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「この世界に来た時間が違う……のでないのなら、平行世界……? ええと、そういうのがあるのなら、それかなと……」
私はこういうのは詳しいのかどうか自分でよく分からない。
確かに小説や漫画は推理系もSFも伝奇モノ、ファンタジーに時代、歴史系等、ジャンルに特にこだわりがある訳でもなく何でも読んだ。
だからこそ、今の状態は『邯鄲の夢』ではないのかとも思ったりするし、『胡蝶の夢』の可能性も捨てきれない。
高次の存在の、コンピュータ内で行われているシミュレーションの中と言われても納得してしまうだろう。
余りにも現実感が無い気がしているのだ。
――――この世界に転生してから……
「”平行世界”というのは良い線だね。でも違う。それから、君、色々考えすぎ。そこら辺利用しようとする連中もいるから気を付けるんだよ。君って本当に貴重なんだからね。君の属性の輩以外全部から狙われるって思った方が良い。――――番とまではいわないけどせめて守護役が居れば……。ってごめんごめん。私達みたいなのは時間だけは呆れるくらいあるし、わざわざコンピューター内でシミュレーションとかしないしない。そんなの創ったりするより自分達で好きにした方が絶対面白いし。じっくり見た方が楽しいんだよ。早送りしたかったらその世界の時間を早めれば良いだけだし。暇つぶしなんだから一から世界創るんだけど、色々考えるのも面倒だって連中もいるから、創造セットみたいなのあるんだよ。そういうの提供してる奴とかいる。創造から運営までしてくれる人間でいうところの機械みたいなのを創るんだけど、セットに組み込まれてたりするから、そういうのを利用する奴もいるし。勿論、一から創って、脚本も演出も何もかも全部自分でするっていうのもいるけどね。そこら辺は好み。実験している連中も、ほら、人間でも専門的な機具がいる実験ってあるでしょ? そういうのを創ったりするのが得意なのとかいるんだよ。だからそいつが提供したりね。後、ちょっと遊びかねて簡単な実験したいなっていう時とか。そうだね……コマーシャルで見た子供向けの実験セットに興味持って買ってみたりなんてあると思うんだ。私達にとっては世界を創って云々とか転生させたり転移させたりはそういう感じ。難しくなくすぐできる。だけどその気になればいくらでも専門的にも探求できる。おかげでライトユーザーとヘビーユーザー、なんていうかルナティックな奴とかヘルモード的な奴とかも楽しめる娯楽」
そこまでギュンターは苦笑しながら告げた後、ちょっと顔を真剣なモノに変えて私を見詰める。
瞳に心配そうな色を忍ばせて。
「現実感が無い事の理由を私は知っているけれど、それを言うのは危険だと判断するよ。ただ、ここはちゃんと現実。夢の中じゃない。確かに夢を使う連中もいる。そういうのを愉しんでる奴も。でも君の場合そっち系に特効効果があるから効かない。だから『夢見の巫女』足り得るんだよ。ちゃんと必要な夢かどうかの選別が出来る。君を夢に閉じ込めるのはとても難しい。……とはいえ方法がない訳じゃない。だから夢を見ている時も気を付けて。細心の注意を」
私を案じる瞳に嘘はない、と思う。
ギュンターにとって、同類というのはそれだけ重い、のかな……?
「そうだよ。特に私は生まれたての部類だ。伯父上みたいに飽きるほど存在してはいない。産まれた瞬間に君に引っ張り込まれた。だからかな、最初に感じたのは雛が親鳥に懐くみたいな感情なのかも。他の連中もね。あ、伯父上は違うから。君に感じているのは同類からくる親愛の情。伯父上基準の同類だから君は気にしなくて良いよ。あの方本当に私達みたいなのの中でも化け物だから。訳分からないから。マイルールを平気で押し付けてくるから。だけどマイルールを順守する傾向上責務はガッツリ果たすんだよね……。私達みたいなのは、同類、って感じたらすごい親近感がわいちゃうんだよ。無条件にね。同類の基準もそれぞれなんだけど。ただ君の属性は、親愛の情を飛び越えたのを一目見た瞬間に向けられるのが普通だから気を付けてね」
私が思った事に律儀に答えてくれている。
彼はとても几帳面なのかな……?
嫌だとは思わないしありがたいけれど。
ちゃんとお礼言わないと……
「君ってさ……ああ、うん。お礼は受け取っておくから口にしちゃダメ。話がずれてぱっかりでごめんね。それから先ず言っておくけど、君が最初に居た世界には”平行世界”は存在しない。あそこの世界の管理システムはそれにリソースを割かなかった。無限に平行世界を維持してる連中とかもいるけど、普通はまあ、ある程度切り捨てるかな。無尽蔵な連中はそれだけ怪物ってことだから。アレ等を基準にしちゃいけない。無限の平行世界を持ってる世界を複数どころかこれまた数えきれないくらい何の労苦も無く維持してる連中はね……関わっちゃいけないから……」
最後の方はなにかどんよりな雰囲気を醸し出しながら彼は苦笑して、軽く息を吐いた。
そして私を見詰める瞳には、やはり案じる色が乗っている。
「アギロに聴いたと思うんだけど、世界には『管理者』って言うのがいるものなんだよ。ただ『管理者』にも種類があってね……君は前居た世界の場合と、現在居る世界の場合だと『管理者』の種類が違うんだけど、分かるかな?」




