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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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王族とのお茶会~1

冬の社交シーズンも、順調に進んでいるようだった。


婆女官長も、王都に居る親戚(妹の嫁ぎ先)の縁を使って<人材派遣>の仕組みの良さを説きまくり、確実に顧客を増やしていった。

今は、言葉の理解が進み短期労働を希望している難民から、順次派遣先に送り出して行ったところだ・・・これには口入屋の甥っ子達が大活躍してくれている。

<派遣業>はいずれこの甥に任せれば心配は無いだろう、頼もしい味方が王都に居てくれて本当に良かった・・と胸をなでおろしている女官長だった。

それに味方がいたのは王都だけでは無かった、比較的裕福な領地の富農に嫁いで行った妹達が、口コミで<難民の派遣さん>の事を広げてくれたのも大きかった。

一家の女主人の歳になった妹達は、押しも押されもしないオバサンと進化し、それぞれのコミュニティにドッカリと根を下して、女官長の試みに喜んで協力してくれたのである。地元の人間が推薦する意味はとても大きい、信用の裏付けになるし・・・一種の保証人の様なものだからだ。

普通ならば<保証人>の様な躊躇いかねないお願いを、妹達は<大姉様には大恩が有るから>と、快く引き受けてくれたのである。

こうして<難民・人材派遣業>は、商売として順調に滑り出した。


今日も一日の営業が終わり、女官長は妹の嫁いだ宿屋で寛いでいた。


「これで如何にか全員片付きそうだわね、良い領地を紹介して貰えたし・・・春の繁忙期の助っ人に間に合いそうで良かったわ。」

「お姉さま、私の嫁ぎ先が決まった時にもそんな風に言っていましたねぇ、ほほほ・・本当にお姉さまは片付け上手だこと。お仕事が軌道に乗ったら、もう甥達にすべて任せて楽隠居でもなさったら?これまで十分頑張られたのだから少しはご自分も楽しまないと。」


『苦労の種の様に思えていた妹達も、こうやって過去の私の献身を評価し協力してくれている、貧乏くじを引いたと思っていた人生だったけれど・・・こんな終わり方なら案外悪く無かったのかもしれない。』


「そうよねぇ・・・あの甥が結婚でもして落ち着いたら、すべてを譲って私はメイドを希望する娘達の教育でもしようかしら?良い暇つぶしになるだろうし。」

「お姉様の教育を受けたならば、さぞかし心強い事でしょうよ。お陰様で鍛えられた私などは、姑の嫌味など春風の様に感じたものですからねぇ。」

「それは何より・・・後はそうね、王妃様にお目に掛かってご挨拶できれば・・・終わり良ければすべて良し・・・って感じかしら。」


『長年勤めた王宮を去る為、最後のご挨拶に伺ったあの日・あの時・・・<其方、やれるモノならやってごらん?>と王妃様に挑発された様な気がして・・・女官長は伯爵領を継ぐ決心をしたのだった。


ここまですべて自分一人でやり切った訳では無いが、オマケの小娘の振舞いを見ていて悟ったのだ・・・領主の仕事とは、領民達が気持ち良く働ける様に信じて任せる事なのだと。自分が解らなければ、解る人間に任せれば良い、力が足りなければ力の有る者に任せれば良い・・意地を張って何でも抱え込むから閉塞感に潰されそうになり、周りもやる気を無くすのだ。丸投げだったか・・・良い言葉だ。』


「あの脳ミソまで筋肉な様な甥は、あれで中々の人物ですよ・・・何よりも人から好かれるタイプだし、人を使うのも上手い。当分領地から出る事も叶わないでしょうから、ほほほ・・伯爵領も安泰だわ。」

「それはそれは、良う御座いましたわねぇ・・・おほほほ。」



    ・・・・・・・・・。



一方、単独で王都に出て来たトデリの子爵様は・・・・。


此方も順調に<螺鈿細工>の注文を受け付けていた、サロンに出向き見本の品を見せ・顧客の希望を聞きながらその場でデザイナーに意匠を考えさせ・特注品を前面に押し出した最高級感溢れる取引をしている。顧客は有力な大貴族達で、子爵様は内心プルプルと子鹿の様に震えていたが・・・そんな事はおくびにも出さずに堂々と商売に励んでいた。

