復興顧問のお仕事~3
筋肉を酷使すれば、悩みなんか消えてなくなるぜぃ( `ー´)ノ。
「そぉれ それ それ~~どっこいしょ~~。」
ターニーさんの色ボケに当てられて、このところ調子が狂っていた詩乃だったが、いつの間にか脳筋で働く汗って素晴らしい!と感じる人となっていた様だ。体を動かしているうちにスッキリと毒気も抜けて、本来の気力が戻って参りました!!
今日も今日とて、元気よく土木工事頑張っています。
湾の中に流れ込んで港を浅くしてしまっていた土砂を<どっこいしょ~~>と持ち上げて・水分を抜き乾燥・圧縮・日干し煉瓦の様にしてから結界で覆いブロックに加工するまでが一連の作業なのである。ここで造られたブロックは廃物利用のリサイクル品として、港の防波堤の目立つ部分や倉庫前の広場の舗装などに使われている。出来上がったブロックは網に入れられモルちゃんが搬送、港広場予定に待機している子供達が大人たちの指導のもと敷き並べている。
此処の土は綺麗な赤土なので、出来上がったブロックもお洒落な赤レンガ色をしている、上手に並べれば横浜の赤レンガの倉庫の様に一見の価値が有るモノに出来上がる事だろう。
だから頑張って敷き詰めろよ子供達・・・このところ食事が良いせいか子供達の機嫌よく、元気に働いているので微笑ましい。
・・・それでも・・・・作業は疲れるがなぁ・・・・。
此処にいる隊員の誰しもが、ターニーさんの魔術具を使いこなせている訳では無かった。威力が強力すぎるし、操作の加減に器用さが求められるしで、ターニーさんの魔術具はかなり難しいお道具なのであった。詩乃はそんな魔術具をコピーして配った訳だが、隊員の半数は残念ながらコピーさえも使いこなせていない現状だ。
魔術具と言うのは普通、魔力が強い者の方が扱いやすいと言われるのだが・・・それを詩乃がコピーすると魔力の強弱はあまり関係なく、万民が使える優れ物のアイテムになるはずなのだが。
相性と言うのか、扱う人間の気持ちの籠り様が魔術具の性能に反映すると言うのか・・・やる気の有り無しで、魔術具の可動範囲が変わるとは・・想定外だった・・ホントに。
常にあまりやる気のないムウアなどは、土木関係の魔術具は上手く扱えない・・・攻撃系のコピーは上手く扱うくせにである。自分が痛い思いをしない為の努力は辞さないが、他領地の復興など興味が持てないのだろう・・・正直だよね自分の気持ちにさぁ。
まぁ、それほどに土木作業は地味で、汗臭くキツイ仕事なのだった。
そんな感じなので、仕事の分担は自然と決まって行った・・・それぞれ自分に向いていて、好きな作業に従事している。独立空軍部隊・・・我が強くて癖の有る隊員ばかりで、指示になど従わないと言う事なのだろう。
エフルは森関係、ハーフエルフだけに森や植物が好きな様だ。
今はギャースの為に荒らされた(詩乃のせいだが)森から木を切り出し、その木の強度を上げる加工を施した後、魔獣の森との境界の壁にする為、杭として地面に垂直に打ち込んでいる所だ。
15メートル近い長さの木を地面に打ち込んで行く作業なのだから、これはこれで辛い労働なのだろうが・・・塩辛い海より森の方が性に合うと言って笑っていた。
獣人の半数は水に強い系では無かったので、森の力仕事に協力して貰っている・・・猪獣人さん、良い味出しているよ~~腕っぷしが強いからね・・木を切り倒すのなんか早い早いアッと言う間だ。
森を整理し壁を作り終えたら、今度は貯水池と畑の整備が待っている・・・エフルは魔力が強めの方だから、かなり器用にコピーでは無くターニーさんの魔術具を操っているので凄いと思う。
ちなみに切り倒した木の使わない部分は、葉の部分は魔術で木っ端微塵に裁断し時短魔法で腐葉土に変えている。枝の部分は乾燥させ薪などの燃料にするのだ、炭の作り方は中学の森林教室で習ったような気がするが、今は時間が無いので又の機会にしようと思っている。
此処が片付いて整備されたのなら、かなり豊かな地力の有る土壌に生まれ変わっているかもしれない。小麦も育つかもね・・・南だしオリーブの木はどうだろう、油が採れるしイタリア風の食生活が再現できるかもしれない!!そうトマト・・いやマトトか、マトトを植えねば!!
