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エドとフェルはそれぞれ親しい家の子に囲まれてしまい、私は席を外した。
他の子とは面識がないし、私がいると話しずらそうだったからね。
勇気がある子が話しかけたら、芋づる式に人が集まってしまったのだ。
天気も良いし、小春日和というやつだろう。
暖かくて気持ちが良い。
昼食は食べ終わったし、菊でも見ようかと会場内をウロウロしだした。
色々な菊があって楽しいのだ。
それに、単純に鉢植えの菊だけじゃなくて、薬玉みたいに菊を飾ってあったりして、見応えがある。
お酒も菊を浮かべてあったりしたみたいだ。
子供用のジュースにも菊が浮かべてあって面白い。
元々、美術館とか好きで退屈はしなかったしね。
合わない美術品はサクッとスルーして好きなものを眺めていたのだが。
植物園も好きだったから、面白くて全部見て回ろうと決意していた。
人気のない場所に、ひっそりと飾られた橙色の菊。
綺麗だなと近付いたら、その菊の足元に誰かが蹲っていた。
「エルザ、か?」
「フリード様!? どうなさったのですか!」
慌てて駆け寄る。
顔色が真っ青だ。
冷や汗も酷い。
間違いなくもの凄く具合が悪いのだ!
背中を摩り、
「立てる? 否、誰か呼んでくるから待ってて!」
そう言って立ち上がり、駆けだそうとしたら、手を掴まれた。
「良い。大丈夫だ」
どう見ても、明らかなやせ我慢をするから
「とても大丈夫には見えないわ。何時から具合が悪いの?」
「会場に、入る前、だったと思う」
冷や汗を垂らしながら言う。
「ごめんなさい。辛かったら答えなくても良いから」
しゃがみ、皇子殿下と視線を合わせる。
「具合が悪いのに出席したら、逆に迷惑だと思うわ。出席して余計に悪くなった方が、沢山の人に心配をかけるし。何か理由を付けて早く退出する手もあったと思うけれど、直ぐに動けなくなったの?」
頷いた殿下は
「途中退出する訳にはいかない。きちんと出席しなければ」
溜息を付いてしまった。
「もう、真面目というか、不器用というか、頭が固いんだから。貴方が会場で倒れた方が余計な迷惑をかけるでしょ」
思わず苦笑してしまいそうになって慌てて表情を取り繕う。
本当にフリード様は馬鹿真面目なのだ。
「そうか。そうだな……考えてみればその通りだ。エルザ、人を――――」
そこまで言って、殿下が思い切り吐いてしまった。
慌てて背中を摩る。
こういう時は我慢せず、吐くだけ吐いた方が良い。
寝ている訳ではないから、気道は大丈夫なはずだが……
しばらくして収まったみたいだ。
荒い息だが、もう吐く物もない様だし、吐き気もある程度収まったみたいだ。
持っていたハンカチでフリード様の口を拭く。
「今、人を呼んでくるからね。また吐きたくなったら、我慢しちゃだめよ」
立ち上がり、人を呼びに行こうとしたら
「すまぬ」
ポツリと本当に申し訳なさそうに言う声が聞こえたから
「大丈夫。友達じゃない」
微笑んで彼の肩を軽く叩き、大人の人を探しに行った。
結構な騒ぎになってしまったのだ。
可能な限り、速足で歩いて人を探した。
走ったらいけないから大変だったけれど。
近くには護衛の人達しかいなくて、その人達が医務局の人だとか執事さんとかを呼びに行ってくれたのである。
私の姿も悪かった。
ドレスの大部分に吐瀉物が付いていたのだ。
おかげでとても心配された。
私じゃなくてフリード様なのだと説明するのに苦労してしまったのだ。
その間にフリード様の具合が悪くなったらどうしようと、気が気じゃなかった。
お祖母様と一緒に途中退席する事になってしまう。
ドレスの大半が汚れていたし、仕方がない。
お祖父様やお父様はまだ退出する訳にもいかなくて、お祖母様が連れて帰ってくださった。
本当はお祖母様も退出する訳にはいかないのに、申し訳ない。
お祖母様に謝ったら、気にする事じゃありませんよと微笑んで頭を撫でて褒めてくれた。
だが、私は大した事はしていない。
フリード様、大丈夫かな。
私が話しかけたから、余計に悪くなったのだろうか。
だとしたら本当に申し訳ない。
そう思いながら、屋敷に帰った。