それもそのはず、傍にピッタリと張り付いている慇懃な侍従は、魔術具で姿かたちを変化させたパガイさんだった。パガイさんは子爵の一挙手一投足に目を光らせ、商売のノウハウを叩き込んでいる最中だ。伯爵領をビューティーさんに丸投し、パガイさんは螺鈿細工の営業の方に力を入れている様だ・・・奥様が王都に来られないと解った時から、子爵様に張り付くつもりだったらしいが。


ちなみに商売の売上高をビューティーさんと勝負しているらしくて、パガイさん・・・久々のマジモードである。侍従として控えながらも、トークも軽やかに奥様達の虚栄心を煽り、おだて褒めまくっている。顧客達は先を争う様に、ガンガンと高額な商品を注文していく・・・何この集団催眠商法は。

商人の本気マジは恐ろしい・・子爵様は早くも妻子の待つ懐かしいトデリに帰りたくなっていたが、気を抜くと・・・真夜中の反省会がとんでもない事になるので・・それだけは勘弁してほしい。


『魔獣と戦っている時の方が、ナンボか気が楽だ・・・。』


巻き添えを食っている様な子爵様だが・・頑張れ3児(1人は奥様の腹の中)の父・・・奥様やトデリの皆も応援しているぞ!?



   *****



さて、王都で皆が善戦している時・・ついに詩乃にも出撃命令が下された。


本日のミッションは王室関係者とのお茶会である、激しく気が重いが・・・何年ぶりになるのだろうか?聖女様とお会いするのは少しばかり楽しみだ。

聖女様もすでに2児の母である・・・トデリの経産婦アンやリーは、着々と脂肪をその身に溜め込んでいたけれど(トデリは寒いから仕方ないね)聖女様はどう変わったのだろうか・・・幸せだと良いんだけどなぁ。相手があの王太子だからねぇ、聖女様がやつれていたら王太子の奴ぶん殴ってやる。



詩乃が物騒な事を考えているうちにも、メイドシスターズは粛々と仕事を進め・・・詩乃を別人28号に変身させていた。

本日はお茶会なので派手なドレスと言う訳では無い、キツネエが提供してきたドレスは、これドレス?な感じな意匠で・・・・以前詩乃がハイジャイの舞踏会で着た<安倍晴明>さんのコスプレをリホームしたもので・・魔虫の布を使い、詩乃が染めた糸で刺繍を施してあった・・あの生地だ。


「これは・・・高松塚古墳?」


ドレスは時代を更に逆行し、奈良時代の渡来系の美人が来ていたようなモノに変わっていた。まぁ和服も昔は呉服と言っていたし?ルーツはそちらに有るんだろうが・・。キツネエのセンスは時空を超えるらしい、でもスタイルはカバーされるドレスなので良しとしようでは無いか。

心配した髪型だったが、古代人の様な摩訶不思議な形を提案されなかったので安心した。古墳の壁画・・あの桃を頭に乗せたような、不思議な髪型はどのように成形するので有ろうか?・・・でも<みずら>はチョッとやってみたかったな、今度密かにやってみようかな。


詩乃の髪型はシスターズの3番目が考え出したオリジナルの髪型で、強くひっつめない為に痛くもなく、大変楽なので嬉しい・・・何だろうね?この髪型は。

ビクトリア女王時代って感じなのかな?頭を大きく見せないために後ろに盛る作戦の様だ、後ろに回した髪に銀色のリボンを編み込んでいく。

銀色はターニーさんの色だ・・・婚約者の色を纏うのがお約束らしいが、この習慣は少しばかり恥ずかしい、衣装の刺繍も青でターニーさんの瞳の色だしな。

詩乃の色を纏ったらターニーさんは喪服の様になってしまうが、どうするんでしょうねぇ?


「詩乃様、出来ました。もう目をお開けになった頂いてもよろしいですよ。」


化粧をして貰っていたからね、アイラインとか引くから目はつぶっていたのだった。どれどれ~~~~。


「これは・・化けたねぃ・・・。」


自分で言うのも何だが、これは詐欺レベル・・・化粧映えする顔って、スッピンでは薄めな感じの顔が多いって聞くけど・・・ってアッシかよ!


「・・・大変な力作だと思います、良くやってくれました。」


これは褒めにゃぁしょうがない、シスターズは嬉しそうに笑うが・・・御免・・やっぱり見分けが付かない。頑張ってくれた皆への王都の御土産はお菓子で良いかなぁ、ランパールの方が品質は良いと思うけどね、苦労には報いないといけないし・・・お買い物する暇はあるかなぁ?

