青い森のほとりの村~5
村からなかなか出られない~~~(´Д`)
6男は連れて来た飛行船の中から、食べ物を中心に生活必需品などを山のように出して来た。こんなに沢山の商品を見た事が無い村人は、驚き、やがて羨望の眼差しを向けて来た。この品物の山が青熊の代金だとは思いもしないのだろう、何たって逆に始末の代金を徴収されていたのだから。
「皆さん、この商品は青熊を売って下さった代金の代わりです、ノンさんが現金より食べられる物が良いだろうと言っていましたからね。どうしますか?現金もご用意できますが、どちらが良いですか?」
何の事だか解らず事に困惑している村人たち、情報や教育も必要な様だね?
「あのイチゴ村長はねぃ、皆を騙して代金を盗んでいたんだよぅ。普通の村では魔獣を倒すと、倒した者に銭が入るんだぁ。魔獣は死ねば良い素材が採れるお宝だからさぁ、商人は銭を払って魔獣を引き取って行くんだぇ。逆に銭を払う事なんざぁ有り得ない話なのさぁ」
呆然とする村人の皆さん・・それはそうだろう、父ちゃん達は始末する金が払えず、無理やり街に連れ出されて行ったのだから。
「村長が皆さんを騙して受け取っていたお金は、伯爵様が御取調べをした後に返して下さるそうですよ、時間が掛かるかも知れませんが待っていて下さい」
有難い話には違いないが、あまりな事でどうにも頭が働かず固まっている。
「報酬を分けやんしょう。アッシらも旅の途中なので、少々手持ち不如意なんだ。半分の半分・・つまり4つに分けた1つを貰っていいかぇ?」
子供達は顔を見合わせる・・・おずおずとチビが申し出て来た。
「俺達・・青熊を倒していない・・・」
喋ると損する・・と思っている節があるプウ師匠が珍しく口を開いた。
「いや、おまえ達は良い囮だった。大人でもあの様に青熊の前に躍り出る事はなかなか出来ない、勇気のいる行動だ賞賛に値する、胸を張って報酬を受け取るが良い」
うへぇ、プウ師範が2行以上話した・・珍しい。でも言葉が難しい。
「プウ師範はお前達の事を褒めているのさぁ、良くやった勇気が有るとね」
やっと理解出来たのか、安心したチビ達の顔がパアァと輝いた。
詩乃はしっかり者そうでリーダーの雰囲気の有るお母さんに、報酬を村の皆で公平に分けてくれる様に頼んだ。小麦粉や砂糖・塩・保存のきく加工した肉類、布や裁縫道具なんかまである様、まるで行商のようだね。
鬼ウサギは村で分けて食べるそうなので6男には売らなかった、いまから加工して熟成させ父ちゃん達が帰って来たら食べさせてあげたいのだと言う。
喜ぶ村人達に何人かの父ちゃんは・・帰って来れないなんて、とても言えない。
薄い笑顔を張り付けている詩乃に、気づいたのだろう6男が話しかけて来た。
「シー・・いや、ノンさん。それで相談って何ですか?」
ハッとした詩乃は、気を取り直して話し出す・・自分が落ち込んでいても仕方が無い、本当に辛い思いをするのは村の人達なのだから。
歩いてすぐの放棄された元耕作地に案内する、今日プウ師範が掘り返して子供達が整えた新しい畑である。
「此処に何を植えたら良いか相談してぇと思ったんでさぁ、土は赤土で余り保水力も有りやんせん。荒れた土地でさぁ、アッシの元地元じゃぁ荒れた土地にはソバって言う穀物を植えていんしたが。此処の気候はソバには、ちいっと暖かすぎる様にも感じやす。何か良い植物は有りませんかいねぇぃ?
あの子らが大きくなるまで、男手は足りない状態が続くでやしょう。
育てやすく、楽に収穫できて、保存がきく・・そうして腹持ちが良く、ここら辺では珍しくて換金出来る、そんな都合の良いお宝は有りやせんかぇ?」
「・・・・ある・・・」
有るんかい!?
