復興顧問のお仕事~5
お仕事の終わりが見えてきました。
「どっこいしょ~~~~。」
今日も元気に工事に勤しんでいます、今日の現場はトンネルだぃ。
シャルワが発掘した古い城砦の見取り図に、隠し通路が見つかって・・はてさて何処につながるのだろうと話していたのだが、新たに見つかった古地図にその答えが有りました。(シャルワさん、夜は寝ないで書庫に籠っている様だ、お疲れ様です・・・埃アレルギーでも発症したのか、朝は五月蠅いくらいくしゃみをしている・・・是非ご自愛頂きたい。)
その古地図によると、隣のポワフ領と城砦を繋ぐトンネルが、山をぶち抜いて掘られていたようなのだ。
生憎と現在は入り口が塞がっていて、トンネルの正確な位置も、出入り口の見当も付かないのだが。
そこで・・・・・非・破壊検査・・・・・。
かつてCMでみた検査の様子を思い出し、モルちゃんに乗って空の上から<空の魔石>を翳したら・・・見えましたよ、山の内部が・・岩盤を深く掘り抜いたトンネルが見つかった。
凄いよね、ご都合主義って・・・助かるけどさぁ。
そこで今はトンネルの入り口付近かなぁ?と、当りを付けた場所で、瓦礫の撤去作業が忙しいと言う訳だ。城砦からポワフ領までの海岸線は、崖が切り立っていて通行が難しい、かつてポアフ隊長が住んでいた頃は山道を登って城砦と行き来をしていたそうだ。海に突き出た感じの山は標高が約600メートル・・・高尾山くらいは有る様なので、その道中は面倒な事この上なかったし、途中で魔獣に襲われて怪我を負った領民もいたと言う。
そこにトンネルらしき物が発見されて、大ニュースとなって領民達は沸き返った。
余りに領民達が喜ぶので、王都にいたポワフ隊長にも報告をした(お土産目当てで)が、彼はこの話題に大興奮すると、なんと王都の営業活動を勝手に一時中断して(お土産は買ってこなかった)、わざわざ伯爵領に戻って来て先陣を切って瓦礫と格闘し始めたのだった。
城砦とポワフ領を繋ぐのは、此処に暮らす人達の悲願だったらしい。
何でもポワフ領では貴重な薬草が自生していたそうで、ポワフの人々はそれで薬を制作して生計を立てていたそうなのだ。その薬は伯爵領の領民が欲して止まない物らしかったので、トンネルが再び開通されれば気軽に手に入るかもしれない・・と嬉しいらしい。また再び薬草の自生が確認出来れば、獣人以外の領民にも仕事が発生し、帰還の希望が持てると言うモノだし?
山側と海辺で住み分けすれば、魔貝の影響も薄れる・・・だろうかねぇ?
まあ、やってみなければ解らないが。
「りょう~みんの~~た~めなぁらぁ~、どっこいしょ~~~。」
『何か昔・・王宮の庭師の長様に、お嬢は<開拓農家向き>とか言われたような覚えが・・・かすかにするが。』確かに向いている様な気がする。
アウェーの館でムカつくことを散々言われて、ストレスが溜まっていたせいなのか、魔力の方もキレッキレで絶好調の詩乃様である。
今は主に大きな瓦礫を砕いて、浮遊の魔術具を使い山に運ぶ仕事をしている・・・これは後々段々畑の石垣になるそうだ、ミンカの木を植える予定なんだって。
『ミンカ・・ミカンが出来たなら、是非こたつも欲しいモノだねぇ~。』
鼻歌交じりで働いているのは詩乃ばかり・・それには少しばかり訳があった。
*****
工事も半ばを過ぎて、領地の再建に目途がついた為か、ポアフ隊長から重大発表が有った。彼は工事の完了を待たずに、春の女神の祭り(1年の年度初め)以後、<独立空軍部隊>の隊長職を辞職しポワフの領主に戻りたいと考えていると言う。
「すまないが、隊員各員は今後の進退の希望を私まで出す様に。隊長として最後の仕事と考え、各員の希望に添えるように尽力する。」
・・・なんだってさぁ。
その話に当惑して、いつにも増して仕事に身が入らないのがムウワである。
希望は早く決めた方が良い・・・と、言う事で、昼休憩の時に平隊員達が集まって今後の相談をし始めた。こう言う時のまとめ役は事情通のシャルワさんだ、彼は同じ現場にいるのに、何故そんな事まで知っている?みたいな事を調べ上げていた。