そんな事を考えて居たら、ターニーさんが来たとメイド長に告げられる。


『ちょっと恥ずかしいね、着飾る姿などほぼ初めてだから・・・似合うと言ってくれるかなぁ。』


執事がドアを開け、エスコートの為に入室して来たターニーさんは、詩乃を眺めてしばし絶句し立ち竦んだ後・・・


「変化の魔術は必要無いらしい。」


と、宣まわった・・・おい、それ絶対褒めて無いよね?

ターニーさんは、マト〇ックスの主人公みたいな服を着ていて黒だった。


   ******



「貴方が落ち着きがないと言うのは珍しい事だな、そんなに心躍るのかい?少し妬けてしまうな。」


お茶会の用意が整った温室に、時間よりかなり早く現れた王太子は、そう囁きながら聖女様を優しく後ろから抱きしめた。

今日は王室関係者のみが出席するお茶会で、主催者は王太子の妻である聖女様だ。彼女は長い間合う事の出来なかった、年下の同郷の友人に会える事をとても楽しみにしていて、準備に余念がなく数日前から心此処にあらずの状態だった。


「ねぇ貴方、あの子は心静かに暮らしてこれたのかしら?平民になると此処を旅立って行ったのに・・・ラチャターニーと縁付くなんて思いもしなかったわ。」

「彼はあれを心配して何かと助けていたらしいからな・・・意外なカップルだが、後見人としては最適だろう?」


聖女様は詩乃がトデリと言う名の小さな町に住み付いて、手芸品の店を開いたまでは聞いていたのだが、その後の芳しくない話は一切伏せられていて何も聞かされていなかったのだ。


「結婚は後見を得る為にするものでは無いわ、あの子の意思を無視して、無理矢理事を運ぼうとしてはいないでしょうね?ねぇ貴方、私に隠し事はしてはいない?」

「そんな・・・ハニーに隠す事など何もないさ。ははは・・・はぁ。」


『まずいまずいまずい・・・あの小娘は騎士の守秘義務は守るだろうが、その前の白骨街道や奴隷商の囮の件は義務の範囲を外れているからな・・・。

そうだ!あれは王妃の発案だったんだ俺は悪くない。ラチャも一緒にいたんだしな、責任は奴に有る、ついでにプマタシアンタルにもな。』


必殺責任転嫁・・・お偉いさんの常套手段だ。


『だから嫌だったのだ、あの小娘を王都に近づけるのは・・・あの小娘はハイジャイにでも囲い込んでおけば良かったのだ・・・それなのにラチャの奴、余計な事をしよってからに。』


いや?ハイジャイをおん出て来たのは、詩乃の独断(モルちゃんの我儘)であって、ラチャ先生は関係がない事なのだが・・王太子・・相当頭に血が上っているらしい。


「王妃様がお越しになりました。」


王妃が妖艶に微笑みながら温室に入って来た、真冬のこの時期に暖かい温室での接待は最高の待遇だ。たかが小娘にと思うが、相手があの魔術師長だ・・・仕方があるまい。あの2人が婚約して上手く行くとは誰も思っていなかったが・・・本当に結婚までいけるのか~?



共犯者の王妃に、<聖女には色々と内緒にねっ!>と、縋る様な眼差しを向けた王太子だったが・・・ベ~~ッと舌を出されて唖然とした。

『こんのぉ・・くそババアっ!!』ギリギリと歯ぎしりをしている合間に。


「魔術師長ラチャターニー・オ・メルギー・バンメトート閣下が、婚約者様と起こしになりました。」

侍従に呼ばわれて、ドアが開き・・・すらりと背の高い2人が入って来た。


「え?」


と、思い思わず2度見、3度見・・・ガン見してしまう。

小娘はチンチクリンなはずだっが・・・長身なラチャに見劣りする事の無い、すらりとした立ち姿で薄っすらと微笑んでいるその顔は・・・別人だった。

いやいや、確かに目や髪は黒いけれども?流石にこれは化けすぎだろう・・・女って、化粧って怖い。その胸も盛っているのか・・・本当に信用が出来ないものだ。

見慣れぬドレスも、エキゾチックな彼女に良く似合っていて、そこはかとなく色気も醸し出している。


「詩乃ちゃん!」


聖女様は、この激変に何の不思議も覚えないようで、懐かし気に駆け寄り、小娘・・・<いや、今は大娘だが>ハグをし合っていた・・・クソォ。

俺がハグできるまでどんなに時間が掛かったと思っているんだぁ!!


