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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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舞踏会の攻防~3

会場に華やかなファンファーレが鳴り響き、王族の方々がにこやかにお出ましになった。


うん、完璧な微笑みと威厳・・・あのショボくれていた爺王様も、威風堂々とまでは行かないまでも、それなりの貫禄を見せつけている。

お仕事だねぇ・・・伊達に王様として、長年飯を食ってきた訳では無いと言う事だ。

ON・OFFの切替が素早く出来るなんて、流石の年季だと思わざるを得ない。

王様は玉座の前に進み出ると、例によって訳の解らない長ったらしいスピーチを始めた・・・朝礼の校長先生のお話と同じだね、是非短めにお願いします。

詩乃の小4の時の校長先生は話が長くて、貧血なのか気分が悪くなる子が続出して・・<必殺・妖怪朝礼爺>と呼ばれていたが。あの校長先生はもう退職されて、悠々自適の老後生活を送っているのだろうか・・・あぁ、いけない。余りに退屈なので、心が遠い昔に遊んでいた様だ。



周囲の貴族達はみな、神妙な顔をして聞いているが、本当に解っているのかな?

チラっとターニーさんを見上げたら、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。


『あれは・・端から話など聞いていないな。』


お偉い魔術師長様は理解する努力を放棄した模様だ、あの眉間の深い皺は、単に自分を<近寄り難い人物>に見せる為のバリアなのだ。

彼は今、非常に退屈していて、好きな魔術の陣の事でも考えて時間をやり過ごしているだろう。それをごまかす為に、ワザと気難しい顔をして<寡黙で孤高な魔術師>像でカモフラージュしているのだ。

この頃やっと生態が解って来た、魔術以外は案外ズボラな人物だ・・と。


『後でシャルワさんにでも解説して貰えばいいか。』


詩乃も努力を放棄した、どうせたいした事は話して無いだろう・・・。

それよりもだ、慇懃に控えるこのカーテンシーとか言うポーズ。

結構下半身に来るんですけど?騎士である詩乃でさえ、脹脛がプルプルしてきそうなんですけど?男性は軽く左足を下げ右腕を胸に添えるだけで良いなんて、何かズルい・・・今度王宮に来る機会が有ったら男装する事にしょう。


詩乃が密かに決心を固めていると、


「宴を始める・・・皆楽しんでくれ。」


王様の声が此処だけ聞こえた(重要だからね)。

ヒユ~~ッ終わった・・カーテンシー地獄から、やっと解放される。

よく周囲を見渡したら、太った叔母さん達は、T字型の簡易椅子の様な<つっかえ棒状>の物に腰かけていた、ズルいぞぉ~~~!!!プンスカだ。


『音楽が流れ始めた・・・そうだよね、舞踏会だから踊るんだよね。』


ボケッと眺めていたら、オオォオゥ~と周囲からどよめきが起きた。

壇上で王様がファーストダンスを、王太子と聖女様夫婦に譲っていたのだ。

若い二人に踊るようにと、手を会場の方に伸ばして促している。

心得たとばかりに王太子は聖女様の手を取ると、優雅にエスコートしながら階段をスルスルと降り、貴族達を<南極観測船しらせ>の如く、砕氷艦さながらに左右に掻き分け、会場の大ホール中央にと進み出てホールドの姿勢に入った。

