら騎乗動物を探そう」
「騎乗動物?何でやんすか?それ」
ウンザリしたように2人に溜息をつかれた、問題は詩乃の歩く速さらしい。
まぁUSAの軍人張りの大男が、日本の小学校中学年の子供と歩調を合わせて進み続けるのは苦痛だろうが、実際2人と詩乃の体格差はそのくらいあるのだ、(比率だ比率、あくまでも!)だって仕方が無いではないか!コンパスが違う2人に合わせて歩いていたらマラソンになってしまう・・死ぬから。
「前のように青色狼に襲われたり、魔獣に遭遇する事がこれからだって有るだろう。しかしその度に、いくら護衛を兼ねていると言えども、お前に合わせて逃げてばかりでいる訳にはいかない。我々は魔獣討伐の任務も有るのだからな。慣れていなくても常時乗っていれば訓練にもなるし、いざと言う時には現場から離脱して逃げる事も出来るだろう。足と頭の良い奴がいると良いな、阿保で間抜けな主人でも守ってくれるだろうよ」
たまに喋ればこれだ、これで悪気が無いとは恐れ入谷の鬼子母神。
でも、動物は気が重い・・一度飼ったら、死ぬまで面倒を見なくちゃならないのが動物でしょう?例えば急に王妃様に呼び出されたとして、王都に戻る事にでも成ったとしたら、その子はどうなるのだ?飛行船やドラゴンに乗せてもらえるのか?一緒に連れて行けるのか?そう質問したら呆れたように言われた。
「不必要になったら売れば良いではないか、それが産業動物だろう。貴重なドラゴン様と一緒にするな。」
カチンときた。
「売られた先がよぅ、意地悪でぃケチンボでさぁ、碌に餌も水も上げ無い様な人でなしの唐変木だったらどうするんでぃ!!」
「そこまで考える奴などおらん、仕方の無いことだろう」
どカチンときた。
「仕方が無い?そんな風だから、あんた達は平気で人まで売り買いするんだじょい!人身売買は違法なんだろう?2年前に聖女様がそうしたって、この前6男に聞いたぞ!それでもまだ平気で売り買いしているじゃぁないか!騎士まで加担していたのを忘れていねぇだろうな!」
青い森のほとりの村では、代官・村長・騎士ぐるみで人身売買していたのだ。
聖女様の声はまだまだ田舎までは届いていない。
「歩くのが遅くてイライラしやすんだったら先に行っておくんなせぇ、アッシは一人で大丈夫でやんす、自分の身ぐらい自分で守ってみせやすんでさぁ」
産業動物だって慣れれば可愛い子なのかもしれない、懐いてきて仲良しになって突然サヨナラなんて御免だ。ウララちゃんは家族が付いているから安心だけど・・散歩は歩いてやって欲しいぞ、お兄・・此処の動物達が、親切に優しく扱われているん何て有りえないだろう、人間だって理不尽に扱われているのだから。これ以上、人でも・物でも・動物でも、サヨナラはごめん被る!!
「見解の相違だな・・」ラチャ先生がボソッと呟いた。
夕方前にカポエの街についた、噂通りの寂れた感じの人通りの少ない街だった。
白骨街道が発展すれば商機も有るんだろうが、そんな体力も無さそうな感じだ。
それでも交通の要所らしく、冒険者のギルドなんかも有って西部劇な感じだ。お爺ちゃんが好きで良く、~のガンマンみたいなのを一緒にDVDで見たもんだったが。脳内にウエスタンの曲が再生される、るる~~るるるぅ~~。
ここはポンチョが欲しいとこだね。
「では、3日後の朝4時に此処に集合としよう」
さっきの口答えがムカついたのか、プウがそんな事を言い出した。
『あんたら一応アッシの護衛じゃ無かったんかい?』
チョッと唖然としたが、一人にしないで置いて行かないで・・なんて、泣きついて頭を下げるのも腹立たしく、解ったと頷けばプウとラチャはさっさと離れて行った。振り返る事もせず、道の真ん中に護衛対象のか弱い少女(見た目はな)置き去りにしやがりましたのだ。
『ちっ、何なんだよ、感じ悪ぅ!ほんと嫌な感じ。このままトンズラこいてやろうかな。行方不明は護衛の責任だし、こっちは自由になれるし!』
何だろう!すっごく良い事思い付いちゃった!先ほどまでの不安を無理にでも押し込めて詩乃は口元を上げた。
『何だか俄然ウキウキして来て鼻歌が漏れそうだぁ、とりあえず今日は宿屋を探して久しぶりにゆっくりベットで寝よう、そうしよう』
ところが宿屋は4軒しかなかった、白骨街道の十字路と言う割にはショボイ・・高級そうな宿には腐ってもお貴族の2人が泊まるだろうから嫌だしな。次に綺麗そうな宿屋に泊まる事にする、他の宿屋はみんな同じくらいの綺麗さだったのでギルドに近い方が治安が良さそうだと判断して扉を潜る。
<ミミズク亭>だってさ、猛禽類かい?事なんか威勢がいいね。
フロントに居た親父は驚かすと平べったくなりそうな、何と言ったっけ?あの鳥の名は?そんな感じの親父だった。目がギョロギョロしていて、不審者のようだな。まぁ、良いか・・良いんかい!
