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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第一章 目覚め
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31

 アンドとフェルが帰って、夜、一人でベッドで布団に包まっていた。

 お父様は今日も帰りは遅いみたいで、疑問は聞くに聞けない。



 ルーから贈られたペンダントを握りしめて、夜は堪える事が出来る様になった。

 前世の従兄弟には螺鈿細工の櫛を誕生日にもらったのだが、あれはどうなったのだろう。

 などと取りとめない事を考えていたら、あっという間に寝たらしく、気が付いたら朝になっていた。





 お父様は早々に家を出ていて、私一人で朝食を食べ終え、図書室で何か資料はないかと探してみる。

 だが難しい本は読めないし、どう調べたら良いかも分からなかった。



 とりあえず図書室で床に座り込みながら、昨日は色々混乱していてすっとばした疑問を考えてまとめてみる。



 男があんなに痛がっていたのは、私が痛み止めの魔法を無効化したから、なのだろうか。

 でも血は流れていなかったし、私は男の違和感に向けて力を使ったつもりだ。



 だから、あの痛みはやはり奪ったモノが無理矢理元に戻ったから、なのだと思う。



 ならばあの姿が、やっぱり訳が分からない。

 転生したのなら、この世界の人間の容姿のはずだ。



 だいたい、神様、って何?





 分からない事だらけで悶々としていたら、ルーが訪ねて来た。

 喜んで出迎えたのだが、ルーは菓子だと言って包みを差し出し、難しい顔をしている。


「ありがとう。何かあったの?」


「――――昨日、捕らえた男が死んだ」


「え?」


 思わず声が出てしまった。

 どういう事だろう。


「男に尋問しようとしたところ、突然男が意識を失った。脈を取ると、既にない。心肺蘇生を試みようとしたが、死体が砂の様に崩れて消えてしまったのだ」


 溜め息交じりにルーが言う。


 ますます訳が分からない。


 ルーが、これは話すか迷ったのだがと前置きし


「捕らえた、エルザ達を攫った男達も同様に直ぐ死に、死体は残らなかったという話だ」


 頭が混乱する。 

 思考が纏まらない。

 それでもどうにか、疑問に思った事を訊いてみた。


「死体を消す方法って、あるの?」


 綺麗な眉を寄せ、ルーは記憶を手繰る様にしながら


「死体を消す事は可能であり難しくもない。大規模な魔法になるのだが。故に死体だけ(・・・・)を消すのは難しい。魔導具を使い装置でも作れば可能であろうが、目の前で砂の様に消すのは転移とも言い難い」


「つまり、通常の方法では不可能、という事?」


 嘆息と共にルーが言う。


「そうだ。私も立ち会ったのだが、男の魔法を使えなくした上で故、男の魔法ではなかった、と思うが……」


 ルーは困惑している様だ。

 そうだろうと思う。

 その場にいなかった私でもこんなに訳が分からなくて混乱しているのだから、ルーを始め、立ち会った人達の心中はいかばかりかと案じてしまう。



 ルーが言うには死体が残らなかったから、何処の国の人間だとか色々調べようがないらしい。

 私達を攫った男達も同様との事だ。

 衣服も同時に消えてしまい、手掛かりが無いという。

 映像とかのデータも消えてしまい、どうしようもないという話だ。



 それからこれは極秘なので口外禁止だそうだ。

 ってルーは私に言っていいのかな。 

 どうなのだろう。

 一応、当事者、だからだろうか。

 お父様には話はいっているらしいが。

 それでこのところお父様は忙しいのかな。

 貴族や士爵を纏めるのが筆頭大公爵家の役目だそうだから、その関係で色々あるのだろう。

 それでも前にも増して家にいないから、心配なのだ。





 ルーに昨日から考えないようにしていた疑問を訊いてみた。


「あの男の人、私と同じ世界、同じ国から来たのかな?」


 眉根を寄せ、思案気なルーは


「どうであろうな。エルザとは微妙に異なる世界の様な気はするが。はっきりとは言えぬがな」


 それってどういう事だろう。 

 私とは微妙に異なる世界って、なんだろう?


「同じ世界で、国の中で場所が違う、とかじゃなくて?」


 思わず尋ねたら


「それとは違う。世界が似てはいるが異なる印象を受けたのだ」


 ますます訳が分からない。

 男も死んでしまった上、死体も消えたとあってはどうしようもないのは確か。



 男の足取りとかは色々調べてはいるそうだが、容姿が変わったりしているので、難しいかもしれない、という話だ。

 何かを男に奪われた人達も調査しているそうだが、名乗り出るかは分からないし、地道に調べるしかないみたい。

 どうも男に係わる事は皇族の異能でも分かりずらいらしいのだとか。



 男はどうやってこの世界に来たのだろう。

 そう、私も、どうやってこの世界に転生したのだろうか。



 また負の思考になりそうな時、ルーが微笑みながら言う。



「そなたなら、自分一人で無茶をすると思ったが、よく皆で協力する気が起きたな」


「私が一人じゃ何も出来ないと、嫌って程わかったから」


 そう、私一人じゃこんな人数を動かす事も、話を聞いてもらう事も無理だった。

 攫われた時、自分では何も出来ないのが分かったのだ。

 ルーや皆が力を貸してくれたから、ディルクを始め、奪われた人達が元に戻ったのだ。

 ディルク以外も、戻ったよね?

 それはこれから分かるのだろうが、戻っていたら良いと思う。



 誰かの役に立ったのなら、良いのだが……


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