「いいか、俺達に選べる道は3通りだ。」
指を3本立てて皆を見回す・・親指と・人差し指・中指で3本なんだぁ・・日本と違うね。妙な事に感心しつつ、お弁当のパンを黙々と食べながら、シャルワさんの御高説を賜る。
「確実なのは、ポワフ隊長無き『死んじゃぁいないが』後<独立部隊>が解散させられるって事だ。<独立部隊>の隊長職に付きたがるに様な、奇特な高位貴族はいないからな。」
「姫はサムディン侯爵の養子じゃん、姫が隊長になれば良いんじゃね?」
「軍は今まで女人禁制だったろう、女の騎士が誕生した時でさえ大騒ぎになった『え?そうだったの』のに、今度は更に隊長職か?無理だろう・・女に頭を下げるなんて屈辱だと、石頭共がまた騒ぎ出すのがオチだ。それに満足に命令書も読めない様な隊長では、隊員や周りの者も困るだろう。」
『むぅ、何気にコソッと、下げられた様な気がする。』
「王妃も聖女も女だぞ!そっちに頭を下げるのは良いのかよぉ。」
ムウワが食い下がる、彼は今の部隊(主に食事関係)が気に入っているので、何が何でも解散したくは無いらしい。
「無理はないさぁ、皆は王妃様や聖女様に会った事がないだろう?なんかねぇ、思わず頭を下げたくなる様な威圧感がある御仁なのさぁ・・・くわばらくわばら。」
「移動するならハイジャイかトンスラだ、ドラゴンを世話できる施設はそこにしかないからな。」
『スルトゥにも有るよ、ど田舎だけどさ。』
「ハイジャイは嫌だなぁ~、高位の貴族のお坊ちゃま達が訓練に来るだろう・・・あいつらに絡まれるのはウンザリだぜぇ。」
この意見にはハーフエルフと獣人の2人も頷いた、かなり酷いチョッカイが有ったのだから無理も無い。
「飯は美味いんだがなぁ・・・。」
「問題は其処では無い、ハイジャイにはサムディン大佐が居る・・・。
妻子ある身で・・・しかも美人で巨乳の奥さんを持ちながら、<王族の命令で仕方なく娶ってやるんだ、有難く思え、この平民の小娘が。>と上から目線で姫に婚約を迫った挙句、投げ飛ばされて大恥をかいた・・あの大佐がいるんだよ。」
「ドラゴンが嫌う・・か・・・。」
「その通り、姫のモルさんは絶対にハイジャイには行きたがらないだろう。そうなると、モルさんに懸想をしている俺の相棒ダイオプサイドも、ニーゴのゴールディも当然ハイジャイに行くのを拒むだろう。」
「じゃぁ、トンスラに行けば?」
「トンスラは民間が経営している・・・王妃が出資している商会がな、要はトンスラに居たければ商人になるしかない。・・・騎士ではなくなり、商人となる決心が要る。」
「商人は嫌いだ!!」
日頃、文句垂れの割に、大きな声を出した事の無いムウワが叫んだ。
「俺は商人にだけはならない・・親父が亡くなった途端、借金を取り立てに押しかけて来て・・親父が眠るベットの中や、妹が抱きしめていた人形の中身まで裂いて金を探した様な連中だぞ。俺は絶対に商人なんかにはならない!絶対にだ!!」
・・・・ムウワ・・・。
「残る道は、ポワフ隊長に付きしたがって領民にして貰うかだ。」
「飯マズは、い・や・だ~~~~~っ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムウワ・・・・・・。
*******
「~って事が有ったのさぁ、モルちゃんどうする・・ダイプゥさんとゴールディさんは付いて来そうだけれど。トンスラで良いかな?最もうち等にはランパールにお屋敷が・・・ターニーさんのだけど・・・有るからねぃ、居場所が無くなる心配は無いのだけれど。」
『ダイプゥさんは兎も角・・ゴールディが荷物運びに満足するとは思えないよね。』
「ゴールディさんは魔獣狩りして、蛋白質の確保に勤しみたいだろうからねぇ。」
今モルちゃんと詩乃は二人きりで飛んでいる、モルちゃん親衛隊が付いて来たがったが、相棒同士の作戦会議だから遠慮して、と言ったら渋々引き下がってくれた。
『詩乃ちゃんはどうしたいの・・・騎士を続けたいと思う?』
