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B級聖女漫遊記  作者: さん☆のりこ
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砂漠の悪魔~1

トデリを連れ出された詩乃・・・出迎えた人物は?

 ドガアッ!大きな音が響き砂煙が巻い上がった。


目は開けていられないし、体は派手に吹き飛ばされてゴロゴロと転がった。

銀ロンこと魔術師長の攻撃は破壊力が桁違いだ、こんな大きな爆発では詩乃が魔力で風を起こしても避けきれるものでは無い。


「いてっ!痛い痛い痛い」


細かい砂や塊が自由落下で落ちて来て、無慈悲に体に当たって行く、もう体中傷だらけの埃塗れだ。


「まったくもう!やってられないよ!!」


被害を出している張本人の銀ロンは、魔術を無理に押える事も無く、目いっぱい解放して戦えるので上機嫌だ、素より周りの事を考えて配慮するような性格ではない。


『魔獣に殺されるより先に、味方に殺られそうだ・・』




=皆さんこんにちは、私の事・・覚えていて下さっておりましょうか?=


6年前のあの夏の日に聖女様の異世界召喚に巻き込まれ、この世界に理不尽にも連れてこられてしまいました。所謂、巻き込まれ召喚って奴ですね。

聖女様は良い方でしたが、王宮の体質や貴族達のあれやこれやに嫌気がさしまして、トデリという北の小さな街に1人移り住みヒッソリと暮らしていた異世界人(元日本人)が私です。

大西詩乃と申します、今年で20歳となりました。あちらでは目出度くも成人の歳ですね、酒が飲めるぞ、やっほい。

春の女神様のお祭りの日、突然現れた王宮関係者に連れ去らわれる様にトデリを後にして・・その翌日にいきなり実戦に駆り出されるとは酷い!

ええ、実に納得いかない時間を今現在過ごしております。


=この現実を、忘却の彼方に押し込めたくて意識が少し飛んでいた様だ=


「戦闘中にボケッとするな!」


大魔神のように顔を顰めたおっさんが、大きな声で怒鳴りつけてきましたよ。

あんた私の護衛じゃ無かったんかい?護衛対象者から離れて何してますの?

ええまぁ、大剣を振り回して魔獣と闘っていますね。いやぁ、生き生きしていて何よりだ頑張ってくれたまえ。私は逃げる。


魔獣は獣なのか虫なのか、定かではないが何と言うか。

全世界の園芸家の皆様の大敵<ドゥガネブイブイ>・・コガネ虫の幼虫だが・・そっくりな体に、サソリのはさみと毒を持つ尻尾を付けた様な禍々しい姿をしている。大きさはサソリ部分の尻尾を除いて、市内の細い道を走るシティバスくらいだろうか?デカいねぇ。

大剣で叩き切られると小豆色の体液をまき散らし、その体液には何か酸でも有るのか?周りの砂をシュウシュウと溶かして行っている。


『砂が溶ける?変だね、只の砂じゃあ無いのかな?』


よく見ると緑色をした一回り小さな虫風魔獣もいる、こちらも園芸家の怨嗟の元<根切虫>にそっくりだ。王宮の庭師の御爺ちゃんが、この光景を見たらどう思っただろう?バーサーカー状態に成ったりしてね(笑)。


なんか凄いよね、ドウガネブイブイは草花の根っこを食べちゃう悪い奴だけど、こんなに攻撃的では無かったよ。よくお婆ちゃんが箸で摘まんで蟻の巣近くに落としていたっけ、大事な花の敵討ちと食物連鎖とか言ってた。ご自慢のボタンの花の鉢植えなんかを駄目にされていたから、いやぁ怒っていたなぁ~。根切虫も植えたばかりの苗とか食べちゃうし、碌な物じゃなかったけど・・。

あちらの虫は小さかったからねぇ、被害も少なく済んでいたけどさ。この図体でモリモリ食べられちゃったら、そりゃぁ森も剥げるわ。


そう・・今や此処は、一面サハラ砂漠の様にサラサラの砂だらけな場所なのだが、ほんの数か月前は青い森として、この世界に酸素を供給していた原生林だったのだ。何だってこんな有様になったのか?その調査と、原因の排除、その後の有効利用を考える様にと命令して来たのは・・なんと王妃様だった。



