王族とのお茶会~2(これも恋話?)
夫婦の闇は他人には解らぬモノの様ですな・・・。
「王妃さまと結婚して幸せですか?」
『自分ができない事を、人に押し付けるなゴラァ。』
詩乃の質問に、会場に控える総ての人物が(ターニーさん除く)が凍り付いた。
何故なら客観的に、どう見てもこの王夫婦は上手く行っている様には見えなかったからだ。・・・2人の王子は側妃の息子達(王の種では無いが、王と王妃・・当事者の数人しか知らない事実だ。ちなみに王子達は知らされていないが、薄々感づいてはいる。)だし、王宮内での住まいは西と東の端に分かれ、公務では兎も角、プライベートで寄り添っているところなど終ぞお目に掛かった事など無かったからだ。
「幸せ・・・・。」
王は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、呆然と詩乃を眺め・・・やがて視線を王妃様に向けたと思ったら、耳まで真っ赤になって蚊の鳴くような声で言った。
「余はこの上も無く果報者で、幸せじゃ・・・余も、このランケシ王国も妃が居なければ一日として成り立たぬ。男としては情けない限りだが・・・その・・・妃のそんな頼りになる所が好きじゃ。・・・一番好きなのは・・・キツめの顔じゃが。その目で見られると、体がすくんで熱くなる・・・妃は、こんな余の事を好かぬだろうが・・・。」
これには温室中の皆が驚いた(ターニーさん除く)、何なのコノ年代物のチェリーさんは、何か変な性癖まで披露されたようにも思えるが???
特に王太子は父親の告白に驚き過ぎて、フリーズが解けず息をするのも忘れた様だ、ヒューヒューと変な呼吸音が聞こえる。すかさず聖女様が背中をバンバンと叩いて、正気を取り戻させ息を吸わせている。
王様はそれだけ如何にか絞り出す様に言うと、反応が怖いのかチラチラと上目遣いに王妃様を見上げている・・うぜぇ・・何なんだこのオッサンは!何だか居た堪れない。
【夫婦喧嘩は犬も食わない・・・よくお婆ちゃんが言っていたものだ。
父さんと母さんが喧嘩をして家庭内の空気が悪くなると、小さかった詩乃は爺婆の家に緊急避難(お兄は道場に行っていて留守)しに行ったものだった。お婆ちゃんは夫婦の事は夫婦にしか解らない、微妙な機微が有るのものだ・・・放っておきな成る様になるから・・・と泰然と構えていたっけ。
お婆ちゃんは特に心配もせずに、詩乃にお茶菓子を振る舞ってくれたっけなぁ。
そうして夕方近くになると(喧嘩は大概休日の朝~昼間に起こるモノなのだ。)両親揃ってお婆ちゃんの家へ詩乃を迎えに来てお茶を頂き、その後お兄の道場に寄って、その晩は家族揃って外食して(大概は焼肉だった)帰宅するのが常だった。】
王の言葉を受けて、王妃様は静かな沈黙を保っているし・・・誰も何にも喋らないので(覚醒した王太子がどうにかしろと目で訴えて来る事だし?)仕方が無いので(雰囲気クラッシャーでもあったしね。)。
「そうですか、では私も幸せになる為に努力をしてまいりたいと思います。」
・・綺麗に締めくくったつもりだが・・?如何でしょう??
