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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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ランパールの夜~1

トンスラに戻って参りました。

詩乃とシャルワが一仕事終えて、王宮の舞踏会場からスタコラ・サッサとトンスラにトンズラして来た時には、すでに残りの隊員(隊長を除く)も南の伯爵領から撤収して来た後だった。トンスラの食堂兼談話室で、美味しくランチを頂き、食後のお茶で寛いでいたところに。


「みんな、お疲れ様~~。コッチも上手く行ったよ~~。」


と、緊張感のない声を出して、詩乃とシャルワが帰って来たのだった。


まだ居残って食堂でランチを取ったいたムウワは、王妃様から認可が頂けたし、<マグデンス>の活動が春には始まると報告を聞くと大変喜んだ。

シャルワを力一杯ハグして<グエッ>と言わせると、ついでに詩乃もハグしようとして・・・結界に弾かれて吹っ飛ばされた。机とイスがなぎ倒されて大惨事だ、昼時の混んでいる時間でなくて良かったね。エフルが呆れて笑っている、誰も心配していない・・・ムウワは丸っこいから、怪我なんかしないし?

これまた良かった、良かった(笑)と、笑い合った。


それにしても、いつの間にかターさんが詩乃に結界を施していたらしい。

全然気が付かなかったよ、オ~イが詩乃にセクハラしてから妙に心配症になったみたいだ。腕の良い魔術師も考え物だね、少し結界を弱くしてもらわねば、騎士は兎も角一般人だと大怪我だ。

【男性に厳しいこの結界、何故かキツネエには作動しない事が後に判明した・・・対象のメンタル重視なのか、それともターさんがキツネエを男性と気が付いていないのか?その辺は不明である。】




今後の【マグデンス】の予定としては、未消化だった休暇を数日間取って疲れを癒し(ドラゴン共々)、河馬公爵と契約が終わったら先遣調査隊として詩乃以外が出発するそうだ。


詩乃としては早く現地に行きたいし、庭師の爺ちゃんの事が気になるのだが、貴族の端くれとしては<春の女神の祭り>には出席しない訳にはいかないらしい。皆だって一応貴族なのだが、後継ぎでないのでカウントされない様だ。

貴族も不便なモノである、祭りと言っても神殿で神に感謝を捧げる系のイベントなので、熟睡コースまっしぐらであろう・・それも辛いモノが有る。

『ちぇっ、どうせお祭りに出るならトデリのに参加したかったな。・・・トデリは寒いから王都と祭りの時期はズレるか、行けない事は無いのかな?』

報告と打ち合わせを軽く済ませると、詩乃も念願の自分の部屋に帰る事にした。



お屋敷に帰ろうとモルちゃんを誘いにドラゴンハウスに行ったら、モルちゃんはすでにラセンさんとお屋敷に戻っているそうで、黒さんやタンザさんなんかが不貞腐れてゴロゴロしていた。どうやらモルちゃんに冷たくされて、拗ねているようだ。


「すまないねぇ、ず~~ッと気を張って、良い子でいるのも疲れるのだろうさぁ。それだけ皆には良く想われたいんだと思うよ?女心って奴を解っておやりなぁ。」


ドラゴンと言えども、男は単純なのだろう・・明日にはまたトンスラに、モルちゃんと一緒に顔を出すからと言うと機嫌を直してくれた。

そうして、<さて・・貢ぎ物でも取りに行こうか>と、次々に空荷で(騎乗者無しに)飛び立って行った。フリーダムだねぇ・・・。

フリーの極致に居るゴールディさんは、すでに午前中からニーゴさんを乗せて、蛋白質の補充に向かったらしい。


マグデンスは完全自立型の復興部隊だからね、疲弊している現地で食料を調達(奪う)したりはしないのだ。大昔の軍隊の様に、現地補給で・・・何て、端から無理な話なのであって、すぐにお互い干上がってしまい、復興どころの騒ぎではなくなっちまうだろう。

