アウェーなお宅訪問~2
子は親の鏡と申しますな(=_=)。
「何でお前が魔獣を持っているんだ、こんな大きい魔獣を!」
『イチイチ吠えるな小僧。』
「私が狩ったからに決まっているだろう。」
納得がいかずまだ吠え掛かろうとした小僧に、侯爵が一言・・。
「シーノン殿は、ドラゴン様の騎士なのだ。」
公爵の説明に使用人や護衛の騎士を含む、その場にいた一同が驚きに固まった。
『えへへん、どうでぃ凄いだろう。』
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贈り物のオレウアイは、執事が浮遊の魔術で浮かせ視界から消えて行った。
流石に侯爵家、魔力の強い使用人が沢山いるようだ、一族の分家の者なのかもしれない。何だか6男の所のボコール公爵家と似ている感じがする。
改めてお茶を頂いていた一同は、侯爵の言葉に一様に驚き、詩乃の顔をマジマジと見つめた。詩乃は何事も無いかの様に、優雅に(詩乃比)お菓子を頂き、お茶のお代わりを受け取っていたが。
「騎士だと!嘘だ!女は、戦ったり出来ない!それに働くなど下賤な者がする事だ、高貴な女性はそんな必要は無いのだ!」
詩乃に詰め寄り、つばを飛ばし吠えたてる小僧・・五月蠅いよ。
「ほう・・・では坊は、王妃様や聖女様を下賤な者と言うつもりなのか?お二人がランケシ王国の為・民の為に働いていないとでも言うのか?・・・不敬だな。」
「ぐっ。」
「それに、侯爵家の裏方を仕切って動かしている奥方様はどうなのだ、侯爵様を支えて働いて居るのでは無いのか?これだけの大きな館や領地の管理の指揮など、並みの働きでは勤まりはしまいが。」
『小僧の母ちゃんはどうだか知らないけど?働くのは下賤な者がするそうだし?』
小僧は反論したくて口をパクパクしていたが、侯爵が其の通りだとばかりに頷いたので<グゥッ>と押し黙った。一方、奥方達の表情は少しも変わら無かったが、片方が明るくなって、もう片方のオ~ラが暗くなっている・・・口ほどにモノを言うのがオ~ラだ・・・正直で面白い。
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『小僧はなかなか、負けず嫌いな様だな・・・。』
「私は聞いた事が有ります、独立空軍部隊でしたか。以前に初の女性隊員が誕生したと話題になっていましたが、そうですか貴方がドラゴン様の騎士でしたか。」
筋力不足の次男?が空気を読んで話し出す、この人はなかなかの苦労人の様だな。厳しい父親・冷たい奥様・立場を弁えない実母に我儘な弟・・・それに越えられ無い程の強大な魔力を持つ長男か、嫌な家庭だねぃ・・これでは少しも気が休まらないだろう。御気の毒に。
「独立空軍部隊?!貧乏貴族や獣人・・・女までいると言う、ドラゴン様をかどわかした無法者の集まりでは無いか!!」
またまた吠える小僧、君は静かに喋れないのかね?だんだんムカついて来たぞ。
『いや?変人の集まりではあるけれど、法令は順守しているよ?たぶん。』
「私は将来ハイジャイに行ってドラゴン様の騎士となり、ドラゴン様を無法者達からお救いするのだ。今もハイジャイに行くために勉強も剣も、頑張って鍛えているのだぞ。」
どうだ凄いだろうとばかりに薄い胸を張り、懲りない小僧は詩乃をビシッと指すと声高に喚いた。『人を指さしたらイケないと、お母さんに習わんかったのかね、この小僧は。』
その姿を満足げに見つめるお局様・・これはかなり甘やかし溺愛している様だ。
「教師共からも、絶賛されておるのだ!私は稀に見る才能の持ち主で、素晴らしい素養が有る子供なのだとな。」
「流石、侯爵様の血を引く私の息子。ほほほ・・なんて誇らしい事よ。」
『なんてお目出度い・・の間違えジャァ無いかぃ?』
ちらっと侯爵を見たら、憮然とした表情で眉間に皺を寄せている・・・なんだろうねぇこの父親は。アホな子供を教育するつもりも無いのか・・放任主義?これ一種のネグレクトだよね。ターニーさんだって放置されていた訳だし?