畑仕事は先が楽しみな所が良いと思う、皆のやる気がアップするように今晩はイタ飯にでもしようかな?
まぁそんな感じで森好きなエフルは・・それなりに楽し気に作業している。
エフルの相棒のドラゴンのシーブルーさんは切った木を壁の予定地まで搬送したり、杭の打ち込みで重機代わりとなったりで、大変にエフルに協力的で良いコンビなのだった。
ついでだがムウアの相棒、食いしん坊のピーモンタイト・・・略してピーモンさんは木を切り倒した後の根っこを掘り返し、何タラ~とか言う魔虫を食べるのが好きなそうで、日長一日地面を掘り返して食べている・・・掘り返した跡地は畑を作るのには丁度良いので放っては有るが・・・相棒って似るのか、この2人食い気以外の作業動機は思いつかないらしい。
そのピーモンさんの片割れムウアは魔術具が上手く使えない(使いたくない)為、詩乃が造ったブロックの搬送とか、港の陸上部分の現場監督を担当している(軽作業ではないか!)なのに・・・彼は常に腹を空かせているので10時と3時のおやつは欠かせない。
ターニーの持たせてくれたお菓子のほとんどは、ムウアと子供達の腹に収まっている・・・図体がデカいくせにどうかと思うが、彼は子供の扱いが上手く常に子供に取り巻かれていて懐かれている。獣人の子供と人間の子供の間を取り持ったり、冗談を言って周囲を和ませるなど、良い感じに民を馴染ませるのに一役買っていた。
なんと言うか人畜無害そうな雰囲気と、気は優しくて力持ちな感じが良いらしい・・・ただの面倒臭がりのデカ物だと思うよ?あと、エンゲル係数が異常に高いから、トンスラに閉じ込めておくことを推奨するがな?
「腹が減ること以外は、大した問題では無い。」
これが彼の持論である・・・けだし名言だ。
ポアフ隊長は岬の向こう、故郷の領地に行っている事が多い。
獣人さん達の活躍で、貝魔石は海の底から綺麗に取り除かれ、魔貝も一か所に集められて、養殖予定場所をどこにするかと話し合っていたのだが。
魔貝が百メートル程も近くに寄ると、人体に悪影響が出る事が解ったのだ。
魔貝が強いのか?この土地に含まれる魔力が強いのか?そのどちらともなのか・・・ギャースがあそこまで大量に大型化したのも、この土地の何かに関係が有るのかも知れない。
結局健康上の配慮から、潮の流れやその他をモロモロを考慮して魔貝石の養殖は・・・伯爵領から岬を挟んだ反対側の地、隊長の故郷旧ポアフ領を整備し直し、そこを拠点に行う事に決定された。
これには隊長も悩んだと思う、貝魔石は魔力が有る為に平民には扱えない品だ・・・獣人が作業するしかないのだが、それでは故郷のポアフ領が獣人の街になってしまう。
元の領民でも魔力が強めの者なら住めるかも知れないが、そんな領民が何人いるのかは解らない・・・。
ポアフ領を王国に返納する(断られそうだが)か、伯爵領に吸収・合併されるか・・・新しい獣人の領民達の領主として生きるのか・・・。
心の内を語らぬまま、隊長は黙々と故郷の再建に勤しんでいた。
それからシャルワは、婆伯爵と組んで新たな事業を起こしていた。
詩乃のアイディアで・・・所謂<人材派遣業>を始めたのである。
難民一人一人と面接し、スパイとか不穏分子では無い事を確認した後、難民からの希望を聞き取り調整をするのだ。
〇永住希望なのか。
はたまた
〇帝国の内乱が収まり、旧国家が再建されれば故郷に戻りたいのか。
この違いはかなり重要だ、向かう先への心構えが全然違って来るからだ。
女官長は無駄に顔だけは広かったので、人手不足に悩んでいる貧乏~中堅領主仲間に連絡を取り、希望する人材のスキルや人数等を聞き取り・・・雇う側と雇われる側・双方の事情を鑑みてマッチングをし、ジョブコーチを付けて(王都にいる妹の一人が口入屋に嫁いでいたので、有能だと言う4男坊に采配を丸投げした。)ランケシ王国内各地に送り出す予定なのだ。
伯爵領で日常生活に困らない程度のランケシ語や習慣の違いを教え込み、それぞれの希望に添った領地へと紹介斡旋するのが仕事だ。アフターサービスが最大の売りで、<何か思ったのと違う>とか<この仕事は合わない>とか<雇い主が酷い>とか<給金が安すぎる、初めの話と違う>等の苦情は随時受付し即座に対応する(妹の4男坊が)。
その代りに雇い主からは3割・雇われる側からは給金から1割の斡旋・管理料を頂くのだ・・・ガメツイだろうか?難民が定着しにくいのは、双方に見知らぬ者への拒否感や恐怖心・・・土地を乗っ取られるのでは無いか?などの疑心暗鬼が大きいからだ。
それが間に仲介業者が挟まれば、双方不満は言えるし、御気に召されなければチェンジも出来るし、何かアクシデント(事故や怪我など)が有った場合の補償も受けられる保険制度も付いている!!この世界では画期的な制度ではなかろうか、安心の労働環境を保障されるのだから、多少の出費が有っても良い事尽くめではなかろうか?