マグデンスが目指すのはPKO部隊のあの感じだ、だから本国からの補給はしっかりとお願いしたいぞよ。

今度の制服は水色のキャップにしようかな?ポッケの沢山ついた、機能的なモノが良いだろう・・・ギリースーツとか?キツネエに要発注だな。

今のうちに精々ゴールディさんには活躍して貰って、兵糧のストックに励んでもらいたいものだ・・・ゴールディさんがいっち食べるんだから、働くのは当然だろうさ。




せっかく屋敷で休んでいると言うモルちゃんを、わざわざトンスラに呼び出すのも悪いので、散歩代わりに歩いてお屋敷まで向かう事にする。

屋敷の皆のお土産は王都で買ってすでに送ってあるが、品物はランパールの方が素敵だしね、香辛料とかいろいろ買い揃えたい物も有る事だし?たまには街をぶらつくのも悪くない。このところ一人の時間が無かったから、いい息抜きになるだろう。



トンスラはランパールの中心から少し離れている、ドラゴンの感覚で考えて失敗した・・。少しの距離では無かった、飛ばないと2時間以上は歩きになるのだった。

まぁ、昔はテクテク歩いたもんだった・・・プウ師範とラチャ先生の3人で、もう遠い昔の事みたいだけれどね。


なんとトンスラの正面玄関には、<ランパール中央広場行き>のフロートが出ていたのでそれに乗り込んだ。雰囲気は観光地にある馬車みたい・・銅貨3枚だって・・高いのか安いのか解らんが、歩くのも面倒なので良しとする。


フワフワ~と揺れながらボケ~~と景色を眺めて進んで行く、そうしたら草叢をゴソゴソと揺らして、虫型魔獣の小さいのが顔を出して来た。流石虫さん、しつこいねぇ・・・。

虫なんて、そうそう駆除できる物では無いはずだ。

それを絶滅させたと言う、ザンボアンガの魔術って・・いったい何をやらかしたんだろう?怖いよねぇ~~。

魔虫はどのくらい種類がいて、どんな生態をしているのだろうか・・・昆虫の研究者はいないのかな?日本には驚くような肩書の<専門家>って言う人が沢山いたものだが。




そんな事を考えていたら、いつの間にか広場に着いていた、早いね?


山ギヤさんが引っ張るフロートでしたか、山ギヤか・・あの子達は元気にしているかなぁ?生まれたチビ山ギヤちゃんを見たかったな・・ユキちゃんと名付けたかったぞ・・某ユキちゃんは食われちまったけれど。




さて<春の女神の祭り>には、親しい者同士で、プレゼントを贈り合う風習が有るのだ。詩乃もトデリに居た頃は主に消えもの、(クッキーとかプチパイとか)をプレゼントして回った覚えが有る。ピザは別物だ、あれは地域の祭りへの供出品だから。


しかし・・今は何か贈るにしても、みんな彼女持ちになってしまったからな。

誤解される心配など無いだろうが、無用な騒ぎは起こしたくないしなぁ~~。

あのオイも(生意気に)彼女が出来た様だから、今までよりも距離を取った方が無難なんだろうな・・・彼女はあれで、なかなかヤキモチ焼きの女の子に見えたし?


豆ちゃん・・・ご両親がいるしな・・・。

虎さんも、あの虎姫様と恋人となり、仲睦まじく暮らしていると聞いたし。

タヌちゃんはアライグマ獣人さんと、お付き合いを始めたそうだしなぁ・・。


・・・結構、事情通の詩乃である・・何故かシャルワが教えてくれるのだが。


そうか!ムースさんがこの春に、目出度く結婚するとパガイさんから聞いたからな、お祝いを贈れば良いな・・・角だけある人間体の獣人カップル何だってさぁ、何が欲しいだろうか?


