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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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舞踏会の攻防~1

いよいよ舞踏会・・・貴族達の中に、切込み隊長だ!イエ~ィ( `ー´)ノ

沢山の魔術具の明かりが鏡に反射して、舞踏会の会場である王宮の大ホールは煌びやかな雰囲気に包まれています。年頃の乙女なら誰しもが憧れる、夢の様な晴れの舞台・・・でも今の私にとっては針の筵の様な場所なのですが・・・。


私の名はマリナーウと申します、ルラルバンケアン侯爵家の娘で・・・かつてはラチャターニー魔術師長様の花嫁に一番近い令嬢と言われておりました。


私自身、強めな魔力を持って生まれていましたし、家柄も同じ侯爵家ですから、双方ともに申し分のない縁談だったのでしょう。婚約の話は私の幼い頃から、何度となく父の方からバンメトート侯爵家に申し込んでいた様でしたが、お返事は毎回<保留>とされていて芳しくない様子でした。


とにかくラチャターニー様と言う方は、魔術師の塔からラグモの様に出て来ない変わった御方で、御噂は何かと囁かれておりましたが、誰もそのお姿を見た事が無い有様で、令嬢達からは<幸せを運ぶ幻の銀の鳥>とか二つ名を付けられていたものでした。


今もこの会場にそのお姿は見つけられません・・・冬の社交界最後の大きな催し、王宮主催の舞踏会なのですから、出席しない訳にはいかないでしょうに。




「まぁ、ごきげんようマリナーウ様。お久しぶりです、今夜のドレスも素敵ですわね~~。」


噂好きな小鳥がサエズリながら近づいてきました、彼女は某子爵令嬢・・・かつては魔術師長の寵を(ご本人抜きに)勝手に争われた間柄です。

ご実家の領地経営が思わしくないのでしょうか、彼女の装いは去年の衣装を手直しした物の様でした。1点豪華主義にと考えたのでしょう、彼女の(ズン)胴は今話題の<魔繭の糸を染めた・・黄金の糸>で刺繍がされており、大変に美しく目立っておりました。


「綺麗な刺繍ね、ご自身で刺されたの?思いが籠っている様で素敵ね。」


彼女の刺繍のモチーフは、マヒワリの花・・・花言葉は<あなただけを見つめています>でしたかしら?心情が溢れすぎていて、痛々しい事この上ないと思うのですが、殿方の目にはどう映るのでしょうか?

『刺繍の腕は流石だわね、貧乏な領地の娘達は内職に刺繍をするそうですから、上手なのは当たり前なのでしょうけれど。』

子爵令嬢はこめかみをピク突かせながらも、私の自尊心をへし折りたいのか、まだ果敢に挑んで来ます・・なかなかのファイターですね。


「ラチャターニー様のご婚約が決まったそうですわね、お目出度い事・・・でも驚きましたわ私、てっきりお相手はマリナーウ様とばかり思っていましたから。だってマリナーウ様も、その為にいい歳まで結婚もせずに待っていたのでしょう?酷い話ですわね・・・私これでもご同情しておりますのよ?」


顔も目もニッコニコ笑っていて同情ですって?そんな有様だから貴方は令嬢としても3流なのよ。周りを見てごらんなさいな、顔をしかめて貴方を見ているご老人の多い事。・・・爺どもはこう見えて実権を握っている事が多いのよ、爺に嫌われたら縁談が確実に減るわ。


「お相手はどんな方かしら、私存じ上げないのですけど・・・どちらの高位貴族の令嬢なのかしら?お会いするのが楽しみだわ。」

「そうね、私も楽しみよ。」


私が碌に相手にもせず、澄まし顔でいるのが面白く無い様です。

本来なら、私は長年想い続けて(狙って)来た殿方に、哀れにも振られた、惨めで可愛そうな令嬢なのでしょうから。

ですが、その様な気弱なポジションは私の矜持が許しません。

ですから本日の私の装いは・・・黄金色のドレスに薄物の紗を掛けた、最新な意匠で最高級な魔布を使ったド派手な衣装で身を包んでいます。金色が眩しくて、夏ならば羽虫が寄って来そうな勢いですの。

・・・全く、この魔繭の布だけで幾らお金が掛かっているのやら・・・去年まで魔繭の布は白しかなかったのですが、染色の技術が進んだそうで、今年は色とりどりの魔布が舞踏会の会場を華やかに彩っています。


「新しい殿方でもお探しなの?とっても気合が入ったドレスね。」


子爵令嬢と、その貧乏貴族の取り巻き達が私をあざ笑います。

私が振られて、もういい歳を迎えているのに婚約者がいないのが愉快なのでしょう・・・自分達だっていない癖に・・・彼女達はこのまま婚約が整わなければ、平民に落ちるしかない身の上です、色々とストレスが溜まったいるのでしょう。


挿絵(By みてみん)