    *****



 トデリの祭りの日に迎えに来た大魔神&魔術師達が、詩乃を連行して行った先は王宮では無かった。


そう、ちょっとクラクラしながら魔術陣から降りた詩乃を迎えたのは、元②王子(現王太子)と魔術師長の銀ロン、それに胡散臭く微笑んでいる王妃様だった。


「気分は如何?久しいが、元気の様で安堵いたしましたよ」


そう言って近づいて来る王妃様は、4年経っても変わる事無く美魔女のままだった。


「シ~ノンちゃん、いえ今はシ~ノンさんですね。背も少し伸びたのかしら?大人っぽくなった事。その衣装も素敵ね、北方の民族衣装かしら?とても綺麗よ良く似合っているわ」


王妃はそう言って詩乃の衣装や雰囲気は褒めてくれたが、顔が綺麗になったとか、可愛くなったとかは言わなかった。嘘はつけない質らしい。

詩乃はトデリを連れ出された事をかなりムカつき、根に持っていたので軽く挨拶するに止めた。敬意なんか払うものか!


「王妃さンモよぅ、健康そうで何よりデサァ」


トデリの平民漁師、海の荒くれ男の<べらんめぃ>調だ、文句あっか!

『御変りも無く、お美しいままなんて口が裂けても言ってやらないもんね。何を考えて呼び出したんだ、この腹黒ババア』



「まあまあ微笑合っていても目が笑っていないのは不気味だから、一休みでもしながらお茶でもしませんか?」

そう言いながら、第6の人物が魔術陣の部屋に入って来た。


「お久ぶりだね、オマケのお嬢さん?僕の事を覚えていてくれているかな?」


モブ顔の男、相変わらず残念臭が漂う奴だ・・人の事は言えないが。


「公爵んとコの、6男坊かい・・」

「うん、おしいね4男なんだ。さあ此方へどうぞ」


詩乃の手を取るとエスコートして歩き出した。

扉を開けると明るい太陽が感じられ、トデリと比べて風が随分と暖かい。花の香りも強い様だ、此処は何処なんだろう?かなり南の地方のようだが。


「天気が良いからね、バルコニーにお茶を用意させたんだ」


そう言って連れ出されたバルコニーから見えた景色は、トデリの暗い海になれた詩乃の目には明る過ぎて戸惑を覚える感じ過ぎてだった。そうTVでみたニースの様な海、オレンジ色の屋根瓦は南仏を思い起こさせ、とってもリゾートな感じだ。

『・・・裕福そうな街だな』


「此処は私が王から譲り受けた領地なの、ランパール王妃領へようこそ」


王妃様は自慢げにそう言うと、人払いをして自らお茶を注ぎ出した。


「どうかしら?南の国から取り寄せてみたのだけれど」


詩乃の前に最初に置かれたティーカップには・・・これは・・・。


『グリーンティーか?』

日本茶に良く似ている、これでお茶受けに大福でも出てきたら拍手喝さいモノだが。詩乃は黙ってお茶を見つめていた。お茶の向こうに懐かしい皆の顔が見える様だ、習い事から帰った詩乃にいつもお疲れ様と言って、お茶とお菓子を振る舞ってくれた祖父母が思い出される。

なかなか手を付けない詩乃に、不敬だぞと、注意しようとした大魔神だったが言葉を出せず飲み込んだ。

詩乃が泣いていたから、静かに声も出さず詩乃は目を伏せ、ただただ涙を流していた。


「聖女も同じ反応をしていたよ、このお茶はお前達には懐かしく心に染み入る物の様だな」


王太子がそう呟いた・・・。

②王子改め王太子は短かった前髪を伸ばし、オールバックにして後ろで結んでいた。聖女様のお父様に雰囲気を似せようと小細工をしたのか、はたまた薄い頭頂部を隠すための苦肉の策なのか、詩乃の知る所では無いが。相変わらず不愉快なノイズを発生する、嫌な奴には変わりはなかった。


「2人には大変な犠牲を強いたが、お蔭でランケシ王国は持ち直してきている」


・・・と、王太子が話し出した。

何でも毎週神殿の塔の上から放送(?)される聖女様の神言は、貴族達の気力や体調を回復させ、実務に専念しようとする<やる気のスイッチ>を押したそうだ。そして<やる気>は貴族の出生率も上がらせ、魔力の多い子供が生まれて来てベビーラッシュ状態なのだとか。それは王国として何よりの吉報なんだってさ。