肝心な人に贈るプレゼントを考えあぐねて、遠い人の事ばかりを考えてしまう。

途方に暮れちゃうなぁ・・・ターさんが欲しいのは、いつだって魔術に関する物だろう。<素材?>詩乃が手に入れられる様な素材は、すでに等沢山持っているだろうし。


『人を喜ばせるのって、結構難しいものだなぁ。』

ターさんは何でも持っていそうだし、喜ぶツボが解らない。

ムウアは簡単だ、食べ物を贈れば外れが無い・・シャルワは情報でしょ?エフルは珍しい花の種とかを喜ぶ。ニーゴは武器だな、使いが激しいからすぐに駄目にしちゃうのから。消耗品だよねぇあれじゃぁ・・これから経費で落とせるかな?


困って街中をウロウロと徘徊していると、ふと目に付いた変な道具屋さんを覗いたら、可笑しな形のメガネが置いてあった。


「ご主人、これは何に使う眼鏡なんです?不思議な形ですけど、魔術具なんですか?」

「おやおや、お目が高い。騎士のお嬢さん、これは水中や空など、はっきりしない遠くのものを鮮明に見せる事が出来る眼鏡なんですよ。此処の所に保存の魔術具を付けると、見た物を記憶することも出来るんです。」

「へぇ~~凄いですねぃ。音が聞こえるものはないかな、一緒に使えば臨場感が増すでしょう?ある?それセットでおいくらですか?」


その不思議な形をしたメガネは、地球のVRバーチャルリアリティのゴーグルにそっくりな形をしていたが、VRが世に広まる前に此方の世界に来た詩乃には目新しいものだった。


「騎士様にはこの街も、大変お世話になっているから・・これで良いですよ。」


道具屋はそう言うと、指を1本立てた・・・指1ねぇ・・・?この世界では、時々こんな商いの方法を取る・・大抵は、相場も知らない田舎者を揶揄う感じなのだが、それに詩乃は気前よく半金貨を1枚払った。

道具屋は恐縮して、<相手が美人に見える>と言う眼鏡もサービスに付けてくれたが・・・どう言う意味かな?まぁ、親切を深読みするのはやめておこう。


機嫌よく去って行く詩乃に、こんな子供だましのモノに大金を払うなんて、オマケは所詮オマケだな・・ちょろいものだと、道具屋の主人は笑っていたのだが・・。



    *****



詩乃がお屋敷に帰り付くと、慌てた様にラセンさん・・モルちゃんのお世話係の人が出て来た。


「モル様に性別の変化が始まっています、この期間は誰も近寄せ無いものなのですが。どういたしましょうシ~ノン様。」


性別の変化・・・って、♂か♀か、分かれるって言うあれか。

大変だ、これはお赤飯焚くべき案件なのだろうか。


『モルちゃん、ただいま・・お留守番ばかりさせて御免ね。一人で心細かったでしょう?体は大丈夫?』

『・・・お帰り・・詩乃ちゃん・・・お疲れ様・・・。』

『気分悪い?そっちに行っても良い?』



『今ねぇ・・鱗とか剥けて、凄いブスなの。誰にも見られたくない。』

『アッシでも駄目?何か欲しい物はある、果物とか・・サラダとか。』



『食欲は無いし・・・傍に、お姉様が付いてくれているから大丈夫だよ。詩乃ちゃんも疲れているでしょう?もう休んで。』

『・・解った、一眠りしたらまた来るよ。頑張ってね。』



ラセンさんによると、変化は2週間くらいかかるらしい・・体が大きいからね、仕方がないのかな。

スルリと簡単に脱げないらしい、因みに脱皮した皮は縁起物で、神殿が買い取り、信者に高く売りつけるらしい。あんのぉ~、くそ神官どもめ。


「ラセンさん、トンスラに居る恋するモルちゃん親衛隊のドラゴン達に、この事を伝えておいた方が良いのかなぁ?心配かけても・気を揉ませても悪い様な気がするし?トンスラに行かなかったら、このお屋敷まで押しかけてきそうな勢いだったしねぇ。」


