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聖女の条件  作者: 杜若 白花
序章
3/348

2

 母の側で漂っている、アレはなんだろう?

 意識が覚醒してからの疑問は、言葉が理解出来るようになってから不思議物体ご本人が解決してくれた。


『エルザ、わたしは【妖精】だよ。名前はアデラ』


 私が不思議そうに手を伸ばすと、決まって同じ言葉で教えてくれる。

 父や母、周りの人達も同じような事を言っているからわかったのだが……



 妖精って何……そんな存在知らないよ……

 いや、映画やゲームとか本や漫画に出てきたりしていたから、何となくはわかる、わかるけれど……



 本当に常識って何ぞ……? って感じだ。



 妖精さんは、金色の真っ直ぐな長い髪に翠の瞳で真面目そうな顔をしている。

 瞳には知性を感じさせるし、実際話せるのだから知能は人間と同等かそれ以上、といったところだろうか。

 トンボみたいな二対の羽は虹色に輝いていてとても綺麗。

 服かな? 緑色の花びらを重ねた様な足首まであるドレスを着ている。

 フワフワ浮いていて、羽だけで体を浮かせているのか疑問だ。



 もしかして魔法とかあるのだろうか……?

 あったら頑張って練習する自信がある。

 やっぱり憧れるよね、魔法!



 彼女であっているのかな、性別は女性、だよね? 

 妖精さんは【アデラ】という名前みたいだ。

 父も母もそう呼ぶし、本人もそう名乗っている。

 しかも母と【誓約を交わして】いるらしい。

 やっぱり両親と、アデラの自己申告によると、だが。



 アデラは基本的に母の側にいる。

 だが母以外は無視するとかはなくて、他の人にも友好的だ。

 そしてよく私を気遣ってくれて優しい。


『身体、痛いところない? お腹空いていない?』


 そう私に聞いてくるか


『エルザ、良い子だね』


 と言って、一日に何度も私の頭を撫でてくることが多い。


 私しか部屋にいない時に泣くといち早く駆けつけてくれるし、私の頭をポンポンとして人を呼びにいってくれる。

 夜、怖い夢というか昔の事を夢に見て、シクシク泣いていると必ず来てくれて一晩中側にいてくれたりも。



 とはいえ私が泣くと部屋に私一人でも何故か人が見に必ず来るから、どこかに警報機とか監視装置みたいなものはあるのかもしれないとは思った。



 それにしても、もしかしてアデラは真面目で頑張り屋なのだろうか……?

 私の世話も一生懸命だし、母のこともいつも気にかけていてパタパタしている印象だ。

 優しいアデラを私は家族の一員のように感じていて、大好きだなあとしみじみ思う。





 妖精、だけではないのだ。

 こういう、私の常識破壊な存在はまだ他にもいて、首が座って寝返りも出来るようになってから、父が抱き上げて連れて行ってくれた私の部屋のバルコニーに鎮座しておられたのは



 ――――どう見ても角の生えた馬で、おまけに鳥の様な翼がある瞳が真っ赤で他は真っ白な存在とか、訳わからん!



 父曰く


「我が家と代々仲良くしてくれている【幻獣】だよ。今は私と誓約を交わしているんだ。幻獣だから本当は家の中に部屋があるのだけれど、エルザはまだ小さいから彼がこの部屋に入るのを遠慮しているんだよ」


 だそうだ。



 私の常識はあっという間に音を立てて崩れていった。

 そうですか……幻獣は遠慮とかする生き物で、馬小屋にいるものじゃなく室内に部屋のあるものなのか……

 というか、妖精みたいに話すのだろうか……?