セルフ突っ込みしながらチェックインした。
宿はよくある異世界モノの宿屋のように1階に食事のできるモノ場所が有った、お腹はすでに空いていたので、すぐに入り機嫌よく注文をする。
大鍋で煮込まれているシチューの様な料理が良いね・・あそこから取り分けるのなら薬を混ぜ込まれる(なんだそれ)心配も無いだろう。
台所には鳥親父の他に筋肉ダルマの料理人がいた、作業を見るのは面白いのでカウンターに陣取り拝見する。重そうなフライパンを軽々と扱い繊細なオムレツを作っている、凄いな!感動して拍手しちゃった。此処の世界の調理用品は総じて重い、セラミック?何それ美味しいの状態だから仕方が無いが、詩乃が一人でやって行くとして料理人は無理だな~と思うのは道具の重さだ。皿も陶器が分厚くて非常に重い、筋肉が無くては生きて行けなそうな職場なのである。筋肉さんは詩乃の拍手に気を良くしたのか、シチューを大盛りにしてくれた。
「ごっつぁんです」
美味しく食事を頂き3階の部屋へと入る、掃除が行き届いていないので風で埃を追い出しベットとシーツに洗浄の魔術を掛け自分自身に結界を張る。
こうしますとね奥様、嫌な虫に刺されませんの。
『明日は少なくなった食品を補給して、一人旅になるなら騎乗動物?旅のお供を探しても良いかもな、あの鰐皮の馬?みたいのとか上手く乗れるかなぁ。
ダメ騎士達は爬虫類的な、足の速そうな恐竜みたいな子に乗っていたっけ。
でも出来ればモフモフの子が良いなぁ、随分と長い間モフっていない気がするウララちゃんの日向の匂いがするモフ毛が懐かしい。・・あぁ、モフりたい』
そんな事を考えていたら疲れていたのか寝落ちした。
横になって3分で眠れるのが詩乃の自慢だ、赤点取ろうが、友達と喧嘩をしようが横になったら3分で昇天。ウ〇トラマンが空に帰る前に寝てしまう、ある意味つらい現実からの逃避とも言えようか?夢の中は自由だ、睡眠バンザイ!!
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久々のベットで(掃除は行き届いていなくても)気持ちよくヌクヌク寝ていたのだが、何だかちょっと肌寒い、温もりを求めて暖かい方へとズリズリと移動する。
「う、う~~ん、モフモフ~~~」
気持ちの良い手触りに、手をワキワキと動かしていたら・・何処からかシクシクと泣くか細い声が聞こえて来た。
「ほぇ?」
何だろう・・あれ、これ床だよね?ベットは?モフモフは?
眠い目をこじ開けて、ヨッコラショ・・・と、起き上がる。
狭い部屋に女の子~女性と言われる方達が、詰め込まれておりましたよ?
何だこれ?ゴトゴト揺れているから、馬車かなんかの中なのかいな?
モフモフは?獣人のお姉さんの尻尾でしたか、御免なさい痴女では無いです。
でも、最高だねモフ具合が。獣人さん!初めましてだ、わぁ~~ケモ耳。
何て燥いでいる場合ではなさそうだ、どうやら人攫いに攫われて売られて行く途中のようです。ありゃ~、こりゃあ驚き桃の木山椒の木・・と、来たもんだ。
ついにケモ耳さん登場です。友達になれるかな?