アナグマ獣人のファミリーが、丹精込めているお庭を踏み荒らされても困る。

ラセンさんはトンスラの絆持ちの騎乗者にこの件を伝えて、騎乗者経由でドラゴンに伝え、彼らの暴走を抑えて貰いますと言い残すと、トンスラに向かって空中に浮かぶキックボードの様な物で飛んで行った。


「あのモルちゃんも、いよいよレディーかぁ・・・。」


大人の階段を上るのか・・足踏みしているのは詩乃ばかりである・・・。



    ******



お屋敷に入って使用人の皆さんの歓待を受けて、お茶を入れて貰い、届いていた御土産の木箱を開けて皆に手渡して一息つくと・・・


「ちょっと疲れてるから、お昼寝するね・・夕方には起こしてね。」


詩乃はそう言って自室に入って行った、ポイポイと服を適当に脱ぎ棄て下着姿になると、無精にもそのまま布団に潜り込む。むふふぅん・・お布団。

手には先程道具屋で購入した、VRもどきのゴーグルとヘッドホンが有った。


「これを付けて想い浮かべたら、向こうの世界の景色が見えるかな・・・ハッキリしない遠くのものが見えるんだよね・・これ。」


日々忙しく、時に命がけで過ごしているうちに、向こうの思い出は薄っすらとぼやけてしまい、記憶から失っていく様で悲しい気持ちがしていたのだった。

写真の一つも無いしね・・・もう一度、向こうの世界を見る事が出来たなら嬉しいし、出来ればターさんにも見せてあげたい。何たって異世界だもの、レア中のレアだしね、目新しい物ばかりだろう?

あの道具屋さん、記録も残せるって言っていたしな。


・・・しかし、何を見せるか・・・それが問題だ。


超高層ビル?・・・此処は人口も少ないし、床面積は広いから上に伸びる必要も無いか。飛行機や車は、一つ間違うと兵器になる危険も有るから嫌だなぁ。

電車?・・・満員電車から吐き出されるリーマンなんか見たら、奴隷の集団に思われちゃう・・・まぁ、社畜とか言うんだっけ?


アレだな、外国の人に自国の良い所を選りすぐって見せたい様な気分だな、プロモーションビデオみたいなものか?

詩乃は頭にゴーグルとヘッドホンを装着すると、13歳まで生きて来た、故郷の美しかっで有ろうアレコレを、一生懸命思い出そうと努めて・・・・寝落ちした。

3分経ったらバタンキュー・・自分でも忘れていた・・くっ!不覚!


   

    ******



お帰りなさいませご主人様、詩乃様もすでに御在宅で御座います。

王宮から帰宅したターさんは、執事から報告を受けたいた。


「あの・・ご主人様・・・。」

そこに、おずおずと話しかけて来る兎メイド・・・8番目か?


「詩乃様が、お昼寝をなさいまして、夕方にはお起しする様に承りましたが。その・・・頭に変な魔術具を付けられていて、お声を掛けても反応が無く・・・。」


「変な魔術具?」

「目覚めないので、私・・心配で・・・。」


魔術具と聞いて、ターさんは衣装も着替えぬうちに詩乃の部屋へと向かった。


「シュノ、どうした。」


ベットのカーテンを閉めて暗くして、確かにシュノが寝ていたが。


「何だこれは、子供の玩具ではないか馬鹿馬鹿しい。」


詩乃の顔には、貴族の子供が遊ぶガラクタの魔術具が付いていた。ターさんは詩乃の顔から無造作に、ゴーグル型の眼鏡と耳当てをはぎ取ると、


「うん?何か記録されているのか?カーテンが閉められた、この様な暗い中では作動する事も出来ないガラクタの玩具なのに。」


不思議に思って、ターさんが(何でも試して見たい性格なので)耳当てと眼鏡を自分に付けた途端・・・


「何だこれは!!」



目の前に、薄いピンクの花を付けた並木が広がっていた。


異世界へ・・いら~~っしゃ~~~い。(*'ω'*)

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