モルちゃんはこの前の事件・・<詩乃が人と戦ったアレ>・・から、詩乃のコアの内に<心の疲れ>を感じ取っていた。
元々、争いが有る様な社会に暮らしていた訳でも無ければ、好戦的な性格でも無い・・・たぶん無い詩乃なのだ、疲れが溜まっていても不思議ではない。
好きで騎士に成ったわけでも無いし・・・むしろ自分と縁が出来たが為に、無理やり騎士にさせられてしまった様なモノだから・・・そう思っているモルちゃんは責任と心に痛みを感じていた。
「騎士はねぇ・・・必要な仕事だと思うよ、治安の維持は大事だし、本来は弱い者を庇うのが仕事だしね。でもねぇ・・・ここはアッシの心の弱い所なんだが、悲しい場面を見ないで仕事にはならないだろう?」
『いろいろ有ったよねぇ・・子供を攫われて殺されてしまった親御さんとか、暴漢に因縁を付けられて怪我をしたお父さんとか。悲しみ泣いている姿が、忘れられない仕事では有るよね。』
「辛い仕事をタフな人に押し付ける様で悪いんだけど、アッシは何だか悲しみの耐性が少ないと言うか、悲しむ顔より・・どうしても喜んでくれる顔を見たいと思ってしまうんだぁ。」
『そうだねぇ、クイニョンも初めは喧嘩腰だったけれど、最後には皆笑って感謝してくれたしね。此処でもさぁ、人の顔つきが随分と変わったよ、皆明るくなったような気がする。』
詩乃は上空から伯爵領を眺める・・・魔獣の森との境界線に、堅牢な壁が作られ人と魔獣の住みわけが完了していた。貯水池や畑も完成し今は傾斜地に段々畑を制作中だ。
岬の向こう・・・ポワフ領でも壁の完成まじかで、海には魔貝の養殖の為の筏が浮かべられている。ちなみに人工的な入り江を作る為に使われているのは、詩乃が石化してしまったオレウアイの骨型ブロックだ。オレ~ブロックは絶妙な隙間が有る為に、波の勢いを削いで穏やかにしてくれるし、海の栄養素は通す優れものだった。石化しても魔獣の威圧が有るのか、海の肉食魔獣達も近寄って来ないので大変に助かっているそうだ、感心感心。
奴隷として此処に連れて来られていた獣人さん達は、皆ポワフ領の正式な領民となる予定で、安心した立場を手に入れられる事を喜んでいた。
「働いた成果が、目に見える形で残せるのは嬉しいよねえ・・・城砦のリノベーションもザンボアンガ系の人達が済ませてくれたし。・・・此処からの撤収は<春の女神の祭り>より前になりそうだね。部隊の皆も休暇を取っていないし、早めに終わらせて休暇をねじ込みたいね。」
『・・・帰る所も無さそうだけどね。』
そうなのだ・・・多額の借金を残したまま、領主の父親が亡くなってしまったムウワ家では、まだ年若い妹が隣の<おっさん>領主に嫁ぐことで借金を肩代わりして貰ったそうだ。
・・・妹と領地を丸ごと奪われて、長男のムウワはヤケクソでドラゴンの騎士を目指したらしい。
歳が20歳も離れていれば、犯罪臭までするのだが・・・貧乏過ぎて嫁を貰えなかっただけで人柄は良い男(妹談)だそうで、残された母と領民もソコソコ親切にされているらしいが。
妹ラブなムウワは、決して認めていないそうだが・・・。
まぁ、部隊の隊員のそれぞれが、継ぐ領地も無い2男・3男達なのだから・・ある意味、身軽でお気軽な所は・・・長所と言えるのかな?
『詩乃ちゃん、自分の心のままに進めばいいよ。モルはどんな事でも応援するし、いつでも一緒にいるよ。』
有難う・・・言葉にしないでも解り合えるところが相棒だね、心強い味方がいてくれて嬉しいよ。
「問題は、言葉にしても通じにくい<あの人>だよねぇ。」
『あああああぁぁぁぁ~~~~~っ。』
意外と心配性な婚約者(バンメトート侯爵家では、売り言葉に買い言葉で、婚約を了承している様に話してしまった・・・いや、別にターニーさんが嫌いな訳では無いけどさぁ。)に、どうやって自分の気持ちを伝えれば良いか・・・悩む所だ。
「取り敢えず、企画書とプレゼンの練習でもしようかなぁ。」
茜色に染まった可愛い空を飛びながら、そんなことを考えていた詩乃だった。
転勤はサラリーマンには付きモノですが・・・仲間と離れるのは寂しいよね。