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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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舞踏会の攻防~4

一度踊ればお役御免・・・。


舞踏会場は踊るグループ・王族に挨拶するグループ・御喋りを楽しむグループに分かれた様だ。当然詩乃は御喋り組なのだが、突然紛れ込んで来た異物の如くな者なので、どう反応して良いか解らない貴族達に遠巻きにされてボッチ状態だ。

別に寂しい訳では無い(そんなナイーブな心は、当の昔に消滅してしまった。・・って言うか、昔から其の手の事には無関心・無感動・・鈍かった様に思う。)暇なだけだ・・・。


ターさんの前には魔術師の卵?見習い?みたいな人達が、書類を持って列を作って並んでいる・・どうやら魔術具の陣?とかを添削して貰いたい様だ。

お偉い魔術師長様は天然記念物のオオサンショウウオ並みに見つけられないレアものだから、此処であったが百年目と機会を逃さずに行列を作っているらしい。

・・・何だか、モテそうもない理系の匂いがプンスカする集団だが?


暇な詩乃は、気の弱そうな若者の傍に寄ると書類を覗き込んだ、陣はサッパリわからないが、企画書みたいな書式は解る・・この前書いたばかりだからだ。


「ふ~ん?食物を輸送する為の次元結界・・。」


詩乃に見られた若者はギョッとした、魔術師長様のお相手の令嬢?ではないか。

阻喪が有っては一大事だ、さっきのダンスを見ただろう、魔術師長が笑うなんて天変地異が起こるんじゃないかと、魔術関係者は挙って神殿に祈りを捧げに、すっ飛んで行きたくなる気分を味わったのだ。


「これは誰が使う品として開発しているんですか、平民用?だったらこんなに沢山の魔石を用意するのは難しいと思うのですが。」

「・・・誰が使う・・・ですか?」

「今、大量に食品を運ぶ時には飛行船を使っていますが、浮遊の陣とこの陣で干渉しあって不具合が出る事は有りませんか?そもそもこの品は、何をどの程度の距離で運ぶ事を想定した物なのでしょう。」


そもそも魔術師長は陣の内容しか添削しないので、その手の質問は予想外だった。


「平民が食料を運ぶ場合は、季節によって取れる産物が変わるので扱いが異なり、それぞれ専門の業者が運んでいるものなんですが。例えば・・・平民は肉を保存したい時とかには、冬の間に出来た氷とか雪を使って、肉を冷やしておくものなんですけど。運ぶコンテナ全体を冷やす事が出来る魔術具と、この次元結界とでは、どちらがコスパが良いのでしょう?」

「コ・・コスパ・・・って、・・何でしょう?」

「あ、自動翻訳されないか・・・え~~とぉ、価格と価値を対比した時の度合いを言うのですが。出来上がるまでの費用や使う魔石の数に比べて、使い勝手はどうか・・・みたいな?」


詩乃の話を遠巻きに聞いていた魔術師の卵たちは愕然とした、陣の美しさや機能には目を配り考えていたけれど、使う相手の事などは頭の片隅にも無かったからだ。

これにはターさんも苦い顔をした、以前聖女様に言われた言葉と同じだからだ。

<魔術の為の魔術では人々の役には立た無い>と・・・聖女様に言われれば、なるほどそう言うものかと思ったが、こいつに言われると腹が立つのは何故だろう。


「なるほど、流石復興顧問様だな・・・エリートの魔術師達に対して、傲岸不遜な態度なのも、致し方が無い事なのだろうよ。」


魔術師達の不満を感じ取ったのか、空気を読んだ大物が釣り上がった。

       『取ったぞ~~~~。』

・・・ピサヌローク公爵様・・・誰かが慄いたように呟いた、話題の➀元王子の祖父・・・問題の生産者・河馬男がそこに居た。



    *****



「いえいえ、すべてはドラゴン様の御導きなんですよ。」


舞踏会会場の片隅のカウチに対面する様に座り、詩乃と➀王子の実家のピサヌローク公爵が対峙している。周囲には派閥に関係なく貴族達が詰め寄せ、この舌戦の行方を固唾を飲んで見守っていた・・・聖女様の代理戦争って感じ?なのかな。

王家や聖女様には言いにくい事でも、オマケの小娘には遠慮会釈なくビシバシと意見し嬲る事が出来る・・筈なのだが。むむむむぅ~~~調子が狂う。


何故なら~~ば!

うやむやに言葉を濁し、言質を取られない様に曖昧に振る舞い、誤魔化し無かった事にするのは、何も貴族の専売特許では有りませんぜ・・我が祖国ジャパンの民ならば、当然備えているべきスキルでありましょう。


『すべてはドラゴン様の御心のまま、南の地を救うと決めたのはドラゴン様のご一存、不公平などとは・・・ドラゴン様には預かり知らぬ、人の理屈で御座いましょう。ヌラリクラリと言い訳三昧、だって私ペーペーなんだもの、権限なんて無いので~~す。ごめんね~~~。』


公爵を持ち上げつつ調子付かせ、散々喋らせて不平不満を吐き出させる。

要は自分の領地に助けを差し向けてくれない、王家や王妃・聖女様に対して不満が募っているって訳なのだ。


「貧乏貴族を救うなら、何故我々公爵家を助けないのだ、我が家は王家の親戚スジだろう!息子の母の実家を見捨てるのか。・・・報復としか思えない・・・みみっちい事だ。」


報復されていると認識する様な、イケない事をした自覚はある様だが?