『別にそんな事、嬉しくもなんともないけどね』


調子に乗ったのか、大魔神も話し出した。

大魔神は以前と比べて②に対して、随分とフランクになったような気がする。相変わらずのブスッとした、可愛げもクソも無い湿気た顔をしているが。自分のノイズを完全に隠すなど魔術の腕が上がったのか、はたまた平民に対して配慮出来る様になったのか?サイレントなのは結構な事である。


「軍部も改革され出世は実力主義となった、初めは貴族達には反発されたし、平民兵達も混乱した様子も有ったが。共に魔獣と闘っている内に、そんな身分の垣根も崩れて来た。今では出自を超えた友情も生まれて、連隊の運営も上手く行きつつあると自負している」


・・・あぁ、そうですか。へぇ~~良かったですねぇ。

『日本茶風のお茶の前で、懐かしさに涙を流しつつ<軍の友情>の所で腐った妄想に耽る。私ったら、まだまだ健在(大丈夫)だわ!』

詩乃はパチリと目を開けると、お茶を静かに飲みだした美味いでし。


「それに、ボコール公爵領、トデリの事なんだけどね」


今度は地味男の6男が話し出す。


「君が移り住んでからトデリが急速に発展して驚いたよ、経済規模が6倍に膨れ上がったんだ、考えられない事だろう?例の<海の女神の像>に関しては、シ~ノンさんの功績が大きいが。女神像を上手く造った事でトデリの木工製品の優秀さを広く知らせる事が出来たのが良かったようだ。だから続く商品・・飴色の家具も細工の精密さと独特の色合い、美しい艶が評判を呼べだんだ。今や公爵領の売れ筋商品だよ、凄い事だと思わないかい?それに子爵自ら船を出して北の王領と交易を始めただろう?良質の毛皮が安定供給されて他国との貿易が飛躍的に伸びたんだ・・公爵領としても有難い変化だったんだ」


「そりゃぁ、街の皆が頑張ったんでぃアッシには関わりの無い事でござんしょぅ」


「君、言葉が悪化したね?ところがそうでも無いんだ。何だと思う?」


『さぁ、知らん存ぜぬの、コンコンチキでさぁ』

詩乃は黙って首を振った、ついでにお菓子も食べてみた、これはこれで美味しいけどさぁ、切実に大福が欲しい!餡子と餅をプリーズ


「水だよ」


詩乃は驚いて、初めて6男の顔を見た。4男だけど。


「トデリは昔から謎の風土病が有って、働き盛りの頃に突然頭が痛んで倒れ手足が麻痺して動けなくなる事が多かったんだ。子爵の父上の先代の代官もね、この病を得て体の不自由を強いられていた。それで執事の増長を招いて、多くの悲劇を生んでしまった訳なんだが。君の水を飲む様になってから、街の人々は何故か健康となり仕事に精を出し明るく生きる希望を持てたんだ。領主の一族の一員として、お礼を言うよ・・有難う」


『それって、塩分の取り過ぎなんじゃないかな?高血圧による脳卒中だよ、きっと』


「それでね、シ~ノンさんは十分トデリに良い影響を残したから、今度は別の街に行ってもらおうと考えた訳なのよ。名案でしょう?ホホホ・・」

「却下」

「あらあら、話を聞いてちょうだい5分だけでも良いから」


どっかで聞いたフレーズだね。

②で現王太子が、苦虫をかみ砕いたような顔をしている、面白いもっとやれ。


「シ~ノンさんは、この世界の者と目の付け所が違うでしょう?新しい発見や商売のネタを見つけてくれると思うの。だからね御伴を連れて、王国中を自由気ままに歩き回って~。各地の名産の掘り起こしも素敵だし、不正をしてい小悪党をやっつけても良いわ!魔獣を倒してくれたら、もう最高!」


『何言ってくれやがるんだ、このおばさんは!』


「お供は最高の人物を用意しました、まず魔術師長であるラチャターニー。魔術の腕前はピカイチよ!それから魔剣の達人、ご存じプマタシアンタル。この4年間、特訓に次ぐ特訓で大剣を振り回すまでになったのよ凄いでしょう?それから、私との連絡と補給や情報収集係に公爵の6男」