数分間・・更に沈黙が場を支配していたのだが。
「ほほほほほほほ・・・・・・。」
突然、王妃様の心底愉快そうな笑い声が温室に響き渡った。
これはこれで破壊力抜群で、一同(詩乃とターニーさんを除く)嫌な汗が背中にダラダラと流れた。
『何だろうね、王妃様にしてみれば試合に負けて勝負に勝った様な・・・肉を切らせて骨を断った様な気分なのだろうか・・・良く解らんが?』
「では我が君、たまには二人でゆっくりとディナーでも頂きませんこと?今宵の予定は如何ですの。」
「妃の誘いならば、いつでも喜んで駆け付けよう。」
・・・あんた、暇だしな・・・・・
温室の一同(詩乃とター以下略)の気持ちが揃った一瞬だった。
その後、後は若い皆でと王夫婦は温室を去って行ったが・・・。
*******
「フゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ。」
人払いした後、嫌みな程に長ったらしい溜息を吐きだした王太子は。
「お前と言う奴は、何て事してくれるんだ!! ヒデグワァッ!」
そう叫ぶと詩乃の頭をグリグリしようとして、ターニーさんの結界に吹っ飛ばされた。王宮では規則で自前の結界を張ることは出来ないはずだが、王宮の危機管理部門の責任者ターニーさんはその限りでは無いらしい。彼は婚約者の詩乃に、相手が死なない程度の結界を張っていた・・案外過保護な人だからねぇ。
「王太子と言えども、私の婚約者に無暗に触らないで頂きたい。」
「おいラチャ!その結界は強すぎるだろう、この俺だから助かったが・・・怪我じゃすまないぞこれは。今すぐ弱めろ、王宮で人死にを出すつもりなのか。」
「もげろ」
「そうねぇ、子供はもう2人いるし?」
酷い!!このセリフには、何故だか男3人(王太子・プウ・ターニー)から非難の声が上がった。
「もともと権力が集中している王妃に、お前は更なる力を確信させたんだぞ、解っているのか?」
「いや?まったく。」
何でもじり貧な➀王子の実家とその眷属が、反王妃として集結しつつ有り・・・まさか帝国の二の舞の様に内乱とまでは行かないだろうが、不穏な空気に気を揉んでいる昨今だと言う。今日の件が冬の社交界に悪影響を及ばさなければ良いのだがな、王太子が尤もらしく政治?を語っている。
「➀王子の実家は以前から、王妃にとっては目の上のタンコブだったからな。ここで一気に潰しに掛からないとも限らない・・・さっきの王の言葉は、王妃に全権を委任したようなものだ・・・余計な言葉を引出しよって。」
「せっかく国内が安定して来たのに、また荒れれば困窮者は出るし、国外の勢力も付け込んでくるだろうしね・・・困ったものだわ。」
憂い顔の聖女様をそっと抱きしめると、王太子は詩乃に眼を飛ばして来た・・・けっ!<この俺に任せておけ>ぐらい言えんのか、このお坊ちゃんが。
「お前が来ると何が起きるのか予測不可能で胃がもたん、高位貴族のお茶会は来なくていいぞ・・・どうせ➀王子の実家に絡まれるのがオチだ。」
「サー・イエッサー」
王都に来るなんて、此方だってウンザリ案件なのだから意見の一致を見て大変に喜ばしい。ただ、チョッと気になるのは➀王子の実家の領地が荒れているって事だ。
聖女様の離宮に居候していた頃、親しくしてくれた庭師のお爺ちゃんの故郷が、確か➀王子の実家の領地だったはずだ・・・お爺ちゃんは元気に暮らせているのだろうか。寂しかった離宮時代傍に居てくれたのはお爺ちゃんだった、詩乃に水や風の初歩の魔術を教えてくれたのもお爺ちゃんだった。その技は今も詩乃を守る強い力となっている・・・うん、恩メーターが回っているね、出来る事なら恩返しがしたいものだが。
➀王子の実家の領地か・・・面倒事が多そうだ。
「お前何を考えている、悪い顔をしているぞ。」
「お前が動くと、話が大きくなる自重しろ。」
・・・・②とプウ、あんたら2人には、恩はミジンコも感じないがな。
「申し訳ありません聖女様・・・。」
楽しくも無い話を続けていると、美人な女官さんが死角から近寄って来て、そっと聖女様に耳打ちをした。何やら深刻そうな顔をして囁いている、聖女様も軽く目を見開いて驚きを隠せないでいる様だ・・・何だろうか・・緊急な事かな?