 まだ乳児のため言葉は話せないから聞けないが疑問だ。



 真っ白な馬さんは、私を優しく見つめながらゆっくりとこちらに顔を近づけてきた。


『初めまして。わたしはハインリヒと誓約を交わしている、アギロ。小さなお姫様に会えて嬉しいよ』


 そう言って挨拶してくれた。

 やっぱり話せるんだ……

 初めてが沢山で頭が大混乱です。


「あうー。おあううー(エルザです。よろしくお願いします)」


 それでも挨拶は人間関係というか、まあ色んな関係において基本だからしっかり言っておいた。

 理解できたのか、アギロは嬉しそうにしているような、気がする。

 何せ、馬の感情表現とか経験がなくて……

 それでも理性と知性を感じさせる瞳が優しく細められているのでなんだか嬉しい。



 アギロは真っ白な角が額に一本真っ直ぐに生えている。

 いわゆるユニコーンというものなのだろうか。

 全身が真っ白で艶々と光沢を放っているし、オーラとでもいうのか、薄らと黄色く光って輝いているようだ。

 ユニコーンなら何故に真っ白で大きな鳥の翼が胴体から生えているのか、甚だ疑問だ。



 父が撫でていたりするから、地球で一般的に知られているユニコーンという訳でもないのだろう。

 瞳は赤い。

 紅というより、赤って感じだ。

 とても温和な印象を受ける。

 常にニコニコしているというか……

 怒ったところは見たことがないからそう感じるのだろう。





 アデラは真面目だからか、父が私に構いすぎて疲れ果てて泣きそうになると怒る。

 バチバチっと何か稲妻みたいなものを出していつも父を威嚇する。



 おお、魔法だろうか、とちょっとワクワクするのも私の常だ。


「うわ、ごめんよ、アデラ! 悪かった、悪かった! だから許してくれ。テレジアからもアデラに言ってくれ!!」


 そう言って慌てて母の影にいつも隠れるのだから、父にも困ったものだ。


「これは貴方が悪いわ、ハイン。もう、困った人ね。まず謝るのはエルザにでしょう。エルザが泣くのを我慢してくれているから、まだ私も怒らないのよ?」


 溜め息をつきつつ、腰に手を当てて、自分の影にいつもの様に隠れた夫を引っぺがし、毎度忠告する母はとても素敵な人だと思う。


 アデラも雷を纏いながら


『そうよ、エルザに謝りなさいよ! いくら可愛いからって構いすぎなのよ。エルザが我慢しているから私も電撃を直撃させないんじゃないの!!』


 とプリプリ追撃する。

 アギロはベランダからどうやってか窓を開けて覗き込んで


『ハイン、可愛いのはわかるけれど限度があるよ。エルザはまだ一歳にもならない赤ん坊なんだから、もっと思いやりを持たなきゃだめじゃないか。エルザの方がハインを気遣って泣くのを我慢してくれて大人みたいだよ』


 そうさらに穏やかに追い打ちをかける。

 そんなやり取りを見ていると思わず笑みが浮かぶやら、実年齢十代後半な私は焦るやらで忙しくなる。

 執事さんたちはそんな私たちを微笑ましそうに眺めているのが常だ。



 改めて思うに、十代後半はギリギリ未成年の範疇ではないだろうか。

 でもこの世界では立派に赤ちゃんだから問題ない。

 ないったらない。



 乳児だからか感情が直球に出てしまって、疲れすぎると泣きたくなる。

 父には申し訳ないが、もう少し私に体力がついたら構って欲しい。



 お父様は事あるごとに抱きしめては高い高いをして、頬擦りする。

 悪気が無いのがわかっているから出来る限り相手をするが、泣くのを我慢するのは大層疲れるのだ。



 お父様は何か仕事が忙しくて、合間合間に構っているのは分かるから無下には出来ない。

 今はまだ赤ちゃんだからか両親と同じ部屋だ。

 だから分かるのだが、お父様は何か夜遅くまで仕事をしているようだ。

  夜中起きても寝室に居なかったりする。



  それに数日おきに何処かに行っている。

  お母様や他の人の話を聞いていると「アリアルトブルク」と言う所に行っているらしい。

  どうも話の流れから首都っぽい印象を受けた。




 私は大人の男の人が苦手なのは前世からだが、お父様は肉親だからか嫌悪感がない。

 執事の人たちも大丈夫みたいで本当に良かったし安心もした。

 そういえば前世の従兄弟は平気だった。

 同い年だからかなぁ……?



