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ディルクの瞳が戻ってから十日後、第二皇子殿下のご子息である、フリードリヒ殿下が主催するお茶会に出席する事になった。
まだ早すぎるとは思ったが、とはお父様の言だ。
上位貴族が喪に服しているなり病気等の理由が無ければ、魔力検査と測定を終えたら必ず出席する、観菊会というのが秋にあるという。
春には観桜会というのがあって、いわゆる園遊会らしい。
どちらも上位貴族は必ず出席だが、通常の貴族は目立った功績がなければ呼ばれないという。
それでも当然皇帝陛下を始め皇族方も出席する大規模な物だから、その前に慣らして起きたいし、いきなり園遊会で無事を発表でも良いのだが、人が多すぎるからもう少し内々の物で、という事だという。
第二皇子殿下のご子息殿下、つまり皇御孫殿下主催のお茶会になったのは、身内で信頼が置ける人格だし、近々で決定しているのはその殿下の物以外だと、捻じ込んでも上手く私を守れないだろうからだと言われた。
大貴族というのは、四大公爵家と公爵家、侯爵家を差し、上位貴族といったらそれに伯爵が追加されるらしい。
それで中位貴族は子爵で、下位貴族が男爵となる。
今回のお茶会は、上位貴族の中でも選りすぐりの名門の子息令嬢ばかりだから安心して良いよとお父様は言うが、余計に緊張する。
私はルーやエド達とその身内以外の皇族も貴族も会った事がない。
私に怪我をさせた人達はいたが、彼等は貴族籍を抜かれたはずだし、やっぱりエド達以外にはいないで正しいだろう。
最初から貴族として育ったのなら、違うのだろうか。
埒も無い事を考えてしまう。
前世の記憶があるから、上手く馴染めないのかな。
色々ろくでもない事が頭を過るのも、きっと転生した男の件があるからだろう。
不安は高まる。
初めてのお茶会なのだから、ただでさえ緊張するのに、私の無事をアピールする場の為、気が抜けない。
エドとフェルは本来出席するはずだったのだが、誘拐された為、大事を取って既に断った後だという。
二人共、皇族に一度断った手前、もう一度出席させてくれとは言えず、一緒に行けなくてごめんと謝っていた。
アンドは今、親戚の喪中だからそもそも出席できない。
そう、ルーのお茶会にもアンドは喪中だから出席しなかった。
だから攫われずに済んだのだろう。
ルーは出席できなくもないのだが、おそらく第二皇子殿下が断るだろうとの事だ。
ご子息の殿下ではないのが、色々思ったりはする。
ルー曰く、兄であるアルブレクト殿下は気にしていないが、第二皇子殿下は兄に対抗意識が強いらしい。
兄弟なのに、何故だろう。
ルーは兄弟だからだろうと言っていた。
私にはやっぱり良く分からない。
アデラは検査の為、当分家に帰れないという。
だから今日も一緒に出席できない。
その事が余計に不安を煽っている。
知り合いが誰もいないのは、やっぱり怖い。
当日は緊張が最高潮だ。
馬車に揺られながら、思考を本日の服装に逸らしてみた。
今日は薄花色のドレスだ。
秋だから、そう鮮やか過ぎる訳ではないが、落ち着いた綺麗な明るくて薄い青紫色である。
髪は頭の上部の両脇を編み込んで後ろで纏めて曼珠沙華の花で飾り、後ろの髪は下した。
今日はヒールの方が良いだろうとなって、足が心配だ。
そう高いヒールではないのが救いか。
つらつらと考えていたら帝宮に到着した。
降りてみると、侍女さん以外に騎士達が五人いて驚いてしまう。
家からも護衛の人数は十人以上いたから、前回との違いで警備が強化されているのが実感できる。
護衛の騎士達に囲まれながら、帝宮を移動。
白で統一されていて、柱や壁の装飾も豪華だが、嫌味が無く、品があって、とても高級そう。
西の方だと思うのだが、結構歩いたと思う。
足が既に痛い。
ようやく着いた部屋は、白と金の装飾で飾られていて、部屋から外の庭に出られるようになっていた。
室内も人が多いが、庭の方にも人が結構いるみたいだ。
護衛の騎士達は行ってしまった。
だが室内には複数の騎士達がいて、やっぱり護衛なのだろう。
皇子殿下を探す。
主催者には真っ先に挨拶しなくてはならない。
きょろきょろとしていたら、誰かが近付いてきた。
その人物を見て、思考が停止する。
黄金の髪に紫の瞳。
これ以上は無い程整った容姿。
それにしても綺麗な瞳だ。
あの色は確か帝王紫だったかな。
純粋に思う。
最高級の宝石を嵌め込んだみたいだと。
ルーの瞳も宝石みたいだけれど、あの瞳と遜色がない瞳と容姿の人を、こちらに来て初めて見た。
そんなに人とは現世では会った事がなかったけれど、あのルーと勝るとも劣らないって凄いと思うのだ。
ルーの無表情とは違う、硬質な印象を受けた。
笑顔なんだけれど、何だか硬い。
そんな感じだ。
見た目は華麗。
華やかではあるがなよなよせず、凛々しい。
髪の色だって眩しい艶々の黄金だ。
本当に黄金を溶かし込んだみたいにキラキラしている。
文句なしの美形に将来なるのが確定している麗しさだ。
その美麗な人物が、皇太子かその妃にするように、左胸に右手を添えて深く頭を下げ、三拍数えて頭を上げた。
「アンドラング帝国第二皇子、ゴットフリートが長子フリードリヒだ。名で呼ぶことを許そう」
しばし考えた殿下は
「む、未来の皇太子妃、いや、皇太孫妃に失礼だったか?」
などと、真面目に考え込んでしまわれた。
驚きのあまり頭が真っ白になっている。
「ご尊顔を拝し、恐悦です。シュヴァルツブルク大公爵家の娘、エルザ・シュヴァルツブルクと申します。私は皇太子妃でも皇太孫妃でもはありません。どういう事でしょうか」
何とか思考回路を呼び戻し、皇族に対する礼を取ってから名乗りそう訊ねると、微笑んだ殿下が説明して下さったのだが、皇帝陛下の御下命だと言うのだ。
つまり、未来の皇太子妃、じゃない皇太孫妃は揺るがないとして、色々言う輩から私を守って下さったのだろう。
うん、私もびっくりしたが、周りは更に驚愕したみいだ。
良く周りを見たら、皆、固まっていたもの。
護衛の騎士は直立不動で、固まっていたのかどうかは分からない。
皇子殿下の傍らには一人の整った容姿の少年がいた。
彼は皇子殿下との会話が終わってから自己紹介してくれたのだ。
それによると四大公爵家の一つ、ルードルシュタット家の長男のギルベルトだと言う。
ギルベルトは真面目で堅い、そう感じた。
紺色の髪も紫苑色の瞳も、そう筋肉質でも大柄でもないのに頑丈で崩れない、そう思ってしまう力強さがある。
瞳は何となく鋭い感じだ。
アンドの強面気味の鋭さとは違う、何というか、ルーに通じる、氷の鋭さ、だと思う。
しかし、これで四大公爵家の跡継ぎ候補全員に会えた訳か。
何となく感慨深い。
そう言えば、ギルベルトとは同い年だし、彼には一つ違いの妹がいるという話だったが……




