ランパールの夜~3
8ちゃんwktk・・・(*´▽`*)。
「シノ!シノ!・・すまなかった。」
・・・絶賛抱き締められ中なのですが・・・。
その、すまなかったは・・何を指しているのでしょうか?
ターさんにも、この世界の貴族達にも、散々っぱら酷い目には合わされていると思うのですが、そのうちのどれ何でぃ。
それにしても、早く外しなさいな・・・変な格好だよ・・・。
キンキラ貴族服にそのゴールグルとヘッドホンは、出来の悪いSFの様に見える。
抱き締められたまま、ふとドアの方を見やると・・8番目他、兎シスターズや柴犬系執事&メイド長、この屋敷の使用人の皆さんが勢ぞろいして、此方を覗いて驚き固まっていた。
へんてこデカ頭の主に声を掛ける事も出来ずに、戸惑っている様だ・・8ちゃんの目がランランと輝いている・・仕掛け人はこいつか!
ふと見ると・・・やばっ!
無精して下着のまま、布団に潜り込んで惰眠を貪っていたのが仇になった。
下着・・・此方のシュミーズやドロワーズは使い勝手が悪いので(なんかスカスカするのだ)、キツネエに短パンとブラキャミを作ってもらっていたのだ。
コチラの仕様では・・あられもない格好と言えるだろう・・向こうではたいした事も無いがな?プールでも行ったら此処の人達はどうなるだろう?
一応体を隠そうと、布団を引き寄せようとしてターさんに気が付かれた。
「 なっ! 」
そう、ひと声発すると・・・ターさんは何かの魔術を展開した。
使用人の皆さんが気が付いた時には、詩乃とターさんの姿はベットの上から忽然と消えた。
******
「此処は・・・いったい何なんですか?」
不思議な所だった、だだっ広いドームの様な空間で、周囲は乳白色の霧が立ち込めていてうすら寒い。何だかとても閑散としていて・・・一言で言うなら、寂しい場所だった。
「これは私の自己結界の中だ、誰にも干渉される事も無い、只一人の世界。」
「結界って・・・自分を閉じ込める事も出来るんですか?」
「あぁ、私ほどの魔術師になればな・・こんな事も出来る様になったのだ。」
・・何だか此処は、ターさんの内面・・精神世界の様で居た堪れない。
こんな寂しい場所を生み出すほど、彼のこれまでの人生は、人と係わる事も無く、何も心に残る事もなかったのだろうか?
詩乃が寒そうに腕を擦っていたら、気が付いたターさんが室温?を上げてくれた・・・何これ!凄い便利じゃぁないの?野営に良いよね・・そう言えば青い丸猫型ロボットにもこんなアイテムが有ったっけ。
ターさんが何も言わずに、ゴーグルとヘッドホンを持ち、所在投げに弄んでいる。
「あぁ・・それ、街の道具屋さんで買ったんです。
<遠くの良く見えないモノがハッキリと見える魔術具>だって聞いたから。
もうすぐ<春の女神の祭り>でしょう、ターさんに何をプレゼントしたら良いか解らなかったんで・・遠くのアッシの世界を見せてあげられたらな~と思いやしてね。
異世界なんて珍しいから、興味が有るかなって思って・・どうかしましたか・・それ。なにか不味い事でも有りましたか?」
ターさんは頷くと、軽く右手を振った・・・・・たちまちに、何もなかった空間に桜の並木と藤棚、ネモフィラが咲き乱れる丘が現れた。
うわぁぁ~~~~~~綺麗!!
「そうです、これです!アッシが今まで見て来た中で、綺麗だなぁ~~と思って感動した景色をターさんにも見て欲しくて、頭の中の思い出を目の前で見ているイメージにしてゴーグルを被ってみたんです。ターさんにも見えたんですね、良かったぁ~~~。
・・・ふふふ・・・ねぇ、綺麗でしょう。素敵でしょう?」
花々を見て喜ぶ詩乃、その顔には何の憂いも陰りも無かったが。
「私が見たのは景色だけではない・・・気難しそうな眼鏡をかけた壮年の男・若作りな女・・・其方のオゥトゥーンさん・オゥカアアーさん・・・ズィーズィにヴァアヴァの年寄り二人に、丸刈り頭のオゥニィ・・モサモサと毛を生やしたウゥンラーラ・・・達も見えたのだ。」
「えっ!アッシの家族に会ったんですか?不思議だなぁ・・アッシは景色しか思い出していなかったのにねぇ。」
「多分、其方が半分眠っていて、無意識に記憶を呼び戻していたのだろう。」
周囲の花々を見渡したターさんは、酷く申し訳なさそうに。
「数秒間見ただけの、異民族の顔を再現する事は、・・・・・私には出来ないのだ。すまないな。」
詩乃も苦笑いして
「無理もないですねぇ、私だって未だに此処の人の顔を見分ける事が難しいもの。特に平民は似た様な服を着ているし、急に髭なんて生やされると・・まるで別人ですからねぇ。」
機嫌良さげに桜の花びらを手に受けようと、腕を伸ばしている詩乃に、ターさんは酷く辛そうに話を続けた。
「眼鏡をしていた時には、其方の身体と私の意識は完全に同化していた。
其方が体験してきた事は、自らが体験したように・・今も完全に思い出す事が出来る・・。あの時の・・魔術陣に飲み込まれて行く聖女様に握られたいた手の痛さ・・助けを呼んで声の限りに叫んだ喉の痛み・・恐怖に怯え家族の名を必死に呼んでいた其方の気持ちが、胸の奥に巣くってジクジクと痛い。
自分が仕出かした事なのに。今、心が張り裂ける様に・・酷く辛いのだ。」
詩乃は表情を硬くすると、息を飲んで魔術師長を見つめた。
「済まなかった・・・其方を故郷から、あの家族の元から引き離したのは、私の魔術だ・・・。」
『今更かよ・・・知ってるよ、そんな事は・・。』
今までだって、何度も顔を合わせる機会は有ったのに。
王宮の誰からも謝罪などされた事は無かった・・・勝手に紛れ込んだバグとして、粗末に扱われて来た詩乃だった。
・・・本当に、何で今頃・・・?