「4男です、初めて名乗りますねスラカルヤと申します。よろしくお願いしますね」


『この世界に来て、初の逆ハーなのか?でもチェンジでお願いします』

・・詩乃が納得いかないまま、お茶の時間は過ぎ、そのまま就寝となった。



    ****



 王妃領の館の客室は公爵領より豪華だった。

調度品・消耗品などの、ひとつひとつがランケシ王国の特産品で、何だかアンテナショップ?見本市のようだ。この館で各国の要人とかを招いてパーティーとか売込み何かをするのだろう。逞しい事だ、王妃様の背中にはランケシ王国と祖国ザンボアンガが圧し掛かっている。

大変だなぁ・・・とは思うが。

王国中を歩き回れ?冗談じゃ無い!猿〇石かよ、今やMCで活躍しとるわ!



1人客室の窓辺に立って、海や港に灯る明かりを眺める・・漁火かな?

此処の漁師さんも、トデリの小父さん達の様に威勢が良いのかな?

トデリの皆の顔を思い出すと、何だか悲しくなって泣けてくる。

水はアクアマリンを用意しておいたから、多分大丈夫だろう・・。ピザやパイもリーと新米兵士にレシピを教えておいたから、お祭りの時や出船の前には2人が焼いて皆で楽しめるはずだ。

・・・でも、何となく・・。

詩乃のトデリでの足跡が、上書きされて消えて行く様でほんの少し寂しい。


そんなことを考えていたら、お忍びで王妃様が入って来た。

『其処の本棚、後ろに開くんですね。そう言えば王宮でも自分専用の抜け道を持ってましたものね、今更王妃様の奇行なんかでは驚けない』


少し話をしましょう、王妃様はそう言うとドッカリとソファに座り込んだ。

だいぶお疲れのようだ。


「トデリに心残りが有るとしたら、あの坊やの事かしら?」


オイの事まで王妃様に知られていて、心が冷えて凍って行く思いだ。


「誤解しないでちょうだい。トデリの平民を人質に取って言う事を聞かせ様などと、そんな下品な真似はしませんよ。さんざんされて自分が嫌な思いをした事は、利益を生み出すであろう相手にであっても、したくは無いもの」


王妃様は独り言のように呟く。


「好いモノよね・・。政略でも無く相手の富を望むような打算も無く、ただひたすらに相手を思い心を投げ出すなんて。・・私には出来ない事だわ」


『何だか話が妙な事になってきている・・何が言いたい?』


「あの子は、オイと言ったかしら?シ~ノンちゃんの事が好きよ?

どうするつもり?トデリであの子と結婚したかったの?あの子はなかなか見所が有りそうな子だから、ちょっとやそっとじゃぁ諦めないわよ~。王都で黒髪黒目の聖女の話を聞いてピンッと来たんでしょうね、かなりあちこちで色々と聞き込んでいたからね~。あなた年上な事もバレているわよ?」


『うっ!それは、かなり恥ずかしい。

でもオイは年下の弟の様な感覚だ、第一印象の小生意気な感じが忘れられない。結婚とかは無いな・・誰とも無いな。心残りといったら何たって店だろう、自分で作ったお気に入りで溢れるあの店。詩乃そのもの様な、この異世界でただ一つの心が休まる暖かい場所だ』


「だったら、綺麗な思い出のまま去ってやりなさい。

想いはあの子の中で発酵して、やがて熟成し良いお酒になって飲み干されるでしょう。解る?それが、好い女ってなもんよ」


「何言ってくれてんだ、これだから熟女は熟しすぎて酢になってんじゃぁ無いの?」


グリグリグリ・・・・痛い痛い痛い!!!


「まぁ、不思議ねぇ。4年も経ったのに相変わらずグリグリしやすい頭だわ」




・・・王妃様には勝てる気がしない・・・。

嫌でも旅に出るんだろうなぁ・・・王国漫遊?水戸〇門じゃぁあるまいし。

介さんと格さん・・最悪の人選だ、あの2人と旅できるのか?

うっかり〇兵衛はいるのか?セクシー風呂ショットは誰がやるのか?



不安の内に、王妃領の一夜は更けて行った。


王妃様は、やっぱり腹黒・発酵・熟成・・・年代物の熟女でした。

説明が長すぎて、砂漠に戻れませんでした・・・(/ω\)

明日こそアクションシーンを!

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