う~む、悔しいが立ち姿だけで絵になる・・流石、顔とスタイルだけの王子だ。


       シャル~ウィ~~~ダンス~~ゥ


大勢の貴族達が囲む円形の壁の中で、ステップも軽やかに美形の2人が踊る・・うん、良いねぇ。綺麗な物を見るのは好きなので、楽しく拝見していたのだが。


「王がファーストダンスを王太子に譲った意味が解るか、これは予告だ・・・今年の<春の女神の祭り>で王位の新旧交代が行われるとな。」


侍従姿のシャルワが重々しく解説してくれたが、ターさんは聞いちゃいない。


「王太子の派閥が多くなって、政治的に安定して来たのが譲位を決意出来た大きな理由だろう。王太子の実家の公爵家の他、聖女派達・・・以前は下位の貴族の為に、数にも入らなかった小物な連中だったが、このところ領地の成長が著しい所が多いしな、何よりも聖女に心酔しているから敵に回すと厄介だ。獣人達も聖女に傾倒しているし、同じ獣人系である王妃派のザンボアンガ達も人口が増えて来て勢力を増している。ドラゴン達も聖女派だしな・・・これでは➀王子派は逆転不可能になったも同然で、ついに引導を渡されたって訳だ。」

「ドラゴンが聖女派なの?聞いた事無いけど。」


呆れた様に

「ドラゴンの姫は聖女の味方だろう・・・あんたの事だ。」

「あぁ、そうだね。そりゃそうだ。」


そんな派閥とか、王宮の力学何て念頭になかったよ・・・。


「問題は➀王子の実家がどう出るかだ、大人しく没落してくれればいいが。

➀の祖母は東の王国の高位貴族の出身だ、下手に東の王国に泣き付かれたりして、援軍の要請でもされると厄介だ、内戦が始まっちまう。まぁ・・このところの帝国との争いで、東の王国もかなり疲弊しているから、そんな事は杞憂で終わると思うが。・・それを見込んだ上で、この時期に思い切って譲位する事にしたんだろう。」


『自分の利害の為に、外国の兵を呼び込んで自国民同士で戦うなんて。』


詩乃は南の伯爵領に命からがら逃げ込んで来た難民達を思い出す。

みな疲れていて・・・何の希望も見いだせない様な、仄暗い目をしていた。

ここランケシでは、やっと上手く行き始めた地域も有ると言うのに、それをすべて水の泡にして、元の木阿弥にするような行為は断じて許せない・・・辛い目に遭うのはいつだって弱い平民なのだから。


「シャルワ・・・➀の実家の公爵って、何処にいる・・どんな人なの。」


シャルワは目で玉座に近い上席に陣取る河馬・・いや?恰幅の良すぎる初老の男性を示した。凄い腹だね何カ月なのだろう、もうすぐ何かが生まれて来そうな感じがする・・・。


「嗚呼いうタイプの人を説得するには、どんな感じが良いのかな・・・聖女風?商人風?それとも異世界人を前面に押し出した方が良いのかな。」


・・シャルワも黙って悩んでいる、情報が悪い方に多すぎて即答できない様だ。

ただ一つ言える事は、ああ言うタイプは損する事が大っ嫌いで、目先の利益に弱く、自分の手は一切汚したくはない・・って事だ。


『中1の時もいたなぁ、そんなタイプの子・・・掃除とか面倒な事は人に押し付ける癖に、先生に褒められると自分一人の手柄の様に自慢して、わざわざ委員に立候補する癖に仕事はしない。』


そのうち皆にスルーされて、お得意のお涙頂戴の<可哀想な私の話>をしても、ふ~~ん大変だね・・・の一言でスルーされていたっけ。その直後に舌打ちをして、何だか彼女の本性を垣間見た様な気がした思い出がある。


カウンセラー風では相手の矜持に触るだろうし、単なるコンサルタントでは言う事を聞かない様な気がする・・もっと強い何かが必要だ。


詩乃があれこれ考えているうちに、2人のダンスが終わり今年のデビュタント達が紹介されつつ会場に入った来た。爵位の下の方から入って来るから、ターさんの弟は最後の方だね。


デビュタントたちは流石に古狸たちよりも擦れていないので、初々しくて可愛かった・・・下位貴族の令嬢達のドレスは揃って魔糸で刺繍を施しており、チベットスナギツネの商売上手には驚かされる。仕事で付き合いも多いから、下位貴族とザンボアンガ系は仲良しなんだよね。