婆は妙に張り切って、トハ(伝書鳩みたいな鳥)を飛ばしまくっている。
『トハちゃん過労死しないでね・・・これは民間にも、通信できる魔術具が必要では無いのか?ターニーさんにオネダリ案件だな。』
将来祖国に帰還を希望する者達は、短期労働の季節労働者(農作物の収穫とか・道路工事などの期間工)、定住希望者は故郷の土地に気候が似通った場所を中心に募集をかけているそうだ。
・・・求人率は高いらしいよ?どこも人手不足だからね。
シャルワは難民の<希望の聞き取り>と言いつつ、他国の情報収集に余念がない・・・趣味なんだってさ、面白いのかねぇ?
シャルワの相棒、灰緑色のダイオプサイドさん・・・略してダイプゥさんは、シャルワに放っておかれて拗ねているかと思いきや、詩乃と一緒に力仕事に従事してくれている。詩乃に親切だって?・・・違う・・・モルちゃん狙いなんだ。
モルちゃんは小さな体ながら、詩乃の傍を離れず出来る限りの力仕事を手伝ってくれている良い子なのだが。
此処に来てモルちゃんの好感度を<ズズズウウゥゥゥン>と落としているのがゴールディさんだ、彼は人間の都合など意に返さず、ましてや協力など爪の先程もしたくは無いので工事に一切関わろうとしない。
何をしているのかって?
周辺のパトロール(小規模の海賊の排除と、難民船が浮いていれば伯爵領まで曳航して来るのだ。今や難民様はお客様・・金を生み出す卵ちゃんなのだから。)と狩りだ・・・肉は狩らねばなるまい・・・ギャースは詩乃が岩に変えてしまったからね。
しかしそれがモルちゃんには気に食わない、詩乃ちゃんが汗水たらして働いているのに、気楽なものだとキャイキャイと責め立てている・・・最もゴールディさんは気にも留めていないのだが。
モルちゃん曰く
『以前はゴールディの周囲に流されず、自分を貫く姿勢が眩しく感じられていたけれど・・・あれは、タダの自己中だったのかもしれない・・・。』
だ、そうである・・・。
ハイジャイに居た頃は詩乃も随分周りに流されて、涙なんか零していたから、ゴールディさんが頼もしく感じられたのかもしれないねぇ。
『まだ若いんだから、無理に急いでお相手を決める事は無いよ。』
詩乃はそう言って宥めたが、トンスラ関係者の賭けの行方はどうなるのか・・・胴元(王妃様)よ精々気を揉むがよい。
そこでモルちゃんに良い所を見せようと、俄然張り切っているのがダイプゥさんと、パガイさんの所のタンザナイトさんだ。
彼はパガイさんの予定など気にもせずに伯爵領に居続けているが・・・良いのだろうか?タンザさん曰く、あのチベットスナギツネは魔力も強いので、その気になれば自前の魔術陣で移動も可能との事で、タンザさんは一向に気にしていない・・・モルちゃんの方が大事なんだってさぁ、あ~~ららっとぅ~。
『タンザナイトさんとモルちゃんは卵の頃からの付き合いだし、飛び方まで教えてくれていたからねぇ・・・はっ!・・・もしかしてこれはドラゴンの光源氏計画?紫の上よろしく、自分好みに育て上げて愛でようと言う計画なのだろうか・・恐ろしい・・ペド?小児性愛者?』
此処まで考えていたら、思考が駄々洩れだったようでタンザナイトさんに海水をぶっ掛けられた・・尻尾でスイングするのはよしなせぃ。ずぶ濡れになったが結界が有るから大丈夫、圧に押されてよろめいたけどね・・・人間に対する力加減が絶妙なのがタンザナイトさんだ。
「お前は何をしているんだ?遊んでいるのか・・冬に水遊びとは風流だな。」
この口の悪さと、いるだけで詩乃をムカムカさせるこのオ~ラ・・・。