「ちょうどプラントハンターが持ち込んで来たブツがあるのだが、公爵領は北方で寒すぎるから植生には向いていないと考えられていた物だったんだよ。此処は南方だから適しているかもしれない。その苗と、農業技術者をセットにして明日にでも運んでこよう」
それは有難い、金目のスジは伯爵様とお願ぇしやす。村に不利にならないように、そこんとこはよろしく。・・・あぁ、それから。
「農業技術者は平民の独身で、感じが良くて優しくて、でもイザと言う時には頼りになり、子供や年寄りにも好かれる好青年・・そんな感じのお人でお願いしやす」
「何だい?それ、ノンさんの願望かい?」
詩乃は黙って首を振るとチビ一家の方を見た、婆さんと、姉ちゃん・・戻って来た母ちゃんは、何だか弱そうな細い体付きをしている。もし父ちゃんが戻って来れなければ、あの一家はチビが一人前になるまで苦しい生活を余儀なくされるだろう。
・・・幸か不幸か・・姉ちゃんは美少女だ・・・。
「そうだね・・・」
詩乃の意図を察したのか6男は移住を念頭に動ける、評判の良い独身者を探して見ると約束してくれた。
*******
その晩・・テントの中で一人、詩乃は昔を思い出していた・・聖女様の離宮の遮光器土偶の様なオメメの女官長の言葉を。
【この世界は女が一人で生きて行けるほど生易しい所では無いのです、餓えない程度に食べられて、眠れる所が有れば感謝しなければ・・】
それを聞いた時には反発したけれど・・ホントその通りだよなぁ~。
私は少しでも魔術が出来たから、まだ何とかやって来れたんだけど、それでも随分とトデリの街の人達には助けられて生きて来た。
でも・・女官長のあのお見合い御婆ぶりを思うと・・それにあの態度。
あぁ、駄目だ・・やっぱり有難いとは思えない!
私は違うからね、お見合い婆じゃ無いですからね!!
選択肢を広げただけです!食えずに身売りなんて幾らでもあるこの世界だ。
日本だって大昔から~それこそ昭和・戦後に入ってからも幾らでもあった話だ。
あんな美少女を貧乏のまま置いておくなんて、面倒な事が起きるに決まっている。
良く今まで無事にいたものだ、イチゴ村長め絶対目を付けていただろう。
願わくば下心無く、ボーイミーツガールでビビッと出会えれば良いのにさぁ。
この晩詩乃は<空の魔石>でウォーターメロントルマリンと言うパワーストーンを造り、握りしめて美少女の明るい未来を願いながら眠った。
ウォーターメロントルマリン・・想いの送信と受信を円滑にすると言われているパワーストーン。自分の気持ちを素直に伝える後押しをしてくれる、恋心にはピッタリな石だ。姉ちゃんは美人なんだから問題はやって来る方だろう、頑張れ6男、期待しているぞ!!
*****
昨晩は思い悩んで・・その割には、パワ石を握った途端に寝落ちした気もするが。またまたおはようの朝が来た、今日も気持ちの良い朝だ、腕をウゥ~~~ンと上げて背伸びをする。うん、今日も元気だ、腹ペコだ。
朝食をどうしようかと考えていたらラチャ先生が大きな魚を釣り上げて来た、何でも朝も早よからチビと釣りに行って来たらしい・・随分と仲良しになったものだ。
川魚か・・・泥を吐かせないと不味いんだよね。
そう思っていたら心配無用と言われた、何でもチビに情報を聞いて、水の中を結界で囲って時短魔術を使って泥を吐かせて来たと言う。
魔術はなるべく使わない様にと、王妃様に言われてはいませんでしたかね?