ほんとに貴族のやる事は解らない、平民なら将来使いモノにならない様な大人に育ったら始末に困るので、全力で教育し矯正をカマすのだが・・・街ぐるみでな。(それはそれで怖い気もするのだが。)
「無理。」
「えっ?」
「だから無理なんだって、ドラゴンは魂の絆で結ばれた相棒を侮辱した人間を許しはしない。坊はさっきから散々私の事を侮辱していただろう?・・・ブスだブスだと。
それを知った私のドラゴン様がお怒りだ・・・1頭怒らせると、その怒りが他のドラゴンにも伝わってドンドン広がって行く、もう坊を背中に乗せて飛ぼうと思う様な奇特なドラゴンはこの世には居ないだろう。」
愕然とする小僧、顎が外れそうに口が開いている・・・泣くかな?
「此処にドラゴン様など、いないではないか!」
「遠く離れていても、相手を感じ・言葉が聞こえるのが魂の絆と言うものだ。
此処での出来事を私のドラゴンはすべて感じ知っている(嘘、呼びかけなきゃ聞こえない・・多分、伯爵領でイチャコラしながら働いていると思うよ。)・・・残念だったね。」
思わぬ展開に唖然とした小僧は歯を食いしばり、握りしめた手をフルフルと振るわせて・・・今度は泣くかな?
「お前!どうにかしろ!!」
泣かなかった・・・気が強いのは結構だが、他力本願か情けない。
「それが人にモノを頼む態度か~~~。」
柔らかい餅の様なホッペをビロ~~ンと引っ張る、凄いねこれ、伸びがよくねっ?何処まで伸びるんだろう・・・面白い。
「いだだだ・・・なでぃおずるぅ~~はだせぇ~~。」
控えていた護衛騎士が詰め寄ろうとしたが、侯爵が軽く手を上げてそれを止めた。
小僧の母親がいきり立ち喚こうとして、侯爵に魔力で口を塞がれ拘束される。
『やっちまいな・・って事か?本来なら親の仕事だろうが。・・貸し1つだ。』
詩乃は小僧の頬を両手でガシッと挟むと視線を合わせ、低い震えあがる様な冷たい声で話し出した。(ボイスチェンジャーで、低めに設定しております。)
「教えてやろう小僧、ドラゴンはな・・口ばかり達者な貴族のボンボンは大っ嫌いなんだとさ。実力も無く、1人では何も出来ないくせに使用人や貧乏貴族に偉そうに当たり散らしている姿は、見ているだけで胸糞が悪くて吐き気がするそうだ。
勘違いをするな小僧が偉いのではない・・父親の侯爵や・・その先祖の功績で優遇されているだけであって、小僧にはまだ何の功績も無い、単なる保護されている子供にすぎないのだ。」
小僧は如何にか逃れようと、詩乃の手に爪を立てて引っ掻いたが、手は石の様に硬く(結界の弱だな)少しも緩む事が無かった。
「ハイジャイに来る高位の貴族で、ドラゴンと絆を結べるものは皆無だ・・・何故か解るか?ドラゴンに嫌われるからだ。
ドラゴンは自由な魂を好む、なぁ小僧・・・母親の言葉を真に受けて、少しも周りを見ようともしないし、言葉を聞こうともしない・・自己満足の小さな世界に閉じこもって安穏としていて心地よいか?しかしそれでは、お前の目指すドラゴンの騎士には絶対になれないぞ?・・・お前に魂の自由はあるのか?・・小僧は誰に魂を縛られているのだ。」
驚いて固まる小僧、母親が彼の世界の中心で絶対の価値観を持って存在しているのであろう・・・幼い子供なら無理からぬ事だ。小僧は息をつめて、初めて詩乃の視線を真正面から受け止めた・・その瞳は恐怖に震えている。
「稀に見る才能の持ち主?素晴らしい素養?そんなお世辞を信じているのか、お目出度いな・・・教師共は面倒な小僧を適当にあしらう為に褒めているに過ぎない。誰も本気で小僧に向き合ってなどいないのだ・・・何故だか解るか。」
絶対と信じて疑わなかった自分の世界が、足元から崩れ去る恐怖で小僧の足はガタガタと震え始めた。
「小僧が教師の話に耳を貸さないからだ、親の権力を振り翳し、我儘放題な馬鹿な子供を誰が本気で育てようと思う?教師に相応の礼を取っているか、教えを乞う者として感謝の気持ちを忘れてはいないか。」
庭に控えていた小僧の剣の教師の若いのが、詩乃の言葉を聞いて黙って膝を折り騎士の礼を取った。自分でもこの幼い主に、真摯に向き合ってこなかった自覚が有るのだろう。
何だか大人が寄ってたかって馬鹿な子供を育成している様で腹が立つ<嫌われても真っ当に育つように小言を言うのが大人の役目だろう>お爺ちゃんは良くそう言って近所のDQNに説教していたものだった、尤も碌に聞いてはいない様だったが・・・・。