「あれ、プウ師範どうして伯爵領へ?『冷やかしか?けえれけえれ。』」
「ハイジャイの定期訓練に向かったつもりだったが、気が付いたら此処に連れてこられてしまったのだ。」
なんだぁそりゃぁ~と、プウ師範の黒さんを見るとモルちゃんの所へイソイソと近づき、何やら話し込んでいる・・・そう言えば黒さんもモルちゃんラブだったね。
「そりゃぁ・・ハイジャイの・・・・・・・・・・大佐もお怒りですねぇ。」
「お前、婚約寸前だったんだろう、相手の名前ぐらい覚えていろよ。」
呆れた様に突っ込むプウ師範に、詩乃は軽く肩を上げて舌を出した・・・子持ちのオッサンだった事は覚えているけどねぇ・・・あれ、顔を思い出せないや。
「せっかく来たんだから作業を手伝って下さいよ、得意でしょう?どっこいしょ~~が。護岸の基礎になる様な大きなブロックが欲しいんです、アッシではどう頑張っても2メートル四方のブロックしか作れなくてねぃ。」
「ふん、仕方が無いな。」
流石腐れ男だが魔力は強い、プウ師範が<どっこいしょ>とやれば、10メートル四方のブロックが出来上がる。良いねぇ、騎士団なんかに居ないでインフラ関係の仕事をした方が、世の為人様の為になるってものだろうに。
大きすぎるブロックに浮遊の魔術具を取り付け、結界の網をかぶせてドラゴンに持ち上げて運んでもらう。流石に重そうで、ドラゴンの厚い鱗の下の筋肉が盛り上がって動くのが見て取れる・・・壮観な風景だ。
黒さん・タンザナイトさん・ダイプゥさんの活躍で、ブロックが次々と海に沈められ、良く見る港湾の形に整えられて行った。
「有難い事じゃぁ・・ありがたい・・・。」
領民がドラゴン達を拝みだした、解る様な気がするね・・・彼らは人が到底及ばない、強い力を持って無償で(モルちゃんへの好意は別問題)助けてくれるのだ・・・ありがたくなくて何なのだ?
かつては世界のあらゆる場所に生きていたドラゴン達だったが、人間の態度が悪くなりすぎてドラゴン達に距離を置かれる様になったのだと言う・・・ランケシも精々嫌われないようにする事だ。
*****
1日作業を終えて流石に疲れたであろうプウ師範は、何故か黒さんを伯爵領に残して帰って行った。まぁ、黒さんがモルちゃんの傍を離れようとしなかったせいだが・・プウ師範クラスになると、魔力で伯爵領~ランパール王妃領の片道移動くらいはできるそうなので大丈夫なのだそうだ。
「あまりドラゴン様を酷使するなよ。」
そう言い残して<偉そうに>去って行ったが、詩乃は酷使されてもいいんかぃ?
やっぱりムカつく男である、でもまた来て手伝ってくれ。
モルちゃんは逆ハー状態だ、別に羨ましくなんて無いんだからね・・・。
黒さんが頼りになる担任の先生タイプで、タンザさんが爽やかな先輩、ダイプゥさんが気の置けない同級生、ゴールディがちょい悪のヤンキーポジか・・・囲まれる美少女のモルちゃん・・・うぅぅ、これは擬人化したい。駄目だ3次元では思いつかない、2次元キャラならだれが良いだろう・・・・妄想はご馳走だ・・・うん、美味い。
「ラチャ先生・・・来ないねぇ。」
ボッチの詩乃に気を使ったのか、モルちゃんがそんな事を言い出した。
「忙しいお方だからねぃ。」
だからと言って、少しぐらい顔を見せたって良いじゃない・・・詩乃ちゃんが慣れない作業を頑張っているのに・・・冷たいんだから・・・等とブツクサ言っていたが。
「大変!詩乃ちゃん、ラチャ先生病気で寝込んでいるんだって!」
ランパールの屋敷に住む、熟女ドラゴンのグリーンカルサイトさんから伝言が来た。
・・・お約束、看病ルートに突入か?