「いや、一度見せたら、チビは上手く魔力を使って魚を釣り上げていた。これは教育だ、流石に時短魔術の様な高度な術は難しいが、生活に役に立つ魔術を教えるのは良いのだろう?」
・・・まぁ、そうだけどさ。
「ラチャ先生、あのくらいの年頃の子供は出来る事が増えると、自分が強くなったと勘違いをして、調子に乗って無茶をやらかしやす。自分の実力を正確に知る事も大事でやんしょう、そこの所まで考えて教えていやすか?」
「うむ・・・では、魔力検査の実地版をすればよかろう」
己を正確に把握するのはとても大事だ、もともと青熊に向かっていくような無茶をする子供達なのだ。ラチャ先生がいなくなった後の事も考えておかねば、(やりすぎ注意)を叩き込んで、釘をトトトンっと打っておかねば心配でならない。もうしばらくこの村に居る様かな?悲しい話が舞い込む前にトンズラこきたい気もするんだが。
・・まぁ、今は朝食の用意だね。
魚か、蒸すか・焼くか?焼いてバラシて雑穀に入れて炊き込みご飯風にするか?大勢で食べるなら炊き込みご飯だね。
まだ村人が寝ているので、さっさと捌いて時短で丸焼きにする。
骨は選別してお吸い物風の汁物に、身は解して炊けた雑穀に混ぜ込む、生姜みたいな根っこを効かせてピリッと爽やかな朝ご飯だ。
「ごはん出来たよ~~~」
空鍋をガンガン叩いて皆を呼ぶ、慣れた作業になりつつある。
朝食の後はプウ師範は昨日と同じ休耕地の復旧作業に、ラチャ先生は子供達を集めて実地の魔力検査を始めた。チビ達は希望に顔をテカテカさせているが、彼らのノイズは下の中が良い所で、とても魔術師にも冒険者にもなれないだろう。魔力が弱いなら使い方を工夫するしかないが、下手に教えて暴走されても困る・・この村に居続けてて見守れる訳では無いのだから。チビ達の引導はラチャ先生に任せた、頑張れよチビッ子達。
詩乃は井戸を造るつもりだ、洗濯や畑仕事にも使える簡単な井戸端。
イメージは江戸時代の下町・長屋の井戸だ、両国にある江戸時代の博物館で見たあの感じ。詩乃は幅1メートル四方、深さ2メートル程を<どっこいしょ~>とやり穴を開けた。その辺に落ちている石を適当に寄せ集め固めて洗い場にする、井戸の中も石で固めた、ふざけて落ちても大丈夫な様に石は凸凹な石垣の様に固める。
『あいつら絶対にやらかすだろうから』
落ちても這い上がれるようにしたわけだ、井戸の枠は壊れて底の抜けた樽をひっくり返して穴の上にかぶせた。そう、博物館の江戸の井戸、正しくは水道だが・・・こんな感じだったね。出来上がったら洗浄の魔術でババッと洗い、ササッと乾かす・・うん、好い感じアクアマリンを翳して水を出す。
『よし、水漏れも無さそうだ・・樽の半分程まででいいか?』
頃合いを見てアクアマリンに願う、生活用水を湛えよ・・と。
まぁ、飲んでも大丈夫なんだけどね。
水を汲むのは竹の棒の先に木桶を括り付けた物でなくてはならない、博物館ではそうだったここ重要!テストに出ます!
井戸の出来に満足してグッジョブとか自画自賛していたら、大声で泣く声が聞こえて来た。・・チビか。
「おれ、強くなれないの~~」
ヤダヤダと、泣き喚いている・・唖然として見ているラチャ先生。
初めて遭遇する駄々っ子に、どう対応していいのか解らない様だ、感情を露わにする貴族なんか居ないものね。未知との遭遇だ・・おめでとう。
「魔力が強いと、王都に連れ去られて貴族に飼い殺しにされる」
先生はいきなり物騒な事を言い出した、ビックリして固まるチビ、口がわなわなと震えている。
「王都に行くと二度と家族には会えないし、強くなっても魔獣と闘う盾にされる。それでも良いのか?お前は何の為に強くなりたいと望むんだ」
「おれは、母ちゃんや姉ちゃん、それから村を守るんだーー」
『そうか、決意は立派だ。鼻をチンしろ』
「ならば考えろ。頭を使え知恵を出せ、卑怯な手は得意だろう」
『うん、言葉を選ぼうね・・・ラチャ先生』
大泣きしたチビがいきなりラチャ先生に抱き着いた、おぉぅ、人生初のスキンシップ、刺激が強いから初めは子供位がちょうど良いだろうさ。
硬直しているラチャ先生に、背中をポンポンせよとゼスチャーで指令を出す。
根は生真面目な先生は、チビが泣き止むまでワイパーのように腕を動かし背中をポンポンしていた。
そんなこんなで昼飯の時間だ、それはお母さん達と女の子で用意してくれた。
有難い・・・人が作ってくれる料理など、久しく食べていない。嬉しくて涙が出そうだ、頂きますとも!!
賑やかに食事を始めたら上空にドラゴンと飛行船が見えた、どうしていつも飯時に来るかな~~~?
詩乃はお母さんたちの心尽くしを味わいながら
「侵入許可、実行」と、呟いた。
次回こそ、旅立ち。ラチャ先生・プウ師範サヨナラENDです。
案外面倒見のいい2人でした。