これっぽっちも反省はしておらず、絶賛逆恨み中であるらしい。

自己責任でどうにかしろと突き放されても、自分の手を汚し苦労をしながら魔獣を狩ったり・領民の世話をするのはノウサンキューって訳なのだ。流石あの➀王子の製造責任者だ、思考がそっくりで・・なるほどな~と妙に感心してしまう。

公爵の余りの言い分に周囲の貴族達、傘下の者でさえも呆れ顔を隠せないでいる。



「・・・実はね、私も困っているのですよ。

復興顧問としてもっと実績を作りなさいと、王妃様からは言われているんですが、肝心な予算は満足に付かない現状でしてね。先立つ物が無ければドラゴン様達のお食事代も儘ならないと言うのに・・・まぁ魔獣を狩ってお料理し、お食事としてお出しすれば良いのですけど。魔獣は其処の領地の主人の物になりますでしょう?勝手に狩る訳にもいかないし・・・狩るにも、それ相応の技術が要りますしね。」


周囲の貴族達を見回しながら話す、魔獣狩りの大変さを知っている者は深く頷いている。狩った後の搬送も大変だし、ギルドとの兼ね合いとか、素材の相場価格もコクコクと変化をするので、タイミングによっては泣きを見る者も多いのだ。

・・・ギルドって結構権力を持っていて、侮れない存在なんだよね。


「消し炭にしてしまえば簡単なんですが、それでは肉は取れないし・・・騎乗者達は流石に魔獣の肉は食べられませんからね~。彼らの食事や寝る場所の確保・給金や休暇等の福利厚生費などを考えると、とてもじゃないけど、国の考える予算では成り立たないんですよ・・復興支援事業なんて。」


支援を渋られた公爵は焦れた様に唸り始めた、河馬って鳴いたっけ?


「だからですね、自力で稼いでペイ出来る様に・・・民間企業に成る事に決めたんです。あなたの領地を代理で管理致します・・・復興支援請負業者ってね。」

「どう言う意味だ、領地を乗っ取るつもりか!」


「いえいえ、とんでも御座いません。」


込み入った話は苦手なので、目線で出番だとシャルワに合図を出した。

すかさずシャルワが前面に出て来て、黒い板にチョークで図を書きながらプレゼンを始める。


「お客様には何のご負担も御座いません、かかる費用・・・例えば、ドラゴン様の生活・健康の維持管理費、隊員達の出張・活動・福利厚生費等の諸経費は、魔獣を狩ることで発生する<素材>等を売る事で賄うのです。それに<素材>を売って得た利益の半分は、そこの領地の復興支援費用に使う予定ですし。」


       集団催眠商法か?お客様いらっしゃ~~~い。


シャルワさん・・立て板に水の勢いで話している。

民間移行の原案は詩乃が考えたものだが、話を細部まで詰め、形にしたのはシャルワさんだ。シャルワはパガイさんと素材の販売ルートを考えたり(ギルドを問屋や共同組合と考えたら、中抜きすれば儲けは多くなるだろう?産地直送って奴だ。)ビューティーさんに法律的に問題は無いかとチェックして貰ったりと・・・不眠不休の大活躍だった。

<ムウワはそんなシャルワに、夜食を作ったりしてサービスしていた(笑)。マッサージも結構上手いそうで(自己申告)、太い指で痛くなくコリをほぐすのが得意なんだそうだ。・・揉まれたシャルワは悶絶していたのだが(爆笑)。

詩乃もやって欲しかったのだが、命が惜しいから・・と、してもらえなかった。

なんだぃ?人を地雷扱いして、触ると爆発するとでも思っているんかいな?>




<独立空軍部隊>が消滅すると、行き場がなくなる(我儘な)隊員がいたし、シャルワ自身もこの部隊の自由な気風が気に入っていたそうなのだ。

今更あのゴリゴリの軍に戻って、お偉い貴族様の御機嫌を伺いながら、下位の騎士だからと危険な任務に回されるぐらいなら・・・自分達で納得いく仕事をした方が断然良いに決まっている。

それがポアフ隊長が抜けた後の<独立空軍部隊>隊員の総意だったのだ。




詩乃達ドラゴン持ちが復興支援の実働部隊、パガイ商会に優先的に素材を流す代わりに、相場に関係なく一定額で買い取って貰う。すでに詩乃達を専門にフォローして貰える様にと、魔術の使える獣人(ドラゴン持ち)商人さんも配置される事になっている。本拠地はトンスラで、ドラゴンの世話は其処で受ける。

・・・まあ、王妃様がもつ商会連合(グループ企業の様な物なのか?)の、一部門って感じなのだが、別にガンガン儲けたい訳では無く、NPOみたいなスタンスなので、よく解らない税金関係や法律・その他の面倒事を丸投げ出来る安心感は有難い。