言うだけ言うと、詩乃は石化した小僧の頬を離して席に戻った・・・。
静かな誰も何も言えない雰囲気の中、小僧は一人呆然と立ち尽くしていたが・・・やがて騎士の礼を取っている剣の教師を振り返り、
「私には・・稀に見る才能は無いのか?素晴らしい素養の持ち主では無かったのか?」
震える声で質問をしていた、質問された若い教師は、一度目を固く瞑り・・勇気を振り絞るように
「クラン様の剣の腕前は、同年齢の子供から比べましても・・・並みの下で御座います。申し訳ありません、クラン様が怪我をしたり疲れたりしない様にと、奥様からきつく言われておりました。クラン様のご成長より、職を失うのが怖くて・・身の保身に走ってしまいました。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
どうしたらいいか解らずに、夕方に迷子になってしまった幼児の様に立ち竦む小僧・・・哀れだね、こう言うのを優しい虐待って言うのかな。
「私のドラゴンに、口止めしてやらん事も無い。」
ハッとして小僧が詩乃を振り返った・・詩乃は小僧を見返す事も無く
「まず教師からやる気を引き出して見ろ、坊が変われば教師の意識も変わるだろう。成長を皆に喜んで貰える様な、そんな人物を目指す事だ・・・それが出来なければ、ハイジャイに行っても無駄になるだけだ。」
一人考え込んでいた小僧は、急に引き締まった顔をしたと思ったら。
散々馬鹿にして困らせて来たであろう、年若い教師に・・・
「もう一度、私を鍛えなおしてくれ・・下さい!」
そう言って、教師の前に騎士の礼の真似をして膝を折った。
詩乃を覗くすべての人が酷く驚く中(それほどに今まで酷かった様だ)、2人は退出をする許可を得ると鍛錬の為に庭に戻った行った。
「義姉上様、また来て私の成長を見て下さい。」
等と謎な言葉を残して・・義姉だと?・・御免パス・・もう来たくないから。
・・・おかしいな~、全力で嫌われようと頑張ったのに・・なぜ懐かれたし?
その後、侯爵は口を塞いだままの兄弟の母親に
「其方、実家の母親の体調を気にしていたであろう、暇を取らすからしばらくゆっくり見舞いなどして来るが良い。」
等と、戦力外通告で退場処分を出していた。
彼女は口の拘束をやっと外されると、開口一番噛み付いた。
「私を追い出すのですか、酷いでは有りませんか・・・私は跡取り候補の2人を生んだ母親ですよ。血の繋がりの無い者が母の代わりが務まりますか!!」
「いや?王妃様は子供を産んでないけど、王子達を育て上げたし?」
余計な事を言うなと詩乃を睨み付けて来るお局様、リアルにハンカチを噛んでキ~~~ッてする人を始めて見た。
「実の母親の愛情が必要でしょう!!」
「何かと実家とその母親が口を挟んで来た結果、第1王子はあんな風に育ってしまったしねぇ。」
・・・・・あああぁぁ・・・・・・・・ねぇ。
その場にいる全員が(驚いたことにお局様までもが)、第1王子を思い浮かべて項垂れたり、苦笑いを漏らしたりした。
公爵家に出戻った噂の元王子様は、働きもしないで遊び歩いているごく潰しに進化し、今や公爵家の悩みの種になり果てていた。
無暗に自尊心と自己評価が異常に高いのだが、実力の方はサッパリで、何をさせてみても飽きっぽく長続きしない困り者なのだそうだ。魔力はソコソコ強いから、そのうち外国に婿養子にでも出されるのではないかと噂されている。
「この家に元王子の様な者は要らぬのだ、領民からの税を無駄にする訳にはいかぬからな。その方は子供を甘やかすばかりでかえって害となる、暫くは息子と距離を置き影から見守るのも母親の愛情だろう。」
奥様が女官長のような偉そうな人に指示を出していた、これで嫌でも何でもこの家から出されるのだろう・・・あ~らら、貴族って非情だねぃ。
これには怒り心頭の母親が、お前のせいだと詩乃に詰め寄る場面があったのだが、筋肉不足の息子が
「あの兄上が選んだ女性ですよ、私達が叶う相手では無いのです。」
と・・訳の解らない慰め方をしていた、どう言う意味なんだ?訳が解らん。
そうして<場が白けた>と、侯爵の提案で場所が移され、侯爵家の書斎でまたまた圧迫面接は続けられるので有りました・・・。
うわぁん・・お家帰りたいよぉ~~~。
フツーの高位の貴族と話すのは初めての詩乃、カルチャーショックを受けるのはどっちだ!