「ずっとずっと心配していたのよ、平民の世界は危険が多いと聞いていたから。危ない目には合っていなかった?体は大丈夫??健康なの???」


詩乃の手をぎゅっと握って、目を覗き込んでくる聖女様・・・溺愛されているねぇ・・・待遇の差に眩暈がして来そうだこと・・・ほほほ・・。

詩乃は聖女様と視線を合わせ微笑みつつ・・・聖女様の死角から王太子に向かって中指を(こちらの世界でも、NGワードを表す指文字だった)上に向けて、一度拳を握ると人差し指を1本立ててチッチッチッ・・・と揺らした。

『王太子・・これで貸し6っな。白骨街道の道中と囮の件、クイニョンとハイジャイ・伯爵領と聖女様に黙ってあげる件で6っだ。』

王太子はゲンナリしながら詩乃のサインを見ていた・・・着飾っても中身はひとつも変わっていない・・むしろ禍々しさに磨きが掛かっている様だ・・女って怖い。


     *****


温室で美味しいお菓子と、お茶を頂きながら当り障りのない話をする。

お茶会は華やかな雰囲気で楽し気に進められている、聖女様は主にターニーさんと詩乃の馴れ初めを聞きたがって来たが・・・お茶会で言える様な楽しい話では無いし、プルプルと王太子が首を高速回転しているので笑えてきた。

こう言う時には丸投げだ・・・ターニーさんを見つめてニッコシ笑うと、後はよろしくと恥じらう振りをしつつ下を向いてスルーの態勢に入った・・・タヌちゃん並みのタヌキ寝入りだ。


これに震撼したのは王太子と背後に立つプウ師範だ・・・ラチャに喋らせる気か、ラチャは嘘を付けない・・・つく意味が理解できない脳みそをしている。

『終わった・・・。』

王太子とプウ師範が、この後の壮絶な夫婦喧嘩と家庭崩壊の予知夢を見ていると、意外な所から助け船が乱入して来た。侍従が戸惑ったように告げる。


「王様が起こしになられました。」


自室に引きこもって、めったに顔を見せない王が<お茶会>を聞きつけてやって来たと言うのだ。珍しい事・・王妃様が、顔も変えずにどうでも良い様に呟いた。


    *****


「突然に割り込んで済まないな、聖女様の茶会にオマケの娘が来ると聞きつけてな・・・召喚時以来だが、何処にいるのだあの娘?ずっと気にかかっていたんだ、あの者のその後について。」


キョロキョロと辺りを見回す、初老の紳士・・何だか痩せていて貧相だ、ショボショボしていてパツ金の晩年の山形有朋みたいな感じだなぁ。

あんたの・・・目の前におりますがな・・・皆そう思ったが。

詩乃の余りの激変ぶりに気がつか無い様だ、ほら黒目・黒髪だろうが良くご覧!

王妃様に指摘され、初めて詩乃があの時の小娘だと気付いたらしい・・・戸惑ったように詩乃を上からしてまで眺め回していたが・・・少し安堵したように。


「其方は、今幸せなのか?」


そう尋ねて来た

『・・・・言うに事欠いてそれかよ。つい最近もギャースに食われそうになったわ。』

この王の気弱そうで無責任な・・・覇気の無さそうな所はどうも好きになれない、この人が無能だから、詩乃達はこの世界に呼び出されたのではないのか?

・・・・・詩乃は、そんな王の目を真っすぐに見つめて


「ご自分が楽に成りたいが為の質問はおよし下さい。」


キッパリとそう言った、詩乃からしたら悪の元凶な癖に、人の良い爺ポジに収まろうとしている所が腹立たしい。お茶会のメンバーは詩乃の発言に驚き、お茶会を行なっている温室の温度は急激に下がった様に感じられた。


「王様こそ、貴方様は王妃様と結婚されて今幸せですか?」



室内の温度が更に一気に氷点下に下がり、其処にいる総ての者(ターニーさん除く)が石化したのだった。


爆弾娘・・・本領発揮!(=_=)。

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