デビュタントたちは緊張しつつ王様に挨拶をすると、一言二言何か(あり難そうな)言葉を掛けられて早々に下がっていく。その後は嬉しそうに、下の段にいる聖女様に挨拶をしている・・・王太子・・何気に影が薄い、わざわざ聖女様の腰を抱いて仲良しアピールをしている所に健気さを感じる(笑)。


そうして円形に並んだ高位の貴族達に、それぞれ(派閥の者か?)挨拶をしつつホールの中央に並び始めた。詩乃とターさんは高位グループの隅の方に居たのだが、かなりの数のデビュタントが何故だか足を止めて<オマケ様~~~>と挨拶してくれた。何だろうね?聖女様のパシリ認定でもされているのか、お零れで人気が有るのかな?不思議だ。ターさんは不動の無表情だ。


そのうちにひと際目立つ、銀髪の青少年が目に入って来た。


「ターさん(面倒臭いのでもうターさん呼ばわりだ)、弟さんが来ますよ。現世に戻って来て下さい、彼の挨拶に答えてあげなければ。」


背中をぺしぺし叩いて覚醒を促す、今の詩乃は靴を底上げしているので、軽く背中にも手が届くのだ。


挿絵(By みてみん)


数日前・・・ターさんは手紙と魔術具をシャルワに託した、実家のバンメトート侯爵家へのお手紙だ。

なんと!シャルワはわざわざ志願して、バンメトート侯爵家へと、白山羊さんの様にお使いに行って来たのだ。侯爵家を見学する良い機会だとか言い出して・・情報収集家って根性が有るな。

アッシは侯爵家と係るのは、金輪際キッパリとお断りだが。


その手紙でターさんはハッキリと、


【バンメトート侯爵家を継ぐ気は無い事と、結婚は自由意志でするから口を出すな・・・廃嫡と勘当を喜んで了承する。】


などと超上から目線で手紙を書いたのだ・・貴族の親子関係はドライだねぇ。

託した<魔術具>は、半分血がつながった弟達に宛てた物だ・・金色の髪を銀髪に、緑色の目を青に変える為の物で、ピアス型になっているから常時付けていられる優れものだ。詩乃のアドバイスによって作られたもので、これで侯爵家を継げる条件が揃うと言うものだろう。

影の薄い次男が、ターさんのプレゼントを受け取るかどうかは定かでは無いが・・彼の判断に任せるとターさんは言っていた。

頬がビヨ~~ンと伸びる下の弟の分は、彼が成人近くに成長し分別が出て、社交デビューする前までに彼自身が決めれば良い・・・との事で、実の兄である影の薄い次兄に預けておくそうだ。


此処までターさんが突き放して、ようやく侯爵は遅い決断をしたようだ。


【カマウル オ メルギー バンメトート侯爵令息様】


彼を紹介する声に、会場の彼方此方から声が上がる。

オ・・・は、爵位を継ぐ長男に付けられる文字なんだってさ、これで魔術師長が侯爵家から離れて、独立した事が公にされたのだ。

円満に廃嫡したと、実家との関係は悪くは無いのだと・・この大勢いる場所でアピールしたい所なのだが、ターさんは考え事を中断されて少々機嫌が悪い。

眉間に皺2本・・・扱いに注意だ。


「ターさん?弟のカマウル様は、侯爵家の面倒な、あんな事やこんな事を、ターさんの代わりに引き受けて下さった・・いわば生贄のメメイの様なモノですよ?