『あの魔術師長と娶せられる事の意味が、本当に解っているのかしら?』


・・彼女達の様に魔力の少ない人達には、解らないのかもしれません・・。

魔力が少ないと、相手の力量も測り損ねる事が多いものです。

自分の能力や主観を挟まずに、他人を正確に評価するのが難しいのと同様に、判断に狂いが出て来ても致し方が無い事なのでしょう。

私自身は魔力が強めだった為に気付きました・・・彼の・・・其処知れない魔力と・・・その恐ろしさを・・・。


     *****


魔力が強めだった私は幼い頃、(自慢の様に聞こえるかもしれませんが・・確かに当時は自慢でした、今思えば、自分は特別な令嬢なのだと驕っていた様に感じます。)魔術師達が沢山いる赤の塔で、魔力の訓練を受けていました。

勿論男性の様に、魔術師や騎士に成る為に扱かれる、本格的な訓練では有りませんでしたが。それでも選ばれた者しか入館できない魔術師塔で、講義を受けるのは晴れがましい気分でした。

其処に父のゴリ押しが有り、ラチャターニー様と引き合わせる為の方便だったとは、幼かった私が知る由もありませんでしたが。

そうして方便は成功し・・魔術塔の中で、彼を遠くからでも眺めることが出来たのは僥倖でした・・・彼の本当の姿を知る事が出来たのですから。


            魔王


それが幼い私の感想でした、こんな恐ろしい方に嫁ぐなんて、とても出来ない。

その後の事は良く覚えてはいませんが、魔術師塔からの帰宅後、熱を出して数日間寝込んだ覚えが有ります。




恐怖に駆られた私は、父に婚約の話を撤回して欲しいと・・何度も頼みました。

しかし<強い魔力を持つ血>に執着する父は、私の気持ちを解ってはくれません。

単に親離れが出来ない、乳臭い甘ったれな娘の我儘だと思っている様でした。


父は強い魔力を持つ血・・・その血を受け継ぐ子供を、身に宿す事がどんなに怖く危険なのか、まるで感心の無い様子でした。

考えてもみて下さい・・・ヌイの繁殖でも、小型の♂ × 大型の♀ のカップルなら特に問題は無いそうですが、逆に大型の♂ × 小型の♀ の組み合わせでは、母体の中で子供が大きくなり過ぎて、母ヌイが死んでしまう事が有るそうなのです。


それを魔力で置き換えて考えてみたなら・・・どう思いますか?


ラチャターニー様の母上様は、彼が身に宿った時から酷い悪阻に悩まされ、食事もほとんど取る事が出来ず、癒しの魔術で支えられながら何とか産み月まで頑張られたそうですが・・・私にはとてもそんな勇気も気力も有りません。

ハッキリ言って、恐怖しか感じられません・・・。

とうとう、大きなおなかを抱え・苦しんで苦しんで・・・突然、私のお腹を突き破って赤子が飛び出してくる様な、血生臭い夢を度々見る様になりました。


「私には無理です、ラチャターニー様の奥様には分不相応です・・・どうぞ、お許しください。」


父はそれでも私の話に耳を傾けてはくれません、ヌイの話を引き合いに出しても<そんな事は気にするな>の一言で片付けてしまいます。

余りにも嫌がり食い下がる私に、いきり立って


「女が子を産むのを恐れてどうする、それが女のいくさだろう!戦いもせず働きもせず、養ってもらいながら何を我儘を言う!命を懸けて魔獣と戦う事も知らずに何が恐ろしいだ!女なら命がけで子を成し、次世代を育むのが役目だろう!!」


そう私を怒鳴り付けました・・・父が魔獣を討伐に行くところなど、見た事も聞いた事も有りませんが。目の前にいる魔獣と、深く身の中に巣くう魔獣と・・どちらが恐ろしいでしょうか?


とにかくその時から、私はなるべくラチャターニー様と係らない様に、お姿も見ない様に過ごしました。月日が流れ、私も成人の歳を迎え、そろそろ結婚話が湧き出て来る年齢となりました。私のデビュタントのお相手を、父はバンメトート侯爵家に打診していた様ですが、肝心なラチャターニー様は研究に夢中で魔術師塔から出て来ないので・・・申し訳ないが辞退させて頂くとお返事をいただきました。(セーフ!!助かった!!)

それで仕方が無さそうにパートナーは父が努めましたが、これ完全に<虫よけ>ですよね・・・せめて年上の従兄弟にお願いしたかった(涙)。

それからしばらくの間、私の二つ名は<虫よけ令嬢>でした・・・(怒)。


     ******


あの人が素敵だとか、この人が物持ちだとか・・スズンメ令嬢たちがピーチクパーチク騒いでいます、またまたロックオンですか?

何気にあなた達、大物狙いですよね・・・プマタシアンタル様ですか?

女性に興味が無いとか・・・そっち系の<薄くてアレな本>をメイド達が読んでいたけれど(そして貸してもらったけれど)本当なのかしら?(ほぼ実名の<アレ系>の本は面白いわね、マプタシアンルタって・・マジウケる。王太子とプマ略様は乳兄弟で、いつも行動を共にしているので良いネタの様です。聖女様は爆笑なさって<本>をお読みになったとか・・・お貸しになったのは王妃様らしいですが。)


小さくため息を付いて妄想の世界に遊んでいたら、後ろから付き添いの叔母が袖を引きました・・・何でしょうか?