召喚時に真摯に謝ってくれれば、これ程拗れることも無く、詩乃も一人で悩み苦しむ事も無かっただろうに。
・・・・・・・・でも、こうも思うのだ・・・。
貴族優位のこの世界で、平民に人権など無く、奴隷や人身売買・人攫いが多くいる・・こんな世界で。あちらの人権意識を持ち込んで来ても、とても理解はされないだろうなぁ・・と。
痛みを感じる感性が鈍い人間に、どうして他人の苦しみを共感する事が出来るだろう・・・世界観が違い過ぎるのだ。
戦国時代の人間に現代の基準で人権の尊さを説いても・・それで?とか言われそうなのと同じだ。
『謝って来るだけ、この人はマシなのかもしれない。』
王太子や王妃・王などは立場上、口が裂けても謝りはしないだろう。神殿もプウ達家臣も同じだ・・王族が間違った事などする筈が無いと思い込んでいるしな。
小学校の廊下に、一人立たされて項垂れているような・・銀髪のオッサン。
・・・ウララちゃん~、もう怒る気力も無いんだよ・・・詩乃ちゃんは。
「許す気にはなれませんが・・・。」
ターさんの方がビクッと動いた。
「詰る気にもなれないんです、あれからもう7年近く経ちますから・・・。
でもこれだけは約束して下さい、もう二度と!絶対に!異世界から人を召喚・・人攫いの真似事などしないと。陣は封印して、この世界から無くしてください・・・自分達の不甲斐なさを、余所の世界の者に背をわせる様な事など決してしないと・・・此処で私に誓って下さい。」
「解った、その様にする・・・禁呪として、此処に封印し私の死後には消滅するように設定しよう。」
詩乃は黙って小指を差し出した、ボケッとしているターさんの手を取り、互いの小指を絡ませて<指切げんまん>をした・・・嘘ついたら・・・八つ裂き・張り付け・首チョンパ!
余りに恐ろしい歌詞に、ターさんは愕然としていたが(笑)。
*****
「シノ・・<春の女神の祭り>の前に、私と結婚しないか?」
「はぃ?」
「この世界はまだまだ女性の地位は低いし権利も弱いのだ、もし今、万が一私の身に何かが起きれば・・」
「万が一・・・何か?」
「魔獣に殺されたり、魔術の発動に失敗した為に、何処かの次元に飛ばされたり・・・。」
『いや~~、ホント有りそうで怖いわ。』
「婚約だけでは弱いのだ、私の持つ権利や財産は実家のバンメトート侯爵家へと移譲されてしまうだろう。それでは其方を守れない、私のすべては其方に譲りたいのだ・・この屋敷を含めた財産のすべてを。其方もこの屋敷を、暮らしを気に入っているのだろう?」
ターさんの大きな手が優しく詩乃の頬を包み込む、
「それに今なら<思考の残滓>で、あちらの世界に一瞬でも繋がるかもしれない。」
胸に抱き込まれる・・・・・あたたかい・・・。
「其方の花嫁姿を見たがっていただろう、ズィーズィとヴァアヴァは。」
髪を優しく撫でられる・・・昔お婆ちゃんに良くして貰った様に。
「シノ・・・私は<愛している>と言う気持ちが良く解らないのだが・・。
其方を傍から離したくはないし、其方が泣くのは見たくはないのだ・・いつでも笑っていて欲しい。其方を抱きしめるとドキドキするし、・・・もっと触れてみたくなる・・・この事象は<愛している>の定義に当てはまると思って良いのだろうか・・・・?」
「・・・・宜しいのではないでしょうか・・・。」
「そうか!シノ・・私は其方を愛している様だ。」
『何この、壊れた未来のAIみたいなのは・・・。』
ターさんは詩乃の頬を両手での包み込むと、顔を寄せて来た・・。
あの~~?
「<愛の告白>の後には、こうするのであろう?」
~~~~何を読ませた~~~~8番目!!!!
後は・・読者様のご想像にお任せします・・・( 一一)。
どこまで読ませた8番目~~~~!