彼の前途が怪しくなると、御鉢がまたターさんに回ってきて厄介ですよ。

幸多かれと祝福してあげて下さいよ、魔術師長が祝っていると解れば、周囲の当りも全然違ってきますからねぇ。」


この小言は効いた様だ、彼は突如<への字の口>を<Uの字型>に変えて、目は笑っていないものの、拍手を持って弟を迎えた。この態度に周囲は、兄弟の親密さを感じ・・円満解決だったのだ・・と良い様に解釈した様だ。


「兄上・・と呼んでもかまいませんか、ずっとお会いしたかったのです。」


弟の言葉に、頷くだけで言葉も無い・・内心何を話したらいいのか解らず、困っているのだと思う。


「義姉上様の御蔭で、私達兄弟は居場所を見つけることが出来ました・・感謝しています。弟もあれから人が変わった様に頑張っているんですよ。」


・・・黙って詩乃も頷いた、何を話して良いか解らなったから・・ただ、慈愛の微笑み(のつもり)で、嫌な感じにはなっていないと思うが。


「また侯爵家へ遊びに来てください。」

『断る!』

ふふふ・・と笑い合うが、これほど心の籠っていない笑いは無いだろう。


エスコートされていた、金ピカピカの令嬢はそんな様子を、心底安心したように眺めていたが。何だったのだろう?不思議な事に、彼女は詩乃にエラク長くお辞儀をしていた、まるで命の恩人の様に???





しかし好意を持ってこの様子を見ていた者だけでは無かった。


「聖女派のオマケの小娘と魔術師長に、2大侯爵家も従うのか・・・。」


➀の実家の公爵家は、孤立無援の状態に陥った様な暗澹たる気持ちになったいた。


「聖女さえ、ウチの王子を見初めてくれれば。」


いや、禁呪の魔術を使っても無理だったのだが・・・あの恥知らずの映像は、王宮のライブラリー深く収められており、いまだ恥は雪ぐことも出来ない。

このまま、おめおめと没落していくしかないのか・・。

苦り切った顔と、腐り切ったオ~ラを周囲に恥ずかしげもなく晒して、侯爵は唸り声を上げて歯噛みしていた・・・このまま終わって堪るか。


いつの間にかデビュタントのダンスが終わり、高位のカップルから中央に集まりだした。


「なっ!」


恥知らずにも平民のオマケの小娘が、魔術師長のエスコートを受けてホールの中央に進み出たではないか。貴族達の3割ほどがそれに違和感を覚え、顔を顰めたが抗議する事も出来ずに、腹の内に黒いモノを溜め込んでいく・・・感情は理性では越えられぬモノの様だ。


「ぶっつけ本番ですねぃ、この曲は難易度が高いでしょう?」

「私の魔術具に不可能は無い。」


ダンスの下手なターさんは、詩乃に投げ飛ばされた後、足に着ける<ステップ攻略アンクレット>を開発していた。銀色で複雑な意匠のお洒落な一品だ、意外とセンスが良いのがターさんだ。

アップテンポの軽快な曲が流れる中、上手に踊る二人が・・・


「損をしていると気が付かせずに、ジワジワと弱らせて行く方法は有りませんかねぃ。」

「目先の利益で釣るのだな、単細胞は3年先の事など考えられない・・・あの者なら、半年先の利益に縋るだろうよ。絵に描いたケーキを見せてやることだ。」



かなり、物騒な事を話し合っていた。


それにしても、本日のターさんのお衣装は・・・マントから手が出る様に、前身ごろの部分に縦にスリットが入ったいるものなのだが。

・・・・・・。

周囲を見ると、似たような意匠の服をお召になっている殿方も多いし?

別段この世界では可笑しな服では無い様なのだが・・・ダンスを踊ると風を張らんでマント部分がブワッと広がるのだ。

・・・・・・それが良いのだろうが・・この世界では、でも何だか。



『モモンガ?』


眉間に皺を寄せた、気難しいモモンガとのダンスは・・・つい笑顔が零れてしまうのも無理からぬ事だと思う・・・つられてターさんも笑顔になった。


見慣れぬ魔術師長の笑顔は、舞踏会の会場を凍り付かせたのだがったが・・・・あの人、笑えるんだぁ!!・・・と。



エゾモモンガ可愛いですよね~(*´▽`*)。

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