お暇する良い機会だ・・さて、このままトンズラしてお土産を買いに。
詩乃がそう考えていると、聖女様は詩乃とターニーさんの顔を見て心配そうに告げて来た。
「詩乃ちゃん、ラチャターニー・・・。
温室の前にバンメトート侯爵がいらしているわ、息子の婚約の噂を聞いて会いに来たそうよ。どうする、日を改めて貰ってお会いする?」
『息子?婚約者??バンメトート何だそれ???』
いまいち理解が追い付かず、詩乃がボケッとしていると、珍しく気が利いたプウ師範が解説してくれた。
「バンメトート侯爵は、名の通りラチャターニーの父親だ。」
「はぁ?」
「ラチャターニー・オ・メルギー・バンメトート・・・ラチャのフルネームだ、何だお前知らんのか婚約者の癖に。」
「・・・長いね、寿限無みたいだ。」
2歳の時に魔術師長に預けられた事は聞いて事はいたが。
「それ以来、ラチャは侯爵家とは縁を切って会ってはいない・・・今合えば、30年振りにでもなるのだろうか?」
「はぁ?魔力を制御出来る様になってからも、家族に会っていなかったんですか・・・何でまた?」
「わざわざ会う理由が感じられなかった、顔も覚えていなかったしな。」
・・・さようですか。
感情を見せないターニーさんから、仄暗いオ~ラが滲み出て来る・・・これは恐れだろうか。
「どうしやす、今なら人払いして貰って親子水入らずで会えますがねぃ・・・居ても良いのなら、アッシは傍に控えておりやすが?」
コホン・・・聖女様が軽く咳き込む・・・いけね、地が出ちゃった。
ターニーさんは本来は魔力の揺らぎに敏感だ。
その揺らぎは実は感情に支配されていて・・・訓練の積んでいない者は、感情をコントロールする事も、隠す事も出来ず・・・情報が駄々洩れた状態でターニーさんの前に立っている様なものなのだ。
『相手の心の内なんて、普通なら知りたくも無いだろう・・・顔で笑って心で悪口を言う、面従後言ならなどは無数にある事なのだから・・・見たくも無い感情を見せ付けられたら人間不信か鬱になってもおかしくは無い。育成の苦手な魔術師長は、そんな事は考慮しないでターニーさんを育ててしまったのだろう。』
相手の隠している感情を知りたくなくて、魔力の察知に蓋をして・・・何も感じない様にして現在にいたる様だ。ターニーさんのオ~ラを見ると、防衛面が強くて周囲を跳ね除け様と気構えているのが見て取れる。
石化したターニーさんの手の上に、軽く自分の手を添えると驚いた事に、彼は強く握り込んで来た・・痛いがな。
『気の進ま無い事はサッサと済ませた方が良いよ・・・きっと。
アッシはご飯は苦手な物から先に食べる主義だったし・・・宿題はギリギリまでやらない主義だったけれどね。』
聖女様に目配せすると、彼女は頷いて男2人を従えて温室を出て行った。
待つことしばし・・・・・。
「ラチャターニー・・・。」
バリトンボイスの背の高い、スタイルの良いロマンスグレーが入った来た・・・父親だろうか?
そうか・・ターニーさんの銀髪は父親譲りだったのか、石化したまま動かないターニーさんの背中をポンポン叩く。
「スイマセンが紹介していただけません?私はターニーさんの何でしょう?」
魂が口から抜け出た様に、ボケッとしていたターニーさんだったが、驚いた様に詩乃の顔をマジマジと眺めると。
「其方は私の婚約者だ・・この世界でただ一人、私を恐れない生き物だ・・。」
何じゃぁ~~それ、それが婚約したがった理由かい?
ターニーはいつから懐いて来たんだろう・・・詩乃の疑問が解けました。
大した理由じゃぁ無かったね( ;∀;)。