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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第一章 目覚め
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 ようやく長い回想から帰ってきたら、屋敷中がざわついている。

 皇子殿下が到着されたようだ。

 気合を入れなければ。

 失礼があっては大変だ。


「本来、こちらからご挨拶に伺わなくてはならないところ、ご足労頂き、ありがとうございます。お手数をおかけして申し訳ありません。体調はもう宜しいのですか?」


「従兄弟ではないか、其方は気にしすぎだ。これは私の我が儘。体調の方は問題ない。いつものことだ。テレジア大公爵夫人の体の方はどうだ?」


 そう言って、金色の髪に青い瞳の涼やかな美形と少年が応接室に入ってきた。



 その少年を見た瞬間、思考が固まる。

 なんて、綺麗、なんだろう――――

 最初、強烈にそう思ってびっくりした。



 だって、こんなに美しい人を久しぶりに視たから。



 艶々な髪は漆黒。

 全てが完璧な配置の容貌の中で、取り分け印象的なのは瞳だ。

 真っ赤な、というよりこれは真紅というべき、宝石のように綺麗なその瞳に感嘆する。

 まだ幼いのに、どこか冷たく、妖艶さも感じる美貌だ。

 それでいて、どこか無機質な印象を受ける。



 神々しいとはこういう人の事か。



 呆然と見惚れていたら、こちらを視た少年が眼を見開いている。

 何だろう?



 それで気が付いたのだが、この少年とは初めて会うはずなのに、不思議とどこか懐かしい。



 お父様に促され、慌てて左胸に右手を添えて一礼。

 これは皇族に対する挨拶で、男女共通だ。



 貴族や士爵の普通の挨拶は、男性だとお辞儀。

 女性はドレスを摘まんで膝を折る。

 皇太子殿下や皇太子妃殿下には、男女共通で左胸に右手を添えて深く一礼。

 皇帝陛下の正妃である皇妃殿下には、男女共通で片膝をつき、左胸に右手を添えて深く一礼して、三拍おいてから顔を上げる。

 皇帝陛下が相手だと更に片膝をついたまま許されるまで頭を上げてはいけないのだ。



 皇子殿下と少年がって少年も皇子殿下か、ややこしいかも。

 お二人はこちらを向き、軽く会釈した。

 そして私を見て、金色の髪に青い瞳の涼やかな美形の男性が声をかける。


「私は、アルブレクト・アウグストゥス・フロイデ・アンドラング。アンドラング帝国第一皇子。こちらは私の息子のルディアス・アウグストゥス・アンドラング」


「ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。私はシュヴァルツブルク大公爵家の娘、エルザ・シュヴァルツブルクと申します」


 良し、噛まずに言い切った! 

 私は密かに満足していた。

 やり切った感が私にはあふれまくっていたと自己分析。



 その様子を微笑ましそうに見て、第一皇子殿下が


「利発そうで何より。私と私の息子の名を呼ぶことを許そう。エルザ嬢は三歳であったな。ルディアスは六歳、三つ違いか」


 そうだった、皇族は名前を読んで良いって本人か、本人より偉い人に許可をもらわないと、アルブレクト殿下って呼んではいけなくて、第一皇子殿下って呼ばなきゃいけないのだそうだ。

 その殿下は、何やら嬉しそうに仰せになっているが、はて、何か喜んで頂ける要素があったかなと考えながら、全員座って談笑していたのだが、


「父上、エルザ嬢と二人で話がしたいのですが、よろしいですか?」


 突然、今まで黙っていたルディアス殿下がおっしゃって驚いた。

 何か私、おかしな事していないよね? 

 何故だろう? 

 純粋にわからない。


「珍しい事もあるものだ。其方が何かに興味を持つとは……ハイン、構わぬか?」


「はい、アルブ殿下」


 アルブレクト殿下はとても喜んでいらっしゃるが、お父様は複雑そうだ。

 お母様はアラアラとそれは楽しそうにしている。





 みんな退室して、ルディアス殿下と私の二人っきりになった。

 妖精達も退室してくれたからね。

 そう、ルディアス殿下の周りにも妖精が浮遊していた。

 金色のふわふわした髪に青い瞳の気の強そうな妖精さん。



 それにしても、ルディアス殿下は本当に綺麗、なのだけれども、表情が固い、というより、死んでいる感じだ。

 余計に造りの美麗さを強調しているが、微笑んだら温かな印象を受けて、また違う魅力が出るのだろうなと懐かしくも思った。



 無機質で無表情。

 前世の初めて会ったときの従兄弟を思い出す。



 でも、この年齢でどうして表情が死んでいるのだろう。

 何かあったからとか?

 もしかして、生まれつきだったり?

 従兄弟は生まれつきだと言っていたが……



 聞いて良いのか悩むなあ……

 不敬罪とかになりそうで恐いし……深い理由だったら申し訳ない上に、失礼だよね。

 殿下を傷つける事になったら、謝っても謝り切れないし……

 どうしよう……気にしないようにすればする程、気になってしまう……

 よし、思い切って訊いてみよう。

 なるようになる! 

 何故かそう決意した。


「あの、ルチェ、ルチィ、……」


 何故に今! 噛むかなあ、私!!


「ルーなりルディなり、呼びやすい方で呼んで構わぬ。」


 六歳児に気を使われた……! 

 情けないぞ、私、実年齢二十歳過ぎなのに……!!

 気を取り直して、改めて


「ルディアス殿下は、何故、表情が動かないのですか?」


 良し、言えた!


「二人きりなら、ルーなりルディと呼び捨てでも構わぬが――――表情か、生まれつきだ」


「ありがとうございます! 疑問が解けて嬉しいです」


 満面の笑みになってしまった。

 外見年齢に精神年齢引きずられていないかこれ……?

 しかし、あっさり言われたけれど、生まれつきって、それはそれで問題なのでは……

 殿下はあまり気にされていらっしゃらないようだけれど。



 真紅の瞳が瞬く。

 わぁ、睫毛長いなぁ、バッサバサだ……

 どうやら何か言いたい事があるようだが、どう切り出すか悩んでいるみたい。

 あ、無表情だけど首をコテンと傾げて、髪がサラサラって流れて、とっても可愛い!



「前世の記憶があるな。その上、妖精の言葉が解るようだな」



 ――――頭の中が真っ白になった。


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