     *****



大ホールの近くには、休憩が取れる様にと個室が並べられています・・・勿論休憩にも使う部屋ですが、貴族同士の秘密の御話し合いにも使われます。


「お呼びと伺い参上いたしました、マリナーウ・ルラルバンケアンで御座います。」

「お呼びたてして申し訳ない、顔をあげて欲しい。」



こっそりと呼ばれた個室には、関係者各位・・・私の両親とバンメトートご夫妻が既にいらしてました。


「時間が無いので、貴族的な婉曲な表現は使わず3行で言わせていただく。」


<侯爵家はあれから3行でのフレーズが流行り、時間短縮に役立っていた・・・やはり親子である、新しい知識は使ってみたい様だ。>


「ラチャターニーは廃嫡され、新たな爵位を王家から賜る事となった。」

「当家とはすでに離れた為、婚約でも結婚でも好きにしろと言ってある。」

「新しい後継ぎは、今日デビューする者で年下だが・・・。それでも婚約する気持ちが有るなら、当家では歓迎する所存である。・・長らく返事を保留して悪かった。」


父は驚いて何か言い立てようとしましたが


「カマウル入れ・・。」


・・公爵様の御声に消されました。

控えの間から入って来たのは、今夜社交界デビューする為の白い衣装を身に着けた、繊細そうな細身の少年と青年が合わさっている様な綺麗な男性でした。

銀の髪に青い目・・・バンメトート家の特徴を色濃く持つ男性・・ラチャターニー様の弟君なのでしょう。彼は流れるような美しい作法で


「初めてお目に掛かります、バンメトート家の次男・・・今は、長男となりましたが<カマウル>と申します、宜しくお願い致します。」


『あぁ・・・なんて落ち着く魔力、強すぎもせず、弱すぎることも無い・・・私と同等な心地よい魔力です。』


「どう言う事なのか様、ご説明願お・・・ぐっ!」


私はカーテンシーをする振りをして一歩前へ出ると、後ろに下げた足の踵で、思いっきり魔力を込めて父の向う脛を蹴り上げました。

こう見えて魔力は父より強いのです・・・父が痛みのあまり悶絶している隙に。


「ご丁寧にありがとうございます、ルラルバンケアンが娘マリナーウですわ。社交界デビューおめでとうございます、とてもご立派なお姿ですわ。」

「お美しいマリナーウ様にそう言われると、お世辞でも緊張が解ける心地がいたします。」


「なにを・・・ぐっ!」


私は恥じらうふりをして、扇子で顔を隠しつつ体を捻り、父の鳩尾に肘をいれました。邪魔だてされては堪りません、私の一生の一大事なのですから。


「私の社交界デビューにご協力頂けますか?実は今エスコートをさせて頂く、お美しい淑女を募集中なのです。」

「まぁ、それは大変・・私などは父にエスコートされましたから、<箱詰めの虫よけ令嬢>と二つ名がつきましたのよ。」

「・・・それは・・・遠慮したいですね、哀れな私に救いの手を差し伸べて頂けませんか。」


お互いニッコリと笑い合うと、後は若いお二人でと・・・サッサと個室を出て、デビュタントが集まる小ホールへと向かいました。

バンメトート夫妻は無表情に、私の両親は・・・何故だか父は蹲っていましたが?



「助かりましたよ、急にデビューする事になりまして・・・その・・兄上でなくて、ガッカリされたのでは?」

「とんでもない・・・私は、身の丈に合った平和な暮らしが望みなのです。傍に居て安らげない方と、どうして暮らしていけましょう?・・・カマウル様こそ・・こんな年上の女でよろしいの?」

「僕・・私は・・芯の強い女性が好きなのです、バンメトート家は癖のある人物ばかりですから、か弱い女性では、お気の毒で・・とても家にお連れ出来ませんから・・・。」

「どこの貴族の家も同じですわね・・・悩みは尽きませんわ。」



    ****



エスコートしながら令嬢の細くしなやかな手を眺める・・・うん、重くない・・・これが普通の令嬢の手の重さなのだろう。

兄上の婚約者の手の重さは何だったのだろう・・・流石、兄上の選んだ女性だ。

運んでいるうちに石になって、押しつぶして来る魔獣の童話があったが・・兄上のお相手は魔獣の化身ではあるまいか。

4歳くらい年上が何だろう、人間であれば文句など無い・・・嫋やかな見た目に反して、なかなか芯の強そうな女性ではないか・・・あの蹴りと肘は見事だった。


【考えてみたらカマウルは弱い女性になど、お目に掛かった事が無かったのだが。】


『会場で兄上と化身様にお会いできるだろうか、是非お礼が言いたいものだが。』

そう思いながら、魔術具で変えられた銀髪を・・そっと撫でたカマウルだった。


無表情で見送ったバンメトート夫妻・・・父親を沈めた娘に唖然としておりました。

良い嫁さんが見つかりそうで、良かったね?(*´▽`*)。

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