 嫌悪感を感じたら、家族とは思えなくなりそうで怖かったのだ。

 執事さんたちも大事な家族だ。

 だから気持ち悪いと思わなくて本当に安堵した。





 そういえば、私、乳幼児にありがちな癇癪とかはないのである。

 元々、私はあまり怒るということがなかったからなぁ。

 周りから暢気すぎるとか危機感が無さすぎるとか言われていたよね……



 前世でも私は癇癪がなくて、いやいや期もあって無い様なものだったから助かったと、父も母も言っていた。

 代わりに弟達が酷くて、私が体の弱いに母に代わって頑張ったんだったなぁ……




 寝返りをうてる様になってから色々部屋を見回している。

 棚に花が美しく生けられている花瓶があったり、壁に品良く飾られた絵や、複雑で凝った図柄の絨毯は毛足が長くてふかふかそうだ。

 色遣いは落ち着いていて見ていて疲れない絶妙さ。

 梁の意匠も豪奢だが品があって素敵だと見惚れるばかり。



 家具もどれも凝った細工が施してある。

 私の昼間いる部屋は、ゴシックというよりロココ調風味な白くて上品だけれど可愛らしい家具が揃っているのだ。

 本当に豪華で品よく纏まっていて溜め息しか出ない。

 大きくなったらこの昼間いる部屋で一人で過ごす事になるのだろう。



 

 

  疑問なのだが、まだ赤ちゃんなのに、何故、良く見えるし、聞こえて、思考がクリアなのだろう……?

  確か人間の赤ちゃんって色々未発達だって聞いた事があるけれど。

 転生したからなのかな……?

 それとも異世界だから、身体の成長具合が違うのだろうか?




 それはそれとして、不思議なのが父の言っていた【代々仲良くしている】という点と【今は私と誓約を交わしている】というところ。

 それはつまり、この世界では幻獣や妖精と誓約を交わすのが一般的なことだという事なのだろうか……?



 そして誓約を交わした人が死んでも家にいてくれるということ?

 一族の人間からまた誓約を交わす人を選ぶのかな……

 そもそも誓約ってなんだろう?

 何か対価とかあるのかな……?



 わからない事が多い。

 それでも、いずれ教えてくれるだろうと楽観的に考えよう。

 悪いことを考えても良いことはないしね。





 わからない事が多いなりに楽しく日々を送っていたら、嬉しいことに父方も母方も祖父と祖母がいることもわかった。

 父方は曽祖父と曾祖母もいる。

 母方には叔父もいるという。



 祖父母と叔父の初対面は映像だった。

 何かの機械でしかも映像が立体的だのだ。

 うわ凄い、というのが素直な感想。

 SF映画で見た映像みたいで、立体映像って物かなとあたりをつけた。

  あちらの姿が三次元的に機械の上に映って、話しかけられたから間違いない、と思う。

 テレビ電話みたいなものだろうか。

 リアルタイムで会話が出来るってすごいことじゃないかな。

 技術レベルは前世と同等かそれ以上という事……?

 それに立体とかびっくりした。

 魔法の道具というものだろうか。



 密かにテンションが凄まじく上がっていて、ニッコニコで応対した。

 父方の祖父母と母方の祖父母、どちらも健在で、両親との仲も良さそうでとても喜んだ。

 何せ、前世では祖父母の縁が薄くて、双方生きているのに会ったこともなかったから……



 曽祖父と曾祖母は同じ領地に住んでいるとかで頻繁に会いに来てくれて、とても嬉しい。

 優しい肉親との縁が今回はあって本当に幸せだ。



 本来この家の子供として生まれるはずの存在がいたのなら、私が幸せなのは間違っているのかもしれないが……





 それから家にはロボット? というか人形というか、人型の存在がいる。

 特殊な金属の様で、光沢があって動きも滑らか。

 ただしのっぺらぼう。

 何せ顔が無い。

 最初はとても驚いた。

 でも皆気にしていないし当たり前にある物のようだ。

 魔法で動いているとかかな?

 ワクワクしてしまう。





 色々衝撃的なことが多くて混乱したりもするけれど、この世界が少しずつ好きになっていくのがわかる。

 優しくて仲が良いのがまるわかりの両親に、曽祖父母に双方の祖父母、叔父、アデラにアギロ。

 家の執事さんたちにに侍女さんたち。

 大切なモノたちが増えていくごとに、この世界が色鮮やかになってくる。



 それでも、不安は消えない。

 ある日突然この世界から追い出されたらと思うと、怖くなる。

 本来生まれるはずだった子の代わりにこの生活を享受して良いのかという罪悪感も、消える事はない。





 言葉もまだ話すのは無理だけれど、段々意味がわかるようになってきた。

 問題は発音だ。

 出来る気がまるでしないのですが……誰か、助けてください……


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