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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第五章 帝立アリアルト魔法高等教育学校 2
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43

「あ~あ。失敗しちゃったな。能力を覚醒させるつもりはなかったのに。でも、ま、いっか。どうせまた封じられる」


 どこか愉しそうに言葉を続けた誰かに、私は勇気を出して声をかける。

 どうしてか湧いて来る震えは止まらなかったけれど。

 ……懐かしい気もするその気配。

 いつかどこかで逢った気がするのに……黒い膜に邪魔されて霧散する。


「――――貴方は……誰……?」


 私の問いに、声は嗤った。

 当然だという嘲りと諦念を滲ませて。

 ……薄っすらと奥に絶望を感じて困惑する。


「そうだね。そうだ。わかっていたさ。君にとって……ボクがどの程度の存在かは」


 楽しそうに愉しそうに嗤う……声。

 視線の粘度は増した気がする。

 声にさえ粘着質なモノを感じて戸惑いが抑えられない。


「ああ、そうだとも。創造主クラスを始めとした支配者層にとって……ボクは取るに足りないよ。それこそ吹けば飛ぶような存在だ」


 自嘲を多大に込めた声。

 何故それ程自虐するのかが分からないからだろう、どうして良いかが分からなくなる。

 ……当惑も深くなるってしまう。


「だから……良いじゃないか。少しくらい奪ったって。沢山持ってて恵まれてるんだから……下層な存在に譲ってくれたって罰は当たらないと思う」


 さも当然という響きで言い切った後、愉しそうに嘲った声が続く。


「持つ者には、持たざる者の気持ちは決して分からない。逆もしかりさ」


 こちらを見つめている視線に更に圧と熱が籠った気がした。

 思わず逃げたくなるのは何故だろう……?


「だから……持つ者である君には、僕は理解出来ない。してもらおうとも思わない。 君はさ、全然これっぽっちも分かっていないみたいだけど、君は存在が生まれついての支配者階級。所謂、貴種なんだよ。なのに搾取されてばかりなのは気が付いてるかい?」


 私は声のいう事に目を瞬かせることしか出来ない。

 ……どうして良いかが分からないのが本音だ。


「ま、あれだね。君は無意識に使っているけどさ、この世界の住人なら、特に君の所属する国ね、その連中ならさ、狭間や堕ちた連中に攻撃がある程度効いてるんだけどね……分かってないから効果的じゃない攻撃して効率悪いんだよ。この世界の住人の一部って、管理者達に改造されてるから強力なんだよね。だから効率悪い攻撃でもある程度効くんだけど」


 唐突に話が変わって困惑する。

 声は相変わらず嘲笑している響きを隠さない。


「……あの、どうしたら効率良く攻撃出来ますか?」


 思わず訊ねていたのは……どうしてだろう、記憶が混濁している。

 それを訊かないといけないと強く思うのに、理由が分からない。

 混乱ばかりが加速する。

 それでも訊こうと思う自分に更に脳内の回線渋滞は加速した。


「何でそれをボクが教えないといけない訳?」


 最もな返答にぐうの音も出ない。


「……そうですね……ごめんなさい……」


 クツクツと嗤った影は愉しそうだ。


「君はさ、自分の属性も分かってないんだよ。だから無意識に使ってはいるけど、効率はやっぱり格段に悪い。しかしここまでアレだと、君を××××××は不幸だねえ」


 私の属性……何だったかな……ギュンターに聴いたと思うのに、不思議と霧がかかったように分からない。

 確かに聴いたはず。

 それなのに……何故……?


「彼等が君の属性が分かればねえ……さぞ面白いだろうに。一部しか分からないのにそれでもアレだけ寄ってくるんだ。君がその属性だから君の力はアイツ等に効くんだけどね」


 愉しそうにこちらを観察している気配がする。

 何かを探っている様な……


「……一部……? 属性……?」


 先程から脳内で知っているはずだと囁くのに、どうしても出てこない。

 度忘れしているにしてはおかしすぎる。

 白い膜で隠されている様な気がして仕方がない。


「そう。あ、魔力とかの属性じゃあないよ。魂の属性さ。人じゃ……分からないだろうけど」


 言って嗤う声がした。


「ジャイアントキリング、相性次第で勝てる……なんてのは一定以下の連中にしか該当しない戯言だよ」


 諦めている様な響きで自嘲する。


「創造主、造物主、管理者……連中にはその存在よりも存在が上でなければ……一切攻撃は通じない。格下が格上に勝つ方法なんて無い。無いんだよ。全くね。相手より強くなるしか……ないんだ。それしかない。強くなるっていったって――――生まれついての上限値は超えられない。そう、全ては……存在が誕生した瞬間に決まるんだ」


 自分を嗤う声。

 どこまでも自らを貶める声。


「生まれついての貴種か、奴隷しか……無いんだよ。ならさ……少し位……少しだけで良いんだ。奴隷が貴種から奪ったって良いじゃないか。全て持っているんだから……一つ位くれたって……良いだろう? それだけで良いんだ。それだけで……後は、望まないから。唯一……それだけが……欲しいんだ 」


 ――――瞬間、暗闇の中だというのに、更に沈んでいく気配がして……意識は途切れる。

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