「勿論お客様のご不安は理解しているつもりです、大事なご領地の事ですからね。ですから我々の活動に査察を入れる事を受け入れますし、狩った魔獣の頭数も月一でご報告いたします。」


『まぁ、世の中に2重帳簿など、ままある事で御座いますがな~ぁ?』


「それにやる気が御有りになる、代官の方や若い後継ぎの方には、我々と共に働いて頂ければ此方も助かると言うものなのです。人手は多い方が助かりますし、引き継ぎもスムーズにいきますからね。

特にお若い方にはハイジャイ式の教育・訓練をして差し上げる事も出来ます。

これは別料金となりますが、良き領主を目指す方・将来ハイジャイでドラゴンと絆を結びたい方には最高の予備校になると自負しております。高位の貴族の方が絆を結びにくくなっている今こそ、私達のこの活動が意味有るものになるでしょう。」


ハイジャイ・ドラゴンと聞こえて来て興味が湧いたのか、面白そうにプマ略とか、王太子、ターさんらドラゴン騎士関係者が寄って来た。

ドラゴン持ちはやはり敬意を表される様だ、場所を開けられ遜って下がっていく貴族が多い。うちらもドラゴン持ちなんだけどな?ちっ。


「では皆に、ハイジャイの心得を披露しようではないか。」


並み居る貴族を見回して、偉そうに王太子が声を張った。

『泣き落としで絆を<友>クラスで結べた(白さんのお情けで)癖に、調子こいてるねぇ王太子。聖女様にチョッと良い所!でも見せたいのだろう。』



【腹周り緩みは、すなわち精神の緩みだ!!】



ドラゴン持ち全員が手を後ろに組み、胸を反らせて腹式呼吸で大声を出した。

その声は大ホールの丸い天井ドームに反響して、途轍も無い大きな声に変り、ビリビリと空気を震わせ響き渡たる・・・あんたら五月蠅いよ。

驚いたピサヌローク公爵の、何が詰まっているのか解らない様な大きは腹が、タユンタユンと揺れて衝撃の大きさを物語っている。

貴族達には体育会系のノリは理解されなかったようで、ドン引きされていたのだが・・肝心の聖女様は・・後ろを向いていて、激しく肩が揺れていたので・・笑い上戸なのかな?

王妃様?・・グッ・・と、親指立ててサムズアップしたいましたが。

昔、詩乃が教えたのを覚えていた様だ、ピース!



『プレゼンは成功したと思って良いかな・・・?』


少なくとも、詩乃達<独立部隊>の意思は表明できたし、王妃の認可は勝ち取ったのだ。後は<お客様>が引っ掛かるかどうかだが・・。


「本当に儂は損をしないんだな・・・魔獣の討伐に係る事など無いのだな。」


河馬が呻きながら念押しして来る・・・自分が小狡い奴は、人様も悪く働くと思うものだ。


「それでは、すべて丸投げコースでよろしゅう御座いますか?

素材の売り上げは、此方がすべて管理運用する事に成りますが・・・御認め頂けますか?」

「いや、それはいかん!!領地の財産の様な物だからな・・・そうだ、シータマラート!其方新しい公爵家を興す身の上だろう。良い機会だ、これらの活動に加わって領地を再興させてみろ。お前暇だろう、女のケツばかり追いかけおってからに。」


追い詰められていたせいか、公爵にしてはお下品な言葉が聞こえて来たが。

突然話を振られた元➀王子様は慌てふためいて、両腕にぶら下げていた令嬢を振り払うと、一目散に会場を後にした・・・逃げ足だけは速いねぇ・・・。

河馬がなんか喚いているが、この様子では聞こえはしないだろう・・・このまま、海外お婿コースかな?


「では、公爵様はご成約と言う事で・・後程、我が<復興支援事業・マグデンス>の法務部の者がお伺いいたしまして、ご契約の運びとさせて頂きます。」


「儂は損などしない・・しない・・・しない。」

ブツブツと呟く河馬は、かなり気味が悪くかった・・法務部さんの検討を祈ろう。


『・・これで庭師の爺ちゃんの所への道が繋がった・・良かったよ。』

詩乃はシャルワと頷き合うと、ターさんに微笑んで見せた(ここ重要・あれで結構焼き餅焼きさんなのだ・・・。)。

これで新しい明日が始まるのだ、今度の現場はどんな所なのだろうか。





復興請負事業所の名前は<マグデンス>。

この世界の大きいと言う言葉の<マグナス>と、西を表す<オッキデンス>を合わせて【マグデンス】だ・・・つまりは大西・・詩乃の苗字からの引用である。

ナスデンスやマグオッキとかナスオッキよりは良いだろう?


大西家では、受けた恩や仇は3倍返しが基本姿勢だからね。

『庭師の爺ちゃん・・待っててね・・行くからね。』



<春の女神の祭り>は重要発表が有るからサボれないか、早く現地に行きたいものだと、窮屈な王宮の中で考えていた詩乃だった。


仲良し部隊は、これからも一緒です